【完結】フラグ折り悪役令嬢〜乙女ゲー主人公の恋愛フラグを折ったら転生悪役令嬢の私と主人公で百合フラグが立った件〜   作:シャリ

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13話:悪役令嬢(リリア):第二王子と対決

 今日の午後授業の馬術はこれまでの授業内容と違い、乗馬して走らせながら弓矢で的を射抜くものだった。

 つまり流鏑馬だ。流鏑馬は日本の文化だが、これまであったような製作者の影響ではなく原作からこれである。貴族の狩りの文化がこの世界ではこの形になったらしい。魔法を弓矢に付与して扱ったりもするので日本の流鏑馬とは異なるし違和感は少ない……かもしれない。

 

 未経験のリエルに教えてみたが、授業中は一度も的に当たらなかった。授業後は自主的に居残りすると言い出したので、馬には乗せずに普通に矢を当てる練習からやらせた。それでも的を射抜けていなかったが、徐々に矢が的に近くなっていく。そろそろ今日はこの辺で、と声をかけようとした頃、初めて矢が的に当たった。

 邪魔にならないように少し離れた位置から見ていた私の元に、リエルは満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。まるで子供のように無邪気で、嬉しさが全身から溢れている。

 

「リリア様! やりました! やっと的に当たったんです!」

「おめでとう、よく頑張ったわね」

 

 喜ぶ姿も可愛い。言葉だけじゃなく、頭を撫でて褒めてあげる。撫でる理由は、私がリエルに触れたいからというのもある。リエルは気持ちよさそうに目を細めてされるがままだ。

 撫でまわしていたら、後ろから声が届く。

 

「そこの小さい方、中々に根性あるじゃねーか」

 

 うわ、出た……。

 後ろを振り返ると、案の定、逆立った赤い髪と赤い瞳が特徴の第二王子ヴェイン・ハーメットがいた。ステータスの運動力を上げる行動後のランダムイベントが起きてしまった。

 彼との繋がりを作らないようにしていたのに。この前アレンに呼び出されて、内密の話としてエリクサーで母を救った件とシロエと引き合わせた件についてお礼を言われた。何か礼がしたいと言われたので、大きな貸し一つにした。貸しを使わなければフラグは死んだも同然。そうしないと城に呼ばれたりして、そこでヴェインと会って繋がりができそうだったからだ。

 

「なんの用?」

 

 相手の性格と後の流れを考えても敬語はいらない。強気の姿勢でいる。

 

「あんたに用はねぇ。後ろの女が気になったから、とりあえず粉かけに来たんだよ。俺はヴェインだ。仲良くしよーぜ」

 

 明け透けな態度でリエルを見てきたので、リエルの前に出て彼の視線を遮る。

 背中に手が触れる感触があった、見知らぬ人物から目を付けられてリエルは不安になっているらしい。

 

「おいおい、関係ないヤツが邪魔するな」

「関係なら大有り。後ろにいるリエルは……私の物よ」

 

 背に当てられている手がビクッと反応する。いきなりすぎる物言いに驚くのも無理はない。理想的な流れを作るために必要なので、否定せずに黙っておいて欲しい。とか考えていたらリエルが声を張り上げた。

 

「私はリリア様の物で、身体も心も好き勝手にされるオモチャです!」

 

 そこまでは言ってない……。

 リエルがノってくれたので、このまま話は進めるけど。

 

「名前はリエルちゃんか。てか、ずいぶんと愉快な関係だな。俺は障害があった方が燃えるタイプだからいいけどなぁ」

 

 引き下がる気はないようだ。仕方ないから切り札を使う。話を原作にある対決イベントに繋げる。

 

「リエルが欲しいなら私と勝負しなさい。あなたが勝ったら、リエルにちょっかいをかけても文句は言わないわ。私が勝ったらリエルは諦めなさい」

「俺が負けたらチャンスを失うのに、俺が勝っても渡すわけじゃないのがせこいな」

「副賞として、私に勝てたらエリクサー百本あげる。あなたの冒険趣味に使えるでしょう?」

 

 彼は自分の冒険心に従って魔物がいる森や山を冒険している。ヴェインルートで分かることだが、冒険は王族らしい行動ではないから止めるように言われており、アイテムの支援もなく自分が使えるお金で薬や道具をどうにか用意していた。

 この提案は魅力的なはず。なんなら、好感度が溜まっていなくて気になる程度のリエルよりもずっと。

 

「へぇ……俺の趣味を知ってたか。アレンの野郎から聞いたか?」

「さぁ、どうでしょうね」

「つれないな。だが、悪くねぇ条件だ。受けてやる。勝負内容はどうする?」

「せっかくだから、この場に合わせて流鏑馬で勝負よ。通常の対決ルールで三回勝負」

 

