ドー■■の穴   作:GGenbuu

10 / 20
まずはおさらい

ヒマリと邂逅した一行は、早速各々が自己紹介をする。その一人一人に対して、ヒマリは握手をしながら丁寧に受け取ってくれた。

 

「それにしても…何だか皆さん、どこか不思議な表情をされていますね」

 

「えっと、その…ウタハさんから聞いた話だと、凄い偉い人なんだろうなって思ってて…」

「確か、"全知"でしたっけ?そういう学位を持ってるミレニアムでも有数の人と聞いていたので」

「そう、それでちょっと身構えてたんだけど、思ってた以上に物腰柔らかい感じに見えるのが意外というか…」

 

「あぁ、そういうことでしたか」

 

するとヒマリは、胸に手を当てながら、安心させるようでいてどこか自慢げな態度を見せた。

 

「心配せずとも、この超天才清楚系病弱美少女ハッカーである私が、皆様を無碍に扱うなどは致しませんので。安心して頂いて構いません」

「えっ?超てんさ…なんて仰ったんですか?」

「半分以上聞き取れなかったんだけど…もしかして思った数倍変な人?」

「ちょっとヨシミ!失礼だって!」

 

思ってもない長文が飛び出し、レイサが機能停止に陥ったように放心している側で、つい本音が出たヨシミをカズサが嗜めた。

 

「緊張しなくても、あれがニュートラルだよ。気兼ねなく話してくれた方が、彼女としても嬉しいだろう」

「えぇ、ウタハの言う通り。私のことはお好きに呼んで頂いて大丈夫ですよ」

「は、はぁ…」

 

「えっと、それじゃ…ヒマリさん」

 

そうアイリがヒマリのことを呼ぶと、彼女は嬉しそうににこりと笑った。

 

「はい、アイリさん。お話はウタハから多少ながら伺っております。なんでも、この私の力をお借りしたいと聞いておりましたが…」

「そ、そうなんです…私の、大事な"友達"を取り戻したいんです」

 

「"友達"ですか…詳しい概要をお聞きしても?」

 

 

アイリを主体として、その場にいる者たちから情報をあらかた聞き終えたヒマリは、顎に指を当てながら思案を始めた。

 

「…成る程。これはまた随分と複雑な状況ですね。そして──ウタハが私に話してきた理由も大方把握しました。話を聞いた限りでは、その子とアイリさんに起きている事柄は特異現象と言って差し支えないでしょうから」

 

すると、ヒマリは正面からアイリの方に向き直り、あることを問いかけた。

 

「協力することはやぶさかではありませんが──その前に一つだけ。

 

アイリさん──あなたの"意志"を確認しておきたいのです」

 

「"意志"…ですか?」

「えぇ。今からあなたが為そうとしていることは、並大抵のことではないと思われます。故に、今一度あなたがここに懸けている思いを、私もできる限り理解するべきだと考えたのです。

 

あなた以外の誰もが、認識どころか覚えていないというその"友達"。

失礼な物言いになってしまいますが──あなたが追っている"友達"は、一般的には"いない"として扱われてもおかしくない存在です。

 

私たちの協力を得たうえで調査に尽力したとしても、そこで待っているのがあなたの望む結末とは限りません。もしかしたら、最終的にはやはり"いない"という結論に落ち着き、心に大きな傷を負う可能性もあるでしょう。

 

それでも、その"友達"が"いる"と信じて動き続ける覚悟を──あなたは最後まで持ち続けられますか?」

 

ヒマリのその問いは、厳しくも重い投げかけだった。それは普段であればコミカルかつフレンドリーな彼女には珍しくどこか硬い姿勢であり、彼女なりにアイリを慮っての言動だったのかもしれない。

生半可な気持ちで協力した結果、アイリに大きな痛みが伴ってしまうという事態の危険性を話さないままというのは、彼女としては不誠実と判断したのだろうか。

 

「アイリ…」

「…厳しいわね」

 

カズサとヨシミが心配そうにアイリを見つめる中──しかしアイリは、真っすぐな瞳でその問いにはっきりと答えた。

 

「──はい。私は、その子に頼まれた約束をどうしても果たしたいんです」

「約束、ですか?」

「はい。その"友達"は、私にこう言い残していなくなりました。

 

 

"私とアイリのロマンを、忘れないであげて"って」

 

 

「「!」」

 

 

その言葉に、問いを投げかけたヒマリ──そして、側で聞いていたウタハの二人が、ハッとしたような表情になった。どうやら、その"ロマン"というワードに、大きく二人は反応したようだった。

