ータッセルsideー
ユウキ達がムイミとラジラジ、そしてマサキと共に【ラビリンス】の秘密基地へ向かった翌日。
朝日が昇り、太陽が世界を光に包む時刻。
「皆さん、ボンヌ・レクチュール! あ、今は朝だから、ボンジュールだね。さて! 『この世界』において『神様』に等しい力を持つ7人、『七冠‹セブンクラウンズ›』の『変貌大妃‹メタモルレグナント›のネネカちゃん』が王宮に連れ拐われてしまったねぇ。しかし! ユウキくんも『音の聖剣』を手に入れて、コレで『聖剣』は5本。数的に言えば、『闇の聖剣』を持つ『ユースティアナ』より有利になった♪ でも、まだまだユウキくん自身が『聖剣』の力を引き出せないと、『彼』に勝つ事はできないなぁ」
滝が流れる岩山の頂点で椅子に座り、テーブルに置かれた紅茶を飲むタッセル。
すると、遥か眼下の森の1部で、ガサガサと動く3つの小さな影を見つける。
「おや? アレは確か、まだ〈ギルド管理協会〉から正式に認定されていないおままごとギルドの【リトルリリカル】の3人だねぇ? 何でこんな所にいるのやら?」
タッセルは3人の幼女達を見下ろしなから首を傾げ、耳を傾けてみると、【リトルリリカル】の誰かがユウキの名前を呼んでいた。
ーユウキsideー
“ん〜・・・・っ!”
ユウキが目を覚ますと、いつの間にか寝ていたのに気づき、思わず飛び起きると、コッコロがベッドに横になっているユウキの側にいた。
“コッコロちゃん・・・・?”
「わっ・・・・おはようございます、主様。如何しました、急に飛び起きて?」
“誰かに、呼ばれた気がした”
ユウキは辺りをキョロキョロと見回すと、見た事のない、まるで洞窟の建物のような部屋であった。コッコロは何も聞こえていないようで、寝惚けていたのかと思った。
コッコロはそんなユウキを微笑ましそうに見ると、すぐに慈愛に満ちていた目を半眼にする。
「ソレよりも。え〜、おほん。【ラビリンス】のお二方、主様が寝苦しそうにしておられるので・・・・可能でしたら、ベットから出ていただけると幸いでございます」
“えっ?ーーーーシズルさん!? リノちゃん!?”
ユウキが顔を下に向けると、寝ている自分の身体に抱き着くように、シズルとリノがいた。
「おはよう! 弟くん♪ ソレとコッコロちゃん、無理かな〜! だって久しぶりの弟くんなんだもん! 弟くん弟くん、会いたかったよぉ〜!」
シズルがユウキの顔に凄まじい勢いで、ソレこそ顔が擦り切れてしまいかねない程の勢いで頬ずりする。
「弟くんの顔が見られなくて、触れ合えなくて、お姉ちゃんの胸は張り裂けそうだったよ! でも! あらゆる困難を乗り越えて! 今、弟くんとお姉ちゃんは結ばれたの! ハッピーエンドだねぇ、えっへへへへ・・・・♪」
「正気度の低い事を言ってないで、マジで一旦寝床から出てくださいね。全くもう、『油断もキス』もナッシングですよ」
「『油断も隙もない』ね、リノちゃん♪」
シズルの奇言に呆れながら言い間違いをするリノに、シズルは笑顔で訂正した。ソレに怯まず、リノは話をする。
「・・・・実際。まだユウキお兄ちゃんの記憶は、ほぼ戻ってないっぽいですから。迂闊に接触したら何があるか分かんないですよ、頭がおシャカになるかも知れません。私だってお兄ちゃんとラブラブイチャイチャしたいのを、必死に我慢してると言うのに・・・・自重して下さい、お姉ちゃん」
リノはそう言ってベッドから降りると、シズルもユウキから引き剥がしてベッドから降ろした。
「あぁんっ、リノちゃんの意地悪〜! お姉ちゃんと弟くんは一生一緒にいるのっ、誰にも断ち切れない血の絆があるのぉおおっ!」
「私と同じで血はつながってないでしょう、お姉ちゃんも・・・・『マスター』も休眠状態で何があっても対処できないんですから、ホントに良い加減にして下さいね」
「うう。だって、だって寂しかったの。弟くんが他の女の子とラブコメをしてる間、私は地味な事務仕事とかに忙殺されててストレス山盛りだったのぉ」
「ソレは私も同じですってば。一応、私達【ラビリンス】は『秘密結社』ですもんね。地味な裏方仕事って言うか、裏街道をコソコソ動くしかないのは仕方ないでしょう?」
駄々を捏ねる姉貴分に、妹分が宥める。そしてリノは改めてユウキ達に話しかける。
「まぁ何にせよ、皆さんが無事で何よりでした。このアジトはまぁ安全だと思いますから、ゆっくりしていって下さいね」
言われてユウキは思い出した。確かムイミと再会して、ラジラジとマサキと言う男性達、更に【悪魔偽王国軍‹ディアボロス›】の皆と、【ラビリンス】のアジトに向かう途中で、気を失ってしまったのだと。
そしてリノとシズルは、そろそろ他の皆が起きてくるので朝ご飯の準備に取り掛かった。その際、シズルがコレからユウキと同居生活するので覚悟するように、と言っていたが、リノが背中を押して台所へと向かった。
「・・・・ふむ。良く分かりませんが、ホントに騒がしい方々ですよね」
“でも意外と頼りになるし、悪い人達じゃないけどね。シズルさんもリノちゃんも”
コッコロも、以前の襲撃で『危ない集団』だと言う第一印象のせいで警戒していたが、ユウキと仲良しであり、善良な人達であると思ってくれたようだ。
「勿論、油断は禁物でございますが。まだまだ、正体不明ですしね」
“・・・・・・・・シノブちゃん達は?”
