ーキャルsideー
サンショウウオメギドを新たなに手にした『風の聖剣』を以て新たな鎧の剣士となったユウキが撃破したのを、キャルは目を見開いて見ていた。
「嘘・・・・!? アイツ、『風の聖剣』も手に入れちゃったの!?」
『炎の聖剣 火炎剣烈火』、『水の聖剣 水棲剣流水』。コレまで騎士団どころか『陛下』すら手に入れなかった聖剣を更にもう一つ手にした事に驚きを隠せないでいた。
と、その時ーーーー。
ーーーーザッザッザッザッ・・・・。
近くで足音が聞こえ、茂みに隠れて覗くと、ペコリーヌが近くを歩いているのが見えた。
「やばっ・・・・! ペコリーヌが、こっちに来る!」
どうやら、【牧場‹エリザベスパーク›】にいるメンバーの中に、目の良い、或いは勘の良いメンバーによって、コチラの居場所がバレたようである。
「多分、ここに誰かがいて・・・・ソイツが魔物を操ってるのかも〜、みたいな疑いを抱かれてる程度だろうけど!」
ペコリーヌを攻撃しようと魔法を展開するが、キャルの足がフラついてしまった。
「まずい! あたしは魔物の操作の為に魔力と体力を使い切ってる! ペコリーヌを正面から迎え撃つのは、流石に無理?」
と言っている間に、木々の隙間からペコリーヌの姿が見えた。まだコチラには気づいていないようである。
「(・・・・ソレに、アイツとは顔を合わせづらいわ・・・・)」
あのユウキ達との出会い以来、妙に自分に抱き着いてきたりするスキンシップをされたり、一緒にご飯を食べたり、そしてなし崩し的に、【美食殿】と言う『ギルド』を結成した記憶が過った。
「(アイツ、馬鹿だもの。見ず知らずの赤の他人のあたしに、お友達みたいにさ・・・・『キャルちゃ〜ん♪』って呼んで懐いてきてさ・・・・事ある毎に抱き着いてきて、馴れ馴れしく喋りかけてきて、毎日、毎晩一緒に食卓を囲んだわよね・・・。バカ話で盛り上がって、笑い合って、美味しい料理に、舌鼓を打って・・・・)」
ーーーーまぁ中には、『虫料理』や『魔物料理』と言った、所謂『ゲテモノ系の料理』なんかを無理矢理口の中にねじ込まれ食べさせられたりしたのもあり、その時は殺意を感じた事も無い事も無いが(悔しいが味は良かったのだが、見た目はグロテスクだったので)・・・・。
「(あぁ、アイツは。いつでもキラキラした無邪気な笑顔を浮かべていたのに・・・・アタシが、自分の命を狙ってた『悪党』だって知ったら・・・・アイツ、泣くかな・・・・? 怒るのかな・・・・? 流石に笑えはしないわよね・・・・?)」
今にも泣きそうになる自分自身を叱咤するように、拳を握り締めるキャル。
「(アイツから笑顔を奪うのはーーーーイヤだわ。“何もかも、全部奪い尽くされたアイツが”・・・・それでも失わずに、大事に抱えていた『輝き』を、アタシがむしり取るの!? そんな残酷な事・・・・できる訳無いじゃない・・・・!)」
苦しそうな顔を浮かべるキャル。
と、その時ーーーー。
「ーーーーお困りのようだな、お嬢ちゃん」
「・・・・!? クリスティーナ!」
突然話しかけられ振り向くと、先日【自警団‹カォン›】のギルドハウスで大暴れをしたクリスティーナであった。
「おや、呼び捨てか? いいぞいいぞ、反抗的だな! いつも『クリスティーナ様』とか慇懃無礼でさ、つまらん奴だな〜と思っていたんだ! あっはははは☆」
キャルの呼び捨てにカラカラと笑うクリスティーナ。しかしキャルは警戒を緩めない。
「ここで、何をしてるのよ? 『陛下』の、差し金かしら?」
「正解とも、不正解とも言える。貴様の方とは『別件』でな、『陛下』に『頼まれ事』をされたのさ。ワタシは先日やらかしたせいで、〈ランドソル〉には居づらいしな。だから街の外で、『特殊任務』に従事している。今回は秘密結社【ラビリンス】とやらの『本拠地』が判明したようだから、チョチョイと、叩き潰しに行く事になってる。しかし、まさかあのユウキ‹ボウヤ›も来ているとはなぁ! しかも、『風の聖剣』を手に入れたようだ! アレなら【サレンディア救護院】にある『土の聖剣』も手に入れているのだろうな!」
「(『土の聖剣』!? アイツ、もう『聖剣』を4本も手に入れたっての!?)」
