人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です   作:kuroe113

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第28話マンドレイク

 勝てるという宣言に、大将は黄昏る。

 俺に言わせれば甘えるなとしか言えない。時に人類というのは後退するが、常に前を歩いているのだから。

 過去の遺物が現代に勝てるはずもない。それが一つの心理だった。

 だが、もし。現代を生きる俺が千年前からやってきた此奴の言動に何か思うところがあるのならば……。

 俺たちはお前を超えたという勝利宣言なのだろう。

 

「なら決まりだな。波子三が護衛。俺は結界の設営。姉ちゃんは……」

 

 混血が戦力になる人物を割り振っていく。お前何様だと言いたいが、この少ないメンツでやりくりするにはこれが最善か。特に敵対してまで何か意見を口にしたいことはない。ただ黙って話を進めていく。

 ただ一つ文句を言うならば、俺が戦力として数えられていないことだ。

 今回の事件で逃げることしかできていない俺が話をまぜっかえすことはしないがな。

 

「期待しているのはわかるけど、それが戦略上マイナスでも月与のそばを離れることはできないわね」

「俺たちも、戦力にはならないけど美香を最後まで見届けたい」

「そうか、なら、一つお芝居をお願してもいいか」

 

 時間は取らせないと井筒は悪そうな笑みを見せた。

 

 

 さて、その井筒が提案したお芝居というのは、

「私は軍のエージェントです。こちらにはより強固な結界を構築する設備があります。

 もしも、危険を冒してでもより安全な場所に行きたいというのであれば私についてきてください」

 

 政府の役人の振りをすることだった。

 

 

 というか、軍のエージェントってなんだよ。

 今すぐに、照さんの失敗を指摘したいがここは何も言わない。

 もしも本物の軍人だったら、軍曹、中尉、大佐といった風に、しっかりとした階級と所属を口にしただろうが、生憎と軍の細やかな階級の違いに対する知識は俺たちにはなく、苦肉の策で勢いでごまかすことにしたそうだ。

 階級章を始めとする身分証明が可能な品物が一つもないのだから勢いでごまかすしかないのは分かるが、もっとうまい方法はなかったものか。

 

 仕方なしに、かなりあいまいな表現でお茶を濁すさまは見ているこちらがいたたまれない。

 

 裏事情を知っているこちらからすれば、こんなものでだまされる奴なんていないと思うが、意外なことに周囲の人間は信じ込んでいるようだった。

 それも当然か。この話に真実味を及ぼしているのは混血が持つ力だ。

 これまで自分がさんざんと苦労して相手してきた、植物人間を気前よく井筒が吹き飛ばした。その圧倒的な力が疑問点すらも吹き飛ばす。

 ノリと勢いでこの事態を解決しようという作戦だった。

 

 こんな裏事情を知っている身としては、絶対にばれるだろうという作戦内容だ。が、自分たちをこの窮地から救ってくれた彼らが救世主か何かに見えたのだろう。

 それとも、力を目にしてついていけば自分たちは助かると考えたのか。皆が案外素直に従ってくれた。

 こいつらの結界に不安は残るが、ここまで攻め込まれたのだ。突破は時間の問題。ならギャンブルに乗るのもまた作戦と言える。

 

 

「意外に様になっているよな」

「そうか、俺にはへたくそな演技としか思えないけど。でも、こんな素人演技でも、運が良ければ看護師なり、医者が美香を見てくれるんだ、嘘もまた方便てやつだ」

「その感謝の念があるなら、もう分かっているよな……」

「ああ、もうここでは混血に噛みつかない。あいつらの協力がないと美香の治療どころじゃなくなるからな。

 こんないつ襲撃が来るのか分からない場所よりも、あいつらが構築する安全地帯のほうが、設備は劣るがいくらかましだ。

 こんなおんぶにだっこの状態だ。借りができたし、その借りを返すまではおとなしくしているさ」

 

 

 そんな風に、俺が自分自身の感情に決着をつけている間に、あいつらもあいつらで医者との話し合いがすんだのか、白衣を着た初老くらいの男を引っ張ってきた。

 

「それでどうなんでしょうか、い……、この患者は、先生」

 

 自分は軍人。この子は偶然拾った一般人ですと言う設定でも作ったのか、妹はと口にしようとした照さんを井筒が肘で小突いた。

 

