人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です 作:kuroe113
いつか見たラジオの会話で、建築家に質問があった。
あなたが行った仕事で最もつらい仕事は何だったか。
それに対する建築家の答えが病院の設計だった。
あれほど美意識のない建物はほかにないと建築家は嘆き悲しむ声が聞こえてくる。
大衆に向けた質問があった。
この世界で最も醜い建物は何かと。
アンケートに関してはメディアが印象操作がたびたび問題になるものの、誰一人として結果に疑問を感じることはない。80パーセント以上の得票率を獲得し、病院が選出された。
今ではこの世界で最も醜い建築物は何か言う質問で、多くの人間はそれが病院だと答えるのだ。建築家も作りたくないものを作らせるなんて大変だなと皆で言い合ったのを憶えている。
狭い敷地内でどれだけの人間を収容できるのかと考えに考えた末に、一周回って何も考えないことが正解だという真理から、その建物は無機質な四角形だった。
その屋上には神社。塀にはガーゴイル、東西南北を囲む四方には四聖獣の像が並ぶ。
宗教に少しでも含蓄があるものが見れば困惑することは間違いない。
異なる宗教、文化の複合こそが日本文化の本質だと俺は理解していた。けどな、言わせてくれ。
何でもかんでも足し算で付け足していったとしてもだ。やくざのお化けみたいに、恐怖に恐怖を足しても、ものすごく怖いものが生まれるわけではない。
たった一言でこの建物を表現するならばげろじゃぶ……だった。
時刻は正午。
騒がしい街だろうと、草木ですらも眠りにつく時刻だというのに、植物人間はあくせくと働いている。
人間も、今は災害時だということで、いたるところで銃声なり爆発だのと戦闘音が鳴り響かせ、とてもではないが、枕を高くして眠れるような状況ではない。
美意識をガン無視してとにかく頑丈さだけを追求したここもまた戦火から逃れることができていなかった。
混乱と狂気がここを覆う。
隠れている誰かがいないかと植物人間が徘徊し、運悪く見つかったり逃げ遅れたりした人間が叫び声をあげるも連行される。
運ばれる先は、この世界を生み出しているのだろう世界樹の根っこ。そこに生贄として捧げられていた。
幸運といえるのは、この結界の中枢である社がいまだ無事だということくらいだろう。
ここが最終防衛ラインだ。
高い金かけて作りましたが力及ばず破られました。という無様をさらすことなく、避難民を守るべくその機能を発揮している。
発揮しているのだが、限界は近い。
ここら一体の人間がここを非難先と選んだのだろう。
人が押し合いへし合い、ぎゅうぎゅう詰めになるという珍事を引き起こしていた。
それでいて、結界を破ろうと植物人間が外から暴力で訴えかけてくるのだから、結界の中の人間は気が休まる間もない。早く助けてやらないとな。
というかこれって、確実に踏みつけられたりとかして死んだ人間、あの中にいるよな。
「なあ、これどうする」
この状況の中、俺はあほ面をさらし、茫然とその場所に立つことしかできないでいた。
だって、そうだろう。俺たちはここに来れば助かると思っていた。
この場所であれば美香を救えると思っていた。
どこよりも安全なはずという信頼があったのに、裏切られた。
勝手に期待したうえで裏切られたのだから、自己責任と言えばそれまでだが、危険を冒してまでここまで来た結果がこれなのだから嘆き悲しむくらいは許されるはずだ。
「と、とりあえず安全な場所、そう安全な場所が必要よね」
「というかもう逃げ場なんて、もうおしまいだよ、これ」
慌てふためき、とにかく打開策を考える波子三。いっぱいいっぱいになってどうすればいいのかを完全に見失っている俊樹。
これまで助け合ってきたこいつらにしても完全に道標を失っていた。
「まずは城を落とす。敵の将は容赦なく兵を動かすものだな。しかし、これは……」
「病院への攻撃って。人と人との戦闘なら効率的だけど取れない戦法だよな。とりあえず、ここの結界では収容限界みたいだし。
予定の通りに、近場の神社で結界を敷設しよう。そっちのほうがまだましだろ」
植物人間の親玉、井筒。
戦場を日常として職業として戦っているこの二人はこの絶望的な状況でも動じていなかった。
目の前の絶望も主観排し、単なる情報としてとらえ向き合っていく。
住んでいる世界そのものが違う。
自分とは決定的に異なった価値観。戦士として生き、戦士として過ごしたものの見る世界は俺が見ている世界と違っていた。
こんなどうしようもない状況であったとしても、周囲に冷静な人間がいるというならばどうにか落ち着けるもので。
「もうここにいる全員であの化け物を殺さないか。だって、そうだろう、向こうのほうが戦力は上だけど、孤立しているし、あいつがいなくなればこの忌々しい結界も消えるはずだ」
計算7、願望3。
私怨と計算が入り混じった提案を俺は口にした。
「そもそもの話。あの少女の皮をかぶった何かを退治したところで結界が消え去る保証がないんだよな」
混血の指摘に、はてそれはいったいどういった意味だと俺は首を傾げた。
