3DS版は知らない。気にしなくていいじゃない。
青年は、気が付いたら城で倒れていた。
城は廃墟となっており、全体を蔦に蹂躙されている様は、まるで呪われているかの様である。
「ここは……、いやさっき迄でダーマ神殿にいたはずだが……」
自らの言葉だが、青年にはダーマ神殿が分からなかった。どこの国の、どこの都市にあるどういった組織の神殿なのか、何ひとつとしてわからない。混濁とした記憶が頭の中でとぐろを巻いていて、はっきりとしたことは何もわからない状況だった。
起き上がって服についた砂埃を払う。
身に着けていたのは槍と鎧だった。無骨だが、紀章が入っている。
青年は知る由もないが、紀章はトロデーン国領の盟主、トローデン城のものであった。
青年は、このトロデーン城の兵士なのだった。
「……ペットか?」
もぞもぞ動いたポケットから、毛並みの整ったネズミが心配そうに青年を見上げていた。
ポケット越しに暫定ペットを撫でながら、朧気ながらも戻ってきた記憶を辿る。
ダーマ神殿は職業変更をする場所だった。確か、今の職業の熟練度を見てもらおうとしたところで、どういうわけかそこからの記憶はない。
熟練度ばばぁの水晶が光り輝いて、そのまま光にのまれてか? いや、それすらも夢か。
「で、なーんで廃墟かなこれ」
頬をつねればちゃんと痛覚があるので死んではいない。
つまり、夢だった、というわけではない。
「おお、エイトよ、生きていたか!」
声がかかり、振り向けば小柄なナメック星人が自分に駆け寄ってくるところ。触覚がない。ナメック星人もどきであるか。
「良かったぞい、おぬしは無事だったのじゃな」
男の頭上には王冠がある。つまりおそらく、この城の王だろう。
青年は、混乱の最中さなかでありつつも己の肉体の記憶をたどり、己の魂が宿る肉体が恐らく仕えているであろう主に状況を訊ねるのであった。
「てことがあったわけで、オレの記憶喪失も大半が治っていないわけだ」
「へぁー、兄貴は苦労されてるんでゲスね。そりゃ凄まじく強いわけでゲス。
あの雷の呪文、あっしは何も出来なかったでゲスよ。
城でもドルマゲスと兄貴が戦ってればオッサンもこんなチンチクリンにはなってなかったに違いねぇでゲス」
時は少しばかり流れ、呪われし廃城トロデ王は美しい牝馬ひんばと青年、それから道中で青年の下僕となった元盗賊の男を伴って旅を始めていた。
男の名はヤンガス。トロデーン地方からトラペッタ地方への渡し橋を通る際に襲い掛かってきたところを、エイトが剣と魔法で伸したのが出会いだ。
エイトの力量に感服したヤンガスが、是非とも舎弟にと申し出て、同行している次第である。なお、トロデ王はいまも反対している。しかし野営をした際のキャンプの手際や、道中のモンスターを捌いた能力は評価しているようだった。
一行の旅の目的は、トロデーン城の秘宝たる杖を盗み、城を蔦まみれの呪われた廃墟に変えた挙句、王を緑ナメクジ、姫を牝馬に変えた凶悪の魔法使いを倒すこと。
魔法使いの名は、ドルマゲス。
現在向かっているトラペッタの街に住まう、賢者マスター・ライラスの弟子である男なのだ。
「なんと!! 既に亡くなっていたじゃとっ!?
むむむむむ……」
翌朝、トラペッタに到着した青年エイトとヤンガスが住民らに聞きこみ調査をした結果、賢者マスター・ライラスは没していた。
住民曰く、ドルマゲスが直接手にかけたらしい。
グリーンピースになってしまったトロデ王は住民からみたらただのモンスターなので、面倒ごとを避けるために野外にて馬車番として待機していたのだが、部下が持ち帰ったのは凶報だった。
無さそうな脳味噌を捻ってトロデは唸る。
「亡くなってしまったものは仕方がないのお……。
元々、我らが追っているのはワシと姫をこのような姿に変えた憎きドルマゲスじゃ!