 流鏑馬での対決は原作にあるイベントだ。好感度がほぼ同じ、かつ、専用ルート突入条件を満たしている攻略対象が二人いる状態でゲームを進めていると、共通ルートの終盤で発生する。イベント後は勝った方のルートで固定化される。

 

「いいぜ、流鏑馬なら俺が勝つのは間違いねぇしな。じゃあ勝負は三日後だ。覚悟しとけ」

「日を置かなくていい。今から勝負よ。授業後だから的もあってちょうどいいでしょ」

 

 三日後だと、恐らく原作のように他の生徒が見学に来る騒ぎになる。原作と違って、騒ぎが大きくなれば生徒会の介入もありえる。その介入でリエルと攻略キャラクターである生徒会長マキウスに繋がりが出来る可能性も高い。マキウスとの恋愛フラグを立たせないために今すぐが良い。

 

「今からだぁ?」

 

 眉をひそめる相手に、クックックと悪い笑みを浮かべる。

 

「負けた時の言い訳を考えるだけで三日も必要なの?」

「テメェ……言うじゃねぇか」

 

 彼が自分の手のひらに拳を打ち付けてバシっと音を鳴らす。

 

「いいぜ、乗ってやる。敗北の味で口いっぱいにしてやるぜ」

 

 

 ウルスが準備をしてくれている間に、ルールについて振り返っておく。

 的は一つで、スタートから的を射るまでの時間を計測する。早い方の勝ちで、二勝した方が勝利者。先手と後手は三回勝負で交互にする。的は表のみ有効で、裏や側面は無効判定。魔法は自分の番では自由に使っていい。相手の番では大人しく見学。一回ごとにスタートから的までの位置は変わる。ルールの内容はこんなところね。

 

「リリア様、ごめんなさい。私のせいで迷惑をかけてしまって」

 

 申し訳なさそうな表情をしているが、起因はリエルじゃない。運の結果でしかないランダムイベントが悪い。

 

「リエルは悪くない。いいから私を信じて勝利を祈って」

「はい、信じます。リリア様は誰にも負けません!」

「今日の私は無敵ね。可憐な勝利の女神がついているから」

 

 カッコつけではなく、原作のイベントを踏まえた発言だ。原作の対決イベントは必ず二戦目で同点となり、最終戦にもつれ込む。最終戦では選択肢が表示されて、リエルが勝利を願った方の攻略キャラクターが僅差で勝利者となる。

 リエルの頬に手を添えるように触れて、ご利益を貰っておく。

 

「もう……リリア様……」

 

 恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも、あたかも甘えるようにその頬を私の手に擦りつけてくる。なんて可愛いんだろう。

 

 

 準備が終わり、私と彼は乗馬する。私の馬は学園で産まれて育った馬だが、彼の馬は入学時に城から学園に移している選ばれしサラブレッドだ。

 

「先手は俺だな」

 

 一回目のコースは直線からの左側に的が配置されている。

 

 合図としてウルスが手をあげて……振り下ろしたタイミングに合わせて彼が馬を走らせるが、遅い。手を抜いた走りから魔法も使わずに的を射抜く。戻ってきた彼の表情は明らかに私をなめている。

 私の番だ。普通に馬を走らせて、一般常識的な力で矢を放って的に当てるだけで私の一勝になった。

 

「なんだ馬の走らせ方くらいは知ってたか」

「お生憎様、あなたの負けは確定事項よ」

「ハン……好きに言ってろ。ウォーミングアップは終わりだぜ」

 

 

 二回目のコースは距離が延びて、競馬場で言うと第一のコーナーを左に曲がって第二のコーナーに入る前辺りで内側に的が配置されている。

 

 先手と後手が変わり、私の番からだ。合図と共にスタートダッシュで馬が出せる全力で直線からのコーナーを駆け抜けた。平凡な力で弓を引いて、平凡な風の魔法を矢に纏わせて飛翔速度を上昇させてから的を射抜いた。魔法で威力も上がっているが、的は魔術で耐久性を向上させてある競技専用品なので壊れはしない。

 彼の番となりスタートと共に馬を走らせるが、一回目と異なり圧倒的に速い。サラブレッドだけあり、私よりも早くコーナーを抜けて矢をつがえる。

 

「燃え滾るぜぇ! ファイヤーアロー!」

 

 魔法名を声に出して炎の矢を的に当てていた。この世界では魔力操作や魔法の発動に魔法名は必要ないが、イメージしやすさによる安定性の向上を図って口に出す者が多数派だ。鍛えた私には不要なので、魔法名を言ったりしていない。

 こうして二回目は彼の勝ち。普通にやるならば騎手の腕前ではどうにもならない程に馬の差が大きい。

 

「お前もわかっているだろ? この馬と俺のタッグには誰も勝てねぇよ。馬から降りて、献上するエリクサーの準備しておきな」

「勝つのは私よ。あなたが何を持っていても、何をやっても、私の強さを知ることになるわ。私に負けるなんて想像すらできないでしょう? 思い知らせてあげる」

「可愛くねぇ女。無謀な強がりだな」

 

 

 三戦目のコースは更に距離が延びて、競馬場で言うと第二のコーナーを抜けた後の直線からの左側に的が配置されている。スタート位置からは的の真後ろが見える位置関係だ。

 先手後手の再度交代で彼の番からで、二戦目と同じノリで的を射抜いた。

 いよいよ決着をつける私の番だ。私がスタート位置につき、ウルスが手を挙げる。

 

 対戦における強い選択や作戦や行動とは何か?

