魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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エピローグ
輝きの痕で


 ◇コルネリア

 

「あの……すみません」

「?」

「いくらなんでも食べすぎでは?」

 

 テーブルの上には積み上がった空の皿。フィクションでは見る表現だが、実際目にすると戦慄するものだ。片付けるの大変だなという店員への同情が湧いてくるし、途中で来てくれよとも思う。思いながら、目の前でいまだ食べ続ける少女──マスカレイド44のことを、見守っていた。裏城南ではそれなりに共に行動していたが、ここまで底無し胃袋だとは。

 さっきから店員さんがありえないものを見る目で見ている。いくらコスプレ系が許される魔法少女御用達店でも、大食い御用達店ではない。

 

「ワタシはまだマシな方デスが、燃費悪い変身体はとことん悪いデスからね。補給力は必須なのデス」

「まあまあ。経費でなんとかするから〜」

 

 そう話して笑いつつ、一瞬不安な目をしたのは、研究部門長補佐、つまりマスカレイド44の上司にあたるらしい立場にある魔法少女パペタだった。これは彼女への報告会も兼ねたお疲れ様会、ということらしかった。勘弁して欲しい。人事部門長との連絡でさけ心身を消耗するというのに、さらに別のところの、立場が高い人と一緒だなんて。

 パペタは一見なにも考えずににこにこしているようで、何か抱えているようでもある。どうにもわからない人だ。手にした長髪の女性のパペットは、時折会話にほとんど関係なく、パペタを褒めるなり、よくわからない頭脳戦の話をするなり、彼女の意志とは関係なく話している様子だった。本人曰く、ジューべ、即ち現研究部門長の『代役』らしい。事情はよくわからないため、笑って誤魔化し納得した。

 

 結局、マスカレイド44は研究部門から派遣された……らしい。一宿一飯の恩というか、復活? の恩程度のものらしく、そこまで深い繋がりではないと言っていたが(仮に本当に復活なら軽いものではないし)、それなら同じ部門所属として話を通しておいてくれた方がよかったのでは。研究側にも秘匿事項があるとはいえ、だ。

 

「まあ……お陰様で無事でしたし、細かい話はお互い、部門長の方にしましょうか」

「本当デス。食わなきゃやってられまセンよ」

 

 マスカレイドにずっと抱いてきた親近感の正体はどうやら、部門長直々に無茶を言い渡されたことであるらしかった。

 

「……私も少し、いいですか? あの、注文を」

 

 どうせならとついでに注文をする。なかなか美味しそうに食べる彼女を見ていると、こっちまでお腹が空いてくる。

 

「じゃあ二人前頼んじゃおっと」

 

 パペタも便乗して、ちょっとした食事メニューが追加された。マスカレイドのぶんで裏方は大慌てなのだろうか、この注文もゆっくり待とう。やがて運ばれてきたのは、軽食のサンドイッチだ。いただきますの礼をして、口に運ぶ。パペタはおいし〜と声を漏らし、コルネリアもまた染み渡る感じにため息を吐いた。食べ終わったら、クリスマスメニューのおまけであるケーキも食べる。甘い。すごく甘かった。仕方なく、水をぐいっと飲んで、くるりと皿を回した。

 

「……なにをしてるんデス?」

「? ……あぁ、すみません、ちょっと……魔法のせいか、たまにテーブルマナーに何かが混ざってしまうみたいで、すみません」

 

 コルネリアの何かを曖昧にする魔法は、その使用方法さえ曖昧だ。自分自身でさえ術にかけられる。そうなった時、コルネリアにも知覚できない。できるとしたら、こんな時のように、周囲の反応から自身の変化を推測するほかにない。恐らく、自分は魔法を使ったのだろう。こんな恐ろしい魔法、自分でもよく使うものだ。そしてそんな自分を、よく人事部門も手元に置いておくものだ。

 

「……ええ、と。そうでした。本題ですね。研究部門への報告は以上です。お渡しした通りですね」

「うん、なるほどね。そっちのボスとは、色々と話つけてるんだけどね?」

「はぁ、まぁ、その、渡せとしか聞いておりませんので」

「うん。まあまた、次会ったらよろしくね」

「あ、はい」

 

 パペタはコルネリアに渡された資料──コルネリア自身には魔法のセキュリティのせいでまともに読めなかった──を手にして、サンドイッチを綺麗に食べ切ると、籠を残して行ってしまった。領収書は、なんとかして研究部門の方にしておかなければと思いつつ、多少、ほんの多少ならば懐に余裕もあった。

 

「マスカレイドさん。終わったら、服屋さんでも行きませんか?」

「? なぜ服を? 魔法少女なんデスから」

「まあまあ。ノワールさんにはお世話になったじゃないですか」

 

