人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です   作:kuroe113

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第40話百鬼夜行

「で、他に奥の手はないのかい」

 全てを凍てつかせる雪の吐息、海入道の海流操作、そうして生まれた道を幽霊船が突き進む。

 相手の能力がいかなるものかを把握したうえで、どれだけの妨害が存在するかを考えに考えた上での対応策。

 絶望的な状況への対処にナイ神父が行ったのはただ指を動かすだけだった。

 それだけで海入道の制御能力を超える大波が発生する。

 遠距離から妨害に徹していたユキワラシや天狗もあっさりと水に飲まれ、船幽霊の船体ですらも削り取られていく。

「君とて初めから分かっていたはずだ。いくら数をそろえても、質がなければ意味がないと」

 

 

「なら喜べ、この状況を覆す、切り札を見せてやるのだから!!」

 船体に身を潜めていた白夜が大幣でナイ神父を思いっきり殴り飛ばした。

 あっさりと、空間に干渉されたのだ。転移での奇襲は見破られるかもしれないと考え、船の中に隠れて急襲を計画した。

 

「うむ、あそこにいるのは幻覚かな」

 ナイ神父が真実に気がつくとともに、背後で蜃が作り出した幻が夢幻の彼方に消えていく。

 

「ああ、痛い」

 不覚を取り、ナイ神父は吹き飛ばされた。

 背後にあったビルを数棟貫通し、そこにできたクレーターの中。そこで彼は微笑み以外の表情を始めて見せる。

「世界そのものを、あるべき姿に帰す力なんだけど。外なる神の化身である君がぴんぴんしているのは世の摂理に反しているといえるのではないかい」

「この体を、この世界に合わせてチューニングしましたから。

 要はあなたが、あるいはあなたの一族が長年追い求めた秘儀を、私もまた模倣したということです」

「何度でも同じことを言うけれど、お前と同じにするな」

 

 告白に、白夜はゴキブリでも見たように表情を歪める。自分のほうが有利だというのに、その表情は硬かった。

 

「まったく人間というのは、あるいは生物というのは、私の予想を大きく上回ってくる。だから……」

「だったら、子供の絵日記みたいに時間をかけて緩やかに手を加えるだけでいいんじゃないかな。はっきりと言って、お前の興味本位での干渉は揺れ返りが大きすぎる。

 神ならば神らしく、百年なり千年なり、お前らにとっては短い時間間隔で世界にゆっくりと干渉してほしいものだ」

「どうにも私は我慢が下手なようで」

 白夜が口にした内容こそが、ある意味で人類側の譲歩だった。あるいは願望と言い換えてもいい。

 久しぶりの再会。その中で短い会話のやり取りの中だけでも、改めて眼前の存在への危険性を再確認した。

 

「そういえばこれが奥の手かと言っていたね。本当の奥の手を、今ここで見せてあげよう」

「ふっふっふ、これだから生物は面白い」

 

 ナイ神父は今まさに追いつめられているのに、心底から楽しそうだった。

 

 

 

「大地よ人よ都市よ。

 目を閉じよ。

 大地を踏みしめ、水を炊き、火を起こせ。

 人に使え、人とともにありし八百万の神々。

 今こそ意志持ちて踊り狂え

 付喪神」

「ああ、次はいったい何を見せてくれるんだい」

 

 自分に迫り来る強大な魔力の波動、容赦なく振るわれる刃。

 その刃にナイ神父は見惚れていた。

 何せ、目の前にいるのは自分自身が教えを授けた教え子であり、娘であり、あるいはそう、妻といっても過言ではない存在なのだ。

 むろん、彼女に匹敵する存在はいる。

 中国の仙人にアメリカの金メダリスト。

 だが、個人が感じる趣味趣向という面で彼がもっとも注目しているのが目の前の少女だった。

「さあ、見せておくれ、人類の進歩を」

 ワクワクが止まることがない。彼女の一挙一動作がいとおしくてたまらない。

 

