魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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一筋の光へ

 ◇スワローテイル

 

 ひとりで飛ぶことを選んだ。母の愛機なら、きっとエリザのことは守ってくれるだろう。この銃……マスカレイドから受け取っていたのが視界の端で見えていた。エリザが普段使っていないようなデザインで、きっとこれも切り札だ。これだけ借りて、ダスティ・ダイヤに、レーニャに向かって飛んだ。

 

 浴びたものを宝石に変えてしまう光の真ん中で、レーニャは自分を抱き締めて、震えている。頬や肩は既に、宝石に浸食されてしまっている。ダスティ・ダイヤはレーニャを使い潰して捨てるつもりだ。もう二度と、そんなことは許したくなかった。

 翅をはためかせ、加速する。光の中に飛び込んだ。その瞬間から、全身に痛みのような、何かが張り付いて固着するような、日常にない感覚が襲いかかる。それを強く握った拳の、魔法で中和する。宝石に変えられてしまうのを、蛹による転生、修復でなんども中和する。それでも追いつかない部分はいくつもあって、次第に目すらも潰されそうになって、ただでさえ光で狭い視界が霞む。けれども無理やり直して、飛び続けた。

 その様を、ダスティ・ダイヤは嘲笑う。

 

「あーあ。仕方ない……アーカイブにして、もう1回、人為的に作ればいいか。6年も準備、したのに」

「レーニャを! 解放して!!」

「そう? じゃあ……声くらい聞かせてあげようか」

 

 完全に人質扱いだ。ふっとダイヤから嘲笑が消える。わざわざ、レーニャを表に出した……ということなのだろうか。彼女は怯えた顔をして周囲を見回した後、こちらを睨んでくる。

 

「なに、これ……こんなの……あ、あなたも、私の、こと……」

「レーニャちゃん……!!」

「私のことっ、殺したいって、思ってるんだ、みんな、みんな、みんな!!」

「違うっ、私は……!」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ……っ、私、だって、まだ、何にも、幸せじゃない!!」

 

 手を伸ばす。レーニャの手は応えてくれない。自分を抱えるので精一杯だ。だったら。

 

「幸せなら……! これから作ればいい……っ、から……!!」

 

 もうほとんど宝石になってしまった翅を動かして、もっと加速した。押し戻してくる光の、エネルギーの波を泳ぐようにして、突き進んだ。肌の感覚はもはやほとんど残っていない。そんなスワローテイルを、ダイヤは笑い、レーニャは拒絶する。押し流されそうだった。耐えた、逆らった。無理をした体にヒビが入るのがわかった。痛みはもうなかった。それでもいい。加速する。そして、伸ばし続けた手で、彼女のところに辿り着く。

 

「やっと……届、いた……!!」

 

 レーニャのことを抱き締めた。届いたから何になる、と吐き捨てるダイヤの声は聴こえないふりをした。あとは。

 コスチュームの中にしまっていたおかげで、エリザの銃はまだ石化していない。ほとんど動かせない指でもどうにか取り出して、ゼロ距離で、彼女に向かって放つ。引き金に力を込めて、弾丸は彼女の胸に突き立った。

 

「ッ──」

 

 瞬間、白目を剥いて、彼女の体から力が抜ける。同時に魔法も途切れ、光が晴れていく。残るのは青空だった。抱き締めたまま、体は思うように動かなくて、もつれあって倒れ込んだ。そのぶつかった勢いで、彼女も意識を取り戻す。驚いた表情は、確かにレーニャの顔だ。

 

「……レー、ニャ、ちゃん」

 

 肺もほとんど石化してしまったらしく、うまく呼吸できない。息苦しい中で、どうにか声を出した。まずはせめて、伝えなくちゃ。

 

「お友達、に、なって、ください」

 

 もう手の中に武器はない。ただ、握手を求めるだけだ。

 

「……こんなことまで、して、意味わかんない」

 

 吐き捨てられてしまった。あぁ、これはやっちゃったかも、と思ったその時、ほとんど感覚のない指先が、わずかに体温を感じ取った。

 

「……もう、ひとりに、しないで。私の、居場所に、なって」

 

 か細い呟きと一緒に握られた手。それがトリガーになって、スワローテイルの魔法が発動する。自分自身をさなぎで包み、生まれ変わってゆく。ようやく、誰かの手を握ることができた、新しい私に。

 

「スワローテイル!!」

 

