魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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『Beyond the Bullet』のお話が終わった数ヶ月後のお話です。


2期生担任の憂鬱の朝

 ◇梅見崎中学校 仮設校舎職員室

 

 年度が明けた。校舎が派手に破壊されてから2年が経過し、ようやく新校舎の工事が進み始めている。破壊される事件があった最初の1年の間は、中庭の地下から出てきた『始まりの魔法使いの遺跡』……とやらをどうするかで揉めて、話が進まなかったらしい。

 現場で働く教員としては、はた迷惑でしかない。

 

 そして元々教員をしていたからといって、魔法少女の学級に派遣されるのもまた、はた迷惑でしかなかった。魔法少女『繰々姫(くるくるひめ)』は、現在魔法少女学級の担任として雇われ、そして働かされている。

 魔法少女なんて無理やりやらされたようなもので、辞めようと思っていたところでの話だった。断るつもりだったのに、あの手この手を使われた結果がこれだ。最終的には自ら足を運んできた新校長に「魔法少女でしか生きられない子たちの受け皿になってやってくれませんか」と頼み込まれて、断りようもなく、それから魔法の国の力で人間社会から転勤するという形でここにやってきたのだった。

 

 一期生たちを担当し、事件に巻き込まれた級友たちを喪いながらも、卒業まで導いたという辣腕の初代魔法少女教師は、本業の探偵業が忙しくなったということで、あまりこちらには出勤していない。仕方の無いことだ。他の同じく教師役の魔法少女と、押し付けられた仕事に、彼女のかわりにため息を吐く日々だった。唯一いいのは、生徒に『モンスター』みたいなあだ名をつけられないことだ。

 

 そして、これはそのうちの一日である。

 

「〜♪」

 

 廊下から聴こえてくる鼻歌。休み時間中も、書類作業中も聴こえてくる、授業中もたまに聴こえてくるこの歌。生徒も口ずさんでいる。やたら脳にこびりついて離れない。なんなんだこの歌は。

 

「魔法少女だから♪ 助けてチェルシー♪」

「あの……すみません」

 

 職員室を出ると、歌いながら掃除している、否、逆だ、掃除しながら歌っている。彼女の存在はどう足掻いても目につく。彼女は廊下にリズミカルに箒をかけながら、こちらを見ると首を傾げた。明らかに主眼が掃除ではなく歌に向いていた。やたら感情のこもった歌声、そしてやはり耳に残るメロディ。つまり元凶は彼女に違いない。

 

「その歌……なんですけど」

「ドリーミィ☆チェルシーオリジナル挿入歌『ファンシー&ブレイブ』のこと? 残念ながらCD化も配信もまだだよ!」

「あ、はい」

 

 案の定、彼女、ドリーミィ☆チェルシーが火種であった。しかもオリジナルソング。生徒たちもこれを聞いて、気がついたら覚えていたとかそんなことだろう。用務員兼警備員として雇われたという彼女だが、どちらとしてもどうかと思うのが本音だった。

 

「おはようございます! チェルシー! 先生!」

「おはよう、みんな〜!」

「あ、おはようございます……」

 

 生徒たちは受け入れているし、むしろ受けがいいような。こういう『魔法少女です』という感じの人が近くにいた方がいいのだろうか。

 

「おはようチェルシー……チェルシーにお任せよ☆彡」

「おはようブギーちゃん! チェルシーの決めポーズはもうちょっとこう……角度がこう!!」

「ふむ……お任せよ☆彡」

「そう! そこをもうちょっと!!」

「よ☆彡」

 

 フリーランスの魔法少女も懐いている。……朝から決めポーズの練習をし始めるのは、これは教育に悪いと言わざるを得ないかもしれないが、『クラムベリーの子供達』だったり、過去に心の傷を負った者もまた、この魔法少女学級にはいる。そんな彼女らの安心出来る場所になるのなら……いややっぱりこれはやりすぎなのではないだろうか。

 

「私にはわかるぞチェルシー。その見た目に現れぬ内に秘められた極限をも超えた鍛錬の結晶」

「……?」

「はいはい、ホークちゃんは先に教室行こうねえ」

 

 広報部門系のサリー・レイヴンと、同じく広報に所属が決まっているマハト・マホークのふたりだ。名の通りカラスとタカの魔法少女であるふたりは、わかりやすく羽根が描かれたカードのアクセサリーを揃って着けている。このカードのアクセサリーこそが、彼女らがモデルとなった魔法少女アニメのキーアイテムだ。モデル魔法少女として広報の権限で改名したらしく、それぞれキューティーレイヴンにキューティーホークとなるらしい。もはや繰々姫にはなんの話かも分からない。

 

 ホークの方は本来は戦闘の方に興味があったようで、チェルシーに対してはたびたびこうして絡みに来ている。そのたびにレイヴンに窘められるなり、先生に止められるなり、チェルシーに流されるなり、だ。他の生徒からもこうして話しかけられることも少なくない。こんな用務員は、少なくとも普通の学校では聞いたことがない。つまり人気者である。人気者は辛いねと笑ってみせるチェルシー。やたら楽しそうなのがまた、困るところだ。