「それで、今さらこんな低位の式神を呼び出して終わりではないだろう」

 だからこそ、彼は困惑した。

 足元に感じる違和感。正体は式神化したただのお椀だった。

 それを軽く蹴飛ばしながら、どうして今更こんなものをという疑問が、周囲の力の流れを確認したことで、これがいったいどれほどえげつない攻撃なのかを理解する。

 その時にはもう手遅れだった。彼はぱっくりと、今埋まっている家に食われたのだ。

 

 されど、彼とてまた怪物。

 万物を溶かし、そして崩す汚水は周囲の干渉をあっさり溶解していく。が、「ああ、これは少しきつそうだ」

 すぐに、状況のまずさを理解する。

 彼が周囲のものをすべて消し飛ばすよりも先に、周囲の物量が彼を襲うほうがはるかに速いのだ。

 

「まったく、すさまじい奥の手があったものだ。あるいは、今のこの町、この世界が彼女に見方しているのか。自分の巫女に甘すぎやしませんか」

 そんな小言を口にしている間にも、彼の身体にはコンクリートや鉄筋でできたいくつもの槍が突き刺さり、見るも痛ましい姿に変貌していく。

 

 

 

 ――付喪神。確か物には意志が宿るという精霊信仰の一種。

 人が持つ道具類。それらすべてを支配する。とはいっても、普通ならばここまで大きな力を発揮できるとは思えない。

 これだけの出力を出すにはいくつか条件があるとみていいだろう。心当たりは、私が街を破壊しているのを考えれば、道具そのものの防衛本能に働きかけたのでしょうね。

 それに彼女、シュブ・ニグラス。彼女の力がこの界隈全体に力を供給しているからこそ、それも燃料となっているのでしょう。

 

 

 ――まぁ、敗因は遊びでしょうね。

 

 油断と慢心がもたらした結果だ。

 高みから採点するような気分で相手の出方を待ち切ったせいで、ナイ神父は死にかけていた。

 彼は神格だ。

 死んでも再生することは容易である。が、それを彼の美意識は許さなかった。

 

 

「ああ、まだ遊びたかったな」

 さすがに、死ねばこれ以上遊ぶことはできやしない。

 それでも負けは負けだ。

 ほんの少し悔しいと思えど、彼はただの舞台作家である。

 自分の脚本の中で、自分を超える脚本家が現れた。

 その脚本家が新しい脚本を書くのであればそれもまたそれで、その結果をただ受け入れるのみである。

 

「まったく世話が焼ける」

 そして彼の身体は鏡の中へと吸い込まれた。

 

「そういえばいたな。あまりにも存在感が薄いもので忘れていた」

 

 つまらない奴、そういって視界から除外したからこそ、白夜は足をすくわれたのである。

 ここは戦場であり、敵はすべからくが脅威だという当たり前のことを失念していた。

「いやぁ、今回は本気で死んだと思いましたよ。運良く助かりました。これも日ごろの行いが良かったからでしょうね」

「「それだけはない」」

 

 敵同士であるというのに、徳子と白夜の声が重なった。

「さて、これからは反撃のときだ」

 

 それにあえて無視したうえで、ナイ神父は再び敵と向かい合う。

「ああ、来るか」

 白夜もそれに答え、正面から二人が対峙する。どちらにも、油断も慢心も存在しない。

 故に、不意打ちも奇襲も入り込む余地がなく。今こそ、真の力比べが実施される。

「この状況」

「先ほどまでの試合展開を見るに」

 その極限状況の中で、この戦闘を最初から最後まで眺めていた波子三と徳子はそれぞれ自分の意見を口にしていく。

「白夜さんの勝ちだ」

「こいつには痛い目を見てほしいが、神父の圧勝であろうな」

 そして二人は全くの正反対の結論を出したのである。

 

