人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です 作:kuroe113
「それが本当なら、君はみなを救えるかもしれない」
「そ……れはいったい、どういう……意味だ」
「お前の協力があれば、植物人間を一掃できる。それだけじゃない、この鎌倉という都市が生き残こるかもしれない」
「どういうこと……だ」
壮大な話に俺はただ困惑していた。
「あの女は、お前と融合している武士を起点に過去の霊脈を吸い上げ、これだけの兵力を確保した。つまり、お前はこの術式の格といってもいい。
私の方法では、神を元居た場所にお帰りいただくことしかできない。
吸い上げられた魔力も大地を闊歩している植物人間もそのままだ。
でも、君という協力者がいれば全てをとまではいわないけど、漂っている力をこの都市に還元できる」
たいぶ噛み砕いて説明してくれているのは分かるが、正直な話、こいつが何を言っているのかわからない。
けれどそう。
「俺にも、そう、お……れにもぉっ、まだぁ、だれかを、ずくえるのかぁ」
俊樹をむざむざ死なせてしまった俺にも、まだだれかを救えるチャンスがあるのが分かった。
気がつくと、地面に水の雫が零れ落ちている。
「当然だ、この町はお前がいないと助からない」
俺は立ち上がった。もう、くよくよする暇なんてない。
「それをやると君はもう人間ではなくなるけど構わないかい。
今ならまだ、君は人間に戻れる可能性がある。
でもだ、この儀式をすれば君は最悪死ぬ。それに、確実に人間に戻れなくなる。それでもやる?」
「ああ、もちろんだ。これはどっかのお節介な誰かさんの受け売りなんだが、自分のために誰かが死ぬってことはそう、誇りを受けとるって行為なんだと。
だったら、その受けとった誇りで何かできるなら、俺が死ぬのも、それよりも恐ろしい事態になろうとも構わない」
こうして、俺とこいつの間で契約が結ばれた。
そして……。
「さぁ、人間爆弾逝ってみよう」
えっ!! はっ!!
感動的なやり取りと今の現状。その落差で俺は風邪を引きそうだ。
誰かを助けるために力を貸してくれと掴んだその手で、この女は今まさに、人間を兵器に改造しようとしている。
「あ、あああああああ!!」
狂気に気圧されたんだな。照さんが嘆きの声を漏らす。
俺も同様だった。
「俊樹!!」
俺の親友もまた人間爆弾、物言わぬ兵器に改造されていた。
作戦内容を聞けば、あまりの悪意に身を震わせてしまう。
考えに考え抜かれた、一切の無駄がない作戦だった。
「そうか」
自分でも意外なことに、この非人道的な作戦に俺はあっさりと同意していた。
昨日だったら、俺はこいつを殴ってでも止めていた。しかし、今の俺には無理だった。
多くを失い振り回した、自分勝手に動いて破滅をばらまいた俺には、それがどれだけ披裂でも誰かを救う作戦を止めることなどできない。
「どうして、あなたの友達よね」
心配してくれるなんて、本当に照さんは優しいな。
「友達だからかな。あいつが自分の死体に頓着するとは思えないんだよ。
死ぬ前、どうせ俺たちはろくな死に方をしないだろうって、バカ話をしたことがあったんだ。
どうせ適当なゴミ捨て場に捨てられるだろっていったら、あいつは臓器売買を知らないのか。俺たちみたいなごみでもいくらでも拾ってくれる奴はいるって、そういったんだ。
冗談だろって俺は笑ったけど、あいつはまじめな顔で、どんな形でも誰かとつながっているならばそれでいいって。
だから、確信できる。生きた人間のために使われるなら、きっとアイツも文句は言わないだろうって」
「うんうん、この状況でそれか。いかれてる、あるいはそう割り切れているってところか。これならうちでもやっていけそうだ」
この状況なのに勧誘か。
前までの俺なら、混血と会話するだけで、ぶちぎれていただろう。
だが、あのおっさんのお節介で命を拾った今の俺は依然と違っていた。
あれほど燃え上がっていた、混血や人外への怒りはいつの間にか沈下していた。
それに、こいつの部下になるのが復習達成の一番の近道だ。
「でも、本当に構わないのかい。私としては、人間爆弾の一つや二つ。なくても構わないけどね」
「ああ、構わない。町のため、誰かのため。言い訳などいくらでもできる、けどだ。
俺たちが自分のために死体を利用するのは変わらない。だったら、友達だけ例外何てしていいはずがない」
「友達でしょ、本当にそれでいいんですか」
その震える姿を見て、俺は申し訳ないと思った。
知っている人間を爆弾に加工して動かすのって怖いよな。そんなことをする人間とも、そんなことを承諾する人間とも、近くにいたくないってのは正常だ。
この事件が終わればもう出会うことはないだろう。
何かのきっかけで出会うことがあっても、その時は赤の他人だだ。
悲しくはあるが、仕方ないとも思う。
☆
「あ、あああああああ!!」
これが幸福か不幸かはきっと、人によって異なるだろう。土壇場で照は己の目的を果たしたのだから。
――月与、ここにいたの!
