人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です   作:kuroe113

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第32話突撃

「待て、この死にたがり! 美香はまだ一人で戦ってるんだぞ!! 勝手に出ていこうとすんな!!」

 俊樹は叫んだ。

 病床に付す美香の看病をするため、西行とは距離を取っていたが井筒の叫び声を聞いて俊樹はここに慌ててすっ飛んできた。

 

「もう、勝手なことをしないって約束したよな。それなのに、また自分勝手な行動かよ」

 

 叫ぶ俊樹だが、いまだ事態を把握仕切れてなどいない。

 ただ場の雰囲気を感じ取り、叫び声をあげているだけである。

 

 それでも、僅かに聞こえて来た井筒の声と、これまでの付き合いから一体西行が何をしようかと考えているのか、長い付き合いから大まかな流れを感じ取っていた。

 

「頼む、頼むから戻ってきてくれよ。美香が目を覚ました時、ただ一人待っているなんて、何て説明すればいいんだよ……」

 

「……」

 

 涙ながらの懇願に、さしもの西行も、迷いを感じたのか一度立ち止まりじっと背後を見つめるものの、ただそれだけだった。

 何かを言い出すこともなく、動きを見せることもなく、何もなかったように前を向き直り、走り出していく。

 

「待て、待ってくれ、俺を、俺たちを置いてきぼりにしないでくれ」

 

 これが今生の別れになるかもしれないと、実際に町の中を走りまわっていた俊樹は思った。

 それは客観的な真実であることも分かっている。

 分かっているから、手を伸ばす。

 手を伸ばすのだが、この騒動を聞きつけた大人たちが、彼も外に飛び出すのではないかと心配しており、その体を押さえつける。

 

 結局、彼がじたばたと暴れるのを止めたのは西行の背中が視界から消えるまで待たなければならなかった。

 

 

「また、俺一人か」

 

 親友に置いて行かれた俊樹は疲れ切ってその場に座り込んでいた。

 周囲の大人たちは初め元気を出せと励ましていたが、疲れ切り動かない姿を見て、今はそっとしておこうという考えに行きつく。

 

 

「しょうがない、しょうがないんだ。俺は弱いんだから」

 

 本当なら俊樹は、今すぐ外に出て西行をぶん殴ってこの安全地帯に引き戻したかった。

 でもそれはできない。

 この都市の中に足を踏み入れたその時から、彼は足手まといだった。

 常に西行に守られ、波子三に守られ、いいところなど一つもない。

 そんな自分が外に出て戦ったとしても、犬死にだ。と、現実が見えないほど彼は子供ではなかった。

 

 

「いや違うな。俺はただ単に、あの植物人間を怖がっているんだ」

 

 単純な暴力ならまだいい、と俊樹は虚勢を張ることができた。

 本当は全くそんなことないが、それでもただ死ぬだけだというのならば我慢できる。

 

 本当に怖いのは、美香が受けたあの拷問。

 肉体を植物人間の養分にされるという事だった。

 自分が死ぬだけではなく、その肉体がこの町を襲う植物人間に利用され、誰かを襲いだす。考えただけで震えてくる。

 

 とてもではないが、俊樹は結界の外に出て戦おうなんて思えなかった。

 

「こんな怖い中で、相手は戦っているんだろうな」

 

それがどれほど恐ろしい行為であるのかを一緒に戦ったからこそ、彼も理解していた。

 

 俊樹はさっきまで西行が寝そべっていた場所でじっと外を眺める。

 疲れた、いやなことを意識しないために寝っ転がり、足を延ばしたから気がついた。

 

「あいつこんなところにカバンを忘れて言ってやがる」

 

 

 俊樹はじっとカバンを眺める。

 

「仕方がないから、俺が届けに行ってやろう」

 

 結局、俊樹もまた友達を一人にしたくなかった。それがこじつけのような理由であろうとも、前に進む理由ができたというのならば立ち止まる事はない。

 

「お前まで、そんな馬鹿なことをするのかよ」

 

 その後ろ姿を、井筒が見とがめた。

 休憩していたところをここまで来たのか、その表情からは不機嫌さがにじみ出ていた。

 

