人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です 作:kuroe113
第1話一狩りいこう
1925年3月23日。
その日人類は頂点捕食者の地位を失った。
人類の誕生から長い長い時を経て築き上げらた地位と力も失われるのは一瞬だった。
その生物が一体なんであるのか。そもそも本当に生物であったのかすら今なお専門家たちの議論の的だ。
わかっているのただ一つだけ。多くの人間がある日突然死んだというだけだった。
南緯47度9分、西経126度43分。この人類の生存権から遠く離れた海域で起きた事件は、その小さな一点から瞬く間に世界全土へと影響を及ぼした。
最初に起きたのは津波、地震、落雷、台風といった人類がその長い歴史の中で幾度も遭遇した既知の災害だった。
人類の産業の中心地たる沿岸部に壊滅的な被害をもたらしたものの、新の恐怖は未知の災害だった。
精霊、妖怪、悪魔、そしてもっと冒涜的な怪物たち。
どうにかこうにか、人間の科学によって何が起こったのか、それがなんであるのかを説明しようと無駄な議論だけが繰り返された。
そして最後に真の恐怖がヨーロッパに訪れた。
ヨーロッパじゅうの人間がその戦いを目撃したというのに、誰も語りつかず、歴史書から抹消された恐ろしい事件が。
たった一週間という短い時間の中で3万1083人の死者を出した。
かろうじて、そうかろうじて当時の事件を口にしたものの話によれば3月30日午後6時15分、丁度夜明けごろ。まるで眠るかのように姿を消したという。
あの化け物はいったい何者か。
様々な機関が調査を開始し、やがてかの忌まわしきアラブ人アブドゥル・アルハザード記したネクロノミコンの記述により、かの怪物はクトゥルフと呼ばれるにいたった。
この事件ののちフランシス・ウェイランド・サーストンは伯父が残した記憶から歴史の中に断片としてのこるクトゥルフ教の真実を暴き出しかの邪神の脅威を世界中に警告している。
いわくその神は、ただ眠っているだけだという。
いまだ海底都市ルルイエで星辰がそろう時を死のまどろみの中で待ち続ける。
人類は、自分自身が作り出した叡智を持ってその未知を解明せんと挑んだ。
しかし、行きつく先は常に同じだった。
すなわち、何もわからないという事実が判明したのである。
自分自身の理解を超えた神や悪魔に人々が膝を屈するなか、意外にも突破口を見出したのは日々神に膝をおり、祈りをささげる宗教家や神秘主義者だった。
彼らは、古の書物に記載されている魔法や魔術といったものが、この変わってしまった世界の中で使用できることを発見し、以後、魔法や魔術は戦術、戦略兵器として活用されていくこととなる。
☆
クトゥルフが起こした津波によって廃墟になった街も時ととも復興される。
人間もしぶといもんだよな。
だが、人がわらわらと集まり無計画のままに増改築を繰り返したもんだから、太陽の光が差し込まない、下水がしっかりしてないものだから歩いてるだけで悪臭がする。
そんな、スラム一歩手前の下町で俺たちは別段仲良くもない複数の集団と共同で暮らしていた。
「実はうまい話があるんだ」
「あ~、はいはい、西行さんや、寝言は寝て言いましょうや」
俺の誘いをはなから冗談と決めつけているのか、美香は手鏡とにらめっこしながらサイドテールを整えていく。
「あ~、どこかにもうけ話無いかなぁ~。でも、私たちみたいなスラムの人間に降ってわいてくる旨い話なんて絶対裏あるし」
俺が儲け話があるといったのに、はなから信じてないなこいつ。
「実は、危険だけど大金を稼げる仕事があるんだ。
死ぬ可能性があるけど、上手くいけば大金が手に入る。一発逆転ホームランを目指してみないか」
「もしかしてまだ寝ぼけてるのか、ほら、なんか食え! 元気が出るからな」
