人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です 作:kuroe113
「この数いくらなんでもおかしくないかな。これ絶対近場に植物人間の製造工場か、拠点があるよね。
そうじゃないとここまでの大軍をそろえることって不可能だし」
閃光弾を使ったせいで敵を集めてしまったというのに、自分は悪くないと、人間もどきが自己弁護した。
前方にいる植物人間、そのうちエリートが5匹、ノーマルは21匹。
堅牢な布陣を見るに、この主張もあらがちでたらめではないなと俺は思った。
それならばそれで、お前、ルート選択間違えやがったなと非難したいが、もはや後の祭りだった。
なにせ、囲まれたのだ。
前にも後ろにも、そして矢を飛んできた方角を思えば左右の家やらビルにも植物人間がいる。
端的に言えば袋のネズミだった。
「家の中に逃げよう。そこなら遮蔽物で多いし、矢で狙われることもない」
状況を打開するためにビルへと逃げ込もうとした俊樹を止める。
確かに、現状逃げ込める先など近場の建物くらいだ。
高台からの射撃に、前後からは植物人間が迫りつつある。一刻も早く身を隠さなければならないのはまごうことなき真実だ。。
ーーだが、それでいいのか。という疑心が足を鈍らせた。
ここまで完璧に待ち伏せを決められたのだ。
そんな相手がこうも簡単に逃げ道を放置するのかと、罠の可能性が頭から離れない。
もちろん偶然ということもある。
先ほど人間もどきが言ったように、この先に拠点があり、俺たちが偶然そこに足を踏み入れたならこの数と布陣も十分納得できた。
急増の人型兵器にそこまでの知能があるとは到底思えない。だが、こいつらを侮ったからこそ、今の窮地があるのもまた事実だ。
こいつらが人間並み、あるいはそれに準じるだけの知能を持っているならば……。
考えすぎと自分でも思うのだが、その可能性を否定する根拠もないのが実情だった。
「ほら、速く逃げ込むぞ」
言語化できない、しいて言うならば直感というあいまいな理由。そんなもので足踏みする俺たちに変わり、俊樹が先陣を切った。
その横を一線の矢が通過した。
人間もどきがすぐさま俊樹の服を引っ張り押し倒したからこそ、かすり傷で済んだが、そうでなければどうなっていたか。まったく、肝が冷える。
「これはもしかして、牽制なのか」
やはり、あの窓は罠だったのかという納得とただの張ったりではないかという疑惑が勝負していた。
どうして植物人間は窓から遠い位置で狙撃した。
我慢しきれなかっただけともとれるが、ろくな戦力がそろえられていないから、遠ざけただけとも考えられる。
もしも勇気を出して、この窓に飛び込んだのならば、中はスカスカだったという展開もあるだろう。
勇気を出して踏み出すべきかと一瞬考えた。が、ぽっかりと空いた窓の先にある深い深い暗闇に自分の魂が飲み込まれていくように感じらてしまう。
結局、俺はそこに足を踏み入れなかった。
「後ろへと逃げましょう。まだ目視できる分だけ対処がしやすい。
前に拠点がある可能性も否定できませんし、身を隠すにしても見知った場所のほうがやりやすいでしょう。
先陣は私が切ります。敵を押さえている間に皆さんは撤退を」
人間もどきの策に賛同することにしたからだ。
ーーだが。
そのままただ従うのは気に食わない。俺は何かを口にしようとして、結局何も言えなかった。
何せこいつの提案は俺たちにとってこれ以上ないほどに都合がいいからだ。
俺と俊樹の生存のみを考えればこいつを囮にするのが最も効率がいい。
そして、こいつは自分から囮になると言い出した。
その状況でわざわざ相手の気を害してまでいちゃもんなど付けられるはずもない。
が、胸のうちのは何かもやもやとしたものが蓄積していく。
素直にうなずけないのはプライドが原因だった。
人間もどきは俺たちを無償の献身によって救おうとしている。このままこいつに囮になってもらい逃げると、こいつに一生大きな借りを作ったままとなるのだ。
大嫌いな存在から施しを受けたままにするというのは気分がいいものではない。
