魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇夢見枕催夢
「しっかし、攫われたっていうのにぐっすりだよねぇ〜」
デビ☆るんるんがつついているのは回収したダーティ・エリザだ。催夢の魔法で穏やかな寝息を立てている。催夢の寝具を食らえば、催夢が眠らせようとした期間、強制的に安眠させる。どんなに精神的に抵抗しようと、外から刺激しようと、まず起きることはない。そして今回の設定はうんと長くしてある。自然に起きることもないのだ。
だとしても、それを何気なく弄る彼女の危機感の無さに、らしさのようなものを覚えている催夢がいた。
「ダイヤ様は何したいんだろうね? 何したいって言ってた?」
代わりにダスティ・ダイヤが話している間、デビ☆るんるんに意識はない。あの仮面はそういうものだ、と聞いている。彼女が語った全てを知る由もないわけだ。催夢は断片的にだけ、ダイヤの話を伝えた。この街を遺跡に変えて、多くの魔法少女を救う、と。
「ふぅ〜ん……?」
彼女の思っていた世界征服とは違ったのか、あるいは単純にわからなかったのか、首を傾げてばかりだった。それもそうだ。中学校を卒業すらしていないで家を出た彼女には、催夢が聞いてもわからない話をわかるわけがなかった。
「でもたくさんの魔法少女を救うーって言うなら、デビるんも救われるよね?」
「そうね。きっとそうよ」
あの冷たい路地裏で、ボロの毛布にくるまって身を寄せあった日々。あんなのに戻るつもりはもう二度とない。催夢はそのために、彼女にとってゆっくりと眠れるベッドになりたくて、寝具の魔法少女になんてなったんだから。
「ねぇねぇ! 救われたら何をしよう! 美味しいものとか食べに行こうか!」
「彩音燐音に食べさせてもらってたんじゃないの?」
「もよが一緒じゃなきゃ! だってあたしら、家族みたいなものだし!」
「……ふふ、そうよね」
本当の家族が嫌になって飛び出してきたからここにいる。あの日、路地裏で、あのキラキラとした魔法少女──本物のダスティ・ダイヤの手で魔法少女にしてもらったその時、デビ☆るんるんと夢見枕催夢はもっと、ずっと離れられない、本物よりも重い家族になった。
ダスティ・ダイヤは自分たちを使い潰すつもりかもしれない。スワローテイルを誘い出す都合のいい囮程度にしか思われていないに違いない。それでも、彼女がいつも通りに笑っていられるならそれでいいか、と思う。そのために催夢は誰だって眠らせる。
「そのためにも〜、スワローテイル捕まえて〜、邪魔するみんなは眠らせて! いこう!」
あの『心優しい魔法少女』なら、攫われた相手を助けに来るだろう。その時が最後だ。催夢が眠らせて、デビ☆るんるんがキスをしてしまえば、相手は悪魔の手のひらの上なのだから。
◇コルネリア
店奥の居間にある飼育ケースには、小さな隣人が住んでいる。真っ赤な鱗のサラマンダー。スワローテイルが魔法で生み出したトカゲだ。彼は懐かない。爬虫類だから当たり前のこと、のように思えて、スワローテイルが世話していた時は喜んで食べていたご飯への食いつきが、コルネリアだと明らかに悪かった。
「あの〜……食べてくれませんかね……?」
目の前に頑張ってちらつかせても、一瞥して、無視である。ため息を吐いた。もう少し癒しになってくれてもいいのではないか。せっかく可愛いペットだというのに。
「その子のこと、気に入ってマスね」
「だって可愛いじゃないですか?」
マスカレイド44のアイテムショップは休業中で、客は入ってこない。状況も状況だし、店内がぐちゃぐちゃで営業できないのは当たり前だ。
そして、広報や人事への報告やら連絡は、向こうからはまだ来ていない。それを待つ間というのがコルネリアには辛い時間だ。そんな間を埋めてくれるのがこのトカゲちゃんであった。別に、遊んだりしてくれるわけではないのだが。
「……マスカレイドさんは」
「はい?」
「どうしてここまで着いてきてくれてるんでしょう」
「と、いいマスと」
「お仕事、ですか?」
裏城南に店を構える人間、という時点でそもそも何かしらの訳ありだ。それでいて、根尾燕無礼棲と敵対まっしぐらだったエリザたちに何も言わずに協力してきた。これで何も無いことはありえない。一度も仮面を外さない彼女だという線は残っている。残っては、いるが。
「まあ、そんなところデスよ。といっても」
「いっても?」
「ワタシはやりたくないことをしない主義なだけデス」
「それは……エリザさんたちを見限りたくない、ということですか。お優しいですね」
「……」
そう言い直されるのは気恥しいものがあったのか、返事は沈黙だった。
「私としても、マスカレイドさんを第一に疑っているわけじゃありません。ですが、ただのお人好しであんな死線に飛び込んでくれたわけじゃないですよね。もっと、打算があるはずです」
「……そういうアナタはどうなんデスか?」
聞き返す、ということは答えたくないということ。当のダスティ・ダイヤならこうもわかりやすい反応にはならないだろう、として、コルネリアは彼女を線から外す。そして自分のことを考えた。最初は、ただスワローテイルの教育係の予定だったのに、部門長にも色々押し付けられて、気がつけばこれだ。
「私は、ただお仕事だからですよ」
「それだけデスか?」
「それだけです。私はそんなに出来た人じゃありません。冷たい人間ですから」
裏城南がどうにもならなくなったなら、コルネリアは真っ先に諦めるだろう。これがエリザやスワローテイルのことでも、変わらない、はず。今はスワローテイルを最優先に言われていて、こうしているだけのこと。人事部門の目的はスワローテイルだ。裏城南ではない。
「アレ。そういえば、アイツ、どうなったんデス?」
「アイツ? あ〜……捕まえてたやつですか? 確かにそういえば……オークションにエイミーも来ていましたし、魔王塾仲間でもいるのでは?」
「……そういうところは本当に冷たいデスよね?」
思慮がいらない相手に思慮をしなくてそう言われるのは心外なのだが。