マスター・ライラスに訊けばヤツのことが何か分かるやも知れぬと、そう思ったのじゃが……。
やはりドルマゲスの行方はワシらが自力で探すしかないようじゃな」
今や馬の身である姫の感情は読み取りにくいが、青年が見るに、すこし悲しんでいるように感じた。
「では、行くとするか。
ライラスが居ない今、トラペッタに長居は無用じゃ!」
「いや、陛下。もう日没ですけど」
勇み足のトロデにエイトが待ったをかけた。
「兄貴の言う通りでゲスよ。
おっさんのためにあっしらは街中を半日以上歩き回ったんでゲスよ。夜とか以前に、もうへとへとでゲス」
舎弟ヤンガスもエイトに続いて休息を提案するが、おっさんヤンガスとおっさんトロデは仲が悪く、どちらも大人げない。
当然、トロデは食ってかかることになる。
誰も喜ばないおっさん同士の諍いが始まる、かと思われたその時に、思わぬ参入があった。
「お待ち下さい!!」
街の門から出てきたのは、若く器量の良さそうな娘であった。
「お待ちください。
実はあなた方にお願いがあって、こうして駆けつけました」
トロデが聞こうとしたが、エイトが前に出て対応する。
易々と上奏を受けるトロデに、腐っても王である自覚を持てという諫めの意味もあった。
「あー、言うだけ言ってみてくれ」
「夢を見ました……。人でも魔物でも竜でもない者たちがやがてこの街を訪れる。その者がそなたの願いを叶えるであろう……と」
両手の平を祈るように組んだ娘の言葉は、預言を思わせるものだった。
エイトは眉をひそめる。
「なんだそれは、ルビスの神託か?」
「えと、るびす、ですか?」
「違うのか。どういったものだそれは」
「まぁまぁ兄貴、そう若い娘を怖がらせるもんでもないでゲスよ」
「いや怖がらせては……、おっと」
はふ、と娘が膝からくず折れ倒れた。
すんでのところで抱き支えたエイト。あちゃーといった表情である。
「これエイト! 気絶させるほどに圧をかけるとは娘さんが可哀想じゃろうが!」
「面目ないです。
しかし、ドルマゲスは呪いの杖を持った魔法使いでしょう? この娘を利用つかって我々を策謀する可能性があったんで」
「むぅ……。なるほど、確かにあり得ない無い話ではないのお。話も夢で見たという不自然なものじゃしな。
それとお主、先に言っておったルビスとは何じゃ」
「天地創造の大精霊ですよ。神と大差ないです」
「聞いたことがない精霊じゃが……」
「ええ……、常識かと記憶しているのですが……」
「お主、やはり城で倒れた時に何かあったんじゃないかの」
「そういわれると、以前の記憶がほぼないのでどうも反論できないですね。
まぁそれは重要じゃないので、とりあえずこの娘を家まで送り届けてきますよ」
送り届ける? 家を知っているのか?
トロデとヤンガスが顔を見合わせる。実は仲が良いのかもしれない。
「この娘、昼からずっとオレたちを付けてたんですよ。〈しのびあし〉の腕はそれなりですね。
それに、そう時間たってないので魔力の残滓を辿ってけば家くらい特定できますわ」
おっさんたちの口があんぐり開いた。
それじゃ、と言い残して横抱きにした娘の家に向かうエイト。
しばらくで到着した家は、町の角で共同井戸の前にあった。つまり、それなりに地位のある家のむすめだったようだ。そういえば服の質感も、その辺の町娘よりも上質なのが分かる。貴族とまではいかないであろうが、商家や町長あたりなのかもしれない。
足先でコツコツコツと玄関扉をノックをするが、誰も出てこない。
「ぴゃ?!」
ドアの前で耽ってるを、意識の戻った娘が顔をリンゴのように赤くさせていた。
エイトの左手と顔とを、せわしく行き来した目が混乱を示している。
「あぁ悪い。良い素材の服だなぁと思ってな、触っていた。そういえばそこお尻だよな」
「!?」
なんとでもないかのような言い方に、フリーズした娘を地面に降ろす。
家に入れるように促すと、ぷりぷりとちょっと怒りながら案内してくれた。
玄関を入ってすぐに、水晶玉が置かれた机があった。
奥と手前に向かい合って椅子が置かれており、完全に占いのセットである。
「実は、頼みというのはこの水晶玉のことなんです」
「ほう」
相槌をしながら、エイトは密かに机の水晶玉へ魔法をかけた。
結果はただのガラス玉で、なんの魔力的親和性も感じられない。大きさも、占いや占星術の使用に値するものではなく、二回りほど小さい。
この水晶玉ただの観賞物が妥当なものであった。
「……て、もしかして話が急すぎましたか?
