紅月の救世少女(こうげつのきゅうせいしょうじょ) 作:くにゅたろ
塔の内部は異様な静けさに包まれていた。赤い光が石壁をぼんやりと照らし、どこからともなく聞こえる不気味な風の音が耳を打つ。
「気を抜くな。ここは奴らの縄張りだ」
カインが周囲を警戒しながら低い声で言った。彼の剣鉈はすでに血で染まり、頼り甲斐のあるその姿に、リリスはふと目を奪われた。
「カインさん、全然怖がらないんだな……」
リリスは口に出さず、心の中でそう呟いた。それに比べて自分はどうだろう。目の前に広がる光景はどこか現実感がなく、異様さに圧倒されている。
彼女が考えに沈む間に、仲間たちは順番に口を開き始めた。
「これ、本当に赤い月をどうにかできるのかよ。正直、無謀すぎるだろ」
デルクがトレンチガンを肩に担ぎながらぼやいた。その表情には苛立ちと不安が入り混じっている。
「やるしかないでしょう。ここで逃げたら、私たちも、みんなも終わりよ」
ラナは鋭い目でデルクを見返した。その手には炎の魔法を生み出す杖が握られている。
「逃げたって、どこにも安全な場所なんかないもんね。だから、ここで決めるしかないんだ」
レイが小さな声で呟いた。彼の優しい表情が、場の重苦しさを和らげるようだった。
「それに、私たちにはリリスがいるじゃないか」
突然名前を出され、リリスは驚いて顔を上げた。
「え、私……?」
「そうだよ。リリスがいなかったら、ここまで来れなかったかもしれない。お前は小さな体でも、大きな勇気を持ってる」
デルクの言葉に、リリスの胸がじんわりと温かくなった。彼女は思わず視線を落とし、震える声で答えた。
「……ありがとう。でも、私はみんなに守られてるだけで……まだ何もできてないよ」
その言葉に、ラナが歩み寄り、リリスの肩に手を置いた。
「それでもいい。守られる存在だって、戦いの理由になるのよ。あなたの存在が、私たちをここまで動かしてるんだから」
ラナの言葉は穏やかだが力強く、リリスはその温かさに思わず目を潤ませた。
「……わかった。私も、できる限り頑張るから」
小さな声でそう呟くと、リリスは短剣を握り直した。
カインが周囲を見回しながら、静かに全員に声をかけた。
「行こう。ここで立ち止まる時間はない」
彼の一言に全員が頷き、再び歩みを進めた。赤い光が濃くなるにつれ、周囲の空気はさらに重く、熱を帯びてきた。それは、塔の中心に待ち受ける恐るべき存在が近づいている証だった。
リリスはその熱さに汗を拭きながらも、足を止めることなく進んだ。
「怖くても、私はもう一人じゃない。この仲間たちと一緒にいる限り、どんな運命でも乗り越えられる……きっと」
彼女の中に、これまで感じたことのない静かな決意が芽生えていた。