 変装の際に利用した魔法少女向けの服屋。先日までは裏城南に位置していたが、今はまた気まぐれで移動して、この近くに来ているらしいと聞いていた。せっかくなので、挨拶も兼ねて訪ねようと思っていたのだ。

 

「それにマスカレイドさん、素材を活かせばかなり、じゃありませんか?」

「顔自体は素体になった子のものが近いデスがね。まあ、このナイスバディは自前になりマスけど」

「その言い方で本当にナイスバディなの、コメントに困るのでやめてもらっても?」

 

 マスカレイドの腹もある程度満足した、ということで、向かうは魔法少女専用服屋だ。

 裏城南にやってきていた魔法少女や街の人間は、結界の修復とともに、大多数が元の場所に帰されたり、他の地区に移動させられたりしたという。あの、地元のお祭りにも近いようなアーケード街は、どこぞの部門だとか派閥だとかが介入し、なくなってしまったとか。

 

「あれだけの結界術、生半可なものではありマセンからね。ヘイズワードあたりが噛んでいると見マシタが」

「どうなんでしょうね。ダスティ・ダイヤも、後ろ盾は得ていたでしょうが……」

 

 今となっては確認する術もない。研究に広報に監査に人事、寄ってたかって一斉に裏城南にメスを入れたということは、ダスティ・ダイヤが誰かにとって都合の悪い存在であったことだけは、間違いない。それが研究部門長であり、人事部門長であるのだろう。

 服屋は何事もなく、町外れにひっそりと営業していた。外装はツタの絡まる、雰囲気のある古民家だ。中に入ると、店主と、既に先客がいた。店主である魔法少女トルソノワールは、こちらに気がつくと、軽く手を振った。

 

「この度はご迷惑をおかけして……」

「え? なんのこと? なんでコルネリアちゃんが謝るの?」

「いえ、何となく……謝らなければならないような気がしまして。すみません」

「そう?」

 

 本当なら散逸したあのアーケード街の皆さんに挨拶して回りたいが、運良く近かったトルソノワール以外の連絡先はわからない。中には生身の人間もいたらしい。マスカレイドが言っていたが、そういう人は大抵挨拶してもしなくても気にしないんだとか。ノワールも多分、気にしない側だろう。この人は、こう、客層的にも、なにも気にしない。

 だって、ほら。店内にいた先客が、腹を抱えて大笑いしていても、特に何も言わないのだ。

 

「……って、あ! あれ!!」

「ン……あ!!」

 

 ふたりそろって声をあげてしまったのは、その先客というのが、明らかにピチピチの服を着せられ震える顔見知りと、悪名高き魔法少女ふたりという組み合わせだったからだ。

 悪名が高いうち片方は裏城南、それもオークション会場で見かけた魔法少女。狐のエイミーだ。もう一方はその片割れ、山伏のもな子。

 そして最後に、顔見知りの魔法少女は──裏城南で撃破し、身ぐるみを剥がし、拘束したまま押し入れに長時間放置した相手である、絶対庭園ガーデン・ガーターなのであった。

 

「き、貴様は……!!」

「あ。ガーター脱がしてコスチュームパクってた面白魔法少女じゃん」

「へぇ!? こいつらがエイミーの言ってた? 弱そうじゃん、なんだよこんな奴らに」

「ねー、しかも盾が壊れて本調子にも戻れないとか? 本っ当……そのギチギチの女児服がお似合い……」

「っ、笑うなぁ!! やめろぉ!!!」

 

 なんというか、無事だし元気らしい。そして、こいつらがいると、間違いなく静かにショッピングすることはできない。トルソノワールには悪いが、日を改めるほかにない、だろう。

 

「今日のところは……別の場所にしましょうか」

「デスね。だったら、射的とかどうデス?」

「えっ……なんで?」

「知り合いのおっちゃんがやってた屋台デス」

 

 そういえばスワローテイルが射的のことを話していたことが、あったような、なかったような、そんな具合の記憶だ。

 というよりそれよりも、そうだ、スワローテイルの心配をしなくてはならないんだった。あの決戦から日が経ったが、彼女らは大丈夫だったのだろうか。

 

「予定変更にしましょうか。ええと、行けるか聞いてみますか?」

「お願いしマス」

 

 コルネリアは端末を操作する。地図と、電話番号を調べておき、電話をかける。画面にはかけた先の名前が表示された。『医療法人聖糖会 ガブリエラ病院』……と、名前はなんだか怪しげだが、電話の対応は早かった。

 

「もしもし? はい、すみません、はい、面会希望でですね、ええっと、確か、室田さんのですね──」

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