もっと頭から話したほうがいいですか?」
「おまえさん調子狂うなぁ。周りから天然って言われるだろ」
「え? それは普通にお母さんから生まれたので自然なものですけれど……」
「あー、うん。依頼の話、続けて?」
おそらく、続けて?だけであったら、己の出生の話が続いていたであろう。
エイトは椅子に腰かけて、ユリマにも腰かけるように指をさす。
二人腰かけて、ようやっと本題が始まる。
「はい。
かつて、私の母のルイネはものすごく高名な占い師でした。
どうな探し物も尋ね人も、ルイネには分からないことはないと……。
しかしある日を境にその占いはまったく当たらなくなってしまったのです。
たぶん、それはこの水晶がただのガラス玉に――」
「何を話しているの!? ユリマ!」
ばたんっ、と乱暴に開けられた玄関から、女性が入ってきた。
年のころは20半ばであろうか、ごく僅かながらも愁いを帯びおり、魔性さながらの雰囲気を孕んだ女性だった。
いわゆる『占い師』『魔女』と称するにふさわしい印象で、長い銀髪がゆらゆらと魔力に揺られていた。
(ほぉう……)
思わず見入るエイトに意も介さずに、娘に詰め寄った。
薄っすらと顔が赤らんでいるが、怒っているからというより、恐らくアルコールのそれであろう。甘い果実酒の香りがしている。
「この水晶玉には触っちゃダメってあんなのに何度も、」
「水晶玉には触れていない」
エイトが手を女性の前にかざし、二人の間に入った。
まさか目の前にいるのに、気づかれないのはおろか、親子(?)喧嘩が始まるのを黙認するわけにはいかなかった。
「……あなたはたしか昼間に教会であった騎士様よね。どうしてここに」
女性が言うように、エイトは面識があった。
今日、マスター・ライラスの調査で街中を回っていた際に、教会で祈りを捧げいたのがこの女性だったのだ。
エイトは察する。
神に祈る母、悩む娘。これは一家として重大な案件であろう。
「とりあえず、気にするなら話に混ざってくれないか?
この娘に呼ばれてオレはここにいるんだが、どうやら込み入った事情があるようだしな」
「っ、わたくしは、別に困ってなんかないわ。娘に何にを頼まれたって、それは別にわたくしには必要なくってよ!」
「わかったわかった、聞いてるだけでもいいから。
とりあえず帰ってきたばかりで悪いがここ、腰かけてくれ」
椅子は二つしかないので、エイトは自分が借りていたものを娘の母に譲る。
子供のように不服と口を尖らせる母親に、所作に幼いところがあるのが似たもの親子だなと笑った。
からかいを咎める母ルイネの肩を押して座らせる。
自分が樽やツボでも適当に座ろうと見渡すが、綺麗に整理整頓されたこの部屋にはなさそうだった。
「オレのは……うん無いな。いいわ適当で」
人差し指を下から上へクイっとなぞる。
小さな方陣が現れ、魔法で氷の椅子を作り出した。
静かに腰をかける。魔力さえ調節すれば、そうそうに溶けることはない上に冷たくないのだ。エイトにとっては普通のことであった。
当たり前のように高度な魔法を使ったエイトに、占い師という魔力に精通した母子は息をのむ。
そうなればエイトが場を支配するのは容易く、話し合いは半刻とせずに終わるのだった。
結果。
ルイネがちゃんと力を発揮できる水晶玉を探す、という事になった。
続きを見たい人がそれなりにいれば書く。