魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
悪魔の取引
◇スワローテイル
「では! 行くぞ、我らが仲間、ダーティ・エリザを取り戻すために!!!」
「いや別にあなたの仲間ではないのでは……」
迎えた12月21日。マスカレイド44のお店に集まったのは、結局普段この場所を拠点にしている魔法少女たちと、それにひとりを加えた5名だった。そしてその中で最も士気に溢れているのが、どういうわけかジェネラル・スパル・トイだった。
「ではその、作戦は」
「吾輩以外が行く!!! 突撃だ!!!」
「……えっと……『すいみん屋』の内部は、奥に広間があるだけの簡素な造り……ですよね?」
コルネリアはスパル・トイをスルーしてラムに話を振る。自分に来ると思っていなかったらしいラムが慌てて頷き、コルネリアもそれに半笑いで続けた。
「あながち突撃あるのみというのも……間違っていないかもしれませんが。せっかくスパル・トイさんの助力がありますし、兵隊を使わせてもらいましょう」
「高くつくぞ?」
「人事にツケといてくだサイ」
「人事部門に! それはいい感じに口利きしてくれるということだな!?」
「あ、まあ、できたらやっておきますね〜……」
張り切りを全面に押し出してくる彼女の勢いを流し続けるコルネリア。ただ、夢見枕催夢の眠らせる魔法に対しては、玩具の兵隊はきっと有効だ。スパル・トイの兵隊は何度か戦ったから知っている、もちろん厄介な相手で、だからこそ頼りになるはずだ。そう思って目を向けると、なぜか両肩を掴まれた。
「一緒に頑張ろうな!! あと、ダーティ・エリザに吾輩が恩人だと伝えるのも忘れずにな!!」
「え、う、うん……」
スワローテイルも思わずこんな感じになったことで、結局全員スパル・トイに押され気味になりながらの出発になった。マスカレイド44はガチャガチャとアイテムを並べて考えており、ラムは軽くストレッチをして、息を整えている。
「私はスパル・トイさんと一緒に外に残ります。一応、本国への連絡役として」
頷いた。これまで無理をしてもらいすぎたのだ、異論はない。スワローテイルも、出発の前にと、店奥に少しだけ顔を出す。飼育ケースの中の赤いとかげが、顔を上げた。
「行ってくるね」
全部が終わったら。お父さんも退院して、新しいお家も決まったら、この子──名前はサラちゃんに決めている──も一緒に暮らせたらいい。そこに、みんなのことも招けたらいいな、と。未来のことを考えるのは、そこまでにした。
「行こう!」
立てかけてあった箒、愛機ラピッドスワローを手に、扉を開け放つ。待っていると言われた『すいみん屋』の場所は、ラムが知っている。裏城南のすっかり見慣れてしまった通り、だけれど肌を撫でる空気にはヒリついた緊迫感が漂っていた。
「では行くぞ……来い、吾輩の兵隊よ!」
スパル・トイの手にしている盾がガチャガチャと音を立てて、内側から謎の四角形をばらばらとばら撒き、そしてこれまた金属の音をガタガタさせながら変形、一気に兵隊たちが出来上がっていく。落ち着いて見た事のなかった展開シーンに物珍しさを覚えつつ、スワローテイルは目の前の『すいみん屋さん』と書かれた軒先を見る。ここにエリザがいる。
「突撃!」
スパル・トイの指示で、扉を破壊しながら兵隊が乗り込んでいく。それを見届けると、彼女本人とコルネリアを箒に乗せて、少し離れたところに退避させ、スワローテイル自身は上空を旋回。そして、室内から金属音が響くようになり始めたところで、地上のラムとアイコンタクト、タイミングを合わせて突っ込んだ。風防を展開したラピッドスワローで天井を突き破り、室内に着地。既に交戦は始まっていて、ぴょこぴょこ逃げ回るデビ☆るんるんの姿を視認し、向こうもこちらに気がつく。大きなフォークめいた武器を振り回して、襲いかかってくるのを箒でいなし、さらにそこへ飛来した寝具で夢見枕催夢の位置を把握、そちらには転がっているブリキの頭部を蹴っ飛ばして攻撃した。