「次いでに、貴様の様子を見てこいとも言われているがな」
驚くキャルに構わず、クリスティーナはキャルを値踏みするように見据える。
「どうも『陛下』は、貴様の能力、或いは忠誠心に疑いを抱いているようだなぁ? でなければ、信頼して全てを任せる筈だ。様子を見てこい、なんて言わないものな」
「・・・・あたしは、ちゃんとやってるわ。『陛下』の、言う通りにしてるじゃない」
「そうか? 迷子になって泣きべそをかいてるように見えたぞ、まだまだガキんちょだな! 『悪役の旨味』を知らんと見える、あっはははは☆」
反抗するキャルに、クリスティーナは鼻で笑う。
「あたしには、アンタとお喋りしてる暇なんて無いの! 邪魔しないでっ、ちゃんとするから! 『陛下』にもそう伝えてよっ、どっか行って! 目障りよ、クリスティーナ・・・・!」
「ヒステリーを起こすな。そう言う女はモテないぞ〜?」
明らかに強がっているキャルの言葉すら、クリスティーナにはどこ吹く風であった。
「なぁ、キャル・・・・だったか? 一旦、冷静になれ。『取り引き』しないか?」
「『取り引き』・・・・?」
「あぁ、私が貴様の仕事を手伝ってやる。具体的に言うと・・・・今ここに迫ってきている。あのお嬢ちゃんの対処を任されてやろう」
クリスティーナが、顎でしゃくってまだコチラに気づかずキョロキョロしているペコリーヌを指した。
「華麗に、生け捕りにしてやるよ。殺してやってもいいぞ・・・・アレも中々の使い手のようだが、まぁ、ワタシの敵ではないからな? 簡単な仕事だ。貴様は、その間は茂みにでも隠れていれば良い」
クリスティーナの取り引きに、キャルは少し眉根を寄せる。確かにソレなら、この騒動はクリスティーナが起こした事になって、自分が怪しまれる事はない。
しかしーーーー。
「・・・・有り難い提案だわ。でも。『取り引き』って事は、ソッチにも要求があるのよね? 一体、何が欲しいの? 金? 財宝? 権利差かしら?」
キャルがありきたりな要求を口にするが、クリスティーナは鼻で笑ってみせた。
「ワタシが欲しいのは、『情報』だ。この現代では、ソレが最も『価値のあるお宝』だからな」
そう言って、クリスティーナは真面目な顔つきとなる。
「ワタシが把握できていない、『陛下』や貴様等が知っている事実を・・・・幾つか、教えて欲しい」
「アタシに、『陛下』を裏切れって言うの?」
「そうは言っていない。あくまでも、“喋れる範囲で教えてくれるだけで構わないさ”。どうせ・・・・こんなものは退屈な人生における、『暇潰し』だ。『陛下』は、どうも何か隠し事をしているようだしな。大事な事を共有してくれない相手の為に命を張るのも、馬鹿馬鹿しいだろう?」
どうやら、クリスティーナは『陛下』と呼ばれる人物に、不審感を抱いているようであった。
「ワタシは納得して、戦いたい。刹那的な快楽に身を侵すのも、好みではあるけれど。時間は、人生は有限だ。ソレはこの世における、数少ない『絶対的な真理』の一つだろう。『無価値な事』に、貴重な人生の時間を割きたく無いんだよ。だからまぁ、釈然としない部分を幾らか明確にしておきたい。誰の手駒になるのは、御免だからな。ーーーーワタシの人生は、ソレがどれだけ退屈で味気なくても、やはりワタシだけのものさ」
堂々と宣言するクリスティーナの姿に、キャルは口を開く。
「・・・・アンタ、単なる快楽殺人者かと思ったら。随分、小知恵が回るのね」
「そうとも。ワタシは快楽の奴隷だけれど、他人の奴隷にはなりたくない。ソレだけの事さ、お嬢ちゃん。・・・・さぁ、どうする? 早くしないと、時間切れになってしまうぞ?」
再びクリスティーナが顎をしゃくって、コチラに近づいてくるペコリーヌを指した。
「決断せずに後悔するより、何かを選び取って後悔した方が有意義だ。コレは、老婆心からの忠告だよ」
「・・・・分かったわ。『取り引き』成立、アンタの提示した『条件』を呑んであげる。アタシは、その辺に隠れてるから、接近してきている『ティアナ』への対処は、アンタにま任せるわ」
