魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇室田あげは
あの日から、何日経っただろう。スワローテイルのまま運び込まれて、毎日病院のベッドらしき場所で色んな施術を受けて、ようやく宝石になった体が治って退院──かと思ったら、今度は人間の病院に、あげはとして怪我のぶんで入院させられた。
気がつけばクリスマスはとっくに過ぎてしまっていた。世間はみんな年末年始で、病院のクリスマスツリーも、仕舞われてしまったという。
このガブリエラ病院は、室田あげはが産まれた病院だ。母であるつばめが──命を落としたあの夜に、運び込まれた場所だということになる。つまりここにはかつてダスティ・ダイヤがいて、彼女の言う『再生産』によって、つばめとあげはの遺体を今ここにいる自分に生まれ変わらせた……ということなのだろう。
それならそういうもので、と受け入れた。呪われた子供とだけ言われ続けるよりはいい。それに、母の面影なら見ることができた。愛機に、あるいは、自分の中に、彼女は羽根を残している。あげはとしては、それでよかった。
そして、そのことを、伝えなくちゃいけない人がいる。生身の人間として魔法少女の起こす火事に遭ったせいでまだ入院生活の、父だった。
「お邪魔します!」
「おお、あげは……来てくれたの……待ってくれ、どうしたんだ、その怪我」
「えへへ、ちょっと、友達と色々あって!」
「色々って……」
お父さんには言えないことばっかりだ。……うん。魔法少女のことを抜きにしても、言えないこと、言いたくないこと、いくつもある。なんとか笑ってごまかすしかない。
「まったく……本当に、つばめの時と一緒だよ」
「え、お母さんと?」
「あぁ。よくわからない傷をつけてきては、笑ってごまかすんだ。それで……後日、助けてもらったお礼、みたいな、菓子折りを貰ってきたりしてね」
「へぇ! すごい!」
「……すごい奴だったよ、つばめは」
「うん。きっとそうだったんだよね。ふふ、絹子お姉さんも、同じこと言ってた」
「……絹子? 絹子にも会ったのか?」
口が滑った。コルネリアに後から聞いたシルクウイングの本名が、
「絹子は元気だったかい?」
「……うん。すっごく」
もう、天にまで昇っていってしまったけれど。どこまでも高く飛べる、綺麗な翼の持ち主だった。
「あのね。わたし……お母さんと、お父さんの、子どもで、よかったなって」
「……」
「えへへ、急だけど、これだけは言いたくって」
それを聞かされた父の表情は、ふいに逸らされてしまい、見ることができなかった。いや。それで笑っていても泣いていてもよかった。だってこれは自己満足。もしあげはがダスティ・ダイヤに呪われていようと、ここにいる自分自身には誇りと、それを懸ける翅がある。
「それとね。新しい友達ができたんだ! 今度また……紹介するね!」
「……はは、楽しみにしてるよ」
「うんっ!」
遊びに来た病室を後にする。同室の人たちにも手を振って、最後にまた父のことも振り返った。父はベッドの傍らにある写真立てを手に取って、眺めて、それからゆっくりと、目元を袖で拭っていた。
「つばめ……あげは、強い子に育ってくれてるよ」
そんな声を聞いて、一番嬉しくなったのはあげはだった。それから今度は、ルンルンの足取りで、しかし病院なので走ったりしないように、今度は別の病室へと向かった。父の入院しているところからは少し離れている。理由は、この部屋にいるのは魔法少女たちだからだ。
「ん、お帰り。親父さんとはもういいのかよ?」
「うん。話したいことは話したし! 元気そうだったから!」
「そりゃよかった」
戻るとすぐに声をかけてくれたのは、ちょっと年上の、中学生くらいの女の子。これまでずっと一緒に戦ってきてくれた相棒こと、ダーティ・エリザ──改め、本名は山元仄香。彼女とは、変身前の姿で会ったこともある。仄香の傷は酷くはない。彼女に言うと「皆に守ってもらったせいだ」……と言っていた。スワローテイルだけでなく、命を落としていった魔法少女たちにも、自分たちは守られたのだ。
