人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です   作:kuroe113

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第6話反撃

 人間もどきがもてあそぶように指をくるくる回す。

 

 葉が、枝が、森が指の動きに合わせて、ざわめいている。

 

 それはまるで森そのものを指揮してオーケストラを演奏しているようだった。

 

 

 

 

 

「それで同じことをもう一度聞くけど、あなたは一体どこの所属かしら」

 

「答えは無抜けだ」

 

 

 

 ーーこいつの魔術は森そのものを操るってところだな。

 

 

 

 植物のツタがぎちぎちと俺の足を締め付け、そのまま、宙づりにした。

 

 逆さまになった世界。

 

 周囲は人の気配すらないうっそうと茂る樹海のなか。

 

 もしも口封じをしたいというのであれば、その辺に転がすだけで獣が片付けてくれる。まさに、理想的な殺人現場だな、ここは。

 

 

 

 

 

 だが、俺はあきらめない。

 

 一発逆転を狙い、どうにか銃に飛びつこうと、力を籠め、枝そのものをしならせ、手を伸ばすのだが「まったく、手癖の悪い」

 

 その手は、人間もどきに思いっきり踏みつけられ、遮られた。

 

 

 

 

 

「まだまだ反抗心が旺盛ね~。

 

 さっきまでさんざんおいたしたから、ここはきついお仕置きをしたほうがいいかしら」

 

 

 

 人間もどきが拳を握りしめれば、俺の表情が凝ることとなった。

 

 ツタが俺の身体を拘束する力を強めたのである。

 

 

 

 

 

 

 

「待って、くれ、あなたを傷つけたことは謝るから、もう許してくれ」

 

「ほら、西行。ここであんたも意地を張るところじゃないでしょ。向こうは謝ったら許してくれるって言ってるのよ。さあ!!」

 

 

 

 二人が愚かにも、人間もどきに縋りつき懇願する。

 

 こんな化物に、お願いしたところでいったい何になるというのだ。

 

 頼むくらいなら、まだ銃器を持って突撃したほうが生還確立自体は高いだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてだ、いったいどうしてこんなやつらに頭を下げる必要が……」

 

 

 

 もっと、人としての誇りを持てと、熱い意志の伝播は、「おっと、手がぁ」力技によって遮られた。

 

 俺は文字通り、土の味を舐めている。

 

 木の枝が上下にしなり、頭が腐葉土の中に埋め込まれたのだ。

 

 土の中でありながら、水中にいるような息苦しさ。

 

 じたばたと、どこかに活路はないものかと手足を動かし、そして俺は発見した。この危機を打ち払う切り札を。

 

 

 

 

 

「う~ん、どうしてだろう。どこの所属だって質問の返答に対してまぬけって言っているのに嘘をついている気配がないんですよね~。

 

 実は暗殺者じゃない。

 

 どこかの組織なり団体が鉄砲玉感覚で気を習得させた少年を特攻させた。

 

 だとしても、こんな拷問まがいのことをされても泣きさけばずにこっちを挑発してくるような筋金入りの差別主義者。思想面は完璧。

 

 この年齢で気を使えるような逸材を鉄砲玉にするのはいささかもったいないというか」

 

 

 

 

 

 俺が土の海の中にいる間、こいつは思考の海の中にいたようで。一人見当違いな方向に思考を走らせていた。

 

 間抜けが。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、あなたたち、こいつがどこかの組織に所属してるとか、そういったそぶりはあったのかしら。

 

 私としては、密猟者の一人か二人見逃してもいいと思ってるのよ。こちらが警察に突き出すのはそれはそれで面倒だから。

 

 とりあえずはそう、どこで気を習得したのか洗いざらい話してくれるのなら、そこにいる女の子は解放してもいいわ」

 

 

 

 ぶんぶんと首を振り、二人は俺が暗殺者ではないと証言した。

 

 その上で、狡猾な化物は仲間の絆を引き裂いてくる。一人を解放するという甘言で俺たちを惑わしたのだ。

 

 その程度のことで俺たちの絆が損なわれるものか!!

 

 

 

 

 

「何度でもいうが、お前ら人間もどきに答える言葉などない」

 

 

 

 何度問いかけられても、俺の答えは一つだ。

 

 

 

 

 

「まて、まってくれ。

 

 確かにさ、こいつの言葉が信じられないってことはわかるよ。

 

 捕まってるんだからさ、周りにも人がいないしあいつが約束を実際守る必要もないってことも。

 

 けどさ、話せば解放って条件だろ。金なり重要物資を渡せって要求なら突っぱねるが、その程度のことで一人解放してくれるかもしれないんだぞ。

 

 様子見するくらいの価値はあるはずだ」

 

 

 

 ああ、俊樹は人間もどきに心の隙を突かれたんだな、可哀そうに。

 

 

 

 

 

「信用するな。そもそもこの人間もどきが約束を守る保証がどこにある」

 

「質問に答えたところで、何も失うことがないだろ。損がないなら、やってみる価値はあるはずだ」

 

 

 

 切羽詰まった顔で俊樹は俺に懇願した。

 

 

 

 

 

 ーー俺はどうすればいい。

 

 心の底から、頼むからと、お願いしますと、願いを口にする友を見て心が震えたのだ。

 

 そうなのだ、そう、別にやましいことがあるわけではない、だから話しても。

 

 

 

 

 

「そうだ、マンドレイクの一件は! あの畑を見たぞ、処刑場でしか育たない植物があの数だ! いったい何人の生贄をささげた」

 

 

 

 俊樹と美香。友達の支持を取り戻すべく、俺はこいつらの罪を弾劾した。

 

 

 

