紅月の救世少女(こうげつのきゅうせいしょうじょ) 作:くにゅたろ
冷たい風が吹きすさぶ廃墟の街。瓦礫や朽ちた金属があちこちに散乱し、空気には鉄と土が混じり合ったような重苦しい匂いが漂っていた。どこかで遠く響く呻き声が、都市全体を不気味な緊張感で満たしている。
一行は無言のまま歩を進めていた。剣鉈を携えた青年が先頭を行き、トレンチガンを抱えた壮年の男がその後を追う。魔術師の女性は後衛を守るように歩き、そのさらに後ろ、最後尾にはリリス――赤い目の少女がついていた。
リリスの心は複雑だった。この世界に来て以来、何が正解なのかが分からない。異世界に転生し、未知の土地での冒険という非日常に憧れがなかったわけではないが、現実はそれとは程遠いものだった。
「ここから先はもっと危険だ。全員、気を引き締めろ。」
青年が前方を見据えながら言う。その声には確固たる自信とリーダーシップがにじみ出ていた。
リリスは最後尾からその背中を見つめた。仲間たちの動きは見事で、彼らがこれまでに幾度も死線をくぐり抜けてきたことを物語っている。だが、自分はどうだろう。リリスは手に持った武器代わりの短い鉄棒を握りしめたが、指先は冷たく、手汗で滑りそうだった。
「赤い目を連れていくなんて、正気とは思えないけどね。」
魔術師の女性が小声で呟く。その言葉はリリスに聞こえるか聞こえないかの微妙な音量だったが、意図的に発されたものだと感じた。
この世界では赤い目が忌避される特徴であることは、彼らの態度から推察していた。だが、それが何を意味するのかは依然として謎のままだ。
「彼女を置いていくわけにはいかない。」
青年の短い返答に、魔術師は一瞬だけ口をつぐむ。それでも、その態度には明らかな不満が見て取れた。
「ここで油断したら命はないぞ。」
トレンチガンを抱えた男が厳しい声で言うと、一行はさらに警戒を強めた。
数分後、一行は道を阻む瓦礫の山を越えようとしていた。腐敗した臭いが強くなり、風の向こうから聞こえる呻き声がさらに近づいているようだった。
「ここに長居するのは危険だ。急げ。」
青年の指示で、一行は瓦礫を慎重に越え始めた。リリスもそれに続いたが、足場の悪さと緊張でバランスを崩しそうになる。
「気をつけろ!」
壮年の男が手を差し出し、リリスを支えた。その目には不信感だけでなく、わずかな警戒心と憐憫が混じっているように見えた。
「……ありがとう。」
リリスがか細い声で礼を言うと、男は何も言わずに視線を前に戻した。その瞬間、リリスは自分が仲間にとって重荷でしかないことを痛感する。
「俺にできることがあるのか……?」
誰にも聞こえないよう、小さく呟いたその言葉が、廃墟の冷たい空気の中に溶け込んでいった。