嘘と決めてかかるこいつに詳細を教えてやらんとしたところで、外にある炊事場から三人分の朝食を俊樹が運んできた。
それにしてもこいつら、寝ぼけてると決めつけやがったな。
「いや、これまじな話だから」
俺は立ち上がり、この掃き溜めの中で知り合った二人のかけがえのない友人に、これが冗談では断じてないと宣言した。
「ちょいちょい、まさか、最近話題になってる闇バイト!! 私らが金を得ようとしたらそれくらいよね。でもまぁ……」
「お前、まさか……」
「いや、直接人を傷つけることはないからな!!」
俺の本気を感じ取り、信じるつもりになったみたいだが、その方向性はあらぬ方向へとかっとんでいく。
俺、そんなに信用ないのか。
「それで、具体的には何するのよ」
一応隠し話ということで、俺たちは小さな円になるように座った。
俊樹のとりとめて特徴のない肩と、美香の俺より少し低い位置にある肩がぶつかり合うが、いまさらそんなことで文句など言う事はない。
さすがに、これを衆目でさらすのは躊躇があるからな。
俺は二人に口を押さえろと言いつつ、懐から一丁の自動拳銃を取り出した。
「そうか!!」
「え、何やるかわかったの」
今時銃なんてもの、珍しくもなんともないからか、取り出したくらいで俺が何をやっているかわかるはずがないんだが、まあ、一緒に暮らしているくらいだ。なんとなしに察することもあるだろう。
「これを出したってことは、やるのはズバリ! ロシアンルーレットね。それなら一回で大金が稼げるってのも納得よね!」
「おい、そんな危険なことに俺たちを巻き込むな!」
「いや、お前らの勘違いだからな!」
拳銃出して、大金稼げるって話をすればギャンブルのほうにいったのか。
考えてみれば、あり得るラインだな。
だが、違うんだよな。
「いいか、俺が今からやろうってのは、もっと安全で社会に有益な話だからな。
これからやろうっていうのは、化物退治だ!
実は、あいつらを狩って売りつけばいい値段がつくんだよ」
「化物退治って、あの低位の化け物でも駆除までに最低数人の犠牲者が出るっていうあの化物退治!」
「その死骸すら、一体どんな害があるのかわからないから、必ず焼却処分しろって政府が念押ししてる、あの!」
二人がそろって驚きの声を上げた。
「それ危険度で言えばロシアンルーレットとどっこいどっこいだよな」
最後に俊樹がそういって締めくくれば、二人はああバカらしい。あいつまだ絶対寝ぼけてるよな、と言って俺との会話よりも飯を優先しだした。
この、薄情者。
「悪いんだけど、マジな話なんだ」
「いくらなんでも危ないって。化物退治なんて。ゴミ拾いでもなんとか食っていけるんだからさ」
「本当に、これでいいと思っているのか」
とにかく安いキャベツの炒め物と、ご飯だけの貧しい食卓を俺はじっと見つめた。
俺は水と米だけの生活で満足するつもりはなかった。
時々庭で育てた野菜も食えるが一日二食。ひどいときには一食の生活なんてもの俺は願い下げだね。
だから秘密兵器。
ーーチラッ!
俺は懐に大事にしまっていた札束を二人に見せた。
「えっ!!」
驚き、さっそく情報漏洩しようとする美香の口を俊樹がふさいだ。
「実際、怪物退治をした俺の感想だが。武器さえあれば、そう難しい話じゃない」
「それは本当か」
実績を見せたことで、俊樹のほうが一気に俺に友好的になった。
「でも武器が、豆鉄砲一つってのはな」
「こんなところに、高価な武器もってくるわけないだろ」
「少し場所を移そうか」
どうやら、真面目に話を聞いてくれるようになったみたいだ。
「まぁ、男どもが乗り気なら、でも、なぁ」
一方、美香はまだ踏ん切りがつかない様子だ。
それでも、俺と俊樹二人が賛同するというのならと、手に持った食事を一気に腹の中に掻きこみながらついてくることを選んだ。
この話はクトゥルフ神話TRPGをモデルに、ファンタジー要素をもりもりにした感じです。