「はい。【ラビリンス】は秘密結社、そのアジトも小規模のもののようで・・・・大人数で押し掛けると手狭になりますから、シノブ様達とは一旦お別れしております。あの方達を、あまり我らの因縁に巻き込むのもどうかと思いますしね」
そしてシノブ様【悪魔偽王国軍‹ディアボロス›】は、大破した『ネネカの研究施設』の残骸等を調べたかったようで、今後も情報交換等をしつつ仲良くしていこうと言い別れたようだ。コッコロは中々快い人達と認識したようだ。
“また一緒に遊びたいね”
「はい。昨日の出来事を、『遊び』と表現するのには首を傾げますが、シノブ様達のギルドの名は『悪魔』と名乗っていましたが、とても和やかで優しい方々でございましたね」
コッコロも、今後も友人として【悪魔偽王国軍‹ディアボロス›】と付き合っていきたいと思っている。
「ーーーーお~い! ユウキ、起きてるか? 色々話したい事があるし、食堂まで来てくれ!」
と、ムイミがやって来た。
「ソレと朝飯ができるまで時間あるから、行きがけに『ラビリスタ』のヤツとも面会させてやろう。ついでに、その『ラビリスタ』が、ユウキに『渡しておきたかった物』もな。まぁ、アイツずっと眠りっぱなしだから会話はできないと思うけど」
そして、ムイミに案内されながら、【ラビリンス】のアジトの中を歩いていくユウキとコッコロが1つの部屋からドタバタて音がしたので覗いてみると、
「おらぁああああああああっ!!!」
腕に大きな手甲を着け、上半身裸で肩に紋様みたいな入れ墨をし、無造作に伸ばされた金髪をした野性的な男子が何とーーーークリスティーナと戦っていたのだ。
「あはは! 粗いなぁ、何もかもが! もっと緩急をつけろ! お前の腕力なら1発ぶん殴れば大抵の相手は倒せるだろうが、当たらなければ意味が無いぞ! ほらほら、もっと考えるが良い! 脳みそまで筋肉なのか? もっと私を楽しませてみろっ、木偶の坊め!」
「がぁっ、一々腹立つ! 今日という今日こそ、そのスカした顔面を凹ませてやるぜ!」
「えっ、酷い・・・・『ダイゴくん』、女の子の顔を殴るの、・・・・?」
「えええ!? いやでも、『戦闘訓練』だし! お前が手ぇ抜くなって言ったんだろっ、そもそも『女の子』って年齢じゃねぇよな!?」
「あっ、禁句を言ったな。殺すぞ」
「うおおっ!? 剣を振り回すなっ、コッチは丸腰なんだぞ! 当たったらマジで死ぬ!」
「安心しろ、坊や! その不愉快な事を囀る舌を切り取ってやるだけだ! あはははははははは☆」
クリスティーナが愉快そうに剣を振り回し、ソレを必死に逃げている『ダイゴ』と言う男性。
“クリスティーナさんは相変わらず元気だね”
「アレを『元気』の一言で片付けて良いのか、些か疑問ではありますが・・・・」
「取り敢えず止めるか。お~い・・・・あんまり暴れるなよ、2人共」
にこやかに笑うユウキにコッコロは若干呆れるが、ムイミが2人に話しかける。
「この【ラビリンス】の拠点は・・・・ラビリスタの『オブジェクトの変更』とか言う、怪しげな能力で造られてるみたいだけど。その本人、意識不明のままだから壊れても修理できないしな。いつその『オブジェクトの変更』の能力が消えて、全体が壊れちゃうかも分かんないんだから」
「おや。おはよう。ムイミ」
「『ムイミ』じゃなくて『ノウェム』だろ。そう呼んでくれって頼まれてるじゃねぇか。人の嫌がる事ばっかり言うんじゃねぇよ、性格が悪いと友達ができねぇぞ」
「ははっ、生まれ持った性格ばかりは直しようがないからねぇ。けれど確かに礼儀を失していた、謝罪しよう・・・・ノウェム♪」
「あぁ、別にいいよ。もう慣れたし、どっちかと言うと、『ムイミ』の方が本名だし。あんまり良い思い出も無いし、意味が無いからムイミ、みたいで嫌な感じだから、『ノウェム』って呼んで欲しいけどな」
