紅月の救世少女(こうげつのきゅうせいしょうじょ) 作:くにゅたろ
瓦礫を越えた先には、廃墟と化した広場が広がっていた。かつては多くの人々が行き交い、活気に満ちていたであろうこの場所も、今ではその面影すら消え去り、静寂と荒廃だけが残されている。崩れた建物の瓦礫が積み上がり、その隙間からは雑草が顔をのぞかせている。空気には土や朽ちた金属の匂いが混ざり合い、どこか息苦しい雰囲気が漂っていた。
「ここから先は本当に危険だ。気を抜かないように。」
剣鉈を持つ青年が静かに言い放つ。その声は冷静だが、どこか緊張感がにじみ出ている。
仲間たちは警戒を強め、それぞれ武器を構えながら広場に足を踏み入れた。リリスも最後尾からその背中を追うが、手にした鉄棒が自分の無力さを象徴しているようで、胸が重苦しかった。
「……私は本当にここにいていいのだろうか。」
心の中でつぶやく。自分がこの場にいることが正しいのか、それすら確信が持てないまま歩を進めていた。
突如として、静寂を破る異様な音が聞こえた。
「来たか……。」
青年が剣鉈を握り直し、鋭い目で音の方向を見据える。その目線の先から、不気味な影が次々と現れた。
彼らは人の形をしていたが、明らかに人ではない。傷だらけの体、無秩序に動く関節、そして朽ちた服から見える腐敗した皮膚。
「奴らが近づいてくる。構えろ!」
青年の声が響き渡り、一行は瞬時に戦闘態勢に入った。
剣鉈を手にした青年は群れの中へと駆け込み、的確な一撃でゾンビの動きを封じていく。その動きには無駄がなく、彼がこの世界で培ってきた経験を物語っていた。
後方ではトレンチガンを構えた壮年の男が、確実にゾンビを仕留めていく。銃声が広場に響くたび、群れは混乱をきたすが、次から次へと新たな敵が現れる。
魔術師の女性が詠唱を始めると、青白い光が指先から放たれ、ゾンビたちの動きを封じる。それは一瞬の余裕を作り出し、仲間たちが次の動きを考える時間を与えた。
一方で、リリスはその光景を見ながら立ち尽くしていた。手に持った鉄棒を振り回してみても、自分の攻撃は敵にほとんど効果がない。それどころか、動きを誤れば自分が危険にさらされる可能性すらあった。
「気をつけろ!」
仲間の声に我に返り、間一髪でゾンビの攻撃を避ける。だが、その動きは明らかに拙く、彼らの負担を増やしていることに違いなかった。
戦いが終わると、一行はその場に立ち尽くし、荒い息を整えた。
「無事か?」
壮年の男がリリスに問いかける。リリスは小さく頷くが、その目には自分の無力さへの悔しさが浮かんでいた。
「自分に何ができるのか……このままじゃいけない。」
自らの弱さを痛感しつつも、リリスは胸の奥に微かな決意の火を灯した。その火がいつか燃え広がる日を信じて――。