魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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『Blue/Shift』と『Beyond the Bullet』の間のお話です。


ラブ・探してルー

(ラブ)・ルールー

 

「で、飛び出してきたってわけなんだけど」

 

 ルールーが職を失ったのが、今から半年ほど前のことだ。職というと語弊があるが、この場合は居場所、に等しい。その頃のルールーは、師匠からの密命を受け、その仕事をきっちりやり通した。迷える魔法少女を非行に走らせ、どうしようもない罠に嵌める。そんな最悪の仕事で、どんな詐欺よりもタチが悪い仕事だった。そこまではもはやいい。問題はこれからで、最後の最後に、ルールーはその師匠の計画を挫く手助けをした。結果、師匠もその雇い主も命を落とし、ルールーが生き残った。

 そんな調子で笑って帰れるわけもなかった。弟子たちは強い。元々後継者も決まっている。ルールーくらいはいなくてもやっていけるだろう。師匠のもとからは去り、ルールーは最近知り合った魔法少女の飲み友達と話していた。

 

「事情バリバリ逃げてヘトヘト、社会からすればズタズタ……そんなの当たり前だよ! この街にいるのはそんな連中ばっかりだからねー!」

 

 カタカナで構成されたコスチュームである魔法少女は、自分も借金の肩代わりで魔法少女になり、この『裏城南地区』で働かされていると笑っていた。笑い事ではない。そして、その経歴は無駄に自分と重なってくる。

 

「マドんとこは雇ってくれないの?」

「え。反社会勢力だからやめといたら?」

「元々反社みたいなものだし……?」

「あ、でもなんか、宝石系はNGだって言われたような」

 

 残念だが楽はできないらしい。深くため息を吐き、魔法少女には効かないアルコールを流し込む。

 

「そんなルールーに〜……ドーン! はいこれ!」

「……なにこれ? アプリ? 怪し」

「IT部門の暇な魔法少女が作ったらしいよ」

「『マジカルマッチングアプリ』?」

「そう。魔法少女のチームメイトとかお仕事とか探すアプリなんだって。どう?」

「どうって……」

 

 そういえば……研究部門にいた飲み仲間が似たような話をしていたような気がする。彼女、いや彼は恋愛目的で使いとにかく撃沈していた……とか言っていた。

 

「なんかバイト系のも開発してて、連動して登録とかもできるんだって」

「現代はすごいな……」

 

 とにかくやってはみるしかない。言われるがままに、魔法の端末にインストールしてみる。起動するとそのまま登録を要求された。プロフィール写真をアップロードするだけでも躊躇われたが、仕方なく今、オトマドベルに撮ってもらい写真を用意。続いてニックネーム、欲しい仕事の傾向、使える魔法なんかを登録して、準備完了となった。身体能力は前衛向き……くらいに設定。魔法の傾向は『宝石を扱います』とだけ書いておいた。同種ならば相性がいいこともあるはずだと、期待をかけての開示だ。

 

「あとは他の魔法少女にブーンとメッセージ送ったりミミミッとメッセージ送られたりだって」

 

 摩訶不思議な効果音に関しては何も言わないでおき、早速端末に通知が届いた。飛びつく。プロフィール写真は駅員風の『オリエント』さんからだ。書いてあったのは、短いメッセージ。謎の言葉と数字と記号……なんだろうと隣のオトマドベルに見せると、止められた。

 

「ダメダメ! これ()リモクだよ!」

「や、戦リモク?」

「ほらこの人魔王塾生。決闘の誘いだよ」

「危な、怖」

「強そうな魔法少女だったらとにかく挑まれるみたいな話も聞くからね」

「えぇ……」

 

 ルールーの経歴も人に言えたものじゃない。だがクズの方向性が違う。正直ドン引きだ。いや、見境無しに殴り掛かるよりはいい、のか。アポを取っているわけだし。

 

「えっと、『決闘はごめんなさい』……っと」

「バッサリ! 残念でもないし当然だね!」

「また来た。『らぶるさん、はじめまして。気になってメッセージしちゃいました』」

「お、まともなメッセージだ」

「『私は身体能力に自信がなく、後衛がメインなので、前衛のらぶるさんと一緒にお仕事をしてみたいです』」

「はいはい」

「『つきましては、一度の戦闘でどのくらいお怪我をされるでしょうか。私の得意分野は医療系ですので、お教えいただけると幸いです』」

 

 読み上げた後で、プロフィールを見る。ニックネーム『ふーぜ』さんはどうやら絆創膏の魔法少女らしく、なるほど怪我をしても手厚く診てくれそうだ。とはいえルールーも突撃して傷を省みず、みたいなタイプではないし、そんなのは御免だ。宝石の魔法もどちらかといえば器用なタイプ。前衛をやるなら、医療系サポーターよりも金銭的なサポートの方が合っている。