ムイミが溜め息を吐きながらそう返すと、もうすぐ朝食が出ると伝えた。するとクリスティーナが、ユウキの存在に気付いた。
「ん? おぉっ、ユウキの坊やではないか!」
“お久しぶりです。お互い無事で何よりですね”
「ハハハハっ! 無事で安心したよ。私との殺し合いと言う約束を反故されてしまっては堪らんかなぁ。それにしても、新たな『聖剣』を手にしたようではないか! 朝食を終えたら、新しい『聖剣』の試しも含めて、是非とも戦おうではないか!」
「おいソレよりも早く行こうぜ、腹減っちまった」
クリスティーナとダイゴはそのまま食堂の方へと向かい、ソレを見届けてからコッコロがムイミに話しかけた。
「あのう・・・・何度か名前は聞きましたが、『ラビリスタ』と言うのは何者なのでしょうか。昨夜、アジトを訪れた際にも顔をお見せになりませんでしたが」
「ん〜、まぁ秘密結社【ラビリンス】の親玉だよ。オマエらにとっても無視できない重要人物だろうから、ちゃんと顔とか確認しとけ。実際、『ラビリスタ』が何処まで『晶』と一致してるって言うか・・・・どのぐらい以前の事を覚えていて、何を『目的』にして行動してるかは分かんないんだけど」
「『晶』・・・・?」
“ソレって・・・・『七冠‹セブンクラウンズ›』の?”
「へぇ。もうソコまで辿り着いてるんだな、オマエらも」
コッコロとユウキの言葉に、ムイミは感心したように頷いてみせた。
「まぁ『この世界』においては、『無視できない存在』だもんな。どうしたって、無関係ではいられないか。まぁ良いや。『ラビリスタ』は今は『休眠状態』で、会話もできないから。さっさと過去を見るだけ見て、朝ご飯にしよう。詳しい話は、後でまとめてアタシがしてやるから」
ーコッコロsideー
ムイミに案内され、ある一室に入ると、1人の女性がベッドに横になっていた。片腕には点滴が付けられており、まるで病人のような扱いだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
赤い衣装に赤い長髪をした女性、『ラビリスタ』である。
「コチラが・・・・秘密結社【ラビリンス】の首魁、『ラビリスタ様』でございますか(しかし・・・・不思議な親近感を覚えますが・・・・)」
寝ているというのに、まるで休火山の火口を覗いているかのような異様な存在感に、コッコロは少し震えていた。
ソレと同時に感じる親近感が、昔会った事がある親戚のような感覚がある。イリヤの古文書に記されていた『長老』・・・・『父』の名も『七冠‹セブンクラウンズ›』の1人として記されていた事と関係があるのだろうか。
ソレを問いただしたいが、幸か不幸か、ラビリスタは眠っているのが安堵したような、落胆したような複雑な心境になるコッコロであった。
ーユウキsideー
ユウキは何やら不安げな顔をしているコッコロの頭を優しく撫でた。
“・・・・・・・・”
「・・・・はう。主様、何故撫で撫でするのでしょう?」
“不安そうにしてたから”
「ふむ、そうでしょうか・・・・感情を表に出すなど、わたくしもまだまだ未熟者です。けれど。主様のお気遣いが、大変嬉しいです。わたくしは果報者ですね・・・・♪」
「お~い。イチャイチャしてる所申し訳ないけど、ラビリスタの顔を見るだけ見たら食堂へ移動するぞ」
2人だけの世界を繰り広げているユウキとコッコロに、ムイミの呆れたような声が聞こえ、コッコロが慌ててユウキから離れる。
「い、イチャイチャはしていません。いつも通りです、ええ。しかし、顔を見るだけでございますか? せめて会話ができれば有り難いのですが」
“ラビリスタさんは、ずっと寝ているの?”
