ータッセルsideー
『王宮ランドソル』にある王宮近くのカフェテラス。ソコのテーブルの椅子に腰掛けたタッセルが、ティータイムをしながら読書を・・・・していなかった。
「・・・・皆さん、ボンヌ・レクチュール。とても悲しい事が起こったね・・・・。キャルちゃんが『ユースティアナ』、イヤ、『覇瞳皇帝‹カイザーインサイド›』の『千里真那』によって正気を失ってしまい、ユウキくん達と敵対する事になってしまった。我を失ったペコリーヌちゃんの身勝手の行動によって、ペコリーヌちゃんだけでなく、『土の聖剣』と『風の聖剣』をまでもが奪われてしまった。美味しい食卓を囲む家族のようなギルドである【美食殿】が、今やもうバラバラの状態。コレは正に最悪と言えるねぇ?」
気落ちしたようにタッセルはユウキ達に起こった事を話していた。周りの他の客や店員どころか、道行く人々も、まるでタッセルの存在が『景色』の1部になっているかのように無関心で無反応であった。
「・・・・まぁ、僕が落ち込んでいても始まらないか。では改めて、【リトルリリカル】の3人は、ムイミちゃんによって『王都ランドソル』に帰され、ユウキくん達は【ラビリンス】の隠れアジトを小まめに移動しながら潜伏し、『リベラシオン』を使って修行を繰り返し、反撃の牙を研ぎ澄ませているようだね」
手に持ったカップの中の紅茶に、不安そうなコッコロの頭を優しく撫でているユウキの姿が映った。そして、紅茶が小さな波紋で揺れるとその映像が変わった。
「そして・・・・うん? どうやら【リトルリリカル】の子達がユウキくん達の力になろうと、知り合いであり【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】の一員であるマツリちゃんに話を聞いてもらい、マツリちゃんは団長であるジュンちゃんに相談しようと王宮の門に行ったが結局ジュンちゃんには会えず、先輩で姉貴分でもあるトモちゃんに相談してみたようだ。しかしトモちゃんの方でも、最近の騎士団の様子がおかしく、ジュンちゃんに会いたくても会わせてもらえない状況に、いよいよ兼ねてから抱いていた『疑念』がより一層大きくなったようだね。マツリちゃんと共にこの状況の根幹に1番近い位置にいるであろうユウキくん達の情報を聞く為に【リトルリリカル】の元へと向かったようだ。・・・・はてさて、今王宮にいるキャルちゃんはどうしているのかなぁ?」
タッセルの持つカップの紅茶がまた波打ち、王宮のキャルの様子が映し出された。
ーキャルsideー
キャルは『ユースティアナ』が座っていた玉座に座り、その手に『暗黒剣月闇』を持ち、眼前に立つ【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】の団長ジュンと、副団長オクトーと話し合っていた。
「・・・・報告は以上だ」
「ご苦労様。引き続き、情報の操作を進めなさい。先日の【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】等による、大規模な軍事行動は・・・・全て“死病を蔓延させる恐るべき魔物”等を、討伐するのが目的だった。その魔物を操っていたのは、反政府組織である【ラビリンス】。忌むべき犯罪者と魔物を殲滅する為に、我ら王宮が軍団を派遣した」
先日の大規模な軍事行動に不安がる国民達への情報操作を行おうとしているようだ。
「そう言う物語を広く喧伝し、大衆を信じさせるのよ。現場にはソレらしい物的証拠なども残してきたから、まぁ大丈夫だろうとは思うけど」
『ランドソル』の住民は、平和な町の外には出ないのが普通であり、目撃者は殆どいないので、王宮からの広報を簡単に信用してしまうと読んでいた。
既に昏睡状態になる前から、『陛下』によって人々の思考を捻じ曲げる『魔法装置』を町中に仕掛けていた。
ーーーー恐らくその『装置』により、『ペコリーヌが王女』である事実を捻じ曲げているのだ。
「民は何も疑わず、呑気に平和に、今日もいつも通りの『日常』を過ごすわ。但し、あまり猶予はないのよね。『魔法装置』は陛下にしか動かせない、陛下が魔力を注ぎ続けない限りいずれ動作を停止するわ。そうなる前に、陛下の敵は残らず滅ぼさなくちゃならない。【ラビリンス】の連中等の屍体はまだ見つかっていない・・・・生き延びている、可能性もある」
民達を嘲るような事を言うキャルだが、『魔法装置』や【ラビリンス】の件が片付いていない事に焦れてきている。そして、鞘に収まった『暗黒剣月闇』で地面をコツンと突いてから話す。
