** 攻撃開始 **
ハヤタの目配せに、
『コクリ。』
顎で答えるキャップとアラシ隊員。
三人は、手近な荷馬車に近付くと、
『スルッ。』
固定ロープを外し荷降ろしを始めた。
作業中の、
『ちらり。』
視線に、
「こら!」
入ると、
「イデ!」
当然に、
「手伝え!」
怒るアラシ隊員。
今だ、自慢をしていたイデ隊員であった。
最早、ツッコミまでがアラシ隊員とイデ隊員のコンビ芸だと認めているのか…。
キャップやハヤタを含むその場の皆は気が付かないフリでやり過ごす。
自画自賛を、
「へい、へい…。」
止められ、
『カキカキ…。』
頭を掻き作業に加わるイデ隊員。
新型投石器の準備と平行して、起こっていたのは…。
城に集まる寄生された…。
人!
人!
人!
作業していた隊員が不意に、
「準備完了!」
組み立ての終了を伝えた。
右に、
『サッ。』
左に、
『サッ。』
振る視線で、
「攻撃準備だ!」
合図するキャップ。
ハヤタ、アラシ、イデが、それぞれ投石器に付き、狙いを定める。
思い出したかのように、
「あっ!」
声を上げるイデは、
「直接、人間を狙わないように!」
皆に注意を促す。
頷くハヤタに対して、
「そんな事は…。」
口の中で、
「解ってるっての…。」
ボヤくアラシ隊員。
その意味は、投石器に乗せられた石…。
では、無いモノ…。
小樽。
が、答えだった。
その中身は、小瓶と同じでニンニクと銀色の粉を混ぜたモノであった。
いつの間にか取り出した遠眼鏡で、城の状況を確認していたキャップ。
そこへ、
「攻撃準備完了!」
「攻撃準備完了!」
「攻撃準備完了!」
コンマの時間遅れた声がハーモニーを作る。
ゆっくりと上げる左手を、
『すーっ…。』
止める事で、
『ピタッ。』
タイミングを測った。
張り詰めた空気が、満たされて行く。
イデの喉が、
『ゴクリ。』
無意識に緊張を知らせた。
限界まで張り詰めた空気を、
『サッ!』
キャップの振り下ろした左手が、
「撃て!」
切る。
一瞬…。
いや…。
洗練された隊員は、それよりも短く…。
刹那の後に、引き金(ロープ)を引く。
開放された重りが、
『グッ!』
重力に引かれ、
『ィィィィィ!』
投石器のアームに回転を与える。
アームに加えられた力は、
『ビュ…。』
途中に突き刺され固定された軸により、
『ゥゥゥゥゥン!』
遠心力に変換された。
結果…。
発射台に乗せられた小樽が、
『ゴォ…。』
放物線の軌跡を、
『ォォォォォ!』
夜空に美しく描く。
その陰で、投石器は次弾を装填する作業に追われていた。
** 霧 **
放たれた小樽は、
『ビューー』
空と擦れ合い唸りを上げ、
『ーーーン!』
放物線を描く。
狙いは外さないと、
『グワシャン!』
狙い通りに命令し、
『ボンッ!』
弾ける。
そして、
『サラサラ…。』
と、
『バシャッ!』
二種類の中身を空中へ撒き散らした。
それらは、近くに居る元人だったモノ達を飲み込む霧に見えた。
一瞬の間は、理解するまでの時間。
その霧の中で…。
ある者は喉を掻きむしりながら…。
また、ある者は助けを求める様に右腕を天へと伸ばしながら…。
また、ある者は胸を抉(えぐ)る程に爪を立てながら…。
その場の人の数だけのやり方で苦しむ…。
共通しているのは、
『グワァァァァァ!』
到底、
『グォォォォォォ!』
人が発する声では無いものを、
『ギャァァァァァ!』
上げていた。
カトク隊の小樽攻撃は、これでもかと続く。
その姿は、早回しのビデオの様で少しコミカルであったが、当人達は必死で作業していた。
小樽攻撃を行いながら、鋭い視線で確認していたキャップ。
状況を確認し、
「攻撃中止!」
右腕を上げ合図を出す。
カトク隊の小樽攻撃で作られた霧は雲海の如く深く苦しむ人達を包み込む。
呪詛の如き苦悶の声を、
『グォォォォォォ!』
上げさせながら。
手を止めた隊員に、
「暫く、様子を見る。」
次の命令を出すキャップ。
攻撃目標から、
「は…。」
視線は外さず、
「…い。」
全隊員が返しす。
誰かが飲み込む、
『ゴクリ。』
固唾が緊張の時間を引き伸ばす。
そして…。
ゆっくりと…。
ゆっくりと…。
目に見える変化として、攻撃の霧が晴れていく…。
更に…。
耳に聞こえる変化として、苦悶の声が消えていく…。
そして…。
攻撃の霧が隠していた結果が次第に明らかになった。
嵐の後の森の如き、重なり合い横たわる木々…。
では、なく…。
人の群れ。
それが重なり合い横たわっていた。
突如!
