紅月の救世少女(こうげつのきゅうせいしょうじょ)   作:くにゅたろ

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15. 赤い月の支配者

 

塔の中心部へと続く階段を上るたび、空気は重く、異様な熱気が漂い始めた。リリスの心臓は高鳴り、額から汗が滴り落ちる。石造りの壁からは湿った苔の匂いが立ち上り、異常なまでの静寂が耳を圧迫する。

 

「もう少しだ。この扉の向こうに、全ての答えがあるはずだ」

 

カインが剣鉈を握り直しながら低く呟く。その目は鋭く、冷静さを保ちながらも内に秘めた緊張が見て取れた。

 

「ここが奴らの巣か。……正直、怖ぇな」

 

デルクが肩に担いだトレンチガンを手元に構え直し、気まずそうに笑う。しかしその声には焦りが滲んでいた。

 

「今さら怖いなんて言ってる暇ないわよ」

 

ラナが冷静な口調で返し、炎の杖を構える。その目は前を見据え、全く揺らぎがない。

 

塔の最上部に到達した彼らの前には、巨大な扉が立ち塞がっていた。そこから漏れ出す赤い光と熱気は、不気味な生命を感じさせるほどに異様だった。

 

「準備はいいか?」

 

カインの短い問いかけに、全員が無言で頷いた。それぞれが武器を構え直し、リリスも手汗で滑りそうな短剣をぎゅっと握りしめる。

 

扉がゆっくりと開かれ、中から吹き出した熱風がリリスの顔を撫でた。その熱さは容赦なく、じっとりとした汗が彼女の背中を濡らす。

 

部屋の中央には、赤い光を放つ巨大な球体が浮かび、その下には何かが佇んでいた。人間のような形をしているが、背丈は異様に大きく、その皮膚はどこか光を吸い込むような闇に覆われていた。

 

「これが……赤い月を操るもの……」

 

リリスは思わず短く呟いた。

 

異形の存在は彼らを見下ろし、口元をゆがめて不気味に笑った。

 

「愚かなる者たちよ。何を望み、この地に足を踏み入れた?」

 

その声は低く、どこか不協和音を帯びていた。一瞬、空気そのものが振動するように感じ、リリスは耳を押さえそうになった。

 

「望むものはただ一つ。この狂った世界を終わらせることだ」

 

カインが剣鉈を掲げ、前に出る。その背中には仲間を引っ張る者としての威厳が漂っていた。

 

「フン……愚かだな。ならば、その命で証明してみせるがいい」

 

異形が腕を広げると、赤い光が部屋全体に放たれた。その瞬間、球体から無数の影が現れ、彼らに向かって押し寄せてくる。

 

「構えろ!」

 

カインの指示に、全員が戦闘態勢に入った。デルクのトレンチガンが轟音を響かせ、ラナの杖から放たれる炎が迫る影を焼き尽くす。

 

「後方は任せたぞ、レイ!」

 

ラナが叫び、レイが光の矢を放ち続ける。その矢は次々と敵を撃ち抜き、足元に広がる混沌を押し返していた。

 

リリスは後方に立ち、動けずにいた。目の前の混乱と戦う仲間たちの姿に圧倒され、自分の力不足を痛感する。

 

「私にできることって……一体何?」

 

彼女は震える手で短剣を握り直しながら呟いた。しかし、そこに答えがあるわけではなかった。ただ、仲間たちが全力で戦い続けている事実が、リリスの心を揺さぶる。

 

「リリス、後ろだ!」

 

デルクの叫びが響き、振り向いた彼女の目に飛び込んだのは、巨大な影が迫る姿だった。反射的に短剣を振るうも、影の腕が彼女を掴みかけた――。

 

しかし次の瞬間、ラナの炎が影を包み、消し去った。

 

「大丈夫?」

 

ラナの声に、リリスは息を切らしながら頷いた。その表情には焦りと感謝が混じっている。

 

「……私も戦わなきゃ。このままじゃ、みんなの足を引っ張るだけだ」

 

リリスの中で何かが変わり始めていた。彼女は再び短剣を握り、仲間たちと共に戦場に戻ることを決意した。

 

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