魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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感情の続き

 オトマドベルの言う通りだった。スワローテイルたちが持っている手札、切れるカードはもはや無いに等しく、共に戦ってくれるのなら、これ以上に心強い者はいないくらいだ。

 

「味方して……くれ、るの?」

 

 恐る恐る訊ねた。スパル・トイよりもずっと、彼女がそう答えるのが意外だったからだ。

 

「約束したでしょ? バチン☆」

 

 ウィンクした彼女の横にその効果音が落ちて転がる。そういえば、思い出すらなくなってしまいそうな時には助けてあげると、言ってくれていた。これで、少しは太刀打ちできるかもしれない。呼吸を整え、まずは戦場から離れる。通りをいくつか横切って、まるで使ったことのない路地に隠れた。

 その間に、コルネリアからオトマドベルに状況が伝えられる。敵は複数の魔法を使うダスティ・ダイヤであること、足止めに残ったマスカレイド44とスパル・トイのこと。そして恐らくは彼女らの奮戦で、先程起きた爆発のこと。

 

「あれやっぱり……って、スパルちゃんなんだ。あの子がそんな、ねぇ」

 

 意外そうに話すオトマドベル。助けられたスワローテイルだって、まだ思っている。生き残らなければ意味がないと知って、わざわざそこまでした理由はなんなのか。

 

「あの子なりの正義ってやつなのかもね」

「正義……」

 

 正しいと信じて突っ走ってきて、ここまでたくさんの不幸を見てきた。手は届かなかったことばかりだった。それでもそれなりに正しいと思えるなら、きっと彼女もそうだったのだろうか。

 

「ま、それはいいよ。ね、協力してほしいんでしょ。じゃあ、交渉しよう」

 

 交渉──その言葉が出て、コルネリアとエリザがぴくりと眉を動かした。

 

「生憎ですが、我々も手札がありません。約束できることといえば」

「いいのいいの。大丈夫。私が欲しいのはひとつだけだから」

 

 くるくると髪の先を指で弄り、しゅるりと解けたかと思うと、眼光とともにその指はエリザに向けられた。

 

「あいつを殺したら、あなたを殺すこと」

「え……エリザ、を?」

「……あぁ、そうかよ。彩音燐音のことか」

「うん。サイネちゃん様の仇だし。復讐はできる時にしたいんだ」

 

 感情的でもなんでもなく、落ち着いた様子でそう話すオトマドベルに、スワローテイルは思わず立ち上がった。できるわけがない、と。必死で拒否しようとして、遮ったのは他ならぬエリザ当人だった。

 

「いいよ。殺されてやる」

「え──」

「抵抗もしない。あたしはそれだけのことをした、そいつは知ってる」

「待って、そんな約束」

「……ふ、ふぅん? 覚悟してるってこと? それならいいよ。助太刀してあげる」

 

 オトマドベルも即答されるとは思っていなかったらしく、ただ淡々と答えたエリザに戸惑っている様子だった。

 

「口約束だけでいいのか?」

「まあ。契約みたいなのとかは持ち出してきてないから」

「そうか。なら、それで宜しく」

「はーい」

 

 オトマドベルが立ち上がり、ふらりと、路地の隅に歩いていった。空気は沈んだままだ。そうに決まっている。あんな話に乗るなんて、自分から死んでやると宣言したようなものなのだ。いくらオトマドベルの助力が欲しいからって、あっさりと天秤にかけていいものじゃない。

 

「っ、ねぇエリザ、今のって!」

「……どうせどっちが生きて帰れるかもわかんないんだ。ダイヤとやりあってるうちは裏切らねえってんなら、それでいい」

「そんなっ……」

「救いたいんだろ!? 我儘通したいんだろ!? あたしの命くらいいいように使えよ。あたしは、あんたに賭けたんだ。叶えてやるって決めたんだよ」

 

 半ば突き放すように、エリザは行ってしまった。そうじゃない。スワローテイルが欲しいのは、そんな末の希望じゃなかった。まただ。また手から溢れ出ようとする。もうたくさんだった。できることなら、大事なもの全部をさなぎで包んで、自分ごとひとつの大きな蝶にしてしまえたらいいのに、とさえ思えた。

 

「……ううん、そうか、そうだよね」

 

 欲張るのなら、より大きく、より強く羽を伸ばして、さなぎを広げて、たくさんのものを収めるしかないのかもしれない。

 スワローテイルは考える。自分にできる、かもしれないことを。

 

 

 

 ◇キューティーラム

 

「……やはり。今の衝撃でしょうか。それとも、ふたりを退け、結界を弄る余裕が出てきたのか」

 

 コルネリアと共に路地のもっと奥、いつもなら表の街と繋がっているはずの場所に赴いて、しかしそこに門は存在しなかった。ただの行き止まりだ。どうやら各地にあったはずの出入口が、軒並み消えているらしい。ダスティ・ダイヤは魔法少女を逃がさないつもりだ。

 

「私は向こうを見てきます。非戦闘要員なので、見回りくらいはさせてください」

「あ、うん……ごめん、ね」

 

