魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇ジェネラル・スパル・トイ
これまで死んでいった魔法少女たちの魔法をいくつも使う魔法少女、ダスティ・ダイヤ──。あんなものを前にして時間稼ぎをする、などという無茶な任務を、我ながらよく買って出たものだと思う。
スパル・トイはそもそも監査の中ではまったく強くなかった。落ちこぼれだと言ってもいい。大量の人員を出すというこの魔法がなければ、そもそも監査に受かってもいなかっただろう。
そして監査になって初めての大仕事。囚人の輸送を任されたあの時、スパル・トイは今この時のように、一層の気合いを込めて臨んだ。その結果が『あれ』だ。封印囚3名を筆頭とした罪人魔法少女たちが脱走し、
あぁそうだ。あの時は何もできなかったし、しなかった。自分を囮にしてまで誰かを逃がしたのは、仲間たちの方だった。スパル・トイは逃げ出したのだ。その時からなぜここまで逃げ延びたのか、今理解する。この時のためだ。
兵隊が現れては飛び散る中で、ダスティ・ダイヤの反射光の中に、スパル・トイは己の知る最大の敵、大罪人プキンの姿を幻視した。あの時は逃げ惑っていた。今は違う。立ち向かうのだ。
「いいデスか? ちょっとした作戦がありマス」
マスカレイド44……というらしい魔法少女は、耳元で仮面越しに囁いた。ブリキのガチャガチャと擦れる音に描き消えないギリギリの声量だった。
「さっき、新たな魔法を使う時、光りマシタよね?」
「あ、あぁ」
「それをもう一度起こしてくだサイ」
「……どうやってだ?」
「今の魔法で対処しきれなければやってくるでショウ」
「あれで! か!?」
シルクウイング、彩音燐音、ガラム・魔サラに、マスカレイドの話によるとハステアーラという魔法少女の魔法も使っているという。少なくとも、元上司たちには勝てる気がしない。しないから従っていたのだ。だが、不思議と、無理難題とは思っても、諦める気にはならない。スパル・トイは兵隊のうち一体を呼び寄せると、その持っていた武器を貰い受けた。
「ぬおおおお!!! 吾輩も出るぞ!!!」
スパル・トイの兵隊は、本体であるスパル・トイ、つまり兵団長が近くにいるほどに性能が上がる。共に突撃するとなれば本体とも遜色ないはず。
迎え撃ってくるダイヤの熱線を、後方から飛来したミサイルが防ぐ。さらにマスカレイドはバーニアで飛行しつつ、人ひとり格納可能な大型のカプセルを振り回して盾にして、兵隊を投げてぶつけようとするのも止めてくれていた。兵団に指示を出し、後方から一斉に槍の攻撃で挟み撃ちにし、ダイヤがそちらに翼を使ったことで、本体への道が開ける。そこまで突っ込んで行って、迎撃するコンサートライトの剣に切り裂かれ、漂うスパイスに肌を焼かれながら、とにかく槍を突き入れた。手応えはない。あっさり止められている、だが止めるためにマントも動員している。スパル・トイは強い魔法少女ではない、が、数に関しては自信があった。手数というよりも、頭数だ。
「鬱陶しいなあ」
ため息を吐くダスティ・ダイヤ。いつも余裕のなかったレーニャとは全く違う余裕の態度だ。まだ手を隠している。今度は誰の魔法だ。ダイヤが構え、キラキラと何度か、赤い光が瞬いた。その時だ。マスカレイド44が飛び込み、一気にミサイルを動員、爆炎をあげながら突っ込んでいく。想像していたよりもずっと単純な突撃戦法に、自分と大差ないじゃないかと笑いが溢れた。
「待ってマシタよこの時を! ダスティ・ダイヤ!!」
「まさか──プリンセス・シリーズ──!?」
熱線と粉塵の爆発で振り払おうとしたダイヤだが、マスカレイド44は耐えていた。あのカプセルという盾は早々に吹き飛ばされたが、それでも踏みとどまり、光を放ったコスチュームの宝石を、掴み、ちぎり取っていた。離脱するマスカレイドの仮面は割れている。顕になった素顔の目元には、トランプの『ダイヤ』のマークと、『4』の数字が刻まれていた。
「これでひとつ……!!」
手の宝石が輝く。マスカレイド44の装甲に赤いカラーが入り、装備にボロのローブが追加される。マッチ売りの少女、だろうか? とにかくダイヤが使おうとした力を奪ったらしい。ミサイルランチャーからマッチ棒型の新たなミサイルが発射され、空気の摩擦で発火、火球として着弾する。ダイヤの翼には払われるが、相手は面倒そうな顔をしていた。
「それ持っていかれたか……うん……まあ……」
目を細めるダスティ・ダイヤ。それでも、これまでの厄介な魔法たちは残っている。だがまだまだ兵隊は出せる。これなら勝機は、まだ──!
