人外が差別される世界で、いつの間にか人外になってました。~色々大変なことがありますが俺は元気です   作:kuroe113

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第9話救出

「本当に……、私って何をやっているのかしら」

 

 誰かとともにありたい、みんなに認めてもらいたい、そんな当たり前のことを求めていただけなのに、いつの間にか自分自身がその絆を踏みにじる側に回っていたのだ。

 男、西行の周囲にはライフル銃があった。筋金入りの差別主義者ならば自分に向けて発砲すると思ったからだ。しかし、仲間思いの彼は自分に頭を下げた挙句、仲間の元へと走り去った。故に、これでは自分のほうが悪役だと一華は自嘲したのである。

 

 

 

「なんなのよ、こいつらは」

 

 森の中、早い時点で二人からおいて行かれた美香は一華に拘束されその上で窮地に立たされていた。

 彼女の目の前には動く死体がいた。傷つき、腐敗し、悪臭を放つ死体だ。

 それがまるで仲間を求めるようにこちらをにじり寄ってくるのだ。

 

「何、何なのよ、こいつらはぁ!!」

 

 恐怖以外の何ものでもない。 

 恐怖で手は震えるも、それでも彼女は懐から銃を取り出し、荒いがしっかりと狙いをつけ発砲する。

 

 

 ――早く、早く来てぇ!!

 

 

 正しい姿勢なんてものほっぽり出した無茶苦茶な姿勢で銃弾を打ったのだ。

 

 予想通りに、予想以上の衝撃。

 鈍い痛みが走るも、こんなところで止まるわけにはいかないと、気合で下手な鉄砲数うちゃあたるを実践した。そしてーー。

 

 

「あ、当たった」

 

 

 元々だ、まともな思考能力も回避能力もない、ただ歩いてこちらに向かってくるだけの木偶の棒。

 美香のへっぴり腰でも弾を当てるのはさほど難しいことではなかった。

 

 

 が、ーー「どうして、どうしてあんたは頭を撃ち抜かれても何事もなく動いているのよおおおぉぉぉ!!」

 

 

 敵は撃たれたぐらいでは効果がなく、そのまま歩いてくる。

 美香は知らず知らずのうちに、叫び声をあげていた。

 

 そこからはもう、狙いをつけるなんてお上品なことはせずに、ただ、有り弾をぶつけるだけ。

 当然、すぐに弾が切れ、銃はカシャカシャという音を吐き出すだけの玩具になり果てた。

 

 

「うをおおおぉぉぉ!! 唸れ、私のパワぁぁぁあああ!!」

 

 

 運良く、銃弾の一発がゾンビの足に命中した。

 ばたんと地面に倒れた化物は、それでも這って、美香の元を目指す。

 だからこそ、美香もまた最終手段を行使する。

 

 そう、地面を横に転がることで動き始めたのである。

 ゾンビが地面を這う速度、それと、彼女が動く速度では後者のほうがわずかに速い。だがそれも、障害物に遭遇しなければの話だ。

 残念ながら、彼女の出せる速度では、ゾンビを引き離すことなどできないのだから。

 

 

 

「あぁ、体力使いすぎたかぁ!!」

 

 走り出してすぐ、西行は弱音を吐き出した。

 先ほどまで、慣れない森の中を全力疾走していたのだ。一休みして持ち直したように見せても、筋肉はもうすでに悲鳴を上げていた。

 

 少し走り出しただけで、息が切れ、汗がしみだし、服が拘束具の様な重りとなっていた。

 

 

「まっだ、まっだぁっ!!」

 

 疾走が、速歩き。速歩きが徒歩のスピードになるのはさほど時間はかからない。 

 止まりたい、でも止まってなるものか。自分自身への不甲斐なさを燃料に足を動かすのだ。

 

 

『お兄ちゃん』

 

 

 思い出されるのはあの地獄。

 過去の後悔が今まさに西行に追いつこうとしていた。

 そうすると、これまでの自分の選択がすべて謝りだと認めてしまうのである。

 

 

「俺はもう、俺ももう誰かを見捨てたりしない!! 今度こそ一人残らず大切な人を救って見せる!!」

 

