貞操観念逆転世界の男性ダンジョン配信者   作:書鳳庵カルディ

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第八話 挑戦の入り口

 ダンジョン見学から一週間後。

 翔太はこの間にも、インターネットで様々な情報を集めていた。

 配信プラットフォーム"ダンスト"のガイドラインには、新規配信者向けの案内が詳しく記されている。

 

 特別な資格は必要なく、アカウントを作成すれば誰でも配信を始められるようだ。

 ただし、安全のために経験者からダンジョン探索の指導を受けることが推奨されていた。

 

 スマートフォンに表示されているダンストの画面には、相変わらず様々な配信者の動画が並んでいる。

 彼らは未知の空間を探索しながら、視聴者と一緒に新しい発見を共有していく。

 その姿に、翔太は強く惹かれていた。

 

(今までの生活とは、全く違う道だけど)

 

 これまでの知識と経験。

 それを活かしながら、まったく新しいことに挑戦する。

 その可能性に、心が躍るのを感じていた。

 

(それはそうとして、言われた通り基礎は学ばないとな)

 

 翔太のスマートフォンの画面が切り替わり、今度はダンジョン探索の指導を行ってくれる施設の情報が表示される。

 近くにいくつかの施設があり、それぞれ特色が異なるようだった。

 

 中でも気になったのは、"風間道場"という施設。

 元トップダンジョン配信者が運営する、少人数制の道場だという。

 評判を見ると、丁寧な指導で定評があるらしい。

 

 サイトには、代表者の風間みどりのプロフィールが掲載されていた。

 30代半ばの女性で、"守護者のギフト"の使い手として知られる人物だという。

 5年前に第一線を退いた後は、後進の育成に力を注いでいるとのことだった。

 

(ここがいいかもしれない)

 

 決意を固めた翔太は、問い合わせフォームを開く。

 すると、画面に注意書きが表示された。

 

【当道場では、受講希望者との面談を必須としています。まずは面談予約からお願いします】

 

 翔太は少し考えてから、明日の午後という時間枠を選択した。

 すると、すぐに予約完了のメールが届く。

 

 その後翔太は、配信に関する準備も始めた。

 必要な機材のリストを作り、配信ソフトの使い方を調べる。

 パソコンの扱いには慣れていたため、理解は容易だった。

 

 それから、翔太は自分のギフトについてもう一度整理を始める。

 先日のギフト適性診断で、確かに世界のがプログラムのように"見える"という感覚があった。

 しかし、まだその能力を自在にコントロールすることはできない。

 

「これも、訓練次第ってことか」

 

 翔太はため息をつきながら、立ち上がって軽く背伸びをした。

 窓の外では、夕暮れが近づいている。

 明日の面談に向けて早めに休むことにした翔太は、家事を済ませてから早々に眠りについた。

 

 ++++++

 

 翌日。

 たどり着いた風間道場は、閑静な住宅街の一角にあった。

 外観は普通の一軒家だが、表札には確かに風間道場の文字が書かれている。

 

 インターホンを押すと、すぐに応答があった。

 

「はい、風間道場です」

「佐伯翔太と申します。面談の予約をさせていただいているのですが」

「ああ、お待ちしておりました。どうぞお入りください」

 

 門が開き、翔太が玄関に向かうと、サイトに掲載されていたあの女性が出迎えてくれた。

 身長は170センチ近くあり、すらりとした長身からは自然な威厳が感じられる。

 黒髪をきっちりと後ろで束ね、切れ長の瞳には鋭い光が宿っていた。

 

 シンプルな白の道着姿ながら、その所作には無駄のない優雅さがあった。

 手入れの行き届いた素肌と、引き締まった身体つきからは、日々の鍛錬の跡が窺える。

 それでいて、表情には母性的な優しさも感じられた。

 

「風間みどりです。中へどうぞ」

 

 案内された応接室は、和モダンな雰囲気で静寂に包まれている。

 窓からは土が敷き詰められた中庭が見ることができ、普段はそこで訓練が行われているようだった。

 

「では、お話を伺わせていただきます」

 

 風間みどりは、ゆっくりと翔太の目を見つめた。

 その眼差しには、長年の経験に裏打ちされた深い洞察力が感じられる。

 

「なぜ、ダンジョン探索を始めようと?」

 

 風間の質問に、翔太は少し考えてから答えた。

 

「何か新しいことに挑戦したいと考えていました。今まではシステムエンジニアとして雇われの身で働いていましたが、ただ目の前の仕事をこなすだけの日々でした」

 

 翔太は言葉を選びながら、続ける。

 その一方で、風間は静かに頷きながら翔太の言葉に耳を傾けた。

 

「それから、可能性を感じてダンジョンについて調べていくうちに、どんどん決意は固まっていきました。この場所で自分の可能性に挑戦してみたいと」

「ダンジョン探索は、決して楽な道のりではありませんよ」

 

 風間は静かに、しかし力強く語り始めた。

 

「まずは基本的な探索技術と安全管理を学ぶ必要があります。ギフトも確かに重要ですが、基礎を学ばなければ始まりません」

 

 風間の言葉には、長年の経験から来る確信が感じられた。

 そんな彼女に対して、翔太は真剣な面持ちで頷く。

 

「指導をお願いできますでしょうか」

「ええ、その想いが本物なら、断る理由はありません」

 

 風間は満足そうに微笑んだ。

 しかし、その表情の裏では複雑な感情が渦巻いている。

 

(名前からしてもしかしてとは思っていましたが、まさか本当に男性の方だなんて! しかも男性なのに、こんな丁寧な態度……)

 

 これまで接してきた男性たちとは明らかに異なる、翔太の真摯な姿勢。

 それは風間の心を、指導者としてあるべき以上に揺さぶっていた。

 

「では、明後日から始めましょう。基本的な体術から、ダンジョンでの行動原則まで。全てお教えします」

 

 自分の声が、わずかに上ずっているのに気づく。

 風間は内心で自分を叱咤した。

 

(駄目よ、みどり。あなたは指導者なのだから)

 

 長年培ってきた信念を思い出す。

 道場を始めたのは、純粋に後進を育成するため。

 その使命を、個人的な感情で曇らせるわけにはいかない。

 

「明後日の指導は朝9時からでよろしいですか?」

 

 意識的に事務的な声音を作る。

 それは自分に対する戒めでもあった。

 

 指導に関するいくつかの説明を終えて、翔太が道場を出た後、風間は窓から彼の後ろ姿を見送っていた。

 抑えきれない下心を振り払うように、小さく首を振る。

 

(節度を持たなければ)

 

 これまで多くの生徒を育ててきた。

 しかし、異性である男性を指導するのは風間みどりにとって初めての経験だ。

 だからこそ、より一層気を引き締めなければならない。

 

 風間は本棚に向かい、今日の面談記録を書き留め始めた。

 明日からは、厳格な指導者として接するのだと、自分に言い聞かせながら。




次話以降隔日投稿に変更させていただきます。
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