紅月の救世少女(こうげつのきゅうせいしょうじょ) 作:くにゅたろ
夕陽が建物の影を伸ばし、一行はついに廃墟となった商業施設の入り口にたどり着いた。かつて賑わいを見せていたであろう施設は、今や割れた窓ガラスや崩れた壁、そして散乱する瓦礫に覆われている。そこに漂う静けさは異様で、かえってその場所に何かが潜んでいることを匂わせていた。
「ここを通れば近道になるとはいえ、罠が潜んでいない保証はないな。」
壮年の男がトレンチガンを手に、低い声で呟いた。その鋭い視線は施設の奥深くを見据えている。彼の警戒心が伝染するように、リリスも自然と鉄棒を握る手に力を込めた。
「罠というより、何か“いる”気がする。」
魔術師の女性が言葉を継ぎ、杖をしっかりと握りしめる。彼女の目は落ち着いているようで、その瞳の奥に潜む緊張感は隠せない。
廃墟の入り口は大きく口を開けた獣のように見え、暗闇の中に何が潜んでいるのかを想像するだけで、リリスの胸の奥で不安が膨らんでいった。この施設はただの朽ち果てた建物ではない。どこか異質な気配が充満しており、肌にまとわりつくような違和感が消えない。
「行こう。ここで立ち止まっていても状況は変わらない。」
剣鉈を持つ青年が短く言い放ち、迷いのない足取りで先頭に立つ。その背中に触発されるように、他のメンバーも動き始めた。
リリスは隊列の最後尾に位置し、周囲を警戒しながら歩を進める。施設内部に足を踏み入れると、冷え切った空気が全身を包み込んだ。外の日差しは完全に遮られ、内部は薄暗く、足元が見えるかどうかの明かりしかない。
「この空気……嫌な感じね。」
魔術師が低く呟いた。彼女の言葉が消え入りそうなほど、施設内部の静寂は深い。しかし、静けさの奥には何かが息を潜めている気配が確かに感じられる。
「気を抜くな。」
壮年の男が声を潜めながらも鋭く注意を促した。トレンチガンを抱えた彼は、壁や天井の隙間、さらには崩れかけた床の上までも丹念に目を走らせている。
足音は瓦礫を踏むたびに小さな音を立て、それが施設の内部で反響するたびに全員の神経が尖る。暗闇の中では音が意識を支配し、リリスも耳を澄ませながら、目には見えない異常を感じ取ろうと必死だった。
「おい、待て。」
青年が突然立ち止まり、手を挙げて合図を送る。全員がその場で息を殺し、耳を澄ませた。
――カサ……カサカサ……。
何かが動く音が聞こえた。それははっきりとした足音ではなく、壁や床を這うような音だった。どこからともなく響き、方向を掴むことができない。
「何かいる……。」
魔術師の声が震えた。その瞬間、全員の緊張感は頂点に達した。
「前方の通路だ。奥に動きがある。」
壮年の男が指差した先には、薄暗い中にわずかに動く影があった。仲間たちの間に緊張が走り、リリスも鉄棒を構える手に汗が滲むのを感じた。
「準備しろ。奴らが出てくるぞ。」
青年の声が静かに響き渡る。闇の中で目を凝らすと、さらに動きが増え、影が徐々にこちらに向かっているのがわかった。
――そして、廃墟の闇の中から低いうなり声が響き渡った。