ーユウキsideー
皆が準備を終えると、外の様子を見てきたラジラジが丁度戻ってきた。
「・・・・ただいま戻りました」
「ラジラジ! ちょっと時間掛かったな、何かあったのか?」
「・・・・はい。非情事態です、ノウェム。この【ラビリンス】アジトの周囲に、無数の魔物が蠢いているのを確認しました。ソレに、【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】と思しき武装した軍隊も。現在、我らはそう言う外敵によってグルリと包囲されている状態です」
聞くだけで戦力差は歴然で、早めに避難した方が良い情報であった。
「魔物に、軍隊・・・・? 大変じゃないか! いつまでも隠れ続けられるとは思ってなかったけど、意外と早く見つかったな!」
“【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】が来たって事は、敵は王宮の人達?”
「ああ、間違いなさそうだな。全く毎度毎度、しつっこい連中だ。何にせよ、話し合いてまどうにかなる段階はとっくに過ぎてる相手だ。急いで脱出だ。ユウキ達もついてきてくれ、話の続きはまた今度な?」
“分かった”
「うん。『今のお前』は物分かりがよくて助かる」
何でも、以前のユウキは、ムイミと敵対していたせいか割と反抗的だったという。
ともあれ、ラジラジの『空間跳躍』で脱出したくても、アジトがある地域一帯の空間に『魔術的な罠』が仕掛けられており、今外の様子を見に行った際に深刻な損傷を受け、『空間跳躍』は暫く使えないとの事である。敵も対策を練ってきたと言う事だ。
「取り敢えずラジラジを回復させつつ、安全圏まで普通に敵を突破して脱出し、『空間跳躍』が可能な場所まで逃げ切ったら、他の【ラビリンス】の隠れ家に避難・・・・って所が無難か」
冷静にこの場から逃げる事を第1に考えるムイミ。
ダイゴが逃げるのは性に合わないと愚痴り、敵の戦力次第では戦おうと言い出したが、ラジラジが建物位の超大型の魔物と、『メギド』らしき魔物も確認したと言う、確実にコチラを殲滅する気であり、マトモにやり合うのは愚策との事だ。ムイミもラジラジと同意見で説得すると、ダイゴも渋々だが理解した。
しかし、避難するにしても、寝たきりのラビリスタを運ばなければならない。ダイゴが運んでくると言って部屋を抜けると、ラビリスタがコチラ側の『支柱』である事と、何故か彼女が傷付いたり死んで欲しくないと、クリスティーナが言った。
ラジラジも普通に動くのには問題なく。マサキもここは『死に場所』ではないと理解し、逃げるのに賛成した。
「皆〜、脱出の準備はOK? コッチに非常時の避難通路があるんだ、お姉ちゃんが案内するね♪」
「コッチです、コッチ! 早く!『 禅問答は忙しい』ってヤツです!」
「う~ん、『善は急げ』って言いたいのかなぁ?」
シズルとリノがいつものやり取りを見ると、何やら安心する。
「ーーーーよおし。じゃあ避難しましょう、ユウキくん」
“うん。急ごう”
「はい。コッコロちゃんと、私の後ろにいてくださね。この身を盾にしても、絶対に守ってみせますよ。全てを奪われた筈の私が、奇跡みたいに巡り逢えた『大事なお友達』ですから」
ペコリーヌとそう話して、ユウキ達は避難通路に向かった。
ーーーーその先に、『絶望』が待っている事を知らずに・・・・。
◇
避難通路は洞窟のようになっていて、整備もされておらず埃っぽかった。お陰で避難通路を出る頃には、全員が埃だらけになってしまった。このまま安全圏まで逃げられると思っていたが、クリスティーナが目を細めて通路の先を見据える。
「・・・・どうもそう簡単には行かないようだぞ。見ろ、厄介そうな魔物がウヨウヨしている」
クリスティーナの視線を追うと、待ち伏せなのか野生なのか判別し辛いが、確かに大量の魔物が殺気立たせながら犇めいていた。
「まぁ、この程度の数の魔物で・・・・このクリスティーナ・モーガンの行く手を阻めると思っているなら、お笑い草だがな」
そしてクリスティーナは好戦的な笑みを浮かべ、ラビリスタを担いでいたダイゴに目を向ける。
「坊や、どっちが沢山魔物を倒せるか競争しようか♪」
「そんな悠長な事を言ってる場合じゃなくねぇか。敵は直ぐにでもアジトに突入してくる、ソコがもぬけの殻だったら俺らを捜索するだろ。敵は数が多いっぽいし、人海戦術で探されたら直ぐに見つかる。魔物と一々戦って手こずってたら、直ぐに追いつかれて挟み撃ちに遭っちまうぜ」
脳筋に見えて意外と大局を見る目を持つダイゴに、クリスティーナだけでなく他の皆も意外そうな目を向ける。本人曰く、荒事でご飯を食べる喧嘩屋であり、計算などは苦手だが、戦闘に関しては任せておけ、との事だ。
「ーーーーちょっと強引にでも、急いで魔物の群れを突破するぞ」
“・・・・・・・・”
ユウキが前に出て、『水棲剣流水』と『ライオン戦記』とソードライバーを取り出すが、ムイミが片手を上げて制した。
「いや、お前は体力を温存しておいてくれ。まだ危険な橋を渡る段階じゃないしな。・・・・ここはアタシに任せとけ」
「わおっ? もしかしてノウェムちゃん、『アレ』を使うつもり?」
「うわぁ、待ってました! 格好良い所を見せて下さいね、ノウェムちゃん♪」
シズルとリノが囃し立てると、ユウキも良く分からないが、何やら任せて良いように思え、皆と共に後ろに下がる。
「派手な奴をぶちかますぞ!」
そう言って、ムイミが眼前に手を伸ばす。
「現出せよっ、『天楼覇断剣』!!」
すると、ムイミの足元に魔法陣が展開され、ソコからムイミの身の丈近くある大剣が現れ、ムイミがその柄を両手で掴んで振りかぶる。
「道を開けなっ! 魔物共! 大悪党の、お通りだぁぁぁぁっ!!」
ムイミが『天楼覇断剣』を大きく振り下ろすと、ペコリーヌの【プリンセスストライク】並の光の斬撃が放たれ、魔物達を全て薙ぎ倒した。
「ーーーーふっ」
“ムイミちゃん、その剣は?”