 それは過去への贖罪であり、罪という名の十字架なのである。

 

 

 

 ーー精神が肉体を凌駕する。

 

 土壇場で西行は完全に息を吹き返したのだ。

 魔術、あるいは気功に詳しいものならば、この光景を驚きと驚愕とともに、この土壇場で内気功を習得したのかと解説してくれるだろう。

 

 内気功。

 それは身体の内側に働きかける気功である。

 身体能力の向上、自然治癒力の活性化。

 

 すでに力尽きていた肉体が動いた理由はそれだった。

 しかし、どれだけ言葉を尽くそうと、それはそうそう簡単に習得できるものではなく、ゆえに、こう言えるだろう。人の意志がもたらした奇跡だと。

 

 

 

「離れて、離れて、離れさいよぉ!!」

 

 いち早く、この場を離れなければならないというのに、一華の足は止まっていた。

 危惧していた障害物、要するに木の枝に彼女を縛っているロープが引っかかったのである。

 

 急いでいるということもあってか、力任せに体を動かすが、多くの場合がそうであるように、ただの力、唯乱暴に身体を動かすだけではその拘束はより絡まり強固なものとなってしまう。

 

 いよいよゾンビが彼女のすぐそばまで来た。せめてもの抵抗に、自分の位置を知らせるべく、大声で叫ぶことしかできないでいた。

 

 

「来ないで、お願いだから、私なんて肉付き良くないから食べたって、おいしくないわよ」

 

 必死になり、自分でも少しだけコンプレックスを抱いている秘密を口にするが、相手は言葉も解さない化物だ。

 

ただ食欲だけを行動原理にこちらに迫って来る。

 

 

「美香から離れろぉ!!」

 

 だが、ここで必死の呼びかけが実を結んだ。

 声を羅針盤として、西行が救出に現れたのである。

 

「た、助かったぁ!!」

 

 その救出劇を見て、美香は胸の高鳴りを憶えた。

 少女漫画風に言えば白馬に乗った王子様が自分を助けに駆け付けたのである。

 女の子であればだれでもあこがれる状況。

 

 実際問題、それが誰であろうとも、この状況を解決してくれるのならば、キスでも何でもしてやってもいいとすら思っていた。

 

 

「さあ、速く、こいつを何とかしてぇ!!」

「もちろんだ」

 

 余裕がないから、震える手で危険物を指さすだけ。

 それだけで、西行は自分が何をすべきか、どう動くべきかを察した。

 

 ただ、狙いをつけ放つ。

 たったそれだけ。たった、それだけのはずなのに。

 

 

 

「な……、何が!!」

 

 西行は感じるのは勝利への歓喜ではなく困惑だった。

 何せ、ライフルが突然爆発したのだ。

 西行自身側頭部を切り、血を流している。

 運が悪ければ更なる被害が訪れていても何ら不思議ではない。

 

「まさか、あの女」

 

 思い出すのは銃口に手をかざした一華だった。

 あの状況に飲まれ、そこまで考えが及ばなかったが、今にして思えばあの状況は不自然だったと西行はその余裕の正体を今さらになって悟ったのである。

 

 

「この役立たず、お前何しに来たのよ」

 

 一華の目の前にいるのは、白馬の王子様ではなく、よく見知った、間抜けな友達でしかなかった。

 いてぇ、いてぇと、先ほどの彼女と同じく地面を転げまわる西行へは確かな感謝があった。

 しかし、この状況で役に立たないというのはその時点で罪だった。

 

 

「とにかくナイフ持ってる。それさえあればこの縄引きちぎるから」

 

 救援がたった今役立たずになった。ならば自分の身は自分で守らなければならない。

 というか、最悪、美香は西行を守りながら戦うことを覚悟した。

 

 通常、軍や警察では手の拘束は身体の前ではなく後ろで行う。

 手が前にあると、手の可動域の関係から、ある程度自由に動けるからだ。

 

 もちろん、一華もまたこの知識を持ってはいるものの、ここが危険な死の森であることを重々承知していたからこそ、あえて手を前で拘束するという慈悲を見せたのである。

 

