オープニング特有の謎マッチアップは、お好きですか……? 作:新年小説執筆男
ゲームの世界に転生した。
おそらく。多分。メイビー。
***
転生したという自覚は赤ん坊の頃からあった。前世の記憶も朧げながらに覚えている。
けれど、自分が“憑依転生”したのだと気づいたのはつい最近の事であった。
黄土色の逆立った癖毛、剽軽そうな顔立ち。
成長していくにつれて、妙に見覚えのある容貌に変わりつつある我が身。未だ小学五年生という幼い身であるため、そうだと言い切る事は難しいが、もう三、四年もすれば記憶の中の顔になるだろうと推測できる。
なによりも、テレビに映る男の姿は正しく前世で見たキャラデザそのものであり、とあるゲーム世界に転生したのだと、より確信めかせる。
『我々の目指す武の極地とは──』
『す、すごいです!手から火が出ています!』
『ははっ、こんなのは序の口ですよ』
狭間之介が魅せた武術に興奮した様子で騒ぎ立てるインタビュアー。そうした芸当が可能であるとは知りつつも、実際に間近で見せられたことで度肝を抜かれたようだった。
そう、この世界では手から火を出すことも不思議ではないのだ。
──手から炎を出して振り抜いたり。
──斬撃を飛ばしたり。
──空を何メートルも跳んだり。
──遠く離れた場所に瞬間移動したり。
そういった、おおよそバトル漫画の必殺技の如き所業を、この世界の武人達はやって退ける。
故に、恐怖する。
俺の転生した
***
俺が、このゲーム『宿命烈華─交錯する力と想い─』について知っている事はあまりにも少ない。
元々、某動画サイトのオープニングメドレーを聴き漁る事が趣味だった俺は、メドレーの中の一曲として流れていた宿命烈華のオープニング映像を見た事があるだけにすぎないのだ
だから、原作知識と言える知識は無く、知っている事といえば映像から推測できるバトルモノだという事と登場していた一部のキャラクター、書き込まれたコメントのみであった。
中でも、俺が憑依転生した坂本甚大というキャラクターに対して書き込まれていたコメントは凄まじく、そのおかげで原作も知らないゲームのキャラクターを覚えていられたとも言える。
坂本甚大が映ったと同時に出現する大きな赤字のコメントの数々。
『負け戦』
『無駄死に』
『約束された敗北』
『勝てるわけないだろ』
『草』
等々。これだけでも、既プレイヤーからの坂本甚大というキャラクターへの扱いが窺い知れる。
それなのに。だと言うのに、だ。
オープニング映像で坂本甚大が相対するキャラクターへのコメントは、『作中最強』だとか『全知全能』だとか、総じて強さを称えるものであり、噂では最強キャラ議論スレにも名前が挙がる程だとか。
勝てるわけないだろう、そんなもの。
原作を微塵も知らない俺ですら、相手として釣り合っていない事が解るのだ。けれど、
ならば……。
それならば──。
ちょっとくらい足掻いてみようと思うのだ。ネタキャラの俺が、少しでも最強と渡り合えるように。死なないように。負けないように……。
今日から俺は、ネタキャラから脱却する!
***
そうして、息巻いて悪足掻きを決意した俺は善は急げとばかりに武術を習う事にした。
と言っても、才能や血筋といった恵まれた物をまるで持ち合わせていないため、武術の殿堂、火宝院に弟子入りなんてのは夢のまた夢である。
だから、武術を習うと言っても町の道場に通わせてもらうだけだ。と言うか、未だ小学生の身の上ではこれが限界だった。我が儘を言って通わせてもらえる事になったのだ。
それでも、武術は武術。一歩一歩進んで行けばいい……のだろうか……。
「た、たのもぉー!」
寂れた門を潜り、道場内に入る。しんと静まり返っていた木造建築に、俺の声が響き渡った。
返事は無い。ましてや、誰もいない。
「なんじゃ、なんじゃ。騒がしい」
閑散とした道場内を不穏に思って、とうとう踵を返そうとした時、奥から人影が現れた。
道着を身につけた高齢の男性だった。火宝院狭間之介と同じくらいの年齢だろうか。しかし、狭間之介と違い活力は満ち満ちておらず、その体躯も言ってしまえばヒョロヒョロとしていた。
「あ、あの……ここって道場であってますよね……?」
「そうじゃ」
目の前の爺さんは、とてもではないが武道に精通しているようには思えない。不安を覚えて左右を見渡しても、他には人っ子一人いやしなかった。
(この人がこの道場の師範ってことか? でも他にいないしなぁ……)
俺は、人を見かけで判断するのも良くないと思い向き直った。
「それなら、貴方がこの道場の師範ってことですか……?」
「まさしく!我こそが徳光道場の師範にして
「お、おぉ……」
ぱちぱちぱち、と。自信に溢れた名乗りについつい拍手をしてしまう。