「徹底的に捜索し、場合によっては『指名手配』等もして生け捕りにしなさい。最悪、『聖剣』を所持するユウキ以外は殺しても良いわ。彼には、陛下の為に『聖剣』を献上して貰わないと・・・・災いの種は、育ちきる前に摘むべきよね。連中の捜索と捕縛、或いは殺害は、【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】に任せるわ。王国最大の軍事力を存分に発揮しなさい、その為に高い維持費を支払っているのよ」
「・・・・幾つか『問題』がある。いや、問題しかないように思える」
『陛下』の代理人とは言え、少し前まで小姓であった獣人‹ビースト›の少女が、騎士団団長であるジュンに命令するなんて、普通であればおかしい状況なのだが、ジュンは冷静に『問題点』を口にする。
「確かに【ラビリンス】や、ユウキく・・・・その協力者達は、忌まわしい悪党なのかも知れない。まだ彼らが犯罪行為を行った、と言う確実な『証拠』はないが、何故かそう思える。コレが『正義』なのだと・・・・だが、ソレはソレとして。彼らの捜索や捕縛の為に、【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】の戦力の大部分を割くのは、どうかと思う」
唯でさえ副団長だったクリスティーナが離反したり、牢獄にぶち込む際に暴れて負傷者も出て、騎士団の戦力は低下していると告げ、キャルは戦力の増強はしたと言うが、その戦力は碌に訓練もしていない新入りばかりで戦力としては期待できない上に、先日の【ラビリンス】との交戦で更に大量に負傷者が出たとジュンは返した。
町の外ではキャルが操る魔物達を使えるが、町の中ではそうはいかない。
「確かに魔物は使えないわね。アタシの操る魔物達には、町の外で【ラビリンス】の残党等の捜索をさせましょう。町の中では騎士団が誇る団長ジュンの鍛え上げた精鋭を中心にして行動しなさい。まだ、ソコソコの人数はいるわよね?」
「“ソコソコ”、だがな。けれど、我らも存分には動けないぞ。今だって、【ラビリンス】の協力者達の『ギルドハウス』にいる『光の聖剣』を回収できず、『ギルドハウス』の監視で留めているだけだし、来週末に、ランドソルの町では大規模な祭りが開催される。建国以来、今日まで連綿と続けられてきた祭りだ。まさか中止にもできないし、我らはその準備や当日の警備等に忙殺させられる。とても、【ラビリンス】の捜索等には手が回らない」
「ちっ、そんなのがあったわね・・・・道理で近頃町中が騒がしいと思ったわ。お祭りねぇ、そんなもの中止か延期にでもしたい所だけど。そんな事をすれば『違和感』を覚えられ、王宮へと不満が溜まるし、陛下が招待状で手配済みの諸外国からも賓客が訪れる」
ソレに陛下は意外と、祭りや神事とかを大切にしているし、諸外国まで『魔法装置』の影響は完全に浸透していない。妙な動きを見せて、賓客に『疑問』を抱かせる訳にもいかない。仕方なく、祭りは開催される事となった。
「ったくもう。頭が痛いわ、誰かアタシを喜ばせるような報告をしてよ。ちゃんと成果を上げないと、陛下がお目覚になった時に怒られちゃうじゃないの」
「・・・・閣下。取り敢えず我らはお祭りの準備等に注力する、と言う方向てま問題は無いんだな? 【ラビリンス】の捜索にも、ある程度の人員を割くつもりだが」
「あぁ、アンタの良いように進めて。アンタの実力と実績は評価してるのよ、【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】団長ジュン。ただし、定期的に報告の為に王宮に・・・・と言うかアタシに謁見しなさい。ソレさえ忘れなければ、ある程度は自由にやっても良いわ」
「了解。では、早速行動を開始する為・・・・私はコレで失礼する」
焦り出すキャルに、ジュンは騎士団の方針を任せてもらえるようにし、ジュンはオクトーを連れて玉座の間から立ち去ろうとする。
「ええ。期待しているわ、本格的な捜索はお祭りの後になるけど・・・・できればなるべく早めに、ユウキの持つ全ての『聖剣』と、【ラビリンス】の連中とかの首を持ち帰って来なさいよ。アタシ、ソレをお休みになっている陛下の枕元に供えるの・・・・♪」
かなり悪趣味な台詞をジュンの背中に向けて言い放った。
ーオクトーsideー