イデが、
「やった!」
上げた声が、
「やった!」
皆の安堵を後押しした。
** 本体 **
鋭いキャップの声が、
「待て!」
カトク隊の安堵を切り裂いた。
遠眼鏡越しに、
「あれは…。」
見えたモノを、
「王様か…?」
口にしていた。
キャップの呟きを、聞き終えるよりも早く隊員達は視線を向ける。
イデは、自分用の遠眼鏡を取り出した。
が…。
ハヤタが
「貸りるぞ、イデ。」
横取りする。
口は、
「あぁ…。」
苦情を、
「もう…。」
空いた手は、新たな遠眼鏡を取り出す。
イデが、遠眼鏡を二つ持っているのを知ってるハヤタであった。
遠眼鏡で、
「身なりからすると…。」
キャップに続き、
「王様ですね…。」
覗き見るハヤタ。
一瞬、
「たぶん…。」
ハヤタをチラ見し、
「あれが報告の王様だろう…。」
記憶を再生させるキャップ。
上げる声のトーンが、
「あっ!?」
驚いたと、
「あれは!?」
付け加えるイデ。
遠くからでも、
「う…。」
虚ろだと解る目に、
「ぉ…。」
精気のない顔の王様は、
「ぁ…。」
唸り声と共に、
「…っ。」
両腕を上げ天を仰ぐ。
それを見ていたカトク隊の全員は、
「!?」
頭から驚きのマークを出した。
そんな事は、
『ボ…。』
知らずと、
『ワッ…。』
王様は身体から、
『ァ…。』
謎の光の煙を上げた。
それは、[人の何処に入っていた?]と疑問を浮かばせる程の量であった。
見ている誰もの、
『!?』
頭から出る記号。
光る霧が空中の一点に貯まり、雲を作り始めた。
光る雲が皆の注目を集める中で、
「あれは!?」
驚きを持った響きで上がるハヤタの声。
皆の視線が、
『!?』
ハヤタの指差す先に変更される。
指差す先…。
皆の新たな視線の先…。
それは…。
倒れた人の重なり合う場所。
最初は、立ち昇る陽炎の様に…。
そして…。
次第に、霧の様に…。
王様と同じ光る霧を上げ始めていた。
辺りを濃い霧に包み、尚も立ち昇る。
そして…。
霧達は、王様が作る雲に吸収…。
いや…。
元々は一つだったモノが、本来の姿に戻ろうとしている…。
そう思える程に自然に雲を大きく濃くしていった。
そして…。
雲は稲妻を呼び、
『バッバッバッバッ!』
内側から轟音と共に光らせた。
光は点滅とり、繰り返される。
突如!
それは、見ている誰もが驚きが間に合わない程に。
一瞬、雲が、
『ボッ…。』
光を中心に貯め、
『ワワワワワ…。』
轟音と共に、
『ン!!!!』
爆ぜた。
発した光量は、
「うっ…。」
全員の目を眩ませ、
「!?」
閉じさせた。
再び、全員が目を開いた時、誰が我が目を疑った。
雲があった場所に、異形の姿が禍々しさを纏い聳え立っていた。
異形の姿…。
それは…。
二本の足。
二本の腕。
暗く赤い目。
二本の長い犬歯。
人の形をしてはいるが、全く人ではないモノ。
後の部分は、形容し難いが見る者の心の奥の恐怖を掻き立てる。
そんな巨大な姿であった。
** 投石機バズーカ **
恐怖は、全身を巡り硬直させ、人を石像にした。
その時!!