「小僧、この道場に足を踏み入れたという事はワシに弟子入り志願をしに来たということで良いのかの?」
「まぁ、そうですね……」
「おぉ、そうかそうか! 道場破りの類いであったら今頃叩きのめしておったところだわい」
爺さんは、ふんっと鼻を鳴らして物騒な事を口にする。眼前の御仁にそのような芸当が可能であるのかは甚だ疑問であるが、この世界で相手の風貌だけを見て力量を測るのも間違えなのかもしれないと思った。だって、火とか出せる世界観なのだから。
「いやぁ、最近の若いのはすぐに火宝院がなんだ柳ヶ瀬がなんだと言いよって」
「この道場、他に門下生とかは……」
「御主だけじゃ」
「えぇ……」
予想外の言葉に思わず嘆息してしまう。
はたして、こんな場所で強くなれるのだろうか。少し遠くなるが駅前の空手教室の方がマシなのではないか。不安が頭を埋め尽くす。
「小僧、ワシが老いぼれ自惚れクソジジイなのではないか、道場のくせに弟子も居らず継承ギリギリぶっちぎりのやべぇ奴なのではないか、などと思っておるのではないか?」
「いやっ……まぁ、そうです……」
「誰がマイナー流派じゃ! 誰が世捨て人じゃ!」
「そこまでは……」
強い強くない以前に面倒くさい。この人に着いて行ったので良いのか。より疑心が強まる。
「ならば……良かろう。御主には魂震拳を身をもって味わってもらおうぞ」
「はぁ?」
徳光の言葉に動揺し、鼓動が速まっていく。おそらく何十年物の武術を使って子供に攻撃だなどと、さすがに洒落にはならないだろう。最悪の場合、死すらも想像できた。
(身をもって味わう……? つまり、このジジイ今から俺に拳を振るうって? ……こっちはズブの素人だぞ!?)
この世界では、このレベルのスパルタを乗り越える事が前提条件ということなのか。どうやら俺は甘く見過ぎていたようだった。
「なに、痛くはせんよ。──ちと、
徳光はそう言うと、少ないモーションで此方に拳を振り抜いた。視認はできるのに避けられない、何処迄も自然で、何処か虚を衝く一撃。精錬されたその動作がこの躰に辿り着く前に、俺は思わず瞳を閉じてしまう。
そして、刹那。トンっと軽い衝撃が到達する。ゴムボールが当たるよりも軽い拳だった。言葉通りに痛くはされていない。それなのに──
「はぁ……はぁ……はぁ……」
視界が揺らいで、気絶する前と同様の感覚のような、ぐるぐると回った後に目が回るみたいな、そういった感覚に襲われる。汗が噴き出て、肩で息をする。焦点が定まらなくて、立っているのがやっとだ。
俺には何をされたのかは解らなかった。けれど、何か凄い事をされたことは理解できた。
「な、なに……が……っ」
「少し加減を間違えたかのぉ?」
徳光は素っ頓狂な声をあげると、白く伸ばした顎髭を撫でた。俺はその憎たらしい顔を膝を突いた状態で仰ぎ見ることしかできない。
「秀でた力は要らない、大立ち回りも必要ない。一発をただ相手に叩き込んでやれば良い、それだけで敵は何も出来なくなる。当たれば致命傷。牙城を崩す必殺の一撃。どうじゃ? これが魂震拳──魂を震わせる拳と書いて、
「す、すげぇ……!」
実演されると凄さが判る。それが、自分の躰で見たものなら尚のこと。
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「でも、こんなの俺にもできるんですか?」
「魂震拳はワシが編み出した、弱者が強者と渡り合うための拳よ」
弱者のための拳か……。それが本当ならば、こんな俺でも巌のような大漢とだって、一芸を極めた武芸者とだってまともに戦っていけるかもしれない。
まさに渡りに船というか、出来すぎた展開というか。けれど、俺には野望が有るのだ。超生物に殺されないようにする、という野望が。甘い罠か、もしくは地獄の入り口であったとしても乗じずにはいられない。
「とは言え、武の道は一朝一夕に在らず。研鑽を怠らず、貪欲に強さだけを追い求める。そうした長く険しい道のりを歩まねばならぬだろうが……どうかのぉ?」
俺は痛いのは嫌いだ。汗臭いノリも好きじゃない。耐え難きを耐え、忍び難きを忍びなんてのは性分でもないし、何かに打ち込んだ事すら無い。
「それでも────!!」
俺は、なにもせずに敗けるのはもっと嫌いなのだ。
「良い眼になったのぉ、覚悟を決めた男の眼よ」
徳光はニッと笑う。その半月に歪んだ瞳は、漸く俺を認めてくれた、どうしてか俺はそんな風に思った。
「良かろう。ならばこの徳光六郎太郎が生涯を懸けて築いた技術、すべて御主に伝授しよう」
「これからよろしくお願いします、
かくして、俺──坂本甚大のネタキャラ脱却道は幕を開けたのだった。
ヒロインは既に登場しています。
ヒロインは既に登場しています!!
久しぶりの投稿〜。匿名だけどハメ民の皆様、今年もよろしくお願いします。