「っ……!! なんなのこれぇ!? デビるんこんなの聞いてないんだけどぉ!? なんでスパルの兵隊が!?」
「力を貸してもらっただけだよ」
「ひっどぉ〜い!! デビるんともよのこといじめるつもりなんだ!!」
催夢の方は兵隊に囲まれており、ラムが向かっていて、既に武器を抜いている。スワローテイルはここで、デビ☆るんるんを抑え、エリザを救出すればいい。大丈夫、あの紋様をつけられなければいいのだ。
「ダイヤ様を拒否するってこと! だよねっ!!」
「わたし……
「気が合うね〜!? デビるんもぉ、アタシともよにひどいことする人キライだもん!」
フォークを振り回してくるデビ☆るんるんだが、屋内で槍は取り回しが悪く、うまく扱えないでいる。そして兵隊による妨害があって、さらにどこか逃げ腰なせいで、スワローテイルでも隙が見えていた。
「んぎゃっ!?」
箒の柄を打ちつけると、彼女は悲鳴をあげる。恨めしそうに睨んで、指をさして、ひどい、なんてことするの、と糾弾しながら、目に涙を浮かべてくる。
……心を殺せていればよかったのだろうか。けれど、泣いている相手に、箒を振り下ろしたくはなかった。
「ねえ……どうしてこんなこと……」
「ぐすっ……どうして……? そんなの……そんな……」
話ができるかもしれないと思い、声をかける。かけたその時のことだ。急に立ち上がったデビ☆るんるん。突き出されたフォークは弾いて避ける。が、その後で本人が迫ってくるのには対応しきれなかった。彼女の攻撃手段は、唇だ。そっと頬に触れられた感触、それだけで体が危険信号を鳴らす。
「ダイヤ様が〜、全部なんとかしてくれるからに決まってんじゃんっ!」
嘲笑う答えに、スワローテイルは歯を食いしばる。自分が何もかも知っているつもりはない、けれど、彼女は何も知らないまま、全てを脅かしている。
「この街がどうなろうと知ったこっちゃないんだから! デビるんともよが幸せなら、なんでもいいの!」
話している暇はない。体の主導権が奪われる。無理やり止められたうえで、フォークの攻撃を胴に食らう。なんとか手を握り、自らの魔法で蛹を展開、突き刺さるのは避けたが、押し込まれて吹っ飛ばされた。転がった先にはブリキの破片があって、無理やり掴んで手が切れるのも厭わず、拾い上げて自分の頬を切りつける。紋様はこれで消せるはず。痛みは考えないようにして、立ち上がった。箒を構えて、まずはデビ☆るんるんを──。
「待って! スワローテイルちゃん!!」
響いたのはラムの声だ。振り向いて、声が漏れそうになる。
「……あ」
「動かないで。デビにも何もしないで。動いたら、こいつの喉、かっさばくわよ」
──催夢がエリザを捕まえている。首元に突きつけられているのは、兵隊から奪ったであろう刃。エリザに巻き付けてある抱き枕や寝具は他人の接触を許さない拘束となっており、ラムも下手に手を出せていない。
「あはっ! 人質だ! さぁっすがもよ! ほらほらぁ、武器捨てないと、殺しちゃうよ?」
「エリザ……エリザぁっ!!」
「呼んでもムダだよぉ? もよの魔法で寝てるやつは、絶対起きないんだから!」
デビ☆るんるんの言う通り、エリザはこんな状況でも寝息を立てている。催夢をどうにかしないと、彼女を救うこともできない。歯を食いしばって、手を伸ばす方法を探す。……どうすればいい。
えぐれた頬の傷から流れる血が、ただ冷たかった。