ハヤタの伸ばす、
「あっ!」
右腕が、
「あれは!」
異形の姿、
「バンパイアーセージン!」
指す。
その言葉が、未知の恐怖を既知の脅威へと変える。
さらに、皆の石化の金縛りを解く呪文となった。
直様!
「バンパイヤーセージンを…」
キャンプの目の鋭さが、
「直接攻撃!」
増し、
「倒れている人達から離せ!」
的確な指示が飛ぶ。
答える隊員の声も、
「ラジャー!」
今一度、気合が入る。
言うが早いか、
「でっかい分、狙い易いぜ…。」
狙いを付けるアラシ。
と…。
名手の名に恥じぬ早さで、
「喰らえ!」
トリガーが、
『ビュン!』
引かれていた。
解き放たれた、
『ヒュ…。』
投擲の孤は、
『ュュュュュ…。』
夜の闇を、
『ュン!!!』
切り裂く!
そして…。
命中のイメージが、
『ドンッ!』
音を伝え、
『ボォン!』
爆発の音を届ける。
それは…。
カトク隊により、
『ボォン!』
立て続けに、
『ボォン!』
起こされ、
『ボォン!』
連続攻撃となった。
爆発は、バンパイヤーセージンに纏わり付く銀の霧となった。
それは、カトク隊の全員に勝利というビジョンを見せる…。
が!
身動ぎ…。
身震い…。
そんな、
『ブッ…。』
些細な動き一つでバンパイヤーセージンは、
『ルル!』
纏う銀の霧を振り払った。
それは…。
カトク隊の全員の心を、
『ボキッ!』
擬音を出させながらへし折った。
希望から一転、絶望へと叩き落とす。
皆の視線が虚空へと向けられ、戸惑いの感情が溢れ、焦りへと変換させるのは当然であっただろう…。
そんな中で…、
狙撃の名手アラシの視界の端に、
『!?』
映る一つの影を、
「あ…。」
無意識に、
「あれは…。」
声にしていた。
その声に導かれる様に、皆がゆっくりと視線を送っていた。
影の正体を、
「ハ…。」
キャプが、
「ハヤタ!」
代表して声にした。
影…。
それは、愛馬ビートル号で疾走するハヤタ。
駆け出す脚は、
『ダッ…。』
ビートル号を風に変え、
『ッッッッッッッッ!』
一気にバンパイヤーセージンへとハヤタを近付ける。
そいつは、気にならない些末な存在だった。
たまに上げる声は、
「ハッ!」
騎乗する馬を奮起させる音。
その程度ではバンパイヤーセージンの巨大な身体を微塵も刺激しない。
だが…。
巨大な身体に備わっている精神は別であった。
例えるなら、人間に纏わり付く蝿の様な存在…。
その漢字が使われる【五月蝿い】の如く、
「ハッ!」
ハヤタとビートル号は僅かずつバンパイヤーセージンの、
『パカラッ、パカラッ!』
神経を逆撫でする。
そして…。
無意識が、地べたを駆け回る馬へと目を落とさせた。
理解が、
『?』
数瞬の間、
『!』
動きを止める。
バンパイヤーセージンの視線とぶつかったのは、ターゲットスコープを覗くハヤタの獲物を狙う眼光であった。
ハヤタは右肩に担いだ中型の投石機…。
イデ曰く、
「投石機バズーカって命名した!」
自慢気であった。
ハヤタの指が、
「喰らえ!」
声と共に、
『カチッ!』
引鉄を引き、
『ビュォン!』
投石機バズーカからアノ小樽を発射した。
それは…。
過(あやま)たず、
『パクッ!』
口へと吸い込まれ、
『ゴクリッ…。』
バンパイヤーセージンの胃袋へ、
『!?』
飲み込まれた。
落下の衝撃で、
『パンッ!』
小さく破裂した小樽は、
『シュワワワ…。』
中身で大きな胃袋を満たす。
それは、正に煮え湯を飲まされるとなり、苦しみが胃袋から体内を攻撃する。
結果…。
倍速再生の様なスピードで、バンパイヤーセージンを小躍りさせた。
傍から見るとコミカルで、見るものを失笑させる。