魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇キューティーラム
改めて足を踏み入れて、これが魔法で作られたとは思えない自然な大空間、ついでに自然な太陽光に、思わず目を細めた。
結界として異空間を作り、そこに地球の環境を再現し、街ひとつ作ってしまう。まず魔法少女ひとりではできない大事業だ。ダスティ・ダイヤは一体いつからこんなものを造っていたのか、誰が手助けをしていたのか、この街に関わる者の多くが倒れたことでわからず仕舞いになってしまった。
ダスティ・ダイヤがどこかへ消えて、スワローテイルたちが治療──と、それを名目にしたデータ収集──のために研究部門の施設に送られて以来、裏城南には魔法の国の使者でいっぱいだ。ラムもそのうちのひとりである。先に潜入捜査を──後半は専らただの戦闘員だったけれど──した身として、直に伝えられることは多少はあった。簡単に言えば案内役だ。調査のため訪れた広報の副部門長、つまりショコラと共に歩く。彼女は彼女でこの地に足を踏み入れるのは初めてだ。こんな場所があったんだねと驚きつつ、歩みを進めていく。
「なにもないね」
ショコラが呟いた。この場所、『すいみん屋』の跡地には、もう瓦礫すらない。ここで死んだ魔法少女たちの遺体は、元の世界に戻ることができたのだろうか。そうであってほしいと願う。
それから次に訪れたのは、最後にダスティ・ダイヤと戦い、決着した場所だ。ダイヤの魔法によって街並みは宝石化しており、そのほとんどはこのまま残されている。この場所には複数の人影があり、何かしらの調査をしているようだ。
「確かに魔法の宝石……だね。やり口がなんだかあの遺跡と近いかも」
「遺跡?」
「そう、遺跡。2年くらい前にね、ほら、プク・プックの」
「あっ、プラりんが大変だったあの」
「そうそれ。その時にも、魔法の宝石を合成する術が使われててね」
ただそういう魔法少女だった、というだけで終わらせるには酷似した現象だという。研究部門の方ではもっと詳しく調べられているみたいで、そんなものをラムが見ても、何かわかることは当然ない。
「ラムお姉ちゃんはどう思う?」
「えっ?」
「ほら。直接戦って、あんな怪我までしたでしょ。何か感じたこととか、ダイヤが言ってたこととか」
「う〜ん……報告はした通りなんだけど……」
「けど?」
「お姉ちゃんは……嫌いだな、この光。なんだか、押し付けっていうか。良さをなくしてるっていうか……受け付けない感じがするから」
怪我は休めば治ったので、特に気にはしていないが、ダスティ・ダイヤのやり口というか、所業は、やっぱり許すことは出来ない。
ラムはそんな素直な感想を話した。すると、ショコラはむふっ……と、明らかに嬉しそうな反応をして、手を握ってきた。
「えへへ、嬉しいな。ラムお姉ちゃんが本音で話してくれるようになって!」
「本音……で?」
「だって、これまでは、『キューティーラムならなんて言うか』の返事しかしてくれなかったから」
確かに──取り立てて意識していなかったかもしれないが、キューティーヒーラーとして、お姉ちゃんとして、ということを最初に考えていたかもしれない。演技していた、ことになる。でも今はそうじゃない。根拠がなくたって、心に赴くままでいいんだと、教えてもらったから。
「さすがに現地には残ってないね。まあ、ここは研究の人達にお任せしようかな」
「研究の?」
「ううん、こっちの話」
ショコラは何か探し物をしていたのだろうか?
ダスティ・ダイヤの遺物は、そもそもこの裏城南全域がそうで、かつ他にも色々とある。根尾燕無礼棲が保持していた魔法のアイテムたちなんかもそうだ。スワローテイルのように、縁ある品があった、ということもある、だろうか。
「何かあるならお姉ちゃんに言ってほしいな。ほら、お姉ちゃんにお任せ! だから!」
「あはは、ありがと。でも、ほら、色々と入り組んでるから」
ショコラの言いたいことはわからなかったが、やはり考える担当ではないラムが深堀りしても意味はなさそうだった。時々、彼女の言っていることはわからない。彼女は拾った宝石を、路傍から引き抜いた蒲公英の花と混ぜて、ひとつの宝石にしてしまうと、そっと供えるように置いた。
「じゃあね、ダスティ・ダイヤ。物語になってくれてありがとう」
──まるで、ダスティ・ダイヤと旧知であるかのような物言い。
ショコラがどこまで知っていて、ラムをこの件に寄越したのか。本人に聞いても教えてくれそうにはない。
◇キューティーショコラ
コルネリアが回収したデータはパペタを通じ、ジューべ、及び研究部門に渡っている。これで回収した魔法少女と合わせ、研究部門による理論の構築は急ピッチで進んでいくだろう。
ジューべはプフレが釣っている。広報部門長の目はずっと誤魔化されているし、監査の連中は今回の件でさらに萎縮していくだろう。外交は、魔王の始末に成功した時点でほとんど死に体だ。代わりを探そうとする動きも、ショコラティエ〜ルを使って潰してある。
プク・プックがいなくなり、根となったことで、彼女がやろうとした計画の残り香がこうして結実した。そしてその実が落ちたことで、種が撒かれた。芽吹くには、あと少しだ。それが誰の欲しい芽になるのかは、まだわからない。
ひとつ息を吐く。裏城南の湿った風に、ショコラの息が乗る。振り向くと、ラムが首を傾げ、ショコラのことを見ている。
「次は何をするの」
ラムからの問いかけには、笑って答えた。
「大丈夫。これでキューティーラムの後日談は完結。次は……そうだなあ、フレーズちゃんの番かな? ミントちゃんもプラりんも、ちょっと忙しくなるからね」
「そう、なの? 危ないことじゃない、よね?」
「危険があっても行かなきゃ行けない時はあるんだよ、キューティーヒーラーには。でしょ?」
「うーん、そうかも……?」
少しは自分の意思を出してくれるようになったとはいえ、ラムはこの純粋なところが、見ていて嬉しくなる。戯れにセクハラ、もといスキンシップでもしようかと構え、ここが外であることを思い出してやめた。さすがに可哀想である。
「そうだ。解決のお祝いに、また今度みんなに集まってもらおうか。スワローテイルちゃんだけじゃなくて、もっと、たくさん」
ふいに思いついた。
パーティーはたくさんいた方が楽しい。たくさん呼んだ方が、プフレもきっと喜ぶ。
「わあ! 楽しそう! お姉ちゃんも行けるかな?」
「どうだろうね。お姉ちゃんは、行かなくってもいいと、思うよ?」
そして何よりも。ショコラが愛する魔法少女たちのため、そして愛すべき歪んだ魔法の国のため、