魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇カードショップ
大人気カードゲーム『マジカルバトラーズ』。それは盤上での交流。互いの魂をこれでもかとさらけ出した、カードを執る者たちの
その様子をしかと見届けるため、そして全てのプレイヤーにその快感を知らしめるため、このカードショップ照照坊主の店主である
今は新弾、それもキューティーヒーラーコラボの最新弾である『キューティー・オブ・スペシャリティ』発売直後の平日であるためか、それなりの人が入っている。いるの、だが。
「すみません、新弾って……」
「すまない、売り切れてしまったんだ」
新品BOXはいつもより入荷数が少なく、プレミアムセットも即完売。いつもならば売り切れたりしないはずの新弾が、急遽設けた購入制限を貫通して完全になくなってしまっていた。
キューティーヒーラーコラボは確かに、プレイヤー以外のファンも流入するタイミング。人口が一時的に増えるのは珍しくない。だがこれは異常事態だ。
それに対して、来た買取はわずかなものだった。事前に開封して用意したシングル在庫も残りは少ない。環境が固まりきっていないというのに、これでは試行錯誤もできたものではない。大会の運営に支障が出てくるといけない。今日この後にはプロモカード争奪戦が。明日にはキューティーヒーラー限定戦も控えているのだ。
照はプレイスペースにいる人々の顔を見る。常連は何人もいるが、どうやら、見慣れない顔のグループがいるらしい。特にあのターバンを巻いた目立つ人物。いの一番に並んでプレミアムセットを購入していたはずだ。その周りの連中にも、ボックスを売った覚えがある。そして週末のプロモパック付きの大会にもエントリーしていたはずの連中だ。
その大会では1回戦前のドロップが多く、プロモパックだけを持ち帰ったプレイヤーが多数いた覚えがある。まさかとは思うが……グループでの買い占め、デッキなしでのエントリー、か。
どうする──店長権限での出禁、という文字が頭に浮かび、しかしいきなり宣告するのもまたよくないことだとも考えた。確証はないし、そもそも入荷数が少なくなったのはメーカーの供給が追いついていないことが主な原因で、疑惑以上のことはない。プレイスペースの多くはは占有しており、他の客はいつもより縮こまらざるを得なくなっているが、その程度だ。
どうにかして、注意できないものか。照としても、できればマジバトを真摯にやってくれる人に、マジバトを遊び続けてほしい。
そうして悩んでいるところに、カウンターに来る者がいた。
「お困りのようだねぇ」
「あなたは……!」
黒づくめのコスプレ風の美女──照がそうだからわかるが、恐らくはお忍びの魔法少女である彼女は、この店の常連である。散々に顔メタを受けているにも関わらずキューティーヒーラーデッキを使い続け、踏み越えて優勝を掴むことも少なくない強者だ。プレイヤーネームは『レイヴン』。サインカードが出るまで買うと語っていたはずの彼女でさえ、店舗を巡っても予約分含め数箱ぶんしか買えなかったといい、この間その嘆きを聞いたばかりだ。
……待て、それは本当に頼もしい……のだろうか?
照は首を傾げたものの、店主から強く言えば角が立つなら、彼女に言ってほしい。客に頼るのもよくないことだが、ただの縄張り争いならばよくあることなのだから。
「ちょっとちょっと、お姉さんがた」
「なんネ?」
「みんなで買い占めて購入制限無視とか……プロモパックだけ貰って帰るとか……あんま良くないと思うんだよねえ。キューティーヒーラーはみんなのものだから」
「だったらなんだって言うのネ? 我々は正当に努力しているだけネ」
「顔見知りの常連プレイヤーがターバンの奴と自転車で激突、足折って来れなくなった……みたいなのも聞いたんだけど、まさか関係してないよねえ?」
「知ったこっちゃないネ。人違いじゃないのネ?」
空気は一触即発。心の中で、常連客はレイヴンを、取り巻きはターバンを応援し、そしてレイヴンが懐からカードを抜き放ち、テーブルにローダーごと叩きつけた。そのカードの名は、『果たし状』。
「決闘だよ。縄張り争いだ」
「新顔だからって追い出すのネ? 治安悪いのネ」
「決闘で決めるんだから温情だと思うけどねえ?」
そして広げられるプレイマット。用意されるデッキ。流れるように行われるシャッフル。空気が張り詰める中、キューティーヒーラーを賭けた
「無差別級、シングル戦でいいネ?」
「無差別級? 定石ならスタンダードだけどねえ」
「無差別級以外受けてやらないネ?」
「……仕方ないねえ。だったら、ちゃっちゃと決めちゃおうねえ」
最初の手札を揃え──短い挨拶を経て、静かに、闘いは始まった。
「ターンを貰うねえ」
先行を取ったのはレイヴンだった。1ターン目は互いにパス。続く2ターン目、レイヴンが初動に動く。プレイするのはもちろん『キューティーフォン』。多岐に渡るデッキタイプを擁するキューティーヒーラーデッキを支える、必須のドローソースだ。対するターバンも2ターン目。まだ最大コストも低く、軽量のカードしか使えないはず、だが。
「『パンデミック三姉妹』を盤面ネ」
「……! パンデミック三姉妹!!」
無差別級を強要した理由は単純明快だ。カードパワーでねじ伏せるつもりなんだろう。レイヴンが使っているキューティーヒーラーデッキは恐らくはスタンダードのデッキ。パンデミック三姉妹はスタンダードにはない、強烈な置物だ。それもそのはず、カウンターが溜まりきり破壊されるまで、レイヴンは手札から出した小型モンスターを即座に破壊されてしまう!
