紅月の救世少女(こうげつのきゅうせいしょうじょ) 作:くにゅたろ
廃墟の広場を抜け、静まり返った路地裏に身を潜めた一行は、荒い息を整えながら次の行動を話し合っていた。戦闘を終えたばかりで、全員に疲労の色が濃い。それでも、先へ進むべき道に迷いはない。
リリスは少し離れた場所で、自分の武器である鉄棒を握りしめていた。戦闘中、自分がいかに仲間たちの足手まといになっていたかを思い返すたび、胸の奥が締め付けられる。周囲の音が遠く感じられ、彼女の中ではその思いが大きく膨らんでいくばかりだった。
「さっきの戦い、どうだった?」
唐突に投げかけられた声に驚き、顔を上げると、剣鉈を持つ青年がこちらを見ていた。彼の口調は普段と同じ落ち着いたものだが、その目にはどこか探るような光が宿っていた。
「どう、って……役に立てなかった。それだけだよ。」
リリスは小さな声で答えた。青年は一瞬眉をひそめたが、すぐに口を開く。
「お前が気に病む必要はない。誰だって最初はそうだ。」
「でも……私は何もできなかった。ただ後ろにいて、みんなの足を引っ張ってただけだ。」
リリスの声には悔しさと無力感がにじんでいた。その表情を見た青年は、しばらく黙っていた。廃墟を渡る風の音が二人の間に静かに流れる。その空気を切るように、彼は静かに口を開いた。
「俺たちだって、最初から強かったわけじゃない。失敗して、仲間を失って、それを繰り返して今がある。それでも、お前がここにいる理由があるはずだ。」
その言葉はリリスにとって思いがけないものだった。自分にはこの世界での力も経験もない。だが、それでも仲間に受け入れられた理由があるのかもしれないという思いが、心の片隅に灯るようだった。
「……ありがとう。」
リリスは小さな声で呟き、再び鉄棒を握りしめた。その指先には、ほんの少しだけ力が戻っていた。
一方、路地裏では壮年の男が次の計画を提案していた。
「この先に大きな建物がある。かつては商業施設だったらしいが、今では廃墟だ。そこを通り抜ければ近道になる。」
「廃墟か……。」
魔術師の女性が低く呟く。
「危険なのは分かってるが、これ以上遠回りする余裕はないだろう。」
男の言葉に誰も反論しなかった。この世界では、安全を選ぶ余裕などないことを全員が理解していた。
再び行軍が始まる。夕刻の中、建物の影が長く伸び、風が瓦礫の間を吹き抜けていく。リリスは仲間たちの背中を追いながら、ひそかに自分の中で誓いを立てた。
「次は……私にできることを見つける。」
仲間たちの影は、ゆっくりと廃墟に飲み込まれていく。リリスの決意が仲間たちに届くのは、まだ先のことだったが、その小さな一歩がやがて彼らを救う力となることを、彼女自身もまだ知らなかった――。