【完結】フラグ折り悪役令嬢〜乙女ゲー主人公の恋愛フラグを折ったら転生悪役令嬢の私と主人公で百合フラグが立った件〜   作:シャリ

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8話:第一王子(アレン):まるで花のような

 僕の母は花が好きだった。

 小さい頃、王城にある花畑に何度も連れられて色んな花を教えてくれた。母のことが大好きな僕が、母と同じく花を好きになるのに時間はかからなかった。

 

 王子としての勉強は沢山あって、なにもかもが大変で苦痛だった。

 父は……人の親として僕に接することは無かった。勉強やマナーについて口出しをするだけで、母のように頭を撫でてくれたことも、手をつないで歩いてくれたこともなかった。

 だからこそ母と過ごす時間も母と遊べる花畑も僕の救いで、僕の全てだった。

 

 僕が八歳になった年、母は謎の病気を患った。

 どんな薬も効かず、医者にも原因が分からず、表沙汰にならないようにした上で魔術協会の幹部たちに見てもらったが回復はしなかった。

 

 日を重ねるごとに痩せていく母を見るのはつらかった。一番つらかったのは、母は弱音を吐かずに僕のことを気にかけ続けていたことだ。僕が弱いから母はどんなに苦しくても強い母であろうとしていた。

 僕への心配が母の負担になっていると考えて、母の前では泣かないと決めた。母のために花を摘んで、母のために王子として研鑽した。

 

 毎晩、母を助けて下さいと神に祈った。一人の時は我慢しなくてよかったから祈りながら涙を流した。

 僕の願いもむなしく、病状は悪化する一方だった。

 

 母が誰かに補助されないと立てなくなった頃、珍しく父が僕がいる時に母を訪ねた。父が夫の役目で母を励ましにきたのかと思いきや、恐ろしい言葉を口にした。

 

「国民の間で、王妃が病気で倒れたと噂が流れ始めている。噂を否定するために国民たちに姿を見せなさい」

 

 信じられなかった。聞き間違いであってほしかった。

 なによりも信じられなかったのは、母が恨み節を言わずに父の指示に従ったことだ。

 

 馬車の中から国民に手を振る母を隣で見ていた。見ていることしかできなかった。

 ムリをすれば治るものも治らない。つまり、治らないものならもっと酷い。国民に姿を見せるアピールをするようになってから、ますます具合が悪そうにしていた。

 僕は父に訴えかけた。母のことを気にかけて欲しいと、ムリはさせないで欲しいと。

 

 父はどこまでも王だった。

 

「あれも王族に連なる者の一人としての責務だ。姿を見せないことで王妃が弱まっていると感づかれたら国としての弱みの一つになる。表の世界では平和に見えても、裏では他国は何かしらの隙を探しておる。それだけではない。王妃のことが国民にバレた場合は不信感を持たれてしまう。他に嘘をついているんじゃないか、王妃がそんなことで国は大丈夫なのかとな。国民のゆらぎは国のゆらぎにもなる。だからこそ、王妃の扱いも必要なことなのだ」

 

 王の目はとても冷たく、瞳ではなく黒い穴が空いているように見えた。

 

「我が後継者よ。人間ではなく王子として今一度、考えられるようになれ。国と王族の結びつきを意識せよ」

「ですが……!」

「話は終わりだ。この後継者を下がらせろ」

 

 僕は王を説得できなかった。

 母はますます弱っていき、遂にはベッドの上から離れられなくなった。

 励ましの言葉なんて思い浮かばない。すっかり細くなった母の手を握ることしかできなかった。

 母は僕に優しく語りかけた。

 

「私の愛しいアレン、あなたは……あなたらしい王になりなさい。私を想ってくれるように、国民の幸福を考えるようになれば、真の王になれるはずよ」

「僕ひとりじゃ王になるなんてムリだよ」

「支え合える相手を見つけたらいいのよ。そうねぇ……花のように笑う女の子がアレンにはお似合いよ」

 

 

 母を診ていた医者から数日以内に命の終わりが来ると言われた。僕が認めなくても、否定しても、避けられない別れ。

 