「天楼覇断剣だ。改変される前の世界での、アタシの主力武器。ふふん、データ弄って無敵の強さにしたチート性能の1品だぞ♪」
“つまり、ムイミちゃんの『聖剣』って事だね”
「あぁっ! まぁ、お前の持ってる『聖剣』とは違うし、コイツは『レプリカ』だがな。本物の天楼覇断剣は世界の改変の際に、システムの齟齬が生じたのか失われちゃったけど・・・・ラビリスタがその『権能』を発揮して、こうして『レプリカ』を作ってくれたんだ。普段は『異空間』に収納されてるけど、アタシが望めばいつでも呼び出せる。多少、本物よりは性能が劣化してるけどな! ソコはアタシの技術と経験、後根性で補う!」
『レプリカ』でコレならば、本物はどれ程の力を有しているのか、少し怖くなる。
「しかし、ユウキの持ってる『聖剣』なんてそんな武器、〈レジェンド・オブ・アストルム〉には無かったと思うぞ。いや・・・・何か、『あっちの世界』で似たような物を見た気が・・・・。兎も角、魔物共! 命が惜しければ道を空けろ! って言っても・・・・単なる『データ』でしかないオマエらは、『プログラム』から外れた行動はできないんだろうけどな! 『データ』だから『命』もない! オマエらは『生き物』じゃなあ! だから容赦なく、ぶった斬るぞ!」
そして、ムイミは天楼覇断剣を再び構える。
「覚悟〜! 『世界1の悪党』の剣裁きを、存分に堪能してから蒸発しろ! どおりゃああああああああ!!」
と、ムイミが派手に暴れるせいで、後ろにいるユウキ達は、攻撃の衝撃波でぶっ倒れそうになる。
しかし、魔物の群の中に空白地帯ができたので、ソコに向かってユウキ達は走り出した。
◇
そして、漸く避難通路の洞窟から出ると、時間が掛かってしまったせいか外はスッカリ夕方になり、夕焼けの光で一瞬目が眩んだが、直ぐに目が慣れた。
「! 皆! 一旦止まれ!」
と、ソコでムイミが声を張り上げた。
「うひゃっ!? ど、どうしました?」
「・・・・最悪だ。どうも、コッチの行動が読まれてたらしい」
“! アレは・・・・!”
