人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です   作:kuroe113

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第33話激突

 徳子の作戦。

 いや、作戦とさえ言えないような単純明快な突進。

 それは、相手の手札を読み切ったからこそできる単純なごり押しでしかない。が、本能は時としていかなる賢者よりも優れた答えを導き出すことを示していた。

 逃げ切ろうにも、護衛対象である高時を置いていくわけにもいかない。勝敗を指し示す天秤が一気に徳子に傾いてしまった。

 

 その一手に、波子三はろくに対応できない。

 機動力の差を何とかごまかしてきたが、それは相手が慎重に動いていたからだ。

 ただ、真っすぐ進めだけで機動力の差をごまかせなくなった、

 両者の間に横たわる差が狭まっていく。

 それこそ、弓矢で狙いを定めれるほどに。

 

 

 その目のきらめきから、当たると波子三は確信したが、矢は彼女の横を通り過ぎていった。

 

『もしかして、外した?』

 

 疑問符が驚きに変わるのはそう時間がかからなかった。

 そう、外したのではない、徳子は狙ったのだ。前方を走る高時を。

 

「まったく面妖な体になったものだ」

 見事としか言いようがないほどに、真っすぐに飛んだ矢は高時の脇腹をえぐり取った。このまま倒れるかと徳子も波子三も考えたが、彼は走り続けた。

 

 植物の肉体の特性が出たのだ。人体であれば致命的な損壊も、彼には無視してしまえる軽症でしかない。

 

 

 傷はどうにかなったが、ここで別の問題が浮上した。

 

「こののままでは狙い撃ちだぞ」

 

 相手の射程圏内に入ってしまったことだ。

 傷そのものは大したものではなくても、その心理的な圧迫はすさまじいものがある。

 今回は脇腹だった。もし、これが頭だったら。

 威嚇射撃が偶然命中しただけと分かっているのに、一度できたのだから、これからもラッキーパンチを警戒しなければならない。

 

 

「こちらにも植物人間がいるのでしょうか」

「ああ、もう遠くない」

 

 加えて、地の理は向こうにあった。

 追いかけっこの時間が長くなるにつれて、植物人間を的確に配置してくる。

 

「やはり、同じ道をめぐるのはまずかったでしょうか」

「だが、道に迷うよりはましだ」

 

 不安を高時は否定した。波子三もまた、時間が来ると援軍が来ると分っているからこそ、急場しのぎならこれがベストと考え直す。

 

 

 とはいえ、このまま逃げればじり貧になるのは分かりきっている。

 なので、彼らは動きのパターンを変えた。

 これまでは屋根やビルの上を走っていたが、障害物が多い建造物の中に滑り込んだ。

 

「わー、すごい。家の中にいるのにお星さまが見える。これだから古臭い街は駄目ね」

「言うほど古臭いか。それにあれほどの攻撃だ、持つほうがおかしい」

 

 元々都会っ子である波子三は、古臭い建物にいい感情を持っていなかったからこそ、矢によって貫通した屋根を見て文句を口にした。

 一方で、ここがもともと自分の故郷であることを知っている高時は街そのものを否定する彼女に軽く釘を刺す。

 

 

「とはいえ、こんなぼろい家だと外からでも攻撃が届くし、できれば鉄筋コンクリートのほうがいいわよね」

「そもそも鉄筋コンクリートは何だ」

 

 そういえば、こいつは古代人だったと今さらながらに波子三は思い出した。

 

「頑丈な、石みたいなものでできた建物よ、ほら、あれよ、あれ」

 

 一気に階段を駆け抜けて、適当な階層でそのまま向かいのビルに飛び移ろうとしたところで高時は足を止めた。

 

「なに」

「人だ、人がいるぞ」

 

 いぶかしんでいた波子三も目を凝らせば視線の先に人がいるのを見つけてしまう。

 

「まさかこれが狙い。いくら何でも性格が悪すぎるんじゃないかな」

 もちろん偶然の可能性もあるが、追ってきている徳子が悪いとでも思わなければやっていけない状況だった。

 

 

 

「どうやら荷物を受け取ったようだ。」

 徳子の猛追。敵が使用している魔術系統が強化であると判明したからこその突進。

 それに加えて、近場に避難民が潜伏しているのを知っていたというのもある。

 

 むろん、何から何まで計算通りというわけではない。一番の計算違いが突入したタイミングだった。

 本来ならば避難民を野外へと追い立てて相手の行動を阻害するつもりだったのだが、思いのほか相手の足が速かったのと、予想外の幸運にも彼らがビルにまっすぐ向かったせいで、野外に追い立てれなかった。

 

「大きく迂回したな。それにビルの中に立てこもった。これはもしや誘っているのか、それとも」

 

 気による感知というのは便利だが、訓練次第で誰でも使えるからこそ対策方法も知れ渡っている。

 その対策の一つが密閉した空間。

 空気の流れが完全に遮断されると気による探索の制度が大きく低下する。

 

「気を全開にして動き回っている存在を見失うなんてことはありません」

 

 創意工夫を徳子は小細工と一笑した。たとえどんな罠が待ち構えていようとも、自分なら乗り越えられるとまっすぐ進む。

 

 

 窓を突き破る、まっすぐ進めばすぐに敵もこちらに合わせるように窓を突き破り真っすぐっ進む。

 気で感知した敵の位置に急いで向かい。

 

「まさか!! 上からぁ!!!」

 

 窓から飛び出した瞬間、徳子は自分の軽慮に気が付いた。

 どうせ近くには敵がいないという油断。それゆえにただ前だけを見ていたのだが。

 上階。そこには鬼気迫る顔で釘バットをふるう波子三の姿があった。

『しかし、気配は確かにあのビルから』

 

 地上へと落ちる数秒の間、徳子は違和感を考察する。

 波子三の系統は強化。ここに間違いがあると徳子には思えない。

 

『なのに気配が二つ。それにあの武器だ。どうしてあんなよくわからない武器を使うのか。槍でも刀でも扱いやすい武器などいくらでもあるのに。

 ーーどうして、鬼の金棒のような武器を……』

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