 お姉ちゃんに任せなさいとはすぐに言えず、そのまま甘えてしまった。他のことだってそうだ。ラムが率先してやらなければならないことはあった。どの決断も遅かった。もっと早く、あるいはもっと前に、アンナやレーニャを止めてさえいれば、スワローテイルはあのような思いをせずに済んだはずなのに。お姉ちゃん面しておいて、ずっと後手ばかりだ。誰よりも軽やかに飛べる、そんな箒は、ラムには羨ましいものに見えた。

 

「……あ、着信」

 

 魔法の端末が震える。ショコラからの連絡だ。彼女は優しいから、とても心配しているだろう。深呼吸をして、声が震えないように座って落ち着いてから、通話を繋げた。するとすぐさま声が響いてくる。

 

『ラムお姉ちゃん! 大丈夫!? 念の為設置しておいた観測点が消失して焦ったよ!!』

「うん、お姉ちゃんは……大丈夫、平気、このくらいなら全然」

『ってことは何かやられたってことだよね! 声の感じ的に……肩、かな?』

「え、なんで、わかるの」

『傷塞ぐために力込めてるでしょ。ラムお姉ちゃん、すぐ無理するんだから』

 

 電話口でそこまでわかるなんて、ショコラはすごいなあ、と感心する。だがそれよりも、せっかく心配させまいとしたのに、という思いもあって、なんだか気が抜けた。傷そのものはマスカレイド44のアイテムで塞がっているけれど、痛みは残っていて、酔いを回らせて麻痺させていたのだ。

 

『あのね、ラムお姉ちゃん。広報副部門長として、指令があります』

「……えっと、なに……?」

 

 ショコラが改まった。こういう時は、何かがある。決して考えるのが得意ではないラムだって、誰かが真面目な時はちゃんと話を聞くのだ。落ち着いて、聞こうとした。

 

『裏城南結界の変質を確認しました。おそらくこの先は最終段階。機構の模倣まで始めるでしょう。それでは間に合わない。というわけで。こちらも空間破壊兵器を投入します』

「……え?」

『すぐにでも。魔法少女を連れて、指定の座標に避難して。限界は……3、4人かな。スワローテイルって子を最優先。次に、人事の魔法少女を』

「ちょっと、まって、今、なんて」

『非常用転移魔法でラムお姉ちゃんたちを脱出させる用意が、してあるから。もう大丈夫。これで任務完了です』

「それ、って、つまり、他はみんな」

『考えないでいいよ。だから、すぐにでも避難を』

 

 聞き捨てならない。空間? 破壊? 裏城南地区は既に出入口が封鎖されていて、誰も外には出られなくなっている。その中にショコラが非常口を用意する、そこまではいい、だがそれでは──残された者はどうなるのか。オトマドベルが助太刀すると言った街は。スワローテイルが救おうとした、レーニャは。

 

「駄目だよ、それじゃ、何にも」

『それほどの相手だから』

「っ、お、お姉ちゃんはキューティーヒーラーだから、みんなを助けないと」

『だから、ふたり連れてきて?』

「そしたら他のみんなは」

『切り捨てることも、指令を守ることも、キューティーヒーラーだよ』

 

 ショコラの声色はいつもの彼女ではなく、ゆっくりと、諭すよう、言い聞かせるようでもあった。今までだったら、きっと言われた通り、素直に退却していたかもしれない。他のことなんて考えなかったかも。でも、何を論拠にしたらいいのかわからないまま、それでは腑に落ちないことだけがわかっている。

 

「でも、でも……」

『早くしないと、魔法の国が危ないかも、だよ』

「っ……いや……私、ここまで、戦ってきて」

『うん。ありがとうね。でも、本当は潜入任務だから。任務は達成だよ。だから帰ってきていいんだよ?』

「キューティー……ヒーラーは……」

『キューティーヒーラーの仕事は終わったんだよ』

 

 ……どれも違う。

 ショコラに言われた仕事だからここまで来た。キューティーヒーラーだから悪そうな相手と戦った。お姉ちゃんキャラだから庇護を必要としていそうな子たちのそばにいた。

 どれも、違っていた。

 

 なら何だ? どうしてショコラに従いたくない? 

 答えは──考えたも仕方のない、単純なことだった。

 

「でも、でも……嫌だ……嫌なの……!」

 

 声を絞り出す。痛んだって関係ない。任務が終わっていたって関係ない。

 だって、だってまだ、助けたい相手を助けられていない。

 

()()!!! 帰りたくない、助けてあげたい、あの子の力になりたい! だから!!」

 

 端末に向かって叫んだその声の後、ラムは自分の荒い吐息の中に、ショコラがふっと笑う声を聞いた。

 

『──やっと聞けた。ラムお姉ちゃんが自分でしたいこと』

「……へ?」

『ううん、なんでもない。それじゃあ、私はどうすればいい?』

「え、えっと……く、空間の攻撃はやめて! でも……あ、そ、そうだ!」

『はーい?』

「病院! 予約! しておいて! お姉ちゃんが使うから!!」

『……ふふっ、あは、絶対救急でいいけど、わかった。ベッド空けて待ってるね』

 

 ──連絡が切れる。息を整える。ここからは任務でもなんでもない。ラムがやりたいから、臨む戦場だ。野望はこの手で砕く。あの子の笑顔を叶える。それが、今、キューティーラムのやりたいことだった。

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