 誰もいない王城の祭壇で、夜が明けるまで怒りも悲しみもぶちまけて泣きながら神を罵倒した。

 喉を枯らして迎えた朝、僕は諦めて……母が天国に行けるように捧げる花はなにが良いのかと悩んだ。

 

 悩みは一日とかからずに解消した。

 リリア・フォルティナが、誰も作れるとは思ってもみなかったエリクサーを錬金術で作り出したからだ。

 

 母を苦しめていた病はエリクサーを一回飲むだけで拍子抜けするほどあっさりと消え失せた。

 それからは徐々に体力も取り戻していき、以前のように一緒に歩けるようになった。

 

 エリクサーのレシピを発見したリリアが王妃を救ったことになるが、公式上では母は病になっていない。だからリリアにもフォルティナ家にも、その功績を伝えず褒美はなにもない。

 

 僕は公にはできなくても、リリアに直接お礼を言いたかった。

 社交界でフォルティナ家に挨拶をして、初めてリリアを見た。

 どこか浮世離れした雰囲気があり、月光が人間の形になったらこうなるんじゃないかと思わせる。

 銀髪と赤目はリリアの姉と同じだったが……纏っている空気や瞳の内側に決定的な差を感じた。

 

 リリアを見ることはできたが、長女を優先させる貴族のやり取りや場の問題や王族としての体面もあり、二人きりになってこっそりお礼を伝えることはできなかった。

 

 

 結局、リリアにお礼を言えないまま八年が経過した。

 同い年の貴族たちが、魔法学園に通う年。僕と、半分だけ血がつながっている弟のヴェインは王族故に学園側との調整があって一ヶ月遅れての入学になった。

 

 昼頃、学園に入ると僕に気づいた女生徒たちに騒がれた。落ち着かせながらも、リリアがどこにいるか知らないか彼女たちに訊ねた。中庭の花園で見かけたという情報を元に、そちらに足を運ぶ。

 

 花園に入ると、思わず息が漏れた。

 太陽の柔らかな光が花々を包み込み、花園全体がひときわ輝いていた。色とりどりの花が咲き乱れ、花びらが風にそよぐ様子は、心を奪うほどに素晴らしい。花たちの間には、緑の葉が巧妙に配置されており、それぞれの花が引き立つようにデザインされている。目を引きやすい花弁だけでなく、葉を含めた花全体を活かした構成が花園の美しさに一層の深みを加えていた。

 このまま足を止めて、花園をじっくりと眺めたり各エリアを見て回りたいが、我慢してリリアがいる場所に向かった。

 

 目的の相手はお茶会をしていた。リリアを含めて三人……違うな、四人か。

 三人が同じテーブルについている。もう一人は隣のテーブルに……なんだあの菓子の量は。一人で食べる量か? いやいや、そんなことはどうでもいい。

 

「君たち、ちょっといいかな」

 

 リリアたちに声をかけて、挨拶から始まるやり取りをした。それから本題に入る。

 

「僕は今日から学園の生徒にはなったが、学園のことについては詳しくはないんだ。一人で見て回るのもなんだし、せっかくだから学園の案内を一人に頼みたくてね」

 

 僕はリリアに目線を送ったが、意図は汲み取られなかった。

 

「でしたら、案内人にはこちらのシロエが適任かと」

「ぅえっ!?」

 

 用が無い相手と二人っきりになっても仕方がない。ハッキリと指名するしかないか。

 

「僕としては案内を頼みたい相手は──」

「ここの花園はシロエが管理しています」

 

 思わずシロエに確認する。

 

「そうなのかい?」

「はい……。私が一人でやっています……」

 

 おずおずと返事したシロエに、リリアが補足するように言葉を繋ぐ。

 

「花を選んで配置を考えたのも、手入れをしているのも、全てシロエです。美しい花園はシロエの功績ですよ」

 

 あれほどの花園を一人で管理しているとは驚きだ。用が無いと考えたばかりの相手に興味が湧いてくる。リリアにお礼を言う機会はこの先いくらでもあるし……今はこのまま流れに乗ろう。

 

「ふむ……では、シロエ君にお願いしたいな。いいかな?」

 