周囲を見ると、周りは完全に敵だらけであり、隙などなく布陣していた。
「そ、そんな・・・・嘘でしょっ? 【ラビリンス】アジトからこ脱出経路は、誰も知らない筈なのに!」
「そもそもアジトの位置もかなり厳重に隠してたのに、アッサリとバレたみたいですしね・・・・敵さん、どうも半端じゃないぐらいの情報収集力です」
敵は腐っても『王宮』。『国家権力』そのものならば、人員と資金を惜しみなく使うと、この世に不可能は無いと言う嫌な現実を実感し、シズルとリノが渋面を作る。
“状況は完全に、『袋の鼠』だね・・・・でも、どうしてこんな早くに・・・・”
「ふむ・・・・私は【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】に所属していたから、経験として理解しているが、あのギルドは『治安の維持』、『犯罪者の撲滅』等も職務の内だ。捜査に関しては、最先端の技術を持つ。高度な探査魔法等を広範囲に掛けて、私達の避難経路や現在位置を割り出したんだろう」
「かなり入念に準備した上で、仕掛けてきたようですね。見渡す限り魔物の群れや軍隊で埋め尽くされていますよ、恐らく国家間の戦争レベルの物量です」
「んだよソレ、ソコまでするか? 俺らが何したって言うんだよ!?」
「ふむ。敵の親玉がこの世界を改変した張本人ならば・・・・【ラビリンス】及び我等は、その権勢に逆らう目障りな存在だろう。『世界の謎』に近づこうとしているのだから。まぁ、放置はしないだろう。このように積極的に潰しにきて当然だ。『権力』は、人から『優しさ』や『人間らしさ』を奪ってしまう・・・・ウンザリする程見てきたよ」
ユウキの疑問に元副団長のクリスティーナが答え、ラジラジが冷静に相手戦力を分析すると、ダイゴも大規模な戦力投入に焦り、マサキが推察を述べた。
「どうする? 包囲されて絶体絶命、と言う状況だが。玉砕覚悟で戦って敵陣を突破し、脱出するか? ソレとも諦めて、降伏するか? 後者は選びたくないな。またあの退屈な牢獄に戻る位なら、戦場で死に花を咲かせた方が100倍マシだ」
「俺も同意見だぜ! オラオラ、軍隊だろうが魔物だろうが怖くねぇぞ! やってやるよっ、皆纏めてブッ潰してやる・・・・!」
と、血の気の多い2人が今にも飛び出そうとしたその瞬間ーーーー。
「ーーーーお~い。鼻息荒くしてやる気満々な処申し訳無いけど、ちょっと僕達の話を聞いてくれるかなぁ?」
“この声は・・・・”
「・・・・オクトー!?」
戦場に似つかわしくない気の抜けた声が響き、その声の主に心当たりがあったユウキとムイミが反応し、軍隊の方に目を向けると、声の主、オクトーがいつものヘラヘラした笑顔で先頭に立っていた。
「ーーーーやぁ、また会ったねムイミちゃん。元気そうで良かった〜、君が死んでたら大事なブローチを回収するのが難しくなっちゃうし」
「・・・・・・・・」
「そう睨まないでよ、怖いなぁ・・・・笑顔の方が可愛いよ♪」
ムイミが睨みつけるが、オクトーは相変わらず人を小馬鹿にしたような口ぶりと軽薄さである。
すると、クリスティーナがムイミの隣に立ち、オクトーに話しかける。
「おやおや? 私には挨拶してくれないのか、オクトーの坊や? 散々世話をしてやっただろうに、礼儀を知らんヤツだな。何でこんな場所にいるのか分からんが、私を不愉快にさせると後悔するぞ」
「言いたい事は山程あるけど。ゴメンね〜、あんまり出しゃばったら『上の人』に怒られちゃうから。一旦、僕は引っ込むよ」
クリスティーナに凄まれながらも、いけしゃあしゃあと調子の良い事を言って下がるオクトーは後ろにいる『人物』に声をかける。
「ーーーーさぁ『陛下』、後はヨロシク♪」
その『陛下』と言う呼称に、全員が肩を揺らす。
「『陛下』・・・・? まさか『真那』が、『ユースティアナ』が復活したのか!?」
“イヤ違う・・・・まさか、アレは・・・・!?”
しかし、ムイミの反応とは別に、ユウキが、そしてペコリーヌとコッコロが、その『人物』を見て目を見開いた。
何故ならソコにいたのは・・・・。
「ーーーーオクトー、呼称は正確にすべきです。アタシは、あくまで『陛下』に全件を一時的に委譲されただけの存在。過剰に、媚びへつらう必要はありません。無論、逆らえば厳罰に処しますが」
「えっ・・・・? きゃ、キャルちゃん?」
「キャル様・・・・!?」
“キャル、ちゃん・・・・?”
ソコに立っているのは、顔に目元を隠すドミノマスクを掛け、服の細部が黒くなっているが間違いなく、【美食殿】の一員であるキャルであった。
「はい。アタシはキャル。国王陛下の『代理人』です」
しかし、その口ぶりは冷徹で、言葉使いも何処か機械めいており、まるで別人のように思えてしまった。
「本日は反政府組織【ラビリンス】及び、ソレが匿う重犯罪人達を殲滅しに参りました。大人しく降伏するなら良し。もし抵抗を続けるなら、1人残らず『抹殺』します」
「な、何を言ってるんですか・・・・キャルちゃん? どうしちゃったんですか!?」
“そんな事務的な言葉使い、『カリンさん』でももっと愛嬌があるよ?”
「『抹殺』って・・・・何故、その様な事を仰るのですか? お優しいキャル様が、わたくし達を害する訳がございません!」
あまりにも自分達の知るキャルと違い過ぎて、狼狽える【美食殿】に、キャルは冷徹に口を開く。
「・・・・発言は許可していません。1分間、待ちましょう。その後、降伏の意思が認められない場合・・・・国王陛下のご意志、つまり『法』によってあなた方を処刑します。良く考えた上で、賢明な判断をするべきですよ。ペコリーヌ、コッコロ、ユウキ・・・・我等に逆らい続けるなら、生きて帰れる保証は致しません」
ソレは、キャルからの決別の言葉であった。
次回、おかしくなったキャルを取り戻そうと、ペコリーヌが暴走する。