「エンドするネ」
「わかっちゃいたけど……強烈だねえ。ドロー、チャージ……シャチエルを盤面へ」
「パンデミックで破壊、カウンターがたまるネ」
「でも出た時は発動するよねえ?」
盤面には残せないが、効果は発動できる。妖精カードは本体スペックこそ貧弱だが、効果は強力だ。レイヴンは効果を淡々と処理していく。デッキの上から三枚を公開し、キューティーヒーラー特性を全て手札に加え、そして手札からコスト4以下のストライプカードをプレイする。4コストといえば、速攻カードで知られる『先駆けのキューティーゼブラ』。しかし破壊されてしまう関係上、旨味は薄い。
「先駆けのキューティーゼブラをプレイ」
「破壊ネ」
「墓地に行くねえ」
キューティーヒーラーデッキは多種多様のカードを含むが、必殺技カードは対応するキューティーヒーラーがいなければ使えないものも多い。きついロックを受けたままでは返せない。そして次のターンもその次のターンも、レイヴンは苦しくもただカードを出しては破壊され、ターバンにドロソの連発を許すも、どうにかカウンターを貯めきった。パンデミック三姉妹は破壊され、ついにロックから解放される。互いにコストにもハンドにも余裕があるこの瞬間、ゲームが動き出す。
「待ってたねえ、この時を! ギャラクシー・アイをプレイ! デッキからキューティーアルタイルを盤面に!」
「させないネ! 対応、魅惑の毒林檎!」
「……! まだまだ、ギャラクシーアイの墓地効果で!」
「それも対応、蜂蜜の沼!」
「対応、手札のキューティーヒーラー2枚組を山に返して『
「二枚目の蜂蜜ネ」
「……それは止まるねえ」
一気に動き、しかし吐き出した妨害に止められる。無差別級がゆえの超軽量妨害だ。現在のカードプールの感覚では戦えない。揃えば勝ちと言われる大三角形コンボも決めさせてもらえなかった。
「……ベラドンナの手札効果、コスト払って、墓地に落として1ドロー……残念、ターン終わりだねえ」
「貰うネ。ドロー。ドロー時、命絞りの契約書」
「へえ! それもまた随分な」
「ドローカードを裏向きで下に置いて、さらにドロー。プレイ、虚妄狼。裏カードがあるから手札を2枚墓地に置いてもらうネ」
「っ……! 通るねえ」
「追加で虚妄狼。これで4ハンデス」
無差別級ならば、きつい条件の付いた手札破壊カードですら簡単に使ってみせる。このコンボが凶悪だからこそ、契約書は禁止に行ったのだ。この手札破壊が響き、次のターン、レイヴンは動けなかった。続くターンもまたターバンが手札を整え、さらに手札破壊を重ねてくる。コンボ始動パーツが撃ち抜かれ、苦しいゲームを強いられる。
だが。ここで、レイヴンの右手が輝く!
