紅月の救世少女(こうげつのきゅうせいしょうじょ) 作:くにゅたろ
廃墟の内部はさらに深い闇に包まれていた。一行が進むにつれ、空気は冷たく湿り気を増し、天井や壁に生えた苔が足元を滑らせた。
「こんなに静かだと逆に不気味だな」
デルクが小声で呟いたが、その声もすぐに闇に吸い込まれていった。
「油断するな。何かが潜んでいる気がする」
カインが前を見据えながら言う。彼の言葉が終わるや否や、突然天井から崩れた瓦礫が落下してきた。
「伏せろ!」
叫び声と共に、建物全体が大きく揺れた。その揺れで足場が崩れ、一行はバラバラの方向に散らばってしまう。
「リリス!ラナ!」
カインの声が響くが、リリスの耳にはどこから聞こえているのか分からない。周囲の音が反響し、位置が全く掴めない。
「くそっ……」
リリスは一人きりで暗闇に取り残されたことを悟る。
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リリスは暗い廊下に立ち尽くしていた。目の前には瓦礫が積み上がり、後ろに戻る道も塞がれている。
「こんなところで……死ぬわけにはいかない」
内心で自分を奮い立たせながら、彼女は懐に忍ばせていた小さなナイフを取り出した。その感触は冷たく、頼りない。しかし、何も持たないよりはましだった。
前世の記憶が蘇る――大学時代、サバイバルゲームを趣味としていた頃のことだ。男だった頃の経験が、今の彼女を支えている。
「まず、落ち着け。相手の位置を探るんだ」
耳を澄ませると、かすかな足音が聞こえた。それはゾンビのものではなく、何かもっと動きが滑らかな存在だ。リリスはその方向に向かい、一歩ずつ進んだ。
突如、目の前に影が現れた。それは大きな四足歩行の生物――獣のような姿をした異形だった。
「嘘だろ……こんなの聞いてない」
リリスは恐怖で足がすくんだが、頭の中で冷静さを保とうと必死だった。
「どうすればいい……逃げる?それとも戦う?」
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リリスは獣の足音を聞きながら、咄嗟に近くの瓦礫の影に身を潜めた。心臓の音が大きく響き、全身が震える。
「……動かなきゃ、死ぬだけだ」
自らに言い聞かせるように、彼女は瓦礫の隙間を抜けて慎重に動き始めた。その瞬間、獣がこちらを察知したのか低い唸り声を上げた。
「くっ……!」
リリスは躊躇せず、獣の視界から外れるように横に飛び込んだ。その動きが功を奏し、獣の攻撃を間一髪で避ける。
その時、遠くから響く声――カインだ。
「リリス、無事か!」
「こっちです!」
彼女の声を頼りに、カインたちが駆けつけてきた。剣鉈が煌めき、トレンチガンの轟音が獣を圧倒する。ラナの矢も的確に獣を追い詰めた。
戦いが終わると、リリスはその場に座り込んだ。
「ごめんなさい……足手まといで」
「そんなことはない」
カインが穏やかに言う。
「自分で動こうとした、それが大事だ。ここからは俺たちがいる」
デルクやラナもそれに頷き、リリスに手を差し伸べた。彼女はその手を取り、立ち上がった。
「ありがとう……これからは、もっと役に立てるように頑張ります」
その言葉は、リリスが新たな一歩を踏み出す決意の表れだった。そして、その背後には、さらに大きな謎が彼らを待ち受けている予感が漂っていた。