「さあ、町よ。おまえ自身の手で己の身を守る手段を与えてやるぞ」

 白夜の呼びかけに応じるように、街そのものが脈動し、それが鎧のように変形していく。

「付喪神でゴーレムを作るとは。なんというか、それならば大きなゴーレムを創り出したほうがいいのでは」

「残念だけど、私の最終目標は巨大ロボを創り出すことかからね。宇宙戦艦でも可」

「巨大ロボ!! 宇宙戦艦! なるほど、大きく出ましたね。

 今あなたが身にまとっているのはそのひな形という訳ですか」

 ナイ神父の本質はどこまで行ってもロマンを追い求める男の子。

 実物を見たこともあるのだが、いまだに未開の人類が進歩しそれらを作り上げようと動く様には毎度感動すら感じていた。

「だが、力比べ、火力勝負というのならばこちらも望むところだ」

 今度、ナイ神父は炎の仮面を身に付け、お互いに全力で力をため込んでいく。

 

 

 街そのものが形を持った巨人と、炎の化身がぶつかり合う。

 そして――。

 世界が光に包まれた。

 少し遅れて轟音が世界を打ち付ける。

 照は自分の周囲に結界を構築したが、そんなものは紙切れ程度の役にも立たぬとただの余波だけで崩されていく。

 激突の果てに、吹き飛ばされたのは白夜だった。

 ――当然の結果だ。

 これまであの神父の動きは後の対処。相手が攻撃を打ち終わってからそれを叩き潰す強者の動きだ。

 あの男が攻めに転じればこの結果になるのは分かりきっている。

 存外つまらない戦いだったと、この戦いの衰勢が決まったのを見た徳子は感じた。

 

 

「さてと、では。私はこれで……」

 ここに勝負は決した。

 辛うじて、白夜は命をつないでいるが、全身が火傷でただれ、身体もぼろぼろ。戦闘どころか、立って歩くことすら辛そうだった。

 その有様をナイ神父はじっと見つめ、そのまま立ち去った。

 

 

「まて、お前分かっておるのか。敵が目の前で倒れているのだぞ。手柄首は目の前だ」

「ですが、彼女は私の敵ではない。あなたの敵であろうとも。それに……」

「それになんだ……」

 もしもくだらない理由だったらこの場で敵対も辞さないと徳子はナイ神父を睨みつけたがそれがいけなかった。

「このまま戦いを続けていれば、止まれなくなってしまいそうで」

 その表情を覗き込んで徳子は恐怖で凍り付いた。

 ありとあらゆる愉悦と快楽、それを煮込んで様な狂った笑いが張りついている。

 ――こいつをこのまま自由にさせたらまずい。

 

 その危機感が徳子の動きを止めたのだ。

 だが、

「私がとどめを刺す分には問題ないのだな」

 ナイ神父は自分がとどめを刺すことを否定したものの、徳子がとどめを刺すことは肯定している。

 

「ああ、そうだ。正しい。敵を見たら叩け。最後の最後まで。それは戦いの基本だ」

 疑問への肯定の言葉は、意外にも敵である白夜から放たれた。

 ぼろぼろの身であれど、そこから漏れ出す覇気は一向に衰えず、まだ勝負を諦めていないことがうかがい知れる。

 

「さあさ、皆さんお立合い。

 今宵語るは百物語。

 一つ火紡ぐ怪異評。

 千差万別、八百万の不可思議話。

 冥府の闇よ、夜の帳よ。

 ひれ伏すがいい。

 怪異すら恐れる怪異の王。

 それは空、それは名も無き鬼

 忘却の彼方に消し去った原初の恐怖よ。

 闇の世界を形つくる黒曜よ。

 今こそ、創生の理を刻め。

 来い、空亡!!」

 ここにきて、白夜は最強の手札を切った。

 

 

 百鬼夜行の最後に描かれる妖怪どもが恐れる百鬼夜行の主が描かれている。

 その名が空亡。

 今百鬼夜行の真の主がここに召還された。

 