茂みに隠れようとするキャルは、一瞬だけクリスティーナの方に振り向いてから口を開く。
「・・・・一応言っておくけど、殺すんじゃねぇわよ?」
「『ティアナ』? ははぁ・・・・“そう言う事”か、その名前を知れただけで剣を振るうには充分な『報酬』になる!」
クリスティーナは『得心』を得たと言わんばかりに笑みを浮かべて頷く。
「成る程ねぇ、楽しいなぁ人生は! あっはははは☆」
「デッカイお世話よ。・・・・じゃあね、後は任せたから」
そう言い残し、キャルは茂みの中へと隠れ、その場から離れていった。
そして息を潜めて森を進みながら先程、クリスティーナに言われた言葉を思い返していた。
【ワタシは納得して、戦いたい。刹那的な快楽に身を侵すのも、好みではあるけれど。時間は、人生は有限だ。ソレはこの世における、数少ない『絶対的な真理』の一つだろう。『無価値な事』に、貴重な人生の時間を割きたく無いんだよ。だからまぁ、釈然としない部分を幾らか明確にしておきたい。誰の手駒になるのは、御免だからな。ーーーーワタシの人生は、ソレがどれだけ退屈で味気なくても、やはりワタシだけのものさ】
良くも悪くも人生を満喫しているクリスティーナに、少し羨望を抱いてしまう。
「(アタシだって、人生を満喫したいわよ。美味しい物を食べて、仲良しな友達とお喋りして笑いあってさ・・・・。だけど、アタシの人生は、アタシのものじゃないのよ!)」
キャルは、暗い森の奥へ奥へと、進んでいった。
ーユウキsideー
ユウキは剣斬から変身を解除した瞬間、意識がアメス様のいる空間に呼び寄せられてしまった。
「はい、お疲れ様。あはは、ホントに疲れた顔をしてるわね。仕方ないけどさぁ、アンタ山登りをして、『風の聖剣 風双剣翠風』を手に入れて『仮面ライダー剣斬』となったんだもんね。でも、山登りの方は、アンタは〈ランドソル〉での生活費を稼ぐ為に、山奥の牧場まで郵便物を運んだりするアルバイトをしてるのよ。そんな経緯で、【牧場‹エリザベスパーク›】の皆とも出会えた訳だけど。その辺、覚えてないなら記憶をひっくり返してみてね」
アメス様がそう言うと、ユウキの足の方を見やった。
「ともあれまぁ、ソレで散々登山して足腰は鍛えられてるんじゃない? 『聖剣』を使う以上、足腰を鍛えて置いて損はない筈よ。アンタが強くなればなるほど、『聖剣』の力をより引き出せるようになるんだしさ」
しかし、アメス様は少し表情を曇らせる。
「・・・・でもまぁ、今回の出来事はホントに『災害』みたいなもんだしね。建物は焼かれ、土地は踏み荒らされ、沢山の血が流れて悲鳴が響き渡った。普段、のほほんとしてる牧場の皆だからこそ・・・・中々、見ていて痛ましかったわよね」
ユウキがコクリと頷いてみせた。
「できれば早めに、皆には平和を取り戻して欲しいわ。その為の復興支援みたいなのが、今後のアンタ達の『目的』の一つになるから。あの子達が笑顔を取り戻せるように、頑張ってね」
優しい笑みを浮かべて言ったアメス様は、すぐにキリッとした顔となる。
「・・・・さてと。ここから先の話は、今伝えるべきかどうか悩むけど。この対話は『夢』みたいなものだし、アンタも殆ど記憶に留められないから・・・・良いや、言っちゃお。どうせ、その内アンタ達が向き合うべき問題だしね」
そして、アメス様は話しだした。
「今回、アンタはペコリーヌちゃんと一緒に牧場へ向かったわよね。あの子の事、どう思う? 変な子よね。アンタとは【美食殿】って言うギルドを組んで、仲良くしてる筈だけど」
“【美食殿】・・・・?”
「うん。コレも何を言ってるか分からないなら、ざっと記憶を引っ張り返してみてね」
聞いた事のないギルド名に首を傾げるユウキに構わず、アメス様は話を続ける。
「ともあれ、ペコリーヌちゃんは基本的に明るくて素直な良い子だけど、幾つもの『謎』を抱えているわ。言葉の節々に、たまに意味深なものが混じってるわよね。あの子はね、とても重たい宿命を抱えているの」
“え?”
「そして。その為に、『恐ろしい存在』から命を狙われてる。あの子と出会った時も、今回も、やたら魔物が大暴れしてたでしょ?」
“・・・・まさか、『メギド』も?”