爆弾に改造された人間の死体の中に変わり果てた妹の姿があった。
この災害の中でわざわざ死体を運ぶ物好きはいない。
ゆえに、植物人間の製造工場から、探していた死体が出てくるのは不思議でも何でもない。
むしろ、必然と言える。
――速く助けないと。でも、月与の死体を提供すれば多くの人間が助かるかもしれない。
今すぐ助け出したいのに、もう死体を見捨てると決めたのだ。照は自縄自縛に陥っていた。
ここで犠牲になった人にも家族がいると知っていたのに、見捨てると決めたからこそ、今さら家族の死体を返してという恥知らずな行動に出れなかった。
「俊樹!!」
そして、家族を犠牲にしたのは照だけではなかった。
――なんで、丸め込まれてるのよ。そこは殴ってでも止める場面でしょう。
一緒になって反対してくれるのでは! という淡い期待はすぐに裏切られた。
「どうして、あなたの友達よね」
あなたの家族よねと言い換えてもいい。自分自身へとむけた質問でもあった。
「友達だからかな。あいつが自分の死体に頓着するとは思えないんだよ。
死ぬ前、どうせ俺たちはろくな死に方をしないだろうって、バカ話をしたことがあったんだ。
どうせ適当なゴミ捨て場に捨てられるだろっていったら、あいつは臓器売買を知らないのか。俺たちみたいなごみでもいくらでも拾ってくれる奴はいるって、そういったんだ。
冗談だろって俺は笑ったけど、あいつはまじめな顔で、どんな形でも誰かとつながっているならばそれでいいって。
だから、確信できる。生きた人間のために使われるなら、きっとアイツも文句は言わないだろうって」
――違うの、ただ私は家族を犠牲にしたくないって。同意してくれる仲間が欲しいだけなの。
「うんうん、この状況でそれか。いかれてる、あるいはそう割り切れているってところか。これならうちでもやっていけそうだ」
――この人は向こう側なのだ。
その勧誘の声を聞いて、照は自分と西行の違いをすとんと理解した。
この人がいる世界は自分や月与がいる、陽だまりの中ではなく、戦いと怪異があふれる夜なのだと。
「でも、本当に構わないのかい。私としては、人間爆弾の一つや二つ。なくても構わないけど」
「ああ、構わない。町のため、誰かのため。言い訳などいくらでもできる、けどだ。
俺たちが自分のために死体を利用するのは変わらない。だったら、友達だけ例外何てしていいはずがない」
西行の結論は、照にとっては答えが出せぬ難問だった。
人間爆弾に改造される彼らだって、もともとは生きた人間であり、そして自部自身の物語を保有している。
死体が帰ってこないことで悲しむ人は確実にいる。
――正しい、あなたは正しいよ。でもね。
「友達でしょ、本当にそれでいいんですか」
今この瞬間も、照は自分で自分の選択に胸が張り裂ける思いだ。
目の前で、人間を爆弾に変えようとしている汚らわしい混血を殴ってでも止めたかった。
――なのに、私はもうすでに、顔も知らない誰かを犠牲にすることを肯定してしまった。
同じように家族を犠牲にしようとしている西行君も、苦しいのに、納得している。
資格そのものを放棄したからこそ、照は動けなかった
――でも、私はお姉ちゃんなのよ。ここに来たのも妹を助けるためでしょ。
だが、何事にも例外というものがある。
友人、知人、そして家族。
赤の他人を犠牲にするならば良心が傷まないことでも、それが顔見知りであれば一気にハードルが高くなる。
そしてここにいる半数を思い思いの場所に歩かせ、もう半分をどこへともなく転移させて行く。
「まって!!」
自己矛盾の果てに、歩き出した妹が曲がり角で姿を消そうとしたときに照は答えを出した。
妹を連れて帰ると決めたのだ。
しかし、時は遅すぎた。
「え!! 何!!」
そのときにはもう、月与は植物人間の襲撃を受けたのだから。
勢いよく飛び掛かられ、めった刺しにされ、そして胎内の爆弾が作動した。
「ああああぁぁぁあああぁぁぁっ!!」
妹の臓物が飛び散るさまを見せられ、激情のままに、照は白夜に掴みかかる。
「え!! えぇ!! なにこれ、え!」
人の家族を兵器に改造しておいて、本気で困惑し、いったい自分がいかなる罪を犯したのかすらも自覚していない薄汚い混血に照の胸の内で殺意が沸き上がる。
「放せ、こいつは、こいつだけはぁあああぁぁ!!」
照自身にとっては切実な行動であろう。
しかし、ほかの二人にとっては、突然、何の脈絡もなしに怒りだしたとしか思えないのだから、西行が慌てて止めに入った。
「落ち着け。なんで怒っているのかわからないけど、今仲間同士で争う場合じゃないだろ。
こうしている間にも植物人間によって民間人が一人また一人と犠牲になっているんだ」
疲れ切り、照は自責の念に支配されてしまう。彼女も分かっているのだ。これが、ただ単なる八つ当たりでしかないことは。
この方法が、最も効率的に誰かを助けれるということも分かっている。
「どうして怒っているのかはわからないけど、早くいこう。
君にだって、家族はまだいるだろう。その家族とともに過ごしたこの町を君だって守りたいはずだ。この町を救うには一人でも多くの戦力が必要なんだ」
いきなり殴りかかられ、困惑しているにもかかわらず。
白夜は怒りの感情を見せない。ただ、ともに進もうと手を伸ばすことだけ。
わざとではないと分かっているのに照にはその言葉が挑発としか思えない。
そう。結局、白夜は自分が女の家族を吹き飛ばしたという事実に気がついていなかった。
この話はこれをやりたかったから書きました。