「友達ですからね。あいつ一人にするわけにはいかないんですよ。それに、美香が目を開けたときに、好きな女の子の前で親友が命を懸けて戦ってた時に、自分は指をくわえて待っていましたなんて、かっこ悪い姿見せるわけにはいかないじゃないですか」

 

 失われた絆を取り戻すために、井筒もまたこの混沌のるつぼに足を踏み出した。

 

 

 

「月与の月与の死体がない」

 

 病院に到着した照さんは驚愕の真実に直面していた。

 そこには死体がなかったのである。

 死体が何に使われているのか……。

 予想がつくからこそ、俺はなんと声をかけていいのかわからなかった。

 植物人間にとって、人間の死体というのは最高の肥料だ。

 根っこ、もしくは子株に養分にされることもできるだろう。

 美香の体から伸びる木の枝を思い出していた。

 

「戻ってきました。この先では安全が確保されています」

 

 だが、意外なことに照さんは冷静だった。それがかえって、彼女の内心を推し量ることをできなくさせ不安につながるが……。

 

 自分たちが行って帰ることができたのだから、目的の場所は安全なのだと、皆を説得する。

 ここの防御設備はもうほぼはがされているのだ、ここよりもあの神社のほうが安全だろうと、結界に入りきらなかった誰かを案内する。

 

 

「やはりというか、手掛かりはないわね」

 

 話をするついでに、戦闘音がどこからか聞こえないか、近くで物音がなかったかなどを聞きこんでみるが、波子三たちもここに戦火を持ち込まないために全力で逃げているらしく、戦闘を感じ取った人間はここにはいなかった。

 

「本当に、本当に見つかるんでしょうか」

 

 命を懸けてでも成し遂げたい目標があるのは真実だが、それと同時に相手がどこにいるのか分からないという物理的な問題が俺たちには立ちはだかる。

 

「あ! ここに結界が張られています。もしも時間があればぜひ」

 

 それでも、一人でも多くの人間を助けたいという思いに嘘はなく、険しい顔と笑顔を俺たちは交互に浮かべていた。

 

 

 ーードンッ!!

 

 少しでも情報を入手しようとあちこちを嗅ぎまわっていると、俺たちが走ってきた方向から土煙が上がる。

 

「これは」

「まさか」

 

 その音を聞いた瞬間、俺たちはあいつだと考えた。

 考えたからこそ走り出す。

 

 

 こうして走り出した俺たちを足止めしたのは意外にも避難民だった。

 周辺から爆発音が聞こえたのだ。少しでも余裕があるときに逃げ出そうと走り出した避難民に、照さんが作り出した地図のコピーを手渡す。

 

 今すぐに、爆発音がした場所に行きたいが、しかし、俺も照さんも今困っている誰かを見捨てるほど冷酷ではなかった。

 

 

 逃げる逃げる逃げる。

 波子三たちは走りまわっていた。

 道をまたぎ壁を越え、そしてビルを飛び越え、少しでもいいから時間を稼ぐ。

「どうして強化系統の私と速度が変わらないのよ」

 少しでも距離を稼ごうと、鎌倉の町を縦横無尽に駆け回っているというのに、その距離が開くことはなかった。

 徳子は鏡を具現化している。それは付与か憑依の系統の力だ。

 そして、遠距離の攻撃をしてこないことから憑依系統の可能性が高いとは思うが、「能力に攻撃性能が無くて一瞬で勝負を決めるために秘匿しているとも考えられるのよね」

 そんな不安を感じる。

 だが、その不安はそこまで大きな意味を持っているとは言えなかった。

「この女は先ほど刀を交えた一華よりも弱い。つまりは私よりも数段力は下だ」

 その答えを徳子が口にした。

 波子三が推測した通りに、徳子の系統は憑依系統にある。

 人体の内側に作用する強化系統にも高い適性を持っているものの、純粋な強化系統の能力者が、がっちがっちに強力なバフを持っていけば身体能力ではどうしても及ばない。

 それでも速度で互角というのは両者の力量差を如実に示していた。

「それに私はまだ隠している札があるのだ」

 一華との戦いで使用した鏡による瞬間移動。

 波子三が感じていた思いは正解だった。

 場所の条件さえそろえば短距離のワープを数回繰り返せば追いつけるという確信がある。

 それをしないのは実力差が明確だったからだ。

 魔術戦闘というのは攻略法が存在しない。それなりに共通項目が存在しているとはいっても、個人個人が使う術式は千差万別。

 びっくり箱のようにふたを開けると何が飛び出してくるのかわからない。

 つまりは、決めるならば一瞬一撃で終わらせるのが理想だった。

 このままいけば時間さえかければ自分の手の内を見せることなく敵を必殺の空間に誘え込めるのだ。

 実力が開いているからこそ、わざわざ手の内を見せる必要がない。

 