「こちらの女の子は単に出血のせいで気を失っているだけですね」

 

 それを聞いて、胸をなでおろしそうになる照さんを再び井筒が小突いた。こいつら、いったい何度これをやるつもりだ。

 

「ですが……」

「もうこれだけの深手を負っているんだ。たとえそれがどんな結果でも驚きません」

 

 次に、医者が美香を診察した時、言葉を濁した。

 聞きたいのかと視線を向けると、俊樹が構いませんと先を促す。

 それがどんな結果だろうと受け入れる覚悟は済ませていた。

 

「分かりました、では。正直な話、どうして生きているのかまったくわかりません。これだけの怪我、これだけの傷を負っていれば普通はショック死しているのに。

 まるで体内に血液を創り出す何かがあるかのようだ」

 

 医師は匙を投げた。覚悟はしていると宣言したが、絶望に膝をつき、医者へもっと何かできるんじゃないのかと悪態をつきそうになるが、何とか飲み込んだ。

 

 

「何もないところから血液ね。それって、最近内で栽培を始めたマンドレイクの薬効に似てるよね」

「確か、一華さんが育ているあの! 試験段階だから安全かどうかわからないって話をした記憶があるが……。悪い、あまりのゲテモノだったから、関わり合いにすらなりたくないと真面目に話聞いてなかった」

「マンドレイクなら、美香はつい先日口にしたよ」

「マンドレイクの密漁に出かけたんだよ。あんたらの知っている一華出会っているのかどうかは分からないが、そいつに実験だと言われてマンドレイクを無理やり食わされた」

 

 その事実を聞いて、波子三は目の色を変えた。

「嘘、あの一華さんが密猟者を見逃した。ルールはルールだと言ってあんまり融通が利かない人なのに!!」

 

 本当に、それが彼女たちが思い浮かべている一華なのか分からないが、まぁ、おそらくは同一人物であるのには間違いないだろう。

 

「なるほどね、だから生きているのか」

 

 と、波子三はこの異常な生命力にどこか納得したようだった。

 そして、この話は俺たちにとって希望でもあった。

 

「だったらさ、もっとマンドレイクの薬があったら美香は助かるってことだよな」

 

 俊樹が混血どもに詰め寄り、薬はないのかとたずねた。

 もしもあるというのなら、俺も土下座でも何でもするつもりだ。

 

「残念だな。マンドレイクの薬は持ってきていない。そもそもの話、あれはまだ安全性に疑問が残る代物なんだ。本当に使えるかどうかわからないものをわざわざ持ってくるはずないだろ」

 

 そういえばそんなことを言っていたなと、俺は一華との会話を思い出した。

 

「代わりに仙豆ならありますけど」

 

 そういって、薬箱から取り出したのはこいつらが薬として活用している豆だった。本当に効果があるか分からないが、それでもないよりはましか。

 

「なら」

 

 受け取ろうと伸ばした手を井筒が止めた。

 

「いや、それは取っておけ。ただでさえ希少な薬だ。それに、ここまで深手を負ったのなら焼け石に水だろう。そもそも、飲み込めるかすら怪しいぞ」

 

「てめぇ」

 

 残酷なトリアージを撤回させてみせると、俺はこの人間もどきに掴みかかっていた。

 

「まぁ、落ち着け。確かに、仙豆では焼け石に水だが、俺たちにはこいつを救う手立てがある」

 

 もっとも、その握り締めた多はすぐに緩むこととなったのだが。

 

「これから来る救援、そう、俺たちのボスなら、この状態でもさほど時間をかけずに治療できる」

「なるほど、つまり、あんたらに引っ付いて全力で救援活動の手伝いをすれば運が良ければ美香は助かるってことか」

「ああ、その通りだ」

 

「よし、西行。こちらにデメリットないし、受けようよ」

 

 デメリットがないか検証したが、確かに悪い取引ではない。何せ、避難民を誘導するのは絶対に必要だし、こいつらを援助するのは、そのまま民間人を援助することだ。目的が一致しているのだから、反発するのは意味がないよな。

 

「分かった、お前らが一般人を救うために動いている限り、なんだってしてやるよ」

 

 そういって、俺たちは握手を交わすのだった。




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