人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です   作:kuroe113

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第41話対立

「その、大丈夫……ですか」

「これが大丈夫なように見える。全身が痛いし、今すぐ気絶したいくらいだよ」

「それはご愁傷さま」

「本当に死を覚悟したよ。あの二人が引かなかったら、みんなを巻き込んで自爆するつもりだったし」

 平然と言ってのけた白夜の宣言に照は一つの疑問を抱いた。

 

「そんな派手なことをしたら、私も巻き込まれない」

「ああ、ごめんなさいね」

「だから、答えは」

「ごめんなさいね。でも実行しなかったし、どうせ私が殺されていたら君も生きてはいないだろうし、問題ないんじゃないかな」

「問題大ありだ!!」

 

 敵が引かなければ実は自分が死んでいた。その事実に照は思わず白夜に掴みかかった。

 

「はいはい、怒らない怒らない。これから民間人を助けるためと、攪乱に破壊工作と、やることは目白押しなんだから」

「私、今用事を思い出しました。なのでここから立ち去ってもいいかな」

 悪戯をするかのように、目をらんらんと輝かせる白夜を見て、波子三は条件反射で逃亡作戦を実行する。

経験則だが、白夜がご機嫌な時、たいていがろくでもない作戦を考えているのだ。

悪戯レベルならまだいい。波子三も爆発に巻き込まれれば強制的にアフロになる爆弾、度胸試しのために種も仕掛けもない切断マジック、異次元世界から召還された、うねうねとした冒涜的な生命体と、これまでにろくでもない経験を多数してきた。

 そして、ここは戦地だ。

 いくら暴れても問題にならない場所で思いついたろくでもない発想に波子三は絶対に関わり会いになりたくなかった。

「さっきも言ったけど、私は瀕死でね。できれば、信頼できる護衛が近くにいてほしいんだ」

「それでも私はあれをそう、ここにいる怪我人の看病をしないと」

「え! 二人とも死んでいるから、もうよくない」

 

 あまりにも、人の心がない発言に正気かと照は白夜を凝視した。

「でもまぁ、井筒のところに戻りたいってことだね。

 これから儀式場になるわけだし、お母様におかえりいただくときに植物人間の襲撃は勘弁してほしい。死ぬ気で防備を整えていてくれ。

 

 使えそうな道具をいくつか渡すから持って行けと、白夜は虚空を開きおもむろに手にしたのは藁人形だった。

 その顔には、つい最近であった、ナイ神父の似顔絵が張りつけられており、多くの呪詛でそうするように、いくつもの釘が打ち付けられている。

「ああ、間違えた、これ私が普段使っているサンドバックだ!!」

「何それ、めっちゃ気になる!!」

 何事もなく、異世界にその人形は返還されたのだが、あまりにも衝撃が強すぎた。

 結局、大量の塩、しめ縄、お札に爆弾類と、使い勝手がいいものを波子三に持たせて、井筒の所に送り届けられる。

 それらとついでに俊樹や西行の死体を持って行こうとしたのだが、白夜に止められた。

 

 照は空間転移が非常に高度な技術なので、質量に何らかの制限があるのだと考え、その提案を気のも留めない。

 

「さてと、このあたりだったと思うけど」

 波子三と別れた後、白夜は行きたいところがあると門を開いた。

「その、どこに行くんですか」

 

 白夜は植物人間を処理するためだろう。

爆弾を門の向こうに投げ込みながら、「植物人間の製造工場さ」

 と答えた。

 

 

「その、どうしてこの二人の死体を」

 

  いまだにそこから這い出してきている植物人間を、塩をまくことで動きを止め、大幣で穢れを祓う。そうして穢れを祓えば、木の根にため込まれていた多数の人間だったものが飛び出してきた。

 その死体の中には俊樹と西行のものもある。

 白夜が死体を眺める瞳から、照は悪感を覚えた。

 

「どうか安らかに」

 だが、その問いかけに答える前にやることがあると、死体を前に、白夜は魂の安寧を願い祈りをささげる。

 照もそれに続いた。

 この死体たちは植物人間に改造されている。その多くが体の部分部分が植物と融合しており、自然な形で不自然な人ではない何かに変貌していた。

この製造工場から飛び出してきた皆が、苦悶に顔を歪ませている。まさに地獄曼荼羅。

 人体のいたるところが損壊しており、そこを埋め合わせるように、木が人体を置換している。

そのせいで、死体を見ているというよりも、血と肉を持ったマネキンが転がっているというように感じられた。

 だからこそ、二人はただ静かに魂の安寧を祈るのだ。この世で地獄を見たのだから、せめて死後は安らかにと。

 