 その存在を言葉で説明するとなれば、夜の世界を照らす黒い太陽。あるいはそう、夜という世界そのものが具現化されたような存在だった。

「なんだこれは」

 そのあまりの存在規模に、徳子は圧倒された。

 もしかしたら自分が召還したあの神樹にも匹敵するのではと思えるほどだ。

「なるほど、百鬼夜行の正体はこいつか」

 あれほどの召還術式も、おそらくはこの化物から零れ落ちた権能なのだろうと。徳子は推測する。

 しかも厄介なことに。

「こいつ、これほど強大な存在であるというのに、雇い主に忠実とはな」

 徳子はにらみつけるかのような敵意を感じていた。

 これほどの存在だ。

 自分の力を超えている存在を呼び出すときはどうしても起きる主導権の取り合い。

 一定以上の上位存在は召喚者が気に入らなければそのまま食い殺すこともある。

 だからこそ、完全に制御できている姿を見て純粋に驚いたのである。

 

 

「大丈夫。私は、私たちはあなたの母親をどうこうするつもりなどありませんよ」

 ただ圧倒される徳子。その一方ナイ神父は目の前の黒い太陽を愛おしむように撫でた。

 

 その存在は、外なる神としての権能をほぼすべて縛り付けている彼よりも力が上回っている。

 機嫌を損ねればそこで終わりだというのに、撫でる手には恐れも遠慮もありはしない。

 やがて、この黒い太陽はナイ神父の言葉を信じたのか、そのまま退散していった。

 そして、今度こそ、全ての力を使い切った白夜はその場に倒れこんでしまう。

 

 

「さぁ、今度こそ帰りましょう」

 

 いつの間にか盗み出した、彼女の仲間を封印した鏡をナイ神父は気絶している白夜の側に置き、今度こそ帰ると口にした。

「いや、まだ手柄首をとっていない」

「あなたに彼女の首をとることはできません。ここはおとなしく引くことが最良でしょう。

 私のほうも少しおいたが過ぎました、どうやらあの子だけでなく、彼女も私の行いに腹を立てているようで、このまま暴れてはどんなしっぺ返しが起こるのかわかりません」

 

「まさかとは思うが、敵に対して情けをかけると、あの化け物との約束がそんなに大事か」

「なら、ご自由に。まぁ、無理でしょうけど」

 

「バカにするな」と、神父の静止の声を振り払い徳子は白夜に手を伸ばした。そのとき、ナイ神父が何を言いたかったのかを徳子は理解した。

 腕がねじ切れ、あまりの痛みに絶叫する。

 

 何が起きたと目を凝らせば、彼女の周囲に目では見えないほどに細い木の根が張り巡らされていた。

「まったく、彼女がお気に入りの巫女を守るために手を打ったのだろうね。

 今回は私もはしゃぎすぎた。そのせいで神の力がほんの少し漏れ出てしまった。わざとではありませんが、同僚に怪我を負わせたのですから、こちらにも非が大いにある」

 

「お前が私に渡したあれはずいぶんといい加減なものだな」

 結局、どこまでもがこの神々の手のひらの上なのか。と、復讐のために積み上げてきたすべてが、もはや神の気まぐれとしか徳子には思えなくなっていた。

 ここに来た目的は果たしたと強がって見せるも、徳子の内心は空虚なままだ。

 勝ち取った成果も、このありさまを見れば本当に意味があるのか。

 その疑問を掲げながらも、一人の女はもう止まることができないからこそ、夢の中を一人歩き続けていく。

 

 

 そして二人が消えしばらくたった後に、ようやく息を吹き返した白夜はよろよろと立ち上がった。

「まったくあの子も、私のほうがずっと付き合いが長いというのに、反抗期かな」

 自分の影というべき存在に文句を言った。

 そして空を見上げて。

「ああ、負けたなぁ、今なら勝てると思ったのに、私もまだまだだ」

 そういって、現実に打ちのめされた少女は悔し涙を流すのだった。

 

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