「(うわぁ、怖〜い・・・・王宮、すっかり『悪の総本山』って感じになっちゃってるよね。就職先を間違えたかなぁ? いやボクも『正義の味方』よりは、『悪者』の方が性に合ってる気はするけどね〜? ここには『悪』にとって1番大事な『自由』が無いよね。どんな偉い人に何を言われようご、好き放題にやりたい事をやっちゃうのが『本当の悪党』でしょ)」
オクトーは玉座に座るキャルに背を向けながらキャルの言葉を聞き、自分の現状に自嘲していた。
「(ーーーーそうだよね、ノウェム?)」
と、何故かオクトーはノウェムの事を内心で呟くと、何やら思考に変なノイズが走ったような気がした。
「(・・・・・・・・・・・・んん、何なんだろ、気持ち悪い。コレはアレかな、どう考えても王宮に出入りしている人間の様子がおかしいし・・・・やっぱり王宮全体に、『精神に干渉する強めの魔法』がかけられてるっぽい? まぁ、ボクは察知して防御してるけどね!)」
しかし、オクトーだけで対抗できる程度の魔法ではなく、操り人形にはなりたくないので、王宮に出入りするのは控えようと考えると、ジュンが話にかけてきた。
「・・・・? どうした、オクトー副団長? 一旦、【王宮騎士団‹NIGHTMARE›】の詰め所に戻るぞ。閣下の指示に従いつつ命令を果たす為に、団員達に説明等をして効率的に各所へ配置する」
「はいはい。上の意向には逆らいませんよ〜、宮仕えって大変♪」
団長であるジュンに軽口を叩きながら、共に騎士団の詰め所に向かう為に玉座の間から出ようとした。
「・・・・うん?」
その際、視界の端にーーーー『蝶々』が飛んでいた気がしたが、王宮には結界が掛けられ、虫1匹入れないので気の所為だと思った。
ーペコリーヌsideー
そして、ここは王宮の地下にある監獄。
「ふんぬぬぬぬ・・・・!」
『王家の装備』を全て奪われたペコリーヌは鉄格子をこじ開けようとしたり、壁を殴ったり押したりするが、装備がなければアヤネやクルミ、【リトルリリカル】の子達と大差無い身体能力しかないペコリーヌの腕力ではビクともしなかった。
「(・・・・私、こんなに非力だったんですね)」
ペコリーヌは、大量のカロリーを消費するのを代償に、無敵の戦闘力を得られる『王家の装備』がないと空腹になる事はないが、『お腹ペコペコのペコリーヌ』ではなくなってしまっていた。
「(無力で、自分では何もできないお姫様に逆戻りです。いつも退屈を持て余して・・・・窓から人々の暮らしを羨ましく思いながら眺めてた、あの頃のユースティアナに)」
不意に以前、自分がユウキに向かって放っていた言葉が脳裏に蘇る。
【ーーーーアナタは『聖剣』が無いと本当に弱っちいですね】
【ーーーー何から何までやってあげると、彼が駄目人間になりそうで心配です。赤ちゃんみたいですね。て言うか王侯貴族みたい】
「(アハハハハ・・・・ユウキくんの事、よくもここまで言えたものですよね・・・・。『王家の装備』が無ければ、1人じゃ何にもできない、無力で弱っちくて、情けないお姫様の分際で・・・・本当に、笑っちゃうくらい滑稽ですね、私って・・・・)」
と、大口を叩いていた自分を自嘲しながら床に座り込み両拳をキツく握りしめているペコリーヌの視界に、鉄格子の向こうから窓もない完全に閉鎖された地下監獄にヒラヒラと飛んでくるーーーー『蝶々』が現れた。
「ーーーー下がりなさい」
「!?」
と、ペコリーヌが目をパチクリとしていると、何と、『蝶々』から声が発された。
「だから、下がりなさい。ソコに蹲っていられると、邪魔ですから」
「えっ、えっ? 良く分からないけど、分かりました!」
『蝶々』が神経質に言うと、ペコリーヌは壁際まで下がった。
「宜しい。素直で助かりますよ・・・・『ユースティアナ・フォン・アストライア』。ううん、今はペコリーヌと呼ばれているんでしたっけ。立場を失い流浪の身となった、運命に弄ばれた悲劇のプリンセス。アナタに用があります。監視者である刑務官が交代の為に姿を消す、短い間だけですが・・・・私とお喋りしませんか?」
「え、ええっと・・・・?」
『蝶々』が喋っている状況に驚き、戸惑っており会話にならないようである。
「仕方ありません・・・・礼儀として、コチラも素顔を見せましょうか」
『蝶々』が牢屋の中に入ると光り輝き、その形が人間の大きさと形となった。
「えっ!? えぇっ!? 蝶々が・・・・魔法??」
「まぁ、その様な物です。『奇跡』、と呼ばれる事象なのでしょうけど」