 

「だから、私はその"友達"を取り戻したい。私を含め、みんなが忘れてしまった本当の名前で呼んであげること。それが、あの子のロマンでしたから」

 

「…そうですか。これは、もしかしたら聞いた私の方が蛇足だったかもしれません」

「しかし、"ロマン"か──これは、ますますもって協力せざるを得ないだろうね」

「…えっと?」

「ふふ、ご安心を。意志は確かに受け取りました。

私もウタハも、全面的にあなた達に協力いたしましょう。

 

 

あなたのロマン──私たちにも、叶える手伝いをさせて下さい」

 

 

すると、待合室の壁に付けられた上下スライド式のデジタルボードにヒマリは向かっていき、デジタルペンのスイッチを入れる。そのまま、つらつらと何かを書き留め始めた。

 

「では早速ですが──問題の根幹を明らかにするためにも一旦、全員が見れる状態で視点をゼロに戻しつつ、情報を整理しましょう。

現地に行って情報を集めることもする予定ですが、その前に既に出ている情報を粗方把握しなければ、何を調べるべきかも不明瞭だと思われますから。

 

まずは、私を含めた今ここにいる全員の共通認識から行きましょうか」

 

 

 

「三カ月前、アイリさんは長期的な記憶障害に見舞われており、一日ごとに記憶がリセットされる症状に悩まされていました。

ですが、彼女の親しい人の援助もあり、その記憶障害は徐々に鳴りを潜めていった。

最近ではその症状もほとんど見受けられなくなっていたため、経過を見た上で最終的には問題は無くなったと判断されていました。

 

十二日程前、アイリさんを含めた放課後スイーツ部の皆さんは、ふと耳に入った"不意に体が重くなる場所がある"という噂が気になり、トリニティ学区とD.U.シラトリ区の間の区間にある噴水の広場へと向かいました。そこである程度時間をすごした後、カズサさんとヨシミさんが急用で外した為に現地解散。

その時をきっかけに、かなりの頻度でアイリさんのみがその噴水によく訪れるようになっておりました。

 

そして昨日──噴水の広場の直近で倒れているアイリさんを、通りがかった人が発見。そのまま彼女は病院へと搬送されました。本日の朝方に目を覚まし、カズサさんとヨシミさんと話を交わすも、幾分かの応答の後にアイリさんは意識を失っています。

 

昼頃、到着した先生が看病をしていた際に会話をし、彼がその場を後にすると病院を抜け出して例の噴水の広場へと直行。

そこで偶然にもウタハと会い、彼女なりの見解と事情を伝えました。

事情を聞いたウタハが私を紹介するという名目でミレニアムへと向かう道中、他の方々と合流。そのまま全員でミレニアムに向かい、現在へと至ります。

 

ここまでが、全員として把握できる限りの共通認識になると思われます」

 

 

「それを前提としたうえで──アイリさんのみが持つ認識と、その"友達"…ここでは分かりやすくするために"Aさん"とした上で、その二つについて見ていきましょう」

 

 

「三か月前の記憶障害の時点までは、皆さんと同じだと思われます。

しかし、十二日程前──その時には、既にアイリさんが認知している事柄は皆さんと違うものとなっているようです。

 

アイリさんの夢の中では、アイリさん本人ではない別人のものと思われる記憶の断片が映っていました。しかも、その記憶の持ち主は放課後スイーツ部の面々と共に行動をしていたようで、その記憶の真偽について判別がつかずにいました。

 

その状態の中、他の二人と共に向かった噴水の広場で現地解散をしてしばらく経った後、彼女はこの件の始まりとも言えるAさんと会い、会話を交わして仲良くなっていました。Aさん曰く彼女も記憶を喪失しており、ご自身の名前さえも忘れていたとのこと。アイリさんはそこで、Aさんが自ら提案した仮の名前で彼女のことを呼んでいたようです。

そして次の日には、カズサさんやヨシミさんにも紹介しようという風にアイリさんは考え、実際に現地にまで二人を連れていきました。

 

しかし、どうやらお二人はそのAさんを認識できなかったらしく、初めてアイリさんは彼女が自分にしか認識できない存在であったことを知った訳です。

更に、その際にフラッシュバックした記憶の破片とAさんの話口調や振る舞いから推定し、アイリさんは自身の見ていた夢の記憶の主こそがAさんであったと結論づけました。

 

 

