人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です   作:kuroe113

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第24話照

「ああ、疲れた」

 

 弱音を吐いているが、井筒は息一つ乱すことなく作業を終えていた。

 結果だけを見れば疲れたという言葉は虚言だ。しかし、彼の働きの証拠が足元に転がっている。

 そこに転がっているのはバラバラにされた植物人間の死体。

 数が多いのと、多くの個体が身体を欠損しており、井筒自身も数を数えようと思っていなかったので、何体転がっているかは神のみぞ知るといったところだ。

 本人が軽い調子で言ってはいるが、その仕事量は驚嘆に値する。

 

 誰かがこの場所を検分すればその異常さに首をかしげることは請け合いだ。

 多くの植物人間が一刀両断されている。

 優れた武器があればこれくらいは優れた戦士なら可能だろう。

 問題は切り口だった。

 大きく分けて三種類。

 一つ目は鋭利な刃物で一刀両断。

 二つ目は大きな力で強引にその場所をえぐりとったかのような雑な切り口。

 そして、三つ目。これが実に不可解だった。

 上記二つも謎と言えば謎だが、それでも再現しえないこともない。

 しかし、これだけは科学的なアプローチでは説明不可能だった。

 

 その特徴的な切り口は一切傷がないのだ。

 それでいて、おもちゃのように確かに切り捨てられた植物人間の腕が転がっている。

 

 切断されてはいるが、そこには怪我や傷跡らしきものは一切見えない。

 魔術によるものというのは明白。

 素人であれば倒した数に注目するだろうが、魔術の玄人がこの光景を見れば三つの攻撃手段を用いて敵を圧倒したことにこそ注目しただろう。

 魔術というのはその性質上、一人一種類しか使えない。

 他の魔術を使うにしても、その術式の基礎と言える単純なものならどうにかなる。が、複雑なものになると前準備に特殊な儀式、もしくは長い時間のクールタイムが必要不可欠となってしまう。

 

 一つの方法ではなく複数の方法で化物を始末したのだ。それだけで術者の技量の高さが証明されていた。

 

 

 とはいえ状況が状況だ。

 本来ならこの戦いも、ま誰にも語り継がれることもなく歴史の闇に消えていくはずだった、

 しかし、その勝利を祝福するかのように拍手の音が鳴り響く。

 

「あんたも強そうだし。援護くらいしてくれてもよかったんじゃないかな」

「それは買いかぶりですよ。ただの大学生である私にこの状況をどうにかしろだなんて」

 

 物陰から現れたのはまだ若い女だ。

 スーツを着ているからOLのように見える。が、本人の言葉から学生というのが分かる。就活生だろう井筒は辺りを付けた。

 同時に、油断できない人物だと判断した。

 

「それで、志望先は軍か、警察か、陰陽寮という線もあるな。それだけ腕がたって術式の理解も深いし」

「残念ながらすべて外れです。ただ単に才能があったからできただけ。生憎と私は、才能がある、ただそれだけで人の道を決定するとは思わない」

 

 会話をしている間も、情人であれば恐れ忌避するであろう植物人間の死体を女は飛び越えた。

 その時、風に流されるように女のポニーテールが揺れる。

 

「一つ提案ですが、私と行動しませんか。あなたの足を引っ張るようなことはないでしょう。

 ああそうそう、私は東阪照。よろしく」

「大木井筒だ、よろしく」

 

 差し出された細い腕を井筒は握り返した。

 彼の目から見ても、照が役に立つと判断したからだ。

 

 

「これは……、うちの呪符か。方々で売り払ってきたが。それが周り周って俺の手助けになるとはな」

 こんな地の果てで自社のヒット商品に出会ったのだ。

 情けは人の為ならずということわざを井筒は思い出していた。

 

 それを四方に展開することで簡易的な結界を形成する。

 もう大丈夫よと照が手を振ると、部屋の奥で震えていた7人の男女が安心したように彼女を出迎えた。

 

