魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
全て怒りで切り伏せろ
◇スワローテイル
『皆さん、覚悟はお持ちでしょうか』
「うん」
「あぁ」
コルネリアの声に肯定の返事だけをして、通信を切った。この先は通信をしている暇はない。合図と、各々の状況判断だけが頼りになる。
ダスティ・ダイヤはあの場所、『すいみん屋』の跡地から移動していない。激しい爆発が起きたがゆえに、周囲の家屋も崩れている。裏城南には住人らしい住人がいないとはいえ、気分のいい光景ではなかった。
スパル・トイとマスカレイド44の姿は見えない。撤退したのか。そうであることを願う。スワローテイルたちにできることは、無理やりにでも組み立てた作戦を、なんとしてでも成功させることだ。
箒の後ろにエリザを乗せて、飛ぶ。相手の狙いが自分であることは、ずっとわかっている。
スワローテイルは真正面から向かっていって、ダイヤの言葉に打ちのめされた。
エリザは真正面から向かっていって、いくつもの魔法を使うダイヤに殺されかけた。
生き残ったのは運が良かったからかもしれない。ラムや、スパル・トイや、マスカレイド44、皆が命を賭けてくれたから、どうにかここにいる。次はないかもしれない。
「それでも」
だからこそ、やっぱり正面から行く。真正面からぶち当たる以外、やりようはなかった。
「行こう」
「行くか」
「……背中、任せたよ」
「わかってる。任せな」
呼吸を整え、地面を蹴る。受け継いだラピッドスワローは、ふわりと宙に浮かび上がって、急加速していく。視界に映る反射光が強くなってくる。レーニャが、ダイヤが振り向いた。上空から、太陽を背にして、一気に迫る。後方でエリザが構える音がした。姿勢を低くして、風防を最大に展開し、更なる加速の世界へ飛び込んでいく。
ダイヤとの接触は衝撃波と共にであった。瓦礫を巻き込み吹き飛ばしながらの一撃、大きく吹っ飛ばされたダイヤだが、背中から伸びた片翼で自らの体を覆い隠し、何事も無かったかのように立っている。
「また来たって無駄。あぁ、諦める気になったら素直に降参するといいよ。悪いようにはしない」
「てめぇの都合の話だろうが!!」
エリザの手から銃声が響く。銃撃は弾かれる、が翼の逆側に飛び出して、エリザはさらに刃で追撃をかけた。避けるでもなく、対するダイヤは静かに手を翳した。コスチュームが光を放つ。水色と紫の発光から直後、エリザに向かって何かが伸びた。躱す彼女が反撃に刺突を繰り出し、しかしまた受け止められる。今度はふわりと。ダイヤが新たに使い始めたのは夢見枕催夢の魔法の寝具だ。受ければ眠らされる、一撃が命取りの中、今度はスワローテイルが逆側から仕掛けた。あらゆるものを弾く羽といえど、片翼ではふたりを相手できない。エリザの相手は寝具に頼り、スワローテイルには他の魔法を使ってくる。熱線とスパイスだ。粉塵爆発は起きる前に空へ躱し、熱線も箒で受け止めかき消して、そのまま柄を叩きつけた。翼に受け止め跳ね返される衝撃を受ける。それでいい。エリザの攻撃を通す。銃撃に次ぐ銃撃、そしてレーザーガンで伸ばされた枕を焼き、本体に迫る。
「諦めろって! 言ってるじゃん!」
「諦めない!! レーニャ!!」
「はぁ……? なんでこいつに話しかけてるわけ?」
ただの敵でしかないくせに、と吐き捨てるダイヤ。確かにそうだ。レーニャとは何度も戦った、それだけの関係だ。
それだけで、目の前で助けを求める顔をした彼女を、見捨てる理由にはならない。
「だめだよ、違う! きみにはもっと救うべき相手がたくさんいるでしょ! みんなを再生産、できるんだ! なのに!」
掲げられたコンサートライト。彩音燐音の魔法だ、来るであろう熱線を迎撃すべく構えて、しかし来なかった。ダイヤがライトを振り下ろすその瞬間、ぶつん、と何かが千切れる音がして、その効果音が飛来してライトに当たり、消灯の音として光を消したのだ。姿を現すのはオトマドベル。彼女は持っていた電子機器のコードらしきものを放り捨てると、ポーズを決めた。
「そのオタ芸は! 私の! いっっっちばんのファンのもの! あなたには、使わせない!!」
「オトマドベル……ねぇ、あなたが一番、やり直したいんじゃないの? 彩音燐音を再生産してしまえば──」
「……人の思い出に泥塗るつもり?」