自己分析が終わり、次に状況分析をした。この状況で俺に何かできることがあるのか。答えはなしだ。だってそうだろう。この状況で離ればなれになればもう合流など無理だ。借りを返すことなど不可能である。
「そのありがとう」
ためらいながらも、最終的に俺は意を決する。
自分でも意外なほど素直にお礼の言葉が口から出た。
人間もどきのほうも、俺からそんな殊勝な言葉を聞けると思ってもいなかったのだろう、目を丸くした。
もちろん、俺は今でも混血や化物が全員死ねばいいと思っている。
けれど、自分のために命を懸けてくれた誰かを冷たくあしらうこともまた、俺の吟味を傷つける。だからこそ、最後の手向けを送ったのだ。
結果から言おう。その覚悟は無駄となった。
さあ、これから決死の脱出劇を行うぞというまさにその時だった。
突然植物人間の足が止まったのは。訳の分からない異常事態に俺たちは固まる。
本来なら飛び跳ね抱き合い逃げられると歓喜してもいい場面だが、時が止まりでもしたようにただただ俺たちは睨み合っていた。
嬉しさよりも困惑が勝つ。
「何をしているのだ、わが同胞たちよ」
いったいどうしてこうなったのかと、原因を探せば威厳の中にどこか穏やかさを含む声が響いた。
この植物人間の突撃を止めた誰かは敵か、味方か。それを見極めなければならない。
少なくとも植物人間に何らかの命令をしたのだ。敵側、もしくはその関係者に違いない。
だが、俺たちを助けたのもまた事実。いったいどういう意図があるのか……。
覚悟を決め、声がしたほうを見た。
その姿を捕らえた瞬間、俺は銃を、人間もどきは釘バットを構える。
引き絞られた矢のように、いつでも突撃する準備を整えたのだ。
ところが、俺たちの前に一人の影が躍り出て突撃を止めた。
「今アイツは何か話してるよな。攻撃するにしても、それが終わってからでいいだろ」
何を悠長な。と思うが、この絶体絶命の危機。敵はその気になればアリを踏み潰すように俺たちを消せる。
そして、横にはこいつらにとって人質の価値がありそうな混血が。
もしかしたら俺たちを捕虜にするつもりかもしれない。
だとしたら、しばらくは殺される心配もないだろう。
難しいが、隙を見て脱出できれば……。
と、シミュレートしたが、すぐにそれを妄想だと切り捨てた。
その緑の肌、来ている鎧から見ても、こいつが植物人間と同種なのは確実。
しかも、言葉を口にしているのだ。
こいつが植物人間の親玉、そうでなくても最上位の個体なのは間違いない。
そんな敵幹部がのこのこ目の前に現れたのだ。
たとえ、危険を冒してでも、突撃すべきだという結論に達した。
さて、どうやって俊樹というストッパーを納得させるか。
俺がそんなことを考えているのを知ってか知らずか。
辛うじてではあるが、話を聞いてくれそうだと判断したのだろう。植物人間の推定親玉がわずかに気を抜くと同時に、隣にいた暴走機関車が動きだした。
道路を陥没するほど力強く蹴りつける。
そのロケットが向かう先は当然敵がいる場所だ。
「まて」「いけ」
俊樹が静止を、俺はゴーサインを口にする。
それが俺たちの違いだった。
「チェストオオオォォォ!!」
どこか聞き覚えのある声とともに、思いっきりバットをふるう。
遠く離れたこの場所にも、風切り音が聞こえた。
「ま、まて!」
対して植物人間の親玉は、手を前に掲げて、敵意がないことをアピールする。
それはミスだ。
人間もどきは何をどうしようとも止まれないところまで踏み込んでいるのだから。
バットが振り抜かれれば、瘦せ型であるが、それでも成人男性と同等の体躯を持ったそいつは錐揉みしながら宙を舞う。
最終的には、ビルに思いっきり頭からぶつかり、小さなクレーターをつくったところでようやく止まった。
争いによって発生した土煙がそいつの姿を覆い隠す。
「再生能力持ちか」
俺の目線では何が起きているか分からない。
だが、人間もどきの目線ではしかと敵の能力が見えているのだろう。
いまだ、構えを解かず、土煙をにらみつけていた。
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