「いや、あそこで本当に人を生贄に捧げているというのなら、ここで捕えたあなたたちを問答無用で処分しますよ。

 

 それに、マンドレイクくらい、この森ではいくらでも生息ていますから、わざわざ、人を殺して生贄にするような面倒を犯して育てる意味もありませんし」

 

 

 

 その断崖を、こいつはいともたやすく、論理的に否定した。

 

 

 

「ねぇ、もういいでしょ。こいつにはさ、多分いろいろ暗い過去があるのを知っていました。多分だけどさ、化物に身内を殺されたんだと思う。

 

 だからさ、ここまで頑固になってるんだと思う。

 

 でも、それでもさ、仲間を思いやれるいい奴なんだ。だから、見逃してください」

 

 

 

 美香はあろうことか、この人間以下の存在に土下座していた。俺のために。

 

 

 

 

 

「もう一度聞きます。あなたは一体どこで気を習得したのですか」

 

「……それは」

 

 俊樹が必死の声で俺に話すようにとお願いしてくる。

 

 美香はいまだに俺のために土下座したままだ。

 

 でも、人間もどきに許しを請うわけには……。

 

 

 

 

 

「俺の答えは一つだ、この間抜け!」

 

 

 

 それでも、俺の決意が曲がることはない。

 

 

 

「なんで、なんでこんなどうでもいいことで維持張るの。こいつの要求何て真実を話せってだけでしょ。

 

 今ならまだ、謝れば済む話なのよ」

 

 

 

 美香はもういっぱいいっぱいで泣いていた。俺が泣かせたのだ。

 

 

 

「なぁ、人間もどき。こいつらの耳をふさいでくれないか」

 

「まぁ、私としても身内がひどい目に合う声なんて聞かせたくないしね。

 

 正直な話、今からでもごめんなさい、許してくださいって言ってくれれば、見逃してもいいのだけれど」

 

 

 

 俺の指示を聞いて、二人は疲れたようにうつむいたままに、マンドレイク捕獲用の耳栓をつけた。

 

 これでこいつらには俺がどうなろうと、何も聞こえないし、見ることもできない。

 

 

 

 最後に、「どうしてと」、鉛のように重い問いかけに俺は答えられなかった。

 

 

 

 

 

 ーーああ、こいつらともこれでお別れか。

 

 マンドレイク用の耳栓をつけた。それはこいつらが俺を見捨てたという踏み絵に他ならない。

 

 

 

 俺自身理解している。嫌いな奴を思いっきりぶん殴りたいと考える奴は多いだろうが、そのためならば、命を投げ出せる奴など少数どころか、一部の異常者でしかないことなど。

 

 

 

 俺の心臓にはいくつもの罅が入る。けれど、頭はフル回転を起こし、新しい回路を作成している。

 

 そう、こいつらが耳栓をしたことで、全ての準備が整ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、どうして答えてくれないんですか。

 

 マンドレイクの密猟者ごときであれば、武器さえ取り上げれば見逃しますから」

 

「そんなもの答えなんてただ一つだ。お前のことが嫌いだからだ」

 

「おっと、手がぁ~!!」

 

 

 

 聞き分けの悪い子供へのしつけが再度行われる。

 

 

 

「おい、人間もどき。お前ら自分が今何をしているのかわかっているのか。

 

 お前らごときが人間様に手をあげるなんざ重罪だ。ただで済むはずがない」

 

「それ、意味が分かっているのか」

 

 

 

 どこか温和そうな間延びした口調が、取り外された。

 

 ただ冷酷に、場合によっては即刻殺すと、冷たい殺意が感じられた。

 

 

 

「ごめんなさい、もう二度とこんなことはしませんと、土下座すればそれだけで問題が解決するんですよ」

 

 

 

 まったく、こいつ頭悪いな。さっきから何度同じ質問をするんだか。

 

 

 

「まだ、わかっていないのかしら。今この状況は質問ではなくて拷問なんですよ。

 

 私はこのように」

 

 

 

 そういって、人間もどきが指をぐるりと回せばその指と連動でもするかのようにツタが回転し始めた。

 

 

 

「ツタをコマのように動かすことも、そのまま木にぶつけることも。さぁ、いい加減話す気になりまして」

 

 

 

 もう人間もどきは指を動かすのを止めているのだが慣性に従っているのか、それとも指を動かさなくとも植物を操作できるのか。俺は回り続ける。

 

 勢いよく回転。このままではそばにある木に体をぶつけそうになる恐怖の中、それでも心だけは屈さない。

 

 

 

「それぇ~」

 

 

 

 その反抗意識に恐れをなしたのか、この女は次なる一手として横ではなく枝をしならせることで縦の動きを加えたのだ。

 

 

 

「そこからどぉん!」

 

 

 

 さらには地面に衝突。

 

 幸いなことにこの人間もどきはまだ俺のことを取って食おうなどとは思っていないようだ。じっくりと獲物をいたぶる加虐趣味。それこそがお前の敗因だ。

 

 下は腐葉土。

 

 天然のスポンジが衝撃を吸収し、コンクリートやアスファルトの上であれば一撃で血にぬれ、意識が混濁する状況でも、俺はぴんぴんしている。

 

 だからこそ、動ける、あらがえる。

 

 深い深い土へと。

 

 自分から頭をぶつけ、湿った、腐り果てた葉っぱの層へと潜り込んでいく。

 

 

 

 溺れるように、手足をバタバタと動かし、どこかにあるはずの希望の芽をつかみ取るために。

 

 そして掴んだ! 

 

 目が見えないから、これである保証はない。

 

 だが、これ以上時間をかけるわけにもいかない。

 

 人生最大の丁半博打にーー

 

 

 

 ーー結果として俺は勝利した。

 

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