「うん。こないだの『大規模破壊魔法』を防ぐ為に、ラビリスタは死力を振り絞ったみたいでさ・・・・ガソリン、あイヤ、魔力切れでずうっと昏睡状態なんだ」
「だとしたら、安静にしておくしか方法がありませんね」
点滴とかの治療はしているようだが、成果は見ての通り。自然回復を待つしかないようだ。
「どうも調べた感じ、ラビリスタは『真那』・・・・あぁいや、えぇっと? 『アイツ』、今はなんて名乗ってるんだっけ?」
“『ユースティアナ』って名乗ってる”
「そうそう、『ユースティアナ』だ。覚え難い名前だよな」
『アイツ』と言うのが、『大規模破壊魔法』を放った『ユースティアナ』の事だと思ったユウキが、名前を教えてあげた。
「あの腐れ外道を抑え込む為に、ラビリスタは『精神世界』って言うか・・・・何か『ソッチ方面』でアイツと戦ってるっぽい。迂闊にラビリスタを起こすと、ソレが中断し、アタシ達をまとめて皆殺しにしようとしたユースティアナまで、一緒に復活する可能性があるって事だ」
“だから今は、放置するしかないって事?”
「ああ、そう言う事」
「『ユースティアナ』・・・・ペコリーヌ様から『立場』を奪い、『闇の聖剣』を悪用する極悪人でございますね。ソレが現状、わたくし達こ最大の敵と言えるでしょう」
“僕達は今の内に、次の展開に備えておこう。ペコさんの為にも、ついでに『闇の聖剣』を回収する為にも、僕達も協力するよムイミちゃん”
「はい。可能な限り。ムイミ様には、自爆する『研究施設』から、命を救われた恩義がございますからね」
「ああ。ソレはコチラとしても嬉しい限りだ。へへ。ユウキ達と共闘するって、アタシてしてはちょっと夢にまで見た展開だよ。いっつも楽しそうでさ、羨ましかったもん・・・・オマエらは」
ムイミはユウキを見あげながら、何処か黄昏れたように呟く。
「勿論オクトーと2人で、悪者として振る舞うのも最高に楽しかったけど。ホント、『あの頃』は何もかも輝いてた。穏やかで平和で、賑やかで幸せだった。怖い事とか哀しい事とかもあったけど。今となっちゃ全部、良い思い出だよ」
ムイミの言葉に、ユウキとコッコロは首を傾げる。
「うん、分かんないよな。その辺含めて、後で説明する」
“・・・・・・・・”
そしてふと、ユウキは眠っているラビリスタを眺めていた。
「ラビリスタはさ。ユウキの事は弟か息子みたいに、可愛がってたみたいでさ」
ムイミの話を聞いてから、ユウキ達は食堂に行くと、マサキとラジラジがネネカ救出の話し合いをしていたが、今は警備が厳しいから難しく、まだその時ではないと結論になった。
因みに、ペコリーヌも朝食の準備を手伝っていたようだ。何故かペコリーヌが『ユウキの剣』を持っており、朝に朝食の材料探しで『聖剣』を借りて使おうとしたが、まるで反応が無かったと言う。
“・・・・『流水』。『激土』。『翠風』。『錫音』”
ユウキが剣を持って呼び掛けると、『聖剣』はそれぞれちゃんと姿を現した。ソレを見て、ペコリーヌは少し顔を顰めてしまっていたが。
“・・・・『烈火』”
が、『火炎剣烈火』だけは、まだ反応を見せてくれていなかったが。
「ふむ。主である坊や意外には使えんのかも知れんな。しかし、『炎の聖剣』はなぜ反応をしないのだ?」
「そう言えば・・・・あの『大規模破壊魔法』が放たれた際、『ユースティアナ』が持っていた『闇の聖剣』から光を放たれ、ソレが『炎の聖剣』に当たっていたと記憶しておりましたが。ソレが原因でしょうか?」
クリスティーナとラジラジがそう話し合っていたが、今は朝食にしようとする。
そして、ペコリーヌ、コッコロ、シズル、リノにモテモテのユウキを見ていたダイゴをムイミ達がからかっていたのはご愛嬌とする。
次回、ムイミがこの世界の『真実』を話す。