「よし、これで死者への弔い終わり。死体処理と敵戦力の削減作戦行ってみよう!!」

 その祈りが終われば白夜の態度は一変した。

 先ほどまで、死者へ祈りをささげていた姿が嘘のように、テンションを爆上げし張り切っていますと誰に向けてでもないアピール。

 そして、死体に対して、彼女は血肉を注ぎ込む。

 そうすることで、いかなる魔法か。

 損壊だらけの死体が、見る見るうちに、人間だったころの姿を取り戻していく。

「もしかして、そうもしかしてだけど、この人たちは助かるんですか」

 その光景を目の当たりにすれば、もしかしたらという希望が照の中で芽生えた。

「まさか、あなただって知っているはずだよ。死んだ人間は生き返らないと」

 それは誰もが納得する、絶対の真理だった。

 初戦夢は夢物語と、照自身思っていたのだろう。あっさりと納得する。

「だとしたら、どうして、わざわざ死体なんかを。

これを修復するくらいならば、まだ生きている人間を救いに行きましょう」

「これはそのための手段」

「もしかして……」

 照はこの時になって、波子三がどうして逃げるようにあの場所から消えたのかを悟った。

「あなたは、ここにある死体で、植物人間をおびき寄せて犠牲者を減らすつもりなんですか」

 最低最悪な作戦に照は嫌悪感をむき出しにした。

「半分正解だね。正解はこの死体を人間爆弾に改造して、植物人間製造工場を内側から破壊するかな」

だが、現実は創造よりもはるか下を行っていた。

 

「さあ、食べなさい」

 玉座に君臨する王が圧制を引くように、空間転移の際ついでとばかりに持ってきていた、ビニール袋に詰められたお清めようの塩。

 物言わぬ兵となった、人であった何かたちは命じられるがままに、黙々と、生前と同じように、生前では決して口にしなかっただろう、ビニールの袋を丸のみにしていく。

「いったい、いったい自分が何をしているのか分かっているのですか!!」

「人間爆弾の製造」

 間髪を容れずに返答する様からは狂気しか感じられなかった。

「おっと、こっちも忘れずにっと」

 今度は、大量に用意していた爆弾たちに血を振りかけていく。

 すると爆弾たちはまるで生き物のように脈動したかと思えば、手のひらサイズの貝、つまり、カキに姿を変えた。

「さぁ、これも食べといて」

「まて、まて、まって!!」

 この余りの異常事態に、ついに照は白夜に掴みかかった。

「あなたは!! これが正しいとでも思っているんですか!」

「もうさ、私は瀕死だから打つ手が限られている。その上で断言する。

 この方法こそが、今私たちが取り柄る手札の中で最大の人間を救える手だと」

「だとしても、人として、他の手を取るべきでしょう」

「具体的には」

「……人をよぶ。その上で、みんなで一つ一つ潰していく」

「まぁ、それだと、民間人と兵士数十人くらいの犠牲で解決できるだろうね」

「それは……」

 

 その数字に何の根拠もないことを照は把握している。

 しかし、照にはそれだけの犠牲者が出ることを否定するすべを持たなかった。

「私の作戦はこうだ。この人間爆弾で植物人間を攪乱。

その間に祭壇を築き、私の力が最大限まで高まる早朝、暁の時間帯にお母様を元居る時空に送り返す。

派手な動きをするから、儀式上の製造段階、もしくは儀式の最中に邪魔立てがないようにしたい。

 まぁ、最終的にはこの土地はしばらく、百年か千年くらいは人どころか植物も育たない不毛な土地になるだろうけどね。

 それでも、ここに囚われた人たちは生きて帰れるし、この人類にとっての危険因子も排除できる」

 無策の人間が、たとえどれだけ倫理、道徳面から反論を行おうと、でもそれをやると多くの人が死ぬと言われれば、全ての倫理道徳を人は投げ出さなければならない。

 でも、だからと言って悩みがなくなるはずなどないのだ。

「でも、みんなこの中で生き残ってる。たった数時間で犠牲者がそこまで増えるとは……」

「向こうが植物人間の上位種の制御権を獲得したのに。というか、本気でそう思ってるの」

 照は自身の顔を覗き込んでくる白夜に反論の言葉を持ちえなかった。

「でも、ここにいる人たちにも帰りを待つ家族がいるんですよ。せめて死体だけでも届けたいと思わないんですか」

「それなら大丈夫。ここにある死体は全部処分される。

 怪異に規制された死体はね、そこにあるだけで危険物扱いされるからね。

 何があろうと、家族のもとに帰ることはない」

「……」

 その返答に、照は押し黙るしかなかった。

「私はね、ここに妹を助けに来たのよ。命に代えてでも妹を救いたいと思った。でもさ、いざ死にそうになったらね。私は逃げだした。妹を見捨てて、わき目もふらず。

もう、妹を助けられないってわかった。だから妥協した。一人でも多くの人間を救いたいって。

今度こそ、せめて目の前にいる誰かの助けになろうって。自分の目の前の人間を死なせないって。だから、私は目を閉じることにします。

私の目が届かないところで、何かが起きても私はそれを知らないと……」

こうして、照は再び妥協したのだった。

 

「え! なんで意志があるの」

 でも、耳をふさぐにしても限度がある。だから困惑の声に照は反応した。

 そこには共に転移してきた。死んだと思っていた西行が起き上がったのだ。

「良かった。本当に良かった。

 生きてたのね。もうてっきり死んだものとばかり」

 

人生最悪の日が何度も何度も更新された。その中でやっと見つけた明るい知らせ。照は歓喜の涙を流していた。

 だが、西行は、その抱擁を払いのけた。

「もうほっといてくれ!! どいつもこいつもどうして命を懸けて俺なんかを助けるんだ!! どうして。俺なんかを……」

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