 シロエは小さく頷いた。

 

「リリア君、お茶会を中断させてすまない。埋め合わせはいずれするよ」

「気にしないでください。シロエも私たちのことはいいから二人でゆっくりしてね」

「う、うん……」

 

 

 シロエと二人きりになると、僅かに緊張した。

 黒髪ロングで、前髪で目を隠すようにしたシロエはどこか陰のある雰囲気をまとい、静かな優雅さを持っている。

 花園の美しさを語るのが得意そうな彼女と、僕は自然と会話を始めた。

 

「花園の手入れは大変なんだろう?」

「はい……。でも、花たちが元気に育っているのを見ると苦労が報われます」

 

 それからも、お互いに花についての話をすることで打ち解けられた。

 

「アレン様は花とお母様が本当に好きなんですね」

「あぁ……シロエ君も花が一番好きでいいのかな」

 

 シロエはなにか考えこんでから私の言葉に答えた。

 

「花は大好きですが、一番好きなのは……少しだけ違います」

「少しだけ違うと言うと?」

「えぇっと……先に見てもらった方が早いかも……」

 

 シロエに案内されて来たのは、花園の中でも開けたエリアでベンチなども置いてあった。

 生徒たちが過ごしており、一人で花を眺めるものや、ベンチに座って談笑する生徒などもいる。

 

「私は……こういった光景が一番好きです」

 

 自分が管理する花園を楽しむ者を見るのが好きということか。しかし……。

 

「花を見ていない者たちもいるようだが?」

「花を見なくてもいいんです。あそこで話している生徒だって、校舎内で雑談してもいいのに……わざわざ花園のここに来てくれています。つまり、私が言いたいのは……花がある空間が誰かにとっての安らぎの場になっていて……楽しそうにしていたり、穏やかに過ごしているのを見ると……私も心が温かくなります」

 

 生徒たちを見守るようにして、浮かぶシロエの笑顔は──。

 

「花を通じて誰かが幸せになれると、私も幸せです。幸せのおすそ分けしてもらえている……みたいな」

 

 ──まるで花のようだった。

 

 

 僕の身体は頭から足の先まで痺れた。僕の魂は殴られたように震えた。

 シロエこそが運命の相手だと僕の全てが告げている。彼女を逃せば、一生後悔すると。

 

「シロエ君」

「はい」

 

 シロエと対面する状態でハッキリと告げる。

 

「僕の妻になってくれ」

「はい……はいっ!?」

 

 顔を赤くして動揺しているシロエの夜空のように美しくて見え隠れする黒い瞳を視線で捉える。

 

「君という花に僕は惹かれた。君が元気に花咲けるように僕が支える。だから、僕のそばにいて欲しい。他の誰かじゃダメなんだ」

「ほ、ほんきですか……?」

「もちろんだ。この世界で、誰よりも君を愛すると誓うよ」

「でも……私なんかがアレン様のお相手になってもいいのでしょうか?」

 

 シロエは少し不安げに目を伏せた。彼女の自己評価の低さが垣間見える。

 

「いいとも。君は僕にとって特別な存在だ。この先、どんな困難が待ち受けていようとも、一緒に乗り越えていこう。君となら、どんな未来も恐れずに歩んでいける」

 

 確かな決意を伝えると、揺れていた瞳が僕を見つめ返した。

 

「はい、私もアレン様のそばにいたいです……。アレン様を支えることができるように、私も頑張ります」

 

 僕たちの間に花の甘い香りが通り抜ける。花園が僕たちを祝福しているように感じられた。

 

「これから一緒に花を育てていこう。君の花園も、僕の王国も、共に美しいものにしていこう」

 

 微笑むと、シロエも花のような微笑みで返してくれた。

 僕たちの未来は、きっと花々のように色鮮やかなものになる。




お幸せに…。
禁止カード【シロエ・クローディオ】を使った結果がコレ。
みんなはリミットレギュレーションを守ろうね!

シロエの名前は、花言葉から探して見つけた「シロタエギク」から持ってきています。
花言葉は「あなたを支えます」と「穏やか」。
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