 その慈悲が彼女の命を救い、自由がきく。

 そして、この状況でも戦う選択肢を取るだけの強さを彼女は持ち得ていた。

 

 

「あなたも男でしょ、根性見せろぉ!!」

 

 発破をかけられ、西行は最後の最後で意地を通した。

 カバンの中に厳重に保管されていた瓶を投げてよこしたのである。

 

「これ何、ナイフは」

 

 当然、目当ての品と異なることで、美香は困惑した。

 何これと、手元の瓶を不思議そうに眺めている。

 

「……けろ、それを早くかけろ!!」

「かけろ、そうか、これ油ね。それですべりやすくするのね」

 

 そして指示を聞いたことで、一体どんな者であるのかを勝手に自己補完してしまう。

 

 ーーこれで滑りやすくして脱出ね!

 

 ナイフのほうが良かったが、これならばこれで悪くないと美香は思った。

 瓶を開け、ドバドバとその中身を手にかける。

 

 

「え! 水!? でも拘束とけたぁ!!」

 

 すると一華の行った拘束がほどけた。

 

「バカ、それを目の前のゾンビにかけろよ!」

「知るか! そんなことよよりも、この拘束から抜けるのが先じゃい!」

 

 衝撃のせいで、一時的に耳が聞こえなくなっていたのが災いした。

 西行が本来しようとしていた、使い方を美香は見誤っていた。

 しかし、実際に拘束から解放されたという実績がある以上。わざわざ、横からの忠告に耳を貸すこともない。

 

 

「それは聖水だ。目の前の化け物を払う力があるんだぞ!!」

「はッ!?」

 

 そして美香はどうして渡されたのか、その真意を知った。

 その時の驚愕の顔はあまりにも間抜けだった。

 そして、とてつもなく虚無な表情で、使い切ってしまった瓶を眺める。

 

「その、変わりは」

「高価な代物だからない」

「ま、まぁ、拘束から解放されただけで良し!!」

 

 結局、最終的に、美香は笑わなければやっていけない。その境地に達し、笑うのだった。

 

「この役立たず!!」

 

 最初の仕返しとばかりに、西行の罵倒が飛ぶ。

 

 

 

「なぁ、あんたも一緒に来てくれよ」

 

 二匹目のドジョウを狙ってか、俊樹は一華に土下座していた。

 この危険域では見方が一人でも多いほうがいいということで、近場にいる人間を味方に引き入れるべく動いたのである。

 西行の土下座を見て、誠心誠意頼み込めば案外ちょろいと学習したのもあった。

 

「あのですね~。今現在、私の裁量で、あなたたちをみなかったことにしてるんですよ~。

 これ以上はさすがにね、私たち自身で決めたルールとか決まりもありますますし」

 

「確かにそうだよ。あんたらからしたら、俺らは厄介ごとを持って来ただけの存在だ。

 その願いを聞き届ける必要もないし、そちら側のルールがあるのもわかる。

 美香を救ってくれるなら、俺は捕まってもいい、だから」

 

「それどういう意味か分かってるんですか」

 

 これ以上は踏み込めないというよりも、これ以上犯罪者に肩入れするのは組織の方針に反すると抗議する一華に、俊樹は、自分たちはお前らの捕まえた囚人なのだから、保護しろと言葉をあげた。

 

 そもそもの話、俊樹は一度捕まる覚悟を決めたのだ。

 怖くなり逃げ出したが……。

 

 友達に危険が及び、危機が迫っている。この状況で助力を得るために自首するなんてこと、もしかしたら秘密裏に殺されるかもしれない、あの時に比べればだいぶ気は楽だった。

 

 それに実際に話してみて、混血も思ったよりまともな連中と知れたために、そう酷いことにはならないという打算もあった。

 

「はっきりと言いますが、警察に私たちが密猟者を差し出すのはそれはそれで面倒が多いんですよ」

 

 しかし、その理論を担保する社会的な責任を一華はあっさりと拒否した。

 

「それは……つまり」

 