「恐らく、ね。救護院の時以外のアレは、ペコリーヌちゃんの命を狙う何者かによる攻撃よ。あの子は日夜、同じように魔物に襲われて命の危機に見舞われてるの。ソレでも笑顔で他人を気遣ったりするんだから、ホント『お姫様』みたいな子よね」
フッと笑みを浮かべてから、アメス様はまた顔を引き締めて話す。
「ソレよりも。ここで問題なのは、ペコリーヌちゃんの命を狙っている張本人・・・・『陛下』なんて呼ばれる人物の配下に、キャルちゃんがいる事よ」
“っ! キャルちゃんが・・・・?”
「そう。アンタの知ってる、あのキャルちゃんよ。アンタやペコリーヌちゃん、コッコロちゃんと一緒に、【美食殿】として楽しい日常を過ごしてる仲間の一人。あの子は『陛下』と呼ばれる人物に『特殊な能力』を付与されて、『魔物を操れる』ようになってるの。まだその能力を上手に扱えず、失敗ばっかりみたいだけど。そんなキャルちゃんの行動目的の一つは、どうやら『ペコリーヌちゃんの暗殺』みたい」
“キャルちゃんが・・・・ペコリーヌさんを・・・・!?”
ユウキは目を見張った。会う度にぎゅ~ッと抱き締めるペコリーヌを、鬱陶しそうに引き剥がそうとするキャルの姿は見てきたが、まさか『暗殺』を考えていたとは思わなかったからだ。
「道を歩いてたら魔物に襲われて殺された、って形なら『事故』として処理できるしね。まぁ実際、その魔物はキャルちゃんが操ってるんだけど。そう言う陰謀の為に、暗殺未遂を繰り返してるの。勿論キャルちゃん本人の意志じゃなくて、『陛下』とやらに命じられてやってる事だけど。あの二人は、そう言う関係なのよ。『命を狙う側』と『狙われる側』。『被害者』と『加害者』なのよ・・・・」
“・・・・・・・・”
「だからこそ。アンタ達が仲良くなればなるほど、後々の展開がしんどくなるわ。今回だってキャルちゃんは、ペコリーヌちゃんを暗殺しようとしたんだけど・・・・物凄く葛藤して、苦しんでた。あの子は普通の良い子だもの。毎日のように食卓を囲んで、親しくなった友達を手に掛けたくないの」
“・・・・そうか、キャルちゃんはやりたくてやってる訳じゃないんだ・・・・”
少し安堵するユウキに、アメス様は「でも」と加えて話をする。
「あの子は『陛下』には逆らえないみたいだから。このままじゃ悲劇になるわ。だから。あの子達の一番近くにいる、アンタが気を付けて見ていてあげて。そして、できれば哀しい結末の物語に至らないように努めるのよ。ソレは、あの子達の『友達』に・・・・ううん『家族』みたいな存在になった、アンタにしかできないのよ」
“・・・・・・・・”
ユウキは一瞬、自分の腰にある剣を火炎剣烈火に変えてから、納刀状態の聖剣を手に取って決意を込めた声を発する。
“ーーーー物語の結末は、僕が決める・・・・!”
ソレを聞いて、アメス様は笑みを浮かべる。
「うん。まぁ、かなり難しいだろうけど。頑張ってね、応援してる。でも、充分に気をつけて。『陛下』とやらはどうも我慢強く無いみたいで、そろそろ失敗続きの部下に任せず自分が出てくると思うから」
アメス様は何やら激情を混ぜたような顔で警告してくる。
「アイツは、かつて世界を滅ぼしかけた邪悪な存在よ。しかも最悪な事にーーーー『聖剣』を所持してる」
“っ!!”
「アイツは『聖剣』を支配し、その力を使えるようにしている。簡単に、やっつけちゃえなんて言えない。『聖剣の闇』に呑み込まれないようにしなさいよ。せめて生き延びてねって、祈る事しかできない。アンタが生きてる限り、『希望』は残るから」
そう言って、アメス様はいつもの挨拶を抜きにして、ユウキの意識は光に包み込まれた。
* * *
「ーーーーさん・・・・ユウキさん、大丈夫ですか?」
“っ! シオリちゃん?”
変身を解除したユウキは、牧場から遠く離れた所で、【牧場‹エリザベスパーク›】の皆と一時の休憩を取っていた。
後もう少しで〈ランドソル〉近くに辿り着く所だ。目の前には、マヒルとリマとリンも座っており、リンの特製アンパンを食べてエネルギー補給をしていた。
「さっきから黙ったままボーッとしてるから、心配しました」
“ゴメン・・・・”
ユウキは一回頭を振ってから、空を見上げる。
・・・・空の色は暗くなっていくが、ユウキはその夜空に、不穏な闇が覆っていきそうになっているのを感じ、皆に向けて口を開いた。
この後ユウキは一人だけ皆と離れ、『マシンディアゴスピーディー』に乗って引き返して行った。