 

「『前線に積極的に出るのはあまり得意ではありません』……とかでいいかな、送信、っと返信早ッ……『傷口を診たいので、一度に十箇所ほど怪我していただけると嬉しいです』」

「あー、これは……」

「これ治療することが目的になってるよね?」

「返信がピキピキ早いのもまずそうだね!」

「あっまた……『もしかして今怪我されていませんか? 写真を送っていただけないでしょうか? ぜひらぶるさんの傷口が見たいです、よろしければお願いします』」

「あっそれもダメダメ!! 絶対まずいよ!」

「だよね……」

 

 ふーぜさんにはぜひ、決闘を申し込んでくるオリエントさんと戦った誰かの傷を見て欲しい。そっとごめんなさいを送る。その間にも通知はいくつか溜まっている様子ではあった。危ないのばっかりだからと、ちょうど来た料理をつまむルールーの代わりに、オトマドベルがメッセージを読み上げる。

 

「えーとなになに、『MyName』……チームのお誘いだ。『魔法少女名の改名手続きに困っていませんか? 改名のお手伝いいたします』」

「うっ……正直やってほしい……! ラル・ブーブーとか間違われるし!」

「『今なら名前7個を追加でプレゼント』」

「なんか一気に詐欺っぽくなった! いる!? 貰っても困るって!」

 

 チームという選択肢ももちろんある。あるが、さすがにちょっと怪しいし、名前はそんなにいらない。

 その後も次々とメッセージは飛んでくる。オトマドベルは読み上げてくれるが、そのたびにルールーの表情は歪んだ。

 

「『一緒にカレーを作りませんか? 毎食カレー付き、カレーを数える簡単なお仕事です』」

「怪しいし……」

「『あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?』」

「なんの話!?」

「『雪は宝石に含まれますか?』」

「無理だよごめんね!」

「『吾輩と共に立ち上がろう! 誰も責任を取らなくていい世界を!』」

「思想が強すぎる!」

「『あなたはプクを信じますか?』」

「途中まで信じてた結果路頭に迷ってるんだよ!」

 

 確かに登録したばかりなのに向こうから来るのは大抵まともじゃない。雪使いらしい『ゆきみ』さんには返信してもいいかもしれないが……恐らく彼女と組んでもお友達止まり、生業にはできないだろう。それなら同じ宝石やらに関わる人間がいい。そうして検索をかけて、ヒットする研究部門関係と実験場関係とマッドサイエンティストを除外し、なんとか同業を探す。スクロールするうち、ふいに目に止まった。まるで彫像のようなプロフィール写真。魔法少女としては、確かに美しくはあるが異質には違いない。

 

「『リール』さん……」

 

 鉱石や宝石に関わる魔法少女、となると、そこまで多いわけではない。が──彼女のプロフィールには、『体の材質を変えられる魔法です』……と、あった。それはつまり、宝石を手にすれば、彼女自身が巨大な宝石となってくれるのでは。これはまさに運命の出会いだと予感したルールーは、真っ先にプロフィールにスタンプを送り、さらに全力でメッセージを考え、いきなり堅苦しいのも嫌なため絵文字を使ったりして、一気に書き上げ『リール』さんに送った。しかしオトマドベルが「長っ」とこぼしたことで、冷静になった。さらに「なにこの絵文字」と指摘したことで、あまりにも逸っていたことを認識し、頭を抱えた。平静を保つため、氷が溶けて薄くなったアルコールを一気に飲んだ。焦って飲むアルコールは、美味しくない。

 

 ……ほどなくして、通知の音が鳴った。

 ビクビクしながら、細目でそっと画面を見ようとして、ぐいっとオトマドベルに瞼を掴まれ開けられた。

 

『メッセージありがとうございます。それもこんなにたくさん。同じ鉱石や宝石に関わる魔法少女ですから、相性はいいかもしれませんね。ゆっくりお話しませんか?』

 

 そのメッセージは、少なくとも第一印象では、人格に難があるようには見えない。数ある厄介メッセージの中でも長文のルールーの相手をしてくれているあたり、既に人が良い。

 

「……決めた。私、ふたりぐみ魔法少女になります」

「ルールーちゃん、目がギラギラだよ?」

 

 だって運命の人が見つかったのだ。彼女となら、どのような稼業になろうと、既に成功させられる気がしている。間違いない。脳細胞にクリティカルに来たのだ。

 ルールーはまずは落ち着き、気持ち悪くないメッセージにすることに注力しようとした。

 

『ルールーですよね? 何してるんですか?』

 

 ──その最中に、『キャンディ』なるユーザーからメッセージが届いていたのには、気づかないふりをした。

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