 答えは簡単、相手視点でクソゲーだろって思うものが強い。

 

 ウルスが手を振り下ろしきった直後、矢の全体に魔力を付与してから矢をつがえる。背を向けている的まで距離があるし、今回はステータスを活かして弓を引いて放つ。

 魔法ではなく純粋な力により矢が空気を切り裂き、強烈な勢いで飛ぶ。矢が的の横を抜けたタイミングで魔法を発動。まず矢先から逆風を起こして勢いを殺し空中で静止させる。重力に捕まって落ちる前に矢の中央から風を起こして、矢の向きを反転させて角度を微調整。矢羽から推進力になる風を発生させて的の表にヒット。

 はい、私の勝ちで終わり。完全にクソゲー行為ね。

 

 

 勝負がついて、馬から降りて彼と対面する。

 

「マジかー……。あんなすげぇことできるなら、そりゃあ勝ちを確信するわな」

「あら、意外ね。ズルいから無効とか言わずに負けをちゃんと認めるなんて」

「ルール違反じゃねぇし、飛ぶ勢いも魔力操作も純粋にすげぇし文句言い切れねぇって。つか逆に俺が文句言った時はどうするつもりだったんだよ」

「白黒ついたのにやり直したいというワガママを通したいなら勝負内容を力と魔力がものを言う決闘でのみ再勝負を受け付けるって突き返すつもりだったわ」

「決闘なんて俺が開幕ぶっ飛ばされて終わるじゃねーか」

 

 彼が諦観のため息を吐いたタイミングで、観客であり勝負の景品でもあったリエルが私の元に来た。リエルは私の隣に立ち、目を輝かせている。リエルの表情は、私の勝利を素直に喜んでいた。

 

「流石でしたリリア様! 色々と凄かったです」

「リエルに捧げる勝利よ。受け取ってくれる?」

「胸いっぱいに受け取ります……」

 

 ゴホンゴホンと咳払いを彼が行ったので、目を向ける。

 

「あー、とにかく約束は守るってことで。すっぱりとリエルちゃんは諦めるぜ。でさぁ、あんたは俺どう? チャンスあったりしない?」

「私、強い人が好きなの」

「じゃあ俺ムリだな。ガッカリだ」

 

 フラれると分かっていたのか、気落ちしているようには見えない。

 私は常に隠し持っている一本のエリクサーを取り出して彼に投げ渡す。ナイスキャッチ。

 

「残念賞よ」

「残念ってのはどっちの方だ?」

「どっちも」

 

 勝負も私への雑なアプローチもである。

 彼は笑うと、背を向けて立ち去った。その際に背を向けたまま、あばよと軽く手をひらひらと振っていた。攻略キャラクターだけあって憎めないムーヴをするものだ。

 

「話の流れを作るためとはいえ、リエルを私のものだなんて言って悪かったわ。ごめんなさいね」

「え? あっ、ああー……。いえ、大丈夫です。気にしてません」

 

 リエルはそう言ってくれたが、気落ちした雰囲気がある。勝手にもの扱いはダメよね。今回だけにしよう。

 こうして、ヴェインルートと各種フラグは折ることができた。

 

 

 後日、リエルから新しい魔法を使えるようになったから見てほしいと頼まれた。

 その魔法は、小石や矢じりを矢の先端に見立て、光の矢を作り出し、さらに光で形作った弓で放つというものだった。原作には登場しない魔法だ。話を聞くと、私とヴェインの流鏑馬から影響を受けたとのこと。

 

「努力できて偉い。良い子ね」

 

 頭を撫でまわすとふにゃふにゃした顔つきになったので、顎や喉元も撫でてみる。心なしかゴロゴロと甘えた鳴き声を出す。やっぱり前世が猫なのでは。この可愛い猫、私が飼いたい。

 リエルの新しい魔法は主人公らしさもある強い魔法だけど……残りのシナリオ的に授業で使う以外には出番がないわね。




ヴェイン編、13話から始まります。
ヴェイン編、13話にて終わります。
長い闘いだった……。

アレンは顔合わせからの別行動により、なにがあったか明かす必要がありましたが、今回そういうのも無いのでヴェイン視点の話は無いです。

評価』、『感想』、『ここすき』等、よろしくお願いします。作者の糧になります。
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