 特に、あのファンシー&ブレイブが流行っていること意外は何か起きているわけでもないし、チェルシーという人選は間違ってはいなかった……のだろうか。

 

 実はだが、繰々姫は新校長からこの人に講演してもらうかもしれないと聞かされている。だからこそ、チェルシーのことは見ておかないといけない立場にある。本人は、そんなことは露知らず、挿入歌の再生と、ついでの掃除を再開していた。

 今日登校してくる生徒たちはあらかた通っていった。2期生、3期生、そして入学したばかりの4期生たちも通っていき、そろそろ授業が始まる時間だろう、というところで、準備のために戻った職員室の扉が、叩かれた。

 

「はい?」

 

 他の魔法少女先生たちは職員室にはいない。返事をするのは繰々姫だ。繰々姫の担当は2期生。どうか2期生に何か起きたのではないのであってくれと思いながら、開くのを待つ。そこに立っているのは、担任を持っている2期生のひとり、『のっこちゃん』だった。彼女のその容姿だとかはなんだかすごく前に聞いたことがあるような、苦い思い出があるような、そんな気もするのだが、今は置いておく。申し訳なさそうなのっこちゃんを見ていると、こちらも大変申し訳ない気持ちになる。

 

「あの……ブギーちゃんとホークちゃんとメピスちゃんがまた喧嘩を……」

「……また……」

 

 クラムベリーの試験を幼くして勝ち抜いたブギー、武闘派アニメ化魔法少女のホーク、そしてさらに魔法少女学級随一の不良とも言うべき少女メピス。この名前が並んで出てくるということは、間違いなく現場はろくなことになっていない。わざわざ呼びに来させてごめんねと謝りながら、変身しているのかしていないのかわからないくらいの美貌を慰めつつ、繰々姫は職員室を出た。

 

 教室に飛び込む。息を切らして飛び込み、「やめて!」と叫んだ。教室には鷹の羽が舞い、よくわからない黒いもやもやが蠢き、悪魔の少女が身構えており、他の少女たちは教室の端に固まっていた。

 

「来ちゃった。あーあ。悪い子だから。あーあ。くるくるちゃん泣かせちゃった。いけないんだ」

「……くるくる先生がああならば仕方あるまい。私も羽根を納めよう」

「チッ、決着はまた今度にしてやるよ。くるくる先生が来ちまったからな」

 

 そしてその瞬間に喧嘩が止まったらしい。黒いもやはひとりの少女の姿に戻り、鷹の翼を広げた少女は地に降り、悪魔の少女は服を叩いて埃を払い裾を直し、そして三人揃って変身を解いた。ぐちゃぐちゃになった机は文句も言わずに三人で直し、じきに何事もなかったかのように皆が席につく。

 

 素直な子たちだと、受け取っていいのだろうか。何があったのか、逆に怖くなって聞けない。後ろではのっこちゃんが明らかに困惑した顔で、繰々姫を盾に教室の中を覗いていた。変身している者はいない、もう大丈夫だろう。息を切らしたままながら、繰々姫は教卓に立った。

 

「はぁ、はぁ……じゃあ……朝のホームルームを始めます……」

「はぁい。きりーつ」

 

 少女たちは一斉に立ち上がる。魔法少女学級というのは、こうも気の滅入るものか。

 

 

 ◇

 

 

 魔法少女学級2期生──のっこちゃんは、職員室に残されていた、担任の先生の端末の、つきっぱなしのその画面を、先程、先に走り出してしまった彼女を追いかける前に、覗いてしまった。

 そこに表示されていたのは、どうやらかつての教え子かららしいメッセージだ。盗み見するつもりはなかったが、つい読んでいた。

 内容はこうだ。

 

『お久しぶりです、姫野先生。いえ、繰々姫先生、と呼んだ方が正しいですね。私です。実は私の現在所属している儀礼隊が、このB市支部で定例集会および儀礼への決起を行うのですが──』

 

 のっこちゃんはそのメッセージから、言い知れぬ気味の悪さを感じ取り、勝手にやるのはよくないと思いつつ、通知を消し、メッセージも消してしまった。そしてそれから、自分の端末にも、今この瞬間にメールが届いてきていることに気がつく。

 

『運命は再び動き出す。いつまでも逃げていられると思うなよ』

 

 それは繰々姫のもとに届いたメールよりもずっと、あまりにも気味の悪い文章だった。思わず消そうとして、差出人が──今見たのとほぼ同じ──『プク派儀礼隊』となっているのを見た時は、呼吸が浅くなった。先生を追いかけて教室に行かなくてはならないのを思い出したのは、その数秒後のことだった。




ご愛読ありがとうございました!
次回作も予定していますので……お楽しみに!
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