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リムグレイブがそうであったように、リエーニエにも教会が多い。その中でもその教会は一際に大きくて、そして朽ち果ててはいなかった。でもそれは、中に敵対する意思を持つ者が残っているという可能性も示している。
だから彼は一度トレントから降り、油断なく剣と盾を構えて教会の入り口を潜る。私はそれを見送ってから、リエーニエの晴れた空を見上げた。
「……」
リエーニエの夜空はとても綺麗。でも、だから、今のこの青空も……。
私のそんな思考は、ゴロゴロと彼が転がり出て来た騒音で台無しになった。いつも思うが、褪せ人とは皆がこのように転がりながら戦うものなのだろうか。
「どうしたの? 大丈夫?」
いつにも増して緊張している彼にそっと話しかける。彼は教会の中から目を離さないまま、一言だけ警告した。
大きな、犬がいる
大きな犬、とは。ケイリッドで嫌と言うほど遭遇した巨大な犬のことだろうか。でもそれにしては、血の匂いも獣臭もしない。
……なんだか嫌な予感がして教会に足を踏み入れる。無防備な私を咎める彼の言葉も無視して、その奥にまで足を進めて、そこには。
「おや、お嬢さん。結びの教会に、よくぞ参られました」
何故だか紳士的な挨拶をしてくる、大きな……。
「亀よ」
【おそらく亀?】
「亀だと言っているでしょう。おそらくではなくて、確定的に……、
……前にも、こんな話をしなかった?」
彼は首を傾げ、私は馴染みとなってしまった頭痛に頭を押さえる。そんな私たちを見て、大きな亀の司祭は朗らかに笑っていた。
教会を後にした時にはもう、日が暮れていた。ここにも学院の鍵が無かった以上、また別の場所を探さなければならない。トレントの背中に揺られながら地図を眺めて、北西の大きな城館が目に留まる。
「次は、ここに行ってみない?」
彼は返事の代わりにトレントを走らせて、道なき道を跳ぶように駆けていく。崖を飛び越え、墓石に飛び移り、霊気流に乗って空を飛ぶ。すれ違いざまに兵士を斬り捨て、光る頭蓋骨を蹴り砕いて、とんでもない早業でロアの実を採取していく。
向かう先の西空は、赤く赤く輝いている。燃えるようなその美しさに、私は右目だけを細めた。
――この世界がどれだけ壊れていても、苦痛に満ちていても
――それでも
――それでも、この世界は、こんなにも
「ねえ、見て!」
風音に負けないよう大声を出す。振り向いた彼の兜を、素早く脱がせてあげた。驚いたように向けられる褪せた瞳。だって、こうしなければ見えないでしょう?
「あんなに、空が燃えるよう!」
落ちた葉は伝えている。
ここではないどこかの地で、導きと運命が交差したその果てで。
灰の少女は旅をした。