紅月の救世少女(こうげつのきゅうせいしょうじょ)   作:くにゅたろ

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2. ゾンビとの遭遇、新たな出発

 

翔太は地下施設の冷たい空気に包まれていた。廊下は薄暗く、どこからともなく聞こえる物音が耳を刺激する。

 

「……誰かいるのか?」

 

不安を押し殺して声をかけるが、答える者はいない。ただ、かすかな足音と湿った音だけが、遠くから近づいてくる。

 

翔太は目を凝らして前方を見つめた。

影が揺れる。その姿は人のようで人でない――動きがどこかぎこちなく、何かを引きずるようにしている。

 

「まさか……」

 

胸が締め付けられるような恐怖に包まれた。ゾンビ。そんな非現実的な存在が目の前にいるとは思えないが、ほかに説明がつかない。

 

翔太は足を引きずる音に合わせて後退し、壁際に身を寄せた。逃げるべきだ。しかし暗闇の中、どこが安全なのか分からない。

 

音が徐々に近づき、翔太は息を呑んだ。次の瞬間、目の前の影が大きく揺れる。

 

「……誰か、助けてくれ!」

 

声を振り絞ると、暗闇の中から鋭い音が響いた。

 

風を切る音がして、目の前の影が急に消えた。何が起きたのか分からず、翔太はただ立ち尽くした。

 

「無事か?」

 

低い声が闇の中から聞こえる。翔太が振り返ると、1人の男が姿を現した。手には大きな刃物――剣鉈を持っている。

 

「……誰だ……?」

 

翔太の問いに、男は無言で剣鉈の刃を振り、血の汚れを拭った。次いで、後ろから2人の人影が現れる。

 

1人はショットガンを持った屈強な男、もう1人は機敏そうな女性だった。

 

「カイン、こいつが叫んでた奴か?」ショットガンの男が低い声で尋ねた。

 

「ああ、それで間に合った。だがまだ残っているぞ」剣鉈を持つ男――カインと呼ばれた男が答え、周囲を警戒するように視線を巡らせる。

 

翔太は彼らの存在に驚きつつも、なぜ助けられたのか分からず混乱していた。しかし、目の前の現実がさらに厳しいものだと理解し始めていた。

 

翔太は目の前の3人を呆然と見上げていた。剣鉈を軽々と扱う長身の男、使い込まれたトレンチガンを持つ屈強な男、そして軽装で身軽そうな女性――彼らの存在感は、ただ助けられたというだけでは片付けられないほど強烈だった。

 

「……助けてくれたのか?」

 

ようやく搾り出した翔太の声に、剣鉈を持つ男が冷たい表情で頷く。

 

「ここで死なれると厄介だからな。それだけだ」

 

冷ややかな口調に、翔太は少し怯む。しかし、女性が肩をすくめて軽い調子で口を挟んだ。

 

「まあ、カインの言う通りだけど、タイミングが良かっただけよ。あんた、運がいいわね」

 

女性の明るい声に、翔太は一瞬気が緩む。だが、その直後にトレンチガンを持つ屈強な男が険しい声を上げた。

 

「運がいい? そいつがここにいる理由を確かめるべきだろう。何者かも分からない奴を助けて、後で厄介事に巻き込まれたらどうする?」

 

その鋭い視線に、翔太は身を縮めた。説明しようとしても、恐怖と混乱で言葉が出てこない。

 

「デルク、落ち着け」

 

剣鉈の男――カインが静かな声で言う。

 

「だがカイン、俺たちにはやるべきことがあるんだ。こんな奴の相手をしている場合か?」

 

「状況を整理する方が先だ。それに……」

 

カインはチラリと翔太の顔を見た。その赤い瞳が不気味に光るのを見て、わずかに表情を硬くする。しかしすぐに、冷静な表情を取り戻した。

 

「見たところ、何か特別な事情があるようだ。こんなところで放置するのは、後味が悪い」

 

デルクは不満げに唸ったが、それ以上は反論しなかった。

 

「お前、名前は?」

 

カインが翔太に問う。その問いに、翔太は一瞬言葉を詰まらせた。

 

「名前……覚えていない。何も分からないんだ」

 

翔太の声には、嘘ではない絶望が滲んでいた。

 

「記憶喪失?」

 

女性――ラナが首をかしげる。その仕草はどこか無邪気で、翔太を少し安心させた。

 

「覚えてないなら、新しい名前をつければいいんじゃない?」

 

ラナの軽い提案に、翔太は戸惑いを隠せなかった。

 

「名前を……?」

 

「そうよ。せっかく助けたんだし、呼び名がないと不便でしょ?」

 

ラナが笑顔を見せる一方で、デルクは不機嫌そうに眉をひそめた。

 

「くだらないことに時間をかけている暇はない。名前なんて後で決めればいい」

 

「いや、今決めた方がいい」

 

ラナが即座に反論する。カインはそのやり取りを黙って見守っていたが、ふと口を開いた。

 

「……リリス、はどうだ?」

 

その一言に、全員が彼を見た。

 

「リリス?」

 

ラナが首をかしげる。

 

「響きが悪くない。記憶がないなら、これでいいだろう」

 

カインの言葉に、ラナは頷き、嬉しそうに微笑んだ。

 

「いいじゃない! 可愛いし、ぴったりだと思う!」

 

翔太――いや、リリスは、反論する間もなくその名前を受け入れることになった。

 

「リリス……わかった。それでいい」

 

新しい名前を口にするたびに奇妙な違和感を覚えたが、彼らが納得しているなら、それで良い気がした。

 

「さて、ここでの滞在は長くできない。ゾンビが再び群れを成す前に動くぞ」

 

カインが鋭い声で指示を出す。デルクとラナはすぐに動き始めた。彼らの手際の良さに、リリスは圧倒されるばかりだった。

 

「リリス、お前も動けるか?」

 

カインが問いかける。

 

「……うん」

 

立ち上がろうとした瞬間、足元がふらついた。リリスの身体はまだ本調子ではないらしい。それでも、彼女――いや、彼は必死に体勢を整えた。

 

「無理はするな。ただ、置いていくわけにもいかない。ついて来られるか?」

 

カインの真剣な問いかけに、リリスは小さく頷いた。

 

「いいか、気を抜くな。この地下施設にはゾンビだけじゃなく、ほかの危険も潜んでいる」

 

ラナが軽い調子で付け加える。

 

「何がいるのかは、行けば分かるわよ」

 

デルクは不機嫌そうにトレンチガンを構え直し、先頭に立つ。

 

こうして、4人は静かに廊下を進み始めた。暗闇の先に待ち受ける運命を知らないまま――。

 

 

 




ゾンビの描写は抽象的にし、身体的な特徴や動きのぎこちなさを中心に表現しました。
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