風を切る『ヒュン』に指を鳴らす『パチン』が飛び、ダスティ・ダイヤを弾丸のように襲う。翼と布団が彼女を守るが、エリザの射撃も加われば逃げ場はない。翼で振り払って、そこに切り込むスワローテイルとも組み合って、そのせいで効果音が頬を掠め、小さく舌打ちをした彼女は金色のマントをはためかせて距離を取ると、またしても宝石をきらめかせた。今度は黒い光で、もぎ取られた片翼の痕に、悪魔の翼が生えてくる。デビ☆るんるんの羽だろう。一方は魔法の羽ではないものの、両翼を取り戻したことで飛行が可能になり、上空へと逃げていく。
「魔法は! もっとスマートに使われるべきなんだよ! 例えばこうやって、組み合わせて!」
手にしたターバンで何かの粉を出現させて包み、それを炸裂させてくる。それだけならガラム・魔サラの魔法でしかない、かと思いきや、ばら撒かれたのは香辛料というよりも蕎麦殻だった。ぱちんとひとつが肌に当たり、それだけで──意識が飛ぶ。視界が真っ白になり、元に戻る頃にはスワローテイルは地面に横になっていた。これは催夢の強制催眠だ。周囲を見ようとし、伏せたオトマドベルが踏みつけられているのを見た。
「こうなったら……君も再生産してあげる。ほら、アーカイブに残してあげるから……」
「……! 駄目!!」
唇を近づけようとしているダイヤのその先にあるオトマドベルの手を、咄嗟に蛹で包みキスマークを阻止する。そしてそのまま、強引にラピッドスワローで飛び、突進をかます。オトマドベルから引き離すべく、ダスティ・ダイヤを押し出していく。
「あーあ……なんて。そろそろ、使えちゃうんだなあ」
しかしダイヤの手には、いつの間にかコンサートライトが握られていた。スワローテイルが止める間もなく振り抜かれ、光が斬撃となって飛んでいく。オトマドベルはまだ立ち上がれていない。そこへ飛び込んだのがエリザだった。彼女は身を呈してでも、オトマドベルへの攻撃を止めた。迎え撃った銃身で相殺しきれず、浴びた裂傷から血が流れる。
「え、な、なんで」
「いいから立てよ」
「私……あなたのこと殺すって」
「今は関係ねぇよ」
エリザが手を貸して、オトマドベルが立ち上がるのが、小さく見えた。それならとダイヤを上空に打ち上げて、羽でコントロールを取り戻そうとする所に突撃、防御以外の行動を許さない。
「あぁもう、本当に……さぁ……!」
翼で殴りかかってくるのを躱し、しかし続くマントが槍に変化しての刺突を受け、バランスを崩した所にスパイスの雨が降り、己を蛹に包んで立て直し、飛来する熱線は躱して、今度は見上げると己を包むように広げられたブランケットを見た。これも催夢の魔法だ。避け切れるか。いや、この範囲は難しい。即座に判断し、己を蛹で全部包んでしまおうとし、爆発音がした。今度はブランケットが撃ち抜かれる。このミサイル、もしかしなくても。
「マスカレイドさん! よかった、生きてて……」
「いやはや、死ぬかと思いマシタ。スパルさんのおかげデス。立派な正義デシタよ」
「スパルさん……」
「英雄に報いるためにも、デスね」
彼女の仮面は割れており、装備もボロボロだ。だが飛んでいる。心配は振り払った。
さらに続く『ズドーン』の文字とエリザのロケットランチャーが迫り来るブランケットを撃ち抜き焼き尽くし、空の向こうで歯を食いしばるダスティ・ダイヤと距離を詰めた。マスカレイドと同時に、双方向から仕掛ける。ダイヤが持てる魔法を次々と使ってきても、もう読めている。スワローテイルには見えていた。ゆっくりと拳を握り、ダイヤの手元を蛹で妨害、コンサートライトを落とさせると、一瞬驚いた彼女の隙に急接近、ラピッドスワローから乗り出して、その拳を叩き込む。胸元への打撃は翼との競り合いだ、が、押し込めればそれでいい。
スワローテイルがダスティ・ダイヤを押し出したのは、単純な理由だった。この先のポイントには風が吹き溜まりやすい箇所がある。ということは、気体が留まるのだ。例えば──
「っ、どこまで連れてくつもり? 引き離したって何にも……ッ!?」
「ありがとう、スワローちゃん……やるよ、私! ショコラティエ……レーズン☆ブレイク!!!」
振るわれたホイッパーが火を放ち、溜め込まれたラムの吐息に引火する。否、吐息のみならず、彼女の振るった腕から巻き起こる。魔法のアルコールが起こす派手な爆発、そして拳が生み出す衝撃か迸り、ダイヤを包み、宝石の光を焼いた。
レーズン☆ブレイクはアニメでも使っていた必殺技だ。狙い通りだとしたら、これで──。
「まっ、たく……ここまで……やられるなんて……あんなに魔法のアーカイブを使って……これなんて……さぁ……!!」
爆炎の向こうから這い出してくる少女。その姿はダスティ・ダイヤのままだ。これで駄目だとしても、まだスワローテイルは飛んでいる。ダスティ・ダイヤがレーニャの中から出ていくまで、殴ってやるつもりだった。