「……!! 今引き! ありがとねミントちゃん、墓地のベラドンナ効果で緑を追加、追加コストを使ってキューティーミントを盤面に!」
燦然と輝くは新弾のカード。しかもしっかりシークレット版だ。新弾でも注目のパワーカードであり、その効果は強力なもの。複数ある能力から2度選ぶ効果だが、中でも目玉は墓地からの釣り上げだ。合計コストの制限はあれど、一枚から三枚が並ぶ。
「もちろん効果は蘇生2回指定。さっきハンデスされたプラリーヌとフレーズ」
「……通すネ」
「フレーズ効果でミントを破壊して、相手の手札を見て一枚墓地に置く。見せてもらおうねえ」
「……」
ターバンの手札にはパワーカードがずらりと並ぶ。その中でもこの盤面で最も有効な札である全体除去が引き抜かれる。そして、だ。
「ミントの破壊時効果と、プラリーヌの効果が発動しているねえ。プラリーヌから処理。ショコラティエ〜ルが破壊された時、ショコラをサーチ。で、ミントの効果で、破壊されたら手札からキューティーヒーラー。今サーチしたショコラを盤面に」
「……」
「ショコラは他のショコラティエ〜ルと重ねてアマルガム体を出せるから。ここでラムの手札効果で、ラムとショコラをアマルガム」
「アマルガム……?」
「新能力だねえ。これでエクストラから、アマルガムラムレーズン」
盤面には一気に4体、しかもうち1体は上級だ。攻撃の合計値は既にターバンのライフを上回っている。しかもアマルガムラムレーズンはロック効果持ち。置物を出すことは封じられている。この状況、さすがにショコラティエ〜ルルートが通ったと見るしかない。
しかしここで置いたのが耐性持ちのアマルガムチョコミントでないのが痛い。純ショコラティエ〜ルならばここでミントをさらにサルベージして連続アマルガムを決める上振れがあるが、レイヴンの構築は無理に他のキューティーヒーラーを共存させたキメラコンボデッキ。最大値には要求が多すぎる。
「……ドローするネ」
ターバンから笑顔が消えていた、はずだった。しかし、笑顔が戻っている。これはつまり。
「いやあ惚れ惚れするネ。迷いのないプレイ、歪みのないコンボルート……乗りこなせるのは感心ネ」
「いきなり何?」
「これで終わりネ……プレイ! 『ジェネラルサタン』!!」
「ジェネラルサタン……!!」
無差別級なら当然入ってくるだろうと見ていたカードの登場に、場が沸く。最新のカードと数年前に環境を破壊した王者の対面だ。
「ジェネラルサタンで登場時に全モンスターを破壊!!!」
「くっ……!!」
「さあ仕掛けるネ!!」
バッと大きくポーズをとるターバン。彼女ももはや決闘の中にあり、純粋なライバルであった。
「あのさ」
そこへふいに声をかける、ひとりの少年。
「今、レイヴンさんを褒めてる間に、こっそりジェネラルサタンをポケットから取り出してたよね?」
「……はい?」
「……ン〜? 少年? 言いがかりはやめるネ? マジバトは子供の遊びじゃあない……」
いや。照もレイヴンも、彼には見覚えがある。そうだ。月刊TCGに、ついこの間、優勝の写真が載っていた──。
「あなたはもしかして……前年の小学生大会優勝の……曲岡統太さん!?」
「よく見て欲しいんだけどさ。ほら、この契約書とか高額カードだけど、ここ、印刷が」
「まさか……偽造カード!?」
「…………これはまずいネ。勝負は預けるネ!! 今日はここまでにしておいてやるネ!!!」
ターバンとその取り巻きはバタバタと出ていった。その場に残された常連客たちは深い息を吐く。緊張の糸が途切れた。それから、まさかの優勝者の来訪であるということを思い出して、一斉に我に返る。
「いやあ。建て直せないわけじゃなかったけど? サタンまで出たらさすがにきつかったねえ……しかし……よく契約書の違和感に気づけたねえ」
「リストが知り合いのに似てたし。シークレット版を加工してなかったらわからなかったよ。レイヴンさんこそ、綺麗なキューティーサイクル捌きだったよ」
統太の登場により、事態は一段落。カードの不足という問題はどうしようもないものの、買い占めグループはいなくなった。顔も覚えたし、これからは、買い占め行為ではなく、反省してプレイヤーとなってくれることを祈るばかりだ。
「あ、それと、ちょうど知り合いが買取に出したいって言ってて──」
それから少しして、数カートンぶんの新弾のカードが、大ボリュームのふわふわした髪の少女によって持ち込まれ、なんだかんだ問題なく新弾バトルも開催された。照の心配は軒並み杞憂に終わり、環境は5Cショコラティエ〜ルによって壊れたのであった。