つまり──アイリさんの見ていた夢は現実の物であり、元々Aさんは放課後スイーツ部の一員だった。

しかし何かをきっかけに──彼女はアイリさんを除くすべての人に認識されなくなり、忘れ去られていた。

 

 

そこから放課後スイーツ部の面々は、八日前にカフェで偶然会ったトリニティ自警団の方々の力も借りながら、Aさんの存在と彼女の本名を取り返す作業に取り掛かり始めました。とはいえ、その手がかりが見つかるはずもなく、捜査は難航。

 

そして昨日──夜が来る前に、噴水の広場で待ち合わせをしていたアイリさんとAさんは、"何か"に襲われた。

アイリさんの見た感じでは、黒く巨大な穴を頭部から覗かせた管のような怪物──それにAさんは呑み込まれ、アイリさんは両腕の前腕部を欠損する外傷を受けた。

その際、アイリさんの欠損した腕の断面には謎の白い穴が開いていて、血液が流れ出なかったと。

 

次にアイリさんが目を覚ませば、そこはカズサさんとヨシミさんのいる病室の中。失われた筈の両腕は何事もなかったかのように戻っており、カズサさんとヨシミさんからはAさんが再び忘れ去られていた事実を知ります。しかも、今度はその仮の名前すらも。

 

精神的なショックは相当だったのでしょう。再びAさんの行方を追いたいと、躍起になるのも無理はありません。病院を飛び出してしまったのは──一連の流れから来た不安と焦りからだったのかもしれないと、私は考えています。

 

後の流れは、皆さんと同様といったところでしょうか」

 

 

 

そういうと、ヒマリはデジタルボードに書いて整理していた内容をデータ化し、手元のタブレットへと転送させる。

と同時に、再び空になったデジタルボードに何かを書き始めた。

 

「さて──先んじて言いますが、最重要目的である"Aさんを名前も含めて取り戻す"ということですが──現状では、可能かどうかすら私にも分かりません。

 

ですが──この時点で、非常に多くの疑問点や仮説が浮かび上がっています。

どれがこの問題を解決するために必要なものかは不明にしろ、こういうのはとにかく並べていくに限りますので、疑問点に関して雑多ながら書き上げていきますね」

 

そうしてヒマリがホワイトボードに記載した疑問点は、このようなものだった。

 

────────────────────────────────────────────

 

①アイリの記憶障害の原因と一旦の解決に至った理由

 

②アイリが夢の中で見ていたA本人の記憶

 

③Aの存在が消えたタイミング

 

④"体が重くなる"という噂の元凶の関与の可能性

 

⑤A自身の記憶障害について

 

⑥Aに関する記憶や存在があらゆる人から消え、アイリのみがAを覚え続けられた理由

 

⑦Aの本名を誰も覚えておらず、同時に仮名が出力できない原因

 

⑧黒い穴の怪物、及びアイリの腕の断面にあった白い穴の正体

 

⑨アイリの腕が元に戻った理由

 

────────────────────────────────────────────

 

「今のところは、このような所でしょうか。他に疑問がある点があれば、仰って下されば助かります」

「うっ…もうこの文字列だけで頭が痛くなるッ…!」

「今の話を聞いて把握するどころか、短時間でここまで洗い出すとは…これは、凄まじい理解速度ですね…」

 

スズミが息を飲んだのを見て、ヒマリは自慢げにふふんと胸を張った。

 

「当然です、この白金の如く研ぎ澄まされた頭脳の持ち主である私にとって、この程度のことは造作もありません」

「す、凄まじい自己肯定力...というか、また変な自称ね」

「宇沢?大丈夫?あんたと結構対極に位置する人っぽく見えるけど」

「あばばあばばあば…」

 

見れば、レイサは完全に固まってしまっていた。同じ自称が多いタイプでありながら、彼女たちの性格は割と真逆だ。一見フレンドリーなようでいてその実は非常にナイーブなレイサにとっては、内なる自我が強いヒマリのようなタイプの人間とはどう話せばいいのかわかりにくいのである。

 

「あらら、これは…どうやら緊張させてしまったようですね。失礼しました、そこまで硬くならずとも大丈夫ですよ?」

「は、はい…分かり、ました…あわわ…」

「普段の見る影もないわね」

「しゃーない、こいつの内面は割と繊細だから」

 

カズサとヨシミがどぎまぎしているレイサの肩を持ってフォローする中、ヒマリはアイリに近寄ったかと思うとあるお願いをしてきた。

 

「さて、皆さん。

もし協力してくださるのであれば、この疑問を解決するために──

 

私たちの"実験"に付き合っていただけないでしょうか?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。