「私はね、自分の家で非難している妹を探しにここに来たのよね。とはいえ、こんな状況だし、ろくに出歩けもしない」

「つまり護衛をやってくれってことか」

「そう、私簡易結界ならいくらでも張れるし、連れていくのが難しい避難民を簡易シェルターに押し込めるのは役に立つ技能だと思いますよ」

 

 結界を張ってくれたお礼にと差し出されたビスケットをコーヒーで流し込みつつ、照はさらなる成功を求めて英気を養っていた。

 

 

「その、いざ戦いになってもやはり外に出たのは間違いでした、となっても助けられないぞ」

 

「戦闘経験がないのがそんなに不安。訓練を受けただけの素人がいざとなったら慌てふためき、取り乱す。そういう話が多いですしね」

 

 照は井筒にビスケットを差し出した。井筒はそれを素直に受け取った。

「妹を助けるために命を懸けると」

「金のために命を懸けるよりかは健全だし、よくある話と思わない」

「そうだな、行くか」

「ええ、行きましょう」

 

 こうして話は決まった。

 最後に、ここにいる住人の為にお守りや魔除けを渡し、二人は行動を開始する。

 

 

「さて、実は私目を付けているものがあるのよね」

 

 照は地図を取り出しある一点に〇を付けた。

「ここが私の家」

 

 次に、病院がある場所に〇をつけ、それを一本の線でつなぐ。そしてその中間点にバツ印を刻みつけた。

 

「さっき打ち上げられた花火。あれって私の家と一番大きな避難所。病院の中間にあるのよね。その避難民に話を聞きたい。もしかしたら私の家の状況を知っているかもしれないし」

 

 その声を聞いて、井筒は笑い出した。

 

「今の話のどこに笑うところがありましたか。人が真剣に妹を救うための話をしているのに失礼だとは思わない」

 

 怒りを露にする照に井筒はそんなつもりはなかったと素直に謝罪した。

 

「そのなんだ。実はその場所が今の俺の目的地でしたっておちだ。目的地は同じみたいだし。俺は安全圏を創り出せる道具、つまり、今あんたが使っている護符の上位版を持っている。

 どうにか避難民を集めて籠城しよう」

 

「それはまた」

 

 道中で偶然出会った。ただそれだけの関係のはずだったのに、さらなる偶然が両者をさらに強く結び付けていく。

 

 

 そしてーー。

「何でこんなに植物人間がいるのよおおおぉぉぉおおお!!」

「叫ぶ暇があるなら手を動かせ、弾幕を途切れさせるな。近づいてきたら俺が片づけてやるからさあ」

 彼らは植物人間の大群に行き当たっていた。

「ふと思ったんだがさあ。俺たちは植物人間を挟み撃ちにしてないか」

「どういうこと」

 近寄ってきた植物人間を一気に切り裂きながら、道の先で戦っているだろう後輩ことを井筒は思う。

「この先で戦っているのは俺の同僚だ。

 あれだけ重たい金属製の武器を振り回すのはあいつくらいだしさあ。その有能さを俺と一緒にいた時に発揮してほしいものだよ」

「つまり、あなたの同僚はここから見て前方で植物人間を潰していて、それを後方で私たちが突き上げているわけね」

 この先はいまだ見通せぬ闇の中。一寸先はまさに闇。それ故に断定はできない。だが、井筒はこの先で、波子三が戦っていると確信していた。

「それはつまり、合流さえできれば面倒な結界を張る必要がなくなる。だったら、ここで大盤振る舞いよ」

 そう宣言するとともに、照は鞄の中から両手いっぱいの紙を惜しげもなく取り出した。

 その中には先ほど、家の住人を守るために使用された上質な呪符も数多く含まれている。

 

「クリエイト・プリンター。風魔手裏剣」

 右手を前に掲げ、左手には一枚の写真。

「まさか、写真の形に紙を」

 

 ひとりでに紙が動き、そしてそれは手裏剣の形をとった。




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