「お父さんもこの病院って。本国の人が何か仕向けてるの」
「そうなのかな? だったらありがとう! だね!」
そしてその隣に、もう少し小さな女の子の姿。こちらは病院に来てから初めて見る姿だった。彼女こそ、あげはの新たな友達。レーニャ・エレジィ、変身前はレジーナという、らしい。外国? 魔法の国本国? の人らしく、びっくりした。彼女は検査の末、後遺症も少なく、仄香同様に退院は近そうだと言っていた。
「……ねえ、あげは、パーティー……だっけ、するの? 今日? だよね」
「うん! わたしの……転院祝い? 快復祝い? と、クリスマスの会!」
そう。今日はせっかくなので、数日遅いが、クリスマスパーティーをやることにしていた。裏城南ではそんな暇もなかったし、誕生日パーティーはあの怒涛の一日で落ち着くことすらできなかったせいで、せめて何かしたいと思っていたのだ。
「その催事だけど、この人も?」
ここで問題が挟まる。レジーナはあげはに対しては柔らかい表情をしてくれるが、仄香に対してはまったくそうではない。
「あ? いたら悪いかよ」
「別に。テーブルマナーとか心配になっただけ、粗暴だから」
「言わなくていいだろうがそんなこと! バカにしやがって!? てめぇは何様だよ!?」
「別に。あなたと友達になった覚えは無いし」
「ッ、このガキ……!!」
「あなたもそんなに年齢離れてないでしょ」
「だっ、け、ど、よぉ!?」
「まあ、まあ、ふたりとも。一番子どもなのはわたしだよ?」
「いやまあ、そうなんだけどよ。精神年齢がな?」
「その点では粗暴な人間が一番低いんじゃないの」
「んだとテメェ!? おい表出て変身しろコラ! 次こそ直接殴ってやっかんな!!」
「武器だよりの魔法少女なのに?」
「まあまあまあまあ!!!」
すぐ過熱する同士であるため、定期的に間に割って入らないといけない。でもそれはそれで、友達の喧嘩を止める、という憧れのシチュエーションでもあり、なんだかんだこの雰囲気も楽しみつつあるあげはなのであった。
「で。例のパーティってのは、病院の人には許可とかもらってんのか?」
「うん! お目覚め祝いで! コルネリアさんやマスカレイドさんも呼んでるよ! ラムお姉ちゃんは、忙しいみたいで、来られなかったけど」
「アニメ化魔法少女だもんな。芸能人みたいなものだし」
「あの頑丈さなら、もう他の仕事に発ってるんじゃない」
「ありそうだ」
あげはがまだ眠っている間に何度か連絡してくれていたらしく、一応予定は空いていると聞いていた。いずれ訪ねてきてくれることだろう。そうしたら、一緒にケーキを囲みたい。
これもまた、一緒に囲うことのできなかった、あの子のためでもあった。
「クリスマス……というのは?」
「あ? あんた知らないのか? ほら、あれだろ、一般家庭じゃあ親がプレゼントくれるっていう噂の」
「サンタさんが、だよ!」
「お、おう、そうか?」
「一般家庭じゃなくて、私のは魔法の一族」
「お、おぉ……まあウチも、親父がケーキまで用意してきたことなんてないんだけどさ」
「特別な日を設定して、勝手に喜ぶの。変な感じ」
「言われてみれば……確かに?」
魔法使いにはそういうのはなかったのだろうか。一年が退屈になってしまうのではないだろうか。それとも、人間界のこれとは違う、何かしらの行事や祝日になるのか。気になることは、後で聞いてみればいいだろうか。と思った途端に、仄香の方が先に聞いた。
「じゃあ魔法の国じゃあやらないのか、こういうこと」
「やらない。やっている暇もないし、必要もないと考えている魔法使いは多い」
「そうか…………いや、ああ、もう、こいつがいると調子が狂うんだよ」
「同感」
「じゃあ整えるよ! だから喧嘩しないでね!」
「……まああんたが言うなら」
「……まああなたが言うなら」
こうしてふたりの間に挟まれているのも、みんなで仲良しだからこそ、だ。それはそれとして、コルネリアなら恐らくあげはと同じ調停役になると思うので、助けてほしい気持ちもちょっとあるのだった。