 声がした。エリザの声だ。私、やったよ、と言うには、まだ喉や肺が治っていなかった。かわりに笑おうとして、石化した頬がピシ、なんて音を立てていた。

 

 

 

 ◇ダスティ・ダイヤ

 

 もはや計画は振り出しだ。せっかく用意した全部が台無しだった。多くの魔法少女を集め、魔法を成長させ、それを利用する算段が。まさかあんな風に育つとは思わなかった。愚直で無鉄砲、先のことを考えないのは、母に似たのか、それとも、相棒の影響か。どちらにせよ、選択を誤ったのは認めなければならない。

 

 これまで使っていたレーニャ・エレジィの肉体は捨てた。ダイヤはプリンセス・ジュエル・システムの発展形として、意識の光を打ち込むことで、他の魔法少女の肉体に入り込む術を得ている。これさえあれば、何度失敗しようが、体を変えてやり直せばいいのだ。あの効果音女のせいでアーカイブは集め直しだが、集める手段はいくらでもある。次はいずれの派閥か、それとも部門か、入り込む隙はいくらでもある。

 

 そうだ。この街にも魔法少女が残っているはずだ。

 そう思考して浮遊した末に、見つけた。例の戦いを遠方で見守っていただけらしい、千鳥格子らしき模様の魔法少女。こいつは人事部門の魔法少女だ。最初にレーニャを通じて『ダイヤ』として、接触したことがある。確か、名はコルネリア、だったか。人事部門、あそこは部門長が色々なものに手を出しており、かつてはダイヤのスポンサーだったこともある。ならばむしろ格好の隠れ家だ。

 

 コルネリアの体に、すうっと入り込む。魔法少女に意識をねじ込むのは簡単だ。一部の強烈な自我の連中やら精神を鍛えた連中を除けば、大した魔法も必要ない。こうして乗っ取るだけだ。コルネリアはすぐに気づき、己の首元を押さえた。なるほど、こちらが声帯の制御を奪うことは知っているか。それならと、コルネリア自身の声で話しかけてやる。

 

『無駄な努力、ご苦労さま。私はお前を使って、また計画を始めるだけだからね』

「……なんて。私を選ぶと、思っていましたよ、はい。怪我もそれほど酷くはありませんし……体は弱いですが、立場は良い方でしょうから」

『わかったようなことを言うじゃないか。だったら、なんなんだ? 抵抗できるとでも?』

「……はい。秘密兵器が。ありますよ」

『言っておくけど、自害は無駄だよ。無駄死にするだけだから』

 

 脅しではなくただの忠告だ。ダスティ・ダイヤに対して死には意味がない。光となってまた飛び立つだけのこと。そうなったら今度は──あぁ、でも、人事部門の仕事があるなら、難しくなる、か──。

 

「そうですね。私、ちょっと忙しいですからね」

 

 私生活のこともある。全てを魔法少女として生活する訳にもいかない。レーニャ・エレジィは家出をしていたから、ただ根尾燕無礼棲の連中にこき使われるだけで済んだが──いや、その前に、私は──なにを──。

 

「私も思います。野望とか持ってなかったはずなのに。なんだかこう、使命感に溢れそうです」

 

 そう言いながら私は、ポシェットからマスカレイド44から受け取った道具を手に取った──のを、見ていた。それは細長い棒、ペン型の装置だ。点灯装置がついているあたり、そうだ、映画で有名なあのアイテムに似ている。いや──待ってほしい。私はそんな映画のことは知らない。知らないはず、なのに、観たことがある。

 

「面白いですよ? メン・イン・ブラック」

 

 それはわかっている。わかっているのがおかしいのだ。何が起きている。何かがあった。何だ──私に、()()()()()に、こんな、ことが──。

 

「はい。これから魔法のアイテム……『ペン型記憶クリーナー』を使います。もうとっくに、私と混ざって、曖昧でしょうけど……」

 

 カチリ。装置についたライトが光ると、自分の中で何かが変わった気がした。そしてその感触はつまり、何かが終わった感覚でもあった。深く息を吐く。

 

「えっと……なにをしていたんでしたっけ。ああ、そうです、作戦は成功、ですね、きっと」

 

 スワローテイルはレーニャの救出ができただろうか。もう衝撃波も轟音もない、ということは戦いは終わっているはずだ。皆のところに急がなければ。

 

 コルネリアは駆け出した。もはやそこに宝石の光はない。思い出されることもない。曖昧な空白だけが混ざって、やがて違和感も抱かなくなった。

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