ピンクを基調とした華やかな衣装に身を包んだスレンダーでアヤネやクルミ位の身長と体躯をした、耳が尖っているのでエルフ族であろう。長いピンク色の髪の毛の先を丸くロールにし、ジト目気味な目つき と冷静で抑揚のない口調で、外見に反して神々しく大人びた印象を与える少女のような外見を女性であった。
「・・・・・・・・」
唖然となるペコリーヌに、その女性は恭しく挨拶をした。
「お初にお目にかかります、ユースティアナ様。私は『変貌大妃‹メタモルレグナント›のネネカ』と申します。アナタがどの程度、我らについての知識を持っているかは不明ですが・・・・この名前に聞き覚えはありますか?」
「・・・・あっ、聞いた事があります! あの金ピカの鎧を着込んだ、マサキっていう人がその名前を・・・・?」
「・・・・あの馬鹿と、何処かで会ったのですか?」
マサキの名が出て少し声色が固くなったネネカに、ペコリーヌは説明をした。
◇
「・・・・生きているのですね、アレは」
「はい。結構な大怪我をおっていた筈なんですけど、口調だけは至って元気そうでしたよ。・・・・アナタの事を、凄く心配していました」
「ふ、ふぅん・・・・まぁ、アレの事は今はどうでも良ろしい。私は別に心配していませんでした、殺しても死にませんからね、あの手の単細胞生物は」
「酷い言い草・・・・」
アレだけネネカの身を案じていたマサキに対する物言いに、ペコリーヌは引いてしまう(自分の事を棚に上げて)。
「でもまぁ、呑気に雑談してる暇は無さそうですしね。その辺は置いといて、今はもっと大事な話をしましょうか。ネネカさん。アナタも王宮に囚われている、と言う話を聞いていましたけど・・・・ご無事だったんですね、ソレはまぁ、良かったです」
「ーーーー無事ではありませんよ。今この瞬間も、私のの『本体』は『ある魔法装置』に動力源として接続され、生き血を搾られるような苦痛を味わい続けています」
「ほ、『本体』? と言うと、今私の目の前にいるアナタは・・・・?」
「ーーーーコレは『分身』です。『魔法装置』に接続されそうになった寸前、肉体の1部を切り離してコッソリ逃がしたのですよ。因みに私には、『変身能力』があります。おっと、アナタのお仲間であるユウキの使うものとは違いますよ。アレはどちらかと言うと、鎧を纏う『装着』に近いものです。私のはこの世に存在する、ありとあらゆる生物に文字通り『身を変える』事ができるのです。やや修練が必要ですが、様々な無機物にも変身が可能です。故に、私は『変貌大妃‹メタモルレグナント›』と言う二つ名で呼ばれる訳ですね。その『変身能力』は、この分身も備えています。ソレにより監視の目をかいくくり、虫や小動物・・・・時には観葉植物よ葉っぱや出入りする人間の装飾品等に変身し、人目を忍んで動いている訳です」
ネネカは、自分の持つ『権能』をペコリーヌに説明し、さらにはこの王宮地下監獄には強力な結界や各種の監視と感知装置も常時起動しており、少しでも変事があればすぐに刑務官には伝わるようだ。
ある程度ならば、ネネカの魔法で誤魔化せるが、ソレでも『分身』程度では短時間までで、ペコリーヌを脱獄させるのは難しいと伝える。更に言えばラジラジとクリスティーナの脱獄で警備レベルも上昇し、自力での脱出は不可能であると。
「全く。私は『例外』として・・・・『七冠‹セブンクラウンズ›』は普通に生きているだけで、周りに迷惑を掛けますね。度し難い」
「えっとぉ・・・・あんまり説明されても分からなかったんですけど、その『七冠‹セブンクラウンズ›』と言うのは何なんでしょう? 私達、ソレが知りたくて調べてたんですよ」
「ーーーー『七冠‹セブンクラウンズ›』とは、この世界を生み出した七柱の神・・・・のようなものです。ええ、その様に理解してれば宜しいでしょう」
『七冠‹セブンクラウンズ›』が、この世界を生み出した神様達だと聞いて、ペコリーヌは驚きを露わにした。
「か、神様なんですか? 何か、スゴく人間味がありますけど・・・・?」
「まぁ、神のような『権能』を持つものの、単なる人間ですからね。神の如き立場で、神の如き奇跡が起こせる、7人の超越者・・・・だと思って下さい。私達の事など、今はどうでも良いですしね。今はソレよりも、目の前の困難を打破しましょう」
と、ネネカは『七冠‹セブンクラウンズ›』の事を一旦置いて、色々と話した。囚われの身だが、アチコチに派遣して情報収集しているが、完全に現状を把握していないので、情報補完の為にペコリーヌから聞いた。