「どういうことだよ。術者が消えれば結界も消えるんじゃないのかよ」
俺の疑問を俊樹が先に口にした。
それに対して、混血はまっすぐと天にまで伸びているのでないかと錯覚させる巨木を指さした。
「術者って、あの少女じゃなくて、あっちだろうしなあ」
それはありえる。
俺は今まで結界を張ったのがあの化け物だと思ったが、あっちの柱だった場合あの女はせいぜい植物人間に指示を出しているだけの存在だ。
……それだけでも十分殺す価値がある気がしてきたぞ。
「殺したところで、植物人間の恐怖は終わらない。
それにこれを見てみろよ」
そういって、混血が渡したのは一つの水晶。
どういった意味があるのかと俊樹と俺は目を凝らした。
「もしかして、これった水晶の中に太陽系が刻印されてるのか。ものすごく高そうだね」
「いや、これは、少しずつだけど動いている。それにこの魔力。
天体魔術によってこの星とリンクしているのか」
「正解。これは結界の中にいたとしても大まかな現実世界の時間の流れを把握できる時計なんですよ」
俊樹の高そうというのもあながち間違いではなさそうだ。美術的な価値が高いだろうし、限定条件とはいえ実用面もそれなりだ。
だが、いったい何の意味がある。今さら時間を知ったところで。
「この時計の問題は大雑把な時間しかわからないことだが、月の動きで大雑把な時間さえわかれば十分だ」
つまりこいつらは援軍を待っているのだ。
「待て、そんなにすぐに援軍はこれるのか」
「さすがに、軍は来ないが、うちみたいな少数精鋭ならいけるだろ」
「ボスなら、日の出と同時にこの場所を襲撃するのも可能じゃないかな。
政府の上層部は反乱なり逃走を恐れて、私たちを小出しにしか派遣しないけど、
ここまでの大ごとになってくればさすがにボスにも出撃許可が下りるだろうし。
一番いいのがうちの警備会社が全員出撃できることだけど」
装備や移動、そして結界の突破。解決しなければならない問題というのは正直言って無数に存在している。
だが、混血たちの戦闘能力がどれほどのものかわからないものの、こいつらレベルが十人、もしくは二十人と投入させることが可能ならばこの戦況も大きく変わるというのは納得できる話だった。
「わかった。朝になれば確実ではないけど何かしらの援軍がやってくる。ならこのまま逃げ回ってあの女をこちらに釘付けにする。作戦としては悪く無いよね」
俺も俊樹も援軍が来るのであれば、それまで時間稼ぎをするのは賛成だった。
つまり、ここにいる大将を連れて逃げ回ればいい。
「なら、儂が囮になろう」
さて、後はこいつの了承だけというところで、間髪を容れずに大将は無茶な課題を了承した。
☆
歴史としては七百年前。高時の「体感」としては昨日の出来事だった。
武家の棟梁、名高い僧侶が居を構える街並み、そこから一歩外に出ると野菜や米をうる市が並び、酒に酔った町民なり農民がどこかで聞きかじったのだろう和歌を口ずさむそんな平和な町だった。
その安穏とした雰囲気はたった、一月、二月で失われる。
悲鳴を上げ逃げ惑う人々、灰燼にかした街並み。そして炎で包まれた我らが先祖を祭る寺だったもの。
そこで、この男は腹を切ったのだ。
彼に付き従う多くの武士とともに。
これだけの人がいるのならば、と男が考えなかったのはうそになる。
だが、男は所詮傀儡、ただのお飾りの王に過ぎない。
自分が生き延びても、何もできなかっただろうというのが、悲しいかな、彼が最後に出した結論だった。
だが、そう。だが、それでも。
「父上! 父上えええぇぇぇ!!」
後悔ばかりの人生だった。
あの時ああしていればこうしていればなんてことはそれこそいくらでもあった。
しかし、後悔というものをこの男はすべて精神的にも、そして物理的にも焼き尽くしてしまっていた。
ただ一つ、そうただ一つ彼の中に思い残したことがあるとするならば。
何度も何度も、こんなどうしようもない父親であるこの男を名残深そうに振り返ってこちらに呼び掛けてくる子供たちの存在だった。
あの戦火の中、あの子たちは生き延びたのだろうか。
執権北条家はあの日終わった。
あれほどの被害があったのだ。
北条家の再興はかつて執権であった高時自身あきらめていた。あきらめたからこそ腹を切ったのである。
高時としては細々としたものでいいので北条の名を、いや、あの二人が生き延びてさえいてくれればそれでよかった。
だから。
「敵の追撃が怖いのであれば、儂がおとりになればそれでいい」
「あんたが、死ねば敵が増員されるんだよな」
だとしたら、その時の影響を考えてもっといい方法はないかと苦悩する井筒に高時はたずねる。
「一つ問いたい。
今の、日の本の勇士たちはかつて日の本一の兵とうたわれた我が精鋭を打倒できるのか」
「そりゃ、まあ」
何気ない返事。植物人間はどこか寂しそうだった。
千年の月日を越えたこいつが何を考えているのか、誰にも想像すらできない。
「そうだな、そのはずだ。
街並みを見ればわかる。
一つ一つの家、建造物がかつての儂の御邸よりもはるかに立派なものだ。
これが月日か、これが千年か」
ただ、過ぎ去り師と気に思いをはせるだけだった。
もしも、この作品を見て面白いと感じたらお気に入り評価をお願いします。