ドー■■の穴   作:GGenbuu

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閃きとは何処から来るのか

「…でも、所々変な気もするけど」

「おや──気づかれましたか?」

「何というか…矛盾が多い気がするというか。多分だけど、そのAは結果的には二回のみ込まれたことにならない?」

「えぇ…恐らく、三カ月前が一回目、昨日が二回目という感じですね」

 

「一回目で存在ごと呑み込まれたっていうのなら、その後にアイリが現実世界で認識した意識体って言われてるAは何なの?記憶だけならともかく」

「確かに…だって、存在ごと呑み込まれたのなら、そもそもそこには"誰も居ない"ことになるよね。アイリはA自身の記憶は見れても、現実でAを認識することはないはず」

 

「そう──今唱えたのは仮説ですが、仰る通り矛盾や未解決の部分があるのも事実です。正直、私一人では完結できないでしょう。そのため、できるならば皆さんの知恵や閃きをお借りしたいのです」

 

「私たちの、ですか?」

「えぇ。確かに私は長きにわたる歴史の中でも稀代の大天才ではありますが──独りよがりですべてが解決できるのだと奢り高ぶってはいけないとも考えております。私ではない皆さんだからこその発想を、是非提供して下されば嬉しい限りです」

 

「成る程…そういうことなら考えてみるけど…できるかしらね」

「ふふっ、まぁあまり気負わずに。柔軟な姿勢でリラックスすることがコツですよ。

さて──今のところははっきりと言うことはできませんが、そのアイリさんが認知したAさんに関しては、残留した意識のようなものか存在の内の