「どうでもいいけど」
指が鳴らされた途端、周囲で一斉に光が巻き起こる。これまで倒されてきた兵隊たちに、サイリウムが突き刺さっていたのだ。まずいと思った時には遅い。熱線は繋がりあって輪を成している。このエネルギーの連続を解き放ち、丸ごと焼き払おうという魂胆だろう。咄嗟に手を伸ばしてくるマスカレイドに応えようとする、が、刹那、足が焼かれた。届かない。外した。地面に放り出される。
それならいっそ、どうなろうと爪痕を残してやる。スパル・トイは歯を食いしばり、走った。残骸から光を放つサイリウムを引っこ抜き、自分の腕が焦げる感触に、奥歯を噛み砕くほと耐えながら、飛びかかった。
「っ、この、吾輩は、ジェネラル・スパル・トイ!! 貴様などには屈しない、正義の、将軍だぁああ!!!」
ダイヤは翼で己を包み、防御しようとしてくる。そんなことわかっている。だが、それで防ぎきれない場所はある。自分で自分の視界を遮った相手に対して、その隙を突き、スパル・トイは兵隊に自分を投げさせた。そして背後を取り、その背部にサイリウムを突き刺した。
「ぬぉおおお……っ!!!」
「っ、へぇ……!? ここまで足掻くなんて……ねぇ!」
「ぐ、ぅ、ああああっ!!!」
翼の付け根を狙い、無理やり刃を入れて、引きちぎる。掴んだ手に魔法による反射と熱のダメージが来る。もうまともに力も入りそうにない。それでも強引に、篭手の固さだけで掴んで、ダイヤの片翼を引き抜いてやった。返り血を浴び、やりきった達成感の中、高エネルギーの光に溺れそうになる。
「じゃあこれは、あなたにあげるね」
翼は奪ってやった。時間も、少しは稼げたことだろう。吾輩はできるだけのことはしてやった。これで、少しは、先に逝ったあの仲間たちに顔向けできるだろうか。恩師は、少しでも、認めてくれるだろうか。
極大の光が解き放たれる。沈み、溺れ、浮かび上がることはない。
◇スワローテイル
「コルネリアさん!!」
通りの外れに、傷だらけになって倒れていたコルネリアを見つけ、助け起こした。彼女は息も絶え絶えだが、目の光は失われていなかった。
「大丈夫ですか、今、安全なところに」
「……スワローテイル、さん」
「っ……なん、ですか」
「まだ……飛ぶつもり、で、いますか」
「わたし、は」
スワローテイルは、ダスティ・ダイヤに造られた命である。それが出任せとは思えなかった。これまでずっと、死体から生まれた呪いの子だと囁かれてきたから。違和感はなかった。
自分はただの、呪いの子だと、吐き捨てて、不貞腐れたって、エリザたちは許してくれるかもしれない。
……けれど、それでは自分を許せない。
伸ばしたかった手は、まだ誰にだって届いていなかった。
「飛べる、飛びたい……そんな顔ですね。合ってますか?」
「……うん」
「お姉ちゃんも、応援するよ」
「……うん」
「やりたいこと……あんだろ」
「……うん!」
みんな、救えないまま、死んでしまった。だけど、あの子は──レーニャは、まだ、ダスティ・ダイヤの中で、助けを求めている。
「わたしね。レーニャちゃんを助けたい。敵だったとかそんなのなんでもいい。せめて、あの子だけは、助け出してあげたいの」
「……そのためには」
「この街も、守らなきゃ」
強く、頷きあった。すると、コルネリアが、咳き込みながらも小さく手を挙げる。
「作戦……というか。秘密兵器は、マスカレイドさんから、貰ってます。皆さんには話しておきますが──その、これを遂行するには、やはり奴を一度倒すだけの戦力が欲しい、ですね」
今の一瞬で痛感させられた。ただでさえ強敵だった根尾燕無礼棲たちの魔法を、全て使ってくるのがダスティ・ダイヤだ。どうやって突破するのか。考えようとすると、考えるだけで、スパル・トイとマスカレイド44が稼いでくれた時間を浪費してしまう。
「ドーン!!! マドちゃん、参上! サイネちゃん様のライトっぽいのが見えたから来てみたけど……あは、もしかしなくても、別物だね?」
そんな中、現れたオトマドベルは、ふっと笑ってみせる。
「味方が欲しそうだね。もしかして、来たのかな、どうしようもなくなった、その時が!」