 どうして助けてくれないんだと、その言葉を俊樹は飲み込んだ。

 こいつの中ではいまだに、西行が自分たちを殺しに着た暗殺者ではないかという疑いがあるだろうということも、自分たちがそれを助ける工作員で内かという疑いも消えていないのだろうと察したからだ。

 互いを信用するには、自分たちは負債をため込みすぎたというのは俊樹の中でも納得できる理由だったからだ。

 

「ですがそう、この森の中での危険生物の排除は私たちの領分です」

 

 もしもそう、俊樹にとって誤算があるとすれば、目の前にいる女が思っていたよりもちょろかったことだ。

 

「よっしゃ!! あんたいい奴なんだな!」

 

 握手した手をぶんぶんと振り回す。今ならダンスでも踊ろうと申し込みたい気分だった。

 

「まぁ、それでもここまで出遅れたから、間に合わなくとも文句は言わないでくださいね」

 

 最終的に、そんな不安が残る言葉を口にしたのだが。

 

 

 

「うわあああぁぁぁ!! 木があああぁぁぁ、枝がぁぁぁあああ!!」

「男の子でしょ、これくらい我慢しなさい」

 

 俊樹をお姫様抱っこした一華は森の中を文字通り、ムササビのように飛んで移動していた。

 木と木の間を飛び回り、枝と枝との間を飛び回る。

 

 その恐怖のジェットコースターのせいで、俊樹は恐怖の悲鳴を発するが、危険なので一華はやめて欲しかった。

 

 ーー、この子たちは大丈夫なのかしら。

 

 そもそもの話、仲間でもなく、せいぜい1時間話しただけの他人だからこそ、あえて話すことはないが、一華は彼らの関係にかつて自分が持っていたような危うさを感じていた。

 

 その特殊な感覚から、彼らの動きを感じられるからこそ、ここにいない二人ならばこのまま危機的状況に首を突っ込んでもどうにかやっていけるだろうと感じる。

 しかし、今一華の腕の中にいる、俊樹に関しては別だった。

 戦場にいながら、自分の手で戦おうとしない気の弱さ。それでいて自分から貧乏くじを引こうとする人の好さ。

 どれもこれもが、自分たちの業界でやっていくには向いていない。

 いつか何かの拍子で、そのままと思ってしまう。

 

 

「ああ、本当に調子が狂う」

 

 あんな屑が、誰かのために頭を下げ、自分の命を懸け仲間を救おうとしているのだ。

 正直な話、まったく好きになれないが、不思議と負けてなるものかという敵愾心が湧いてくる。

 だから、こんなおせっかいをしている。

 

 だが同時に助けるかどうかは慎重に決めなければならない。

 ないと思うが、西行らが暗殺者ではないかという疑問は、いまだ一華の中に残っていたからだ。

 仏心を出して、暗殺者を見逃し、後日しっぺ返しを食らいましたなど、笑い話にもならない。

 仲間への筋を通すために、彼女は直接介入する気はなかった。

 

 

 そして、そこにいたのは密猟者の慣れの果てだった。

 その死体に霊魂が宿り仲間を求めて徘徊している。 

 

 

「まったく、こんな雑魚に何を手間取ってるんですか」

 

 俊樹をその場に置き、一華はまっすぐに死体に向かって飛び出した。

 この程度の相手に、小細工も創意工夫も必要はない。

 ただ、真っすぐ言って、物理で攻撃する。

 性格には腕に潜ませたお札を使うので、物理ではないが、結果として勝負は一瞬で決した。 

 

「この死体……、まさか」

 

 一華は死体を険しい目つきで見つめる。

 この死体に見覚えがあったからだ。

 軍が使用している、高価な迷彩服と、肩や頭部といった目だった場所に枝を使用した偽装を行うという気合の入り具合を見て、印象に残っていた。

 

 そう、こいつに関して捕まえたのは彼女であり、自信の仲間が、外に放り出すと言って任せたのだ。

 それが今ここに死体となって転がっている。

 最悪の想像が、一華の中によぎり、同時にもしそうならば、この件に立ち入りさせるわけにはいかなかった。

 なので、手を出したのである。

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