「このまま相手が油断したすきを突く」

「最善手を打ち、相手に隙を見せない」

 正反対の立場、行動をとっているからこそ両者の思いは恐ろしいまでにぴったりと正反対のことを目的としていた。

 

「ねえ、もう少しだけ早くいけないかな」

「すまないな、鈍足で」

 

 速く走っていたのだが、すぐに波子三は足を止めてしまう。

 確かに、波子三と機動力に大きな差は存在していない。

 しかしながら、高時とほかの人間との間には機動力に大きな差が存在していた。

 だが、彼は護衛対象である。見捨てることはできない。

 なので発想を変える。

 波子三は高時追いつかれるのと同時にくるりとターン。

 後ろから追ってくる徳子に対して青い鬼火をたぎらせてる。

 内在型である彼女にとって自身の魔力を外部に放出するというのはできないとは言わないまでも困難だ。

 しかし、その対策を彼らはもう編み出していた。

 彼女は矢筒から破魔矢を取り出す。

 元々は聖なる気を内に秘め邪悪なる存在を打ち滅ぼすものだった。

 しかし、そこに注ぎ込まれるのは不浄な鬼火。

 破魔矢が持つ気をため込むという性質を警備会社八ツ葉の面々が注目し改良を重ねることでけがれた邪気であろうともため込むお手軽な礼装である。

 よく狙い放たれる一矢。

 しかし、もともと動いている的に当てるのは難しい。

 波子三の技量もまた未熟。

 目標からは数メートル離れた地点に着地するものの、矢の性質をもってすればそれくらいの誤差はあってないようなものだ。

「ここはもう少し反応があってもいいんじゃないかな」

 着弾と同時に、爆発。

 周囲に爆炎と閃光が炸裂した。

 範囲攻撃を行ったことで、強い衝撃によって例え矢が命中することさえなくても確実にダメージを与える

 そして、鏡が割れた。

 

「これは鏡を用いた身代わりかな」

 

 そして爆炎が晴れ、そこにいるのは無傷の徳子だった。

 ダメージそのものをなかったことにしたかのようにその姿はきれいだった。

 徳子が何をしたか、波子三は心当たりがあった。

 自分自身と同じ人型によるダメージの転写。

 それも鏡に映った自分自身を鏡に見立ててダメージを肩代わりさせる。

「こっちは人形一つ作るだけでも時間を食うのに」

 

 人形一つ作るにも長い時間と手間がかかってしまう自分とは全くレベルが違うと、ここまでくれば敵でありながらもその技量の高さに尊敬すら感じた。

 それでも、足止めは可能となった。

 早く距離を稼ごうと背を向け動き出したところで、背後から矢が。

 そこに実態はない。

 調弦の議によって形成された、純粋な気の塊だ。

 その矢は波子三のように激しい破壊を周囲にまき散らすことはない。

 一見地味に見えるかもしれないが、精錬されたその一射はすさまじいまでの貫通力を有していた。

 逃走劇というのは追ってのほうが圧倒的に有利なのだ。

 その理由をもっとも簡単に説明するならば、体の向きだろう。

 闘争側は逃げるという動きから敵がいない逃走経路を目線に納めないといけない。

 対して追っている側は、敵の逃走経路と逃げている姿、その二つを視界に納めることができる。

 つまり、背を向け、ろくに反撃できない相手を一方的に攻撃できることを意味している。

 その利点を徳子は存分に利用した。

 三射四射と打ち込んでいくと、「捉えた」と確信するに至る。

 その直感は正しく、波子三の無防備な背中に矢が突き刺さる。

 鉄筋コンクリートでもたやすく打ち抜くであろうその一撃。

 しかし、「これでも貫けんのか」

 火花が散る。

 金属同士がぶつかりあったような、不快な甲高い音が遠く離れた彼女の耳にも届けた。

 

「鎧武者であろうとも、ここまで硬いものではないぞ」

 確かに攻撃が命中したというのに、向こうはけろりとしている。

やがて、高時に追いついた波子三が反転。

再び矢をつがえ放ってくる。

狙いが雑なこと、そして、徳子の防御力を貫通できないからこそ、足止めにしかならない。

「牽制目的では向こうのほうが上か」

 ただ貫通力が高い一撃なんてもの、敵が集団でなければ普通の弓と変わらない。

 ただし向こうは一撃一撃が徳子の身に影響を与えてくる。

「さて、弓の在庫はいつまでもつかな」

「これ、破魔矢使い切ったら一体どうしようかな」

 決定的な違いがあるとすれば、この戦いは破魔矢の在庫が尽きれば終わってしまう逃走劇だった。

 だが、それと同時にお互いが相手に対して硬すぎると苛立ちを感じているのは事実。

 

 遠距離からの削り相では向こうの狙いの通り時間稼ぎを許してしまうと徳子は感じていた。

 ゆえに、

「だが、このまま時間切れで勝ちというのはいささかつまらんな」

 一歩踏み出すことを決めた。

 結界による封鎖によって援軍が来ることはない。

 あの忌々しき黒い神父は朝であるならばこの結界でも白い子羊は侵入できるだけの力を持っていると口にした。

 そして、徳子に苦い記憶がよみがえる。

 あの白い子羊に手も足も出ずに負けた記憶だった。

 確かに、自分であればこの結界に侵入は至難の業だ。結界に対する事前知識があるからこそ、侵入できるが、それがないとなると果たして侵入できるのかどうか。

 だからこそ、わかってしまう双方の明確な格の違い。

 仲が悪い見方である神父ができると口にしただけではあるが、それができるのだろうという妙な納得がある時点で実力差は明白だった。

「ただ、勝って、見方を手に入れましたでもここでの戦果は十分だ。

 だが、敵の組織力が思ったよりも高い」

 ここにきて、徳子の中で欲が芽生えていた。

「どうせこのままやっていても勝てるが、それではつまらない。いささか遊んでやるか」

 

「なんだ、なにか様子が変なのでは」

 機動力、防御性能に差がありすぎたためにただただ逃走していただけの高時だが、戦乱の世を生き残ったその嗅覚そのものは本物だった。

 相手が何か仕掛けてくる。という漠然な気配を感じ取り、直感でしかなかったそれはすぐに確信に変わった。

「ああ、そうか、そういうことか」

 ただ一人納得するものの、残念だが、この状況でも波子三は全く状況を把握できていなかった。

 なにせ、徳子がやっているのはこれまで通りただ走っているだけだからだ。

 それどころか、視覚に入ろうと身を低くしたり、コンクリートの壁の後ろの隠れたりという小細工をしなくなったからこそ、はっきりと言って、波子三はくみしやすくなったと思ったほどだ。

 当然だが、波子三は逃げ隠れすらせずにまっすぐこちらに向かってくる敵に容赦なく攻撃をぶつけていく。

 そして気がついた。

「まさか、こんな脳筋な解決策を取るなんて、馬鹿じゃないかな」

「だが、こちらにとって最もやられたら困る方法というのは確かだ」

 二回三回と攻撃をくらわしたところで、波子三は敵の狙いを察知した。

「攻撃を食らったとしても、大して痛くないからって、無視して突撃って、馬鹿がすることよ」

 波子三の破魔矢。

 それはダイナマイトのように周囲を破壊していく。

 しかしながら、鏡による身代わり。具現化した鏡そのものを盾にしたうえで、身体を気で固めればまっすぐ突っ込んでも一切問題は出てこない。

「これは……逃げられるのか」

 高時がいるからこそ、ここで両者の機動力の差がここにきて大きな問題となった。

 多少のダメージを無視して最高速で突っ込む。単純なごり押しでこれまでの複雑な駆け引きがすべて吹き飛んでいた。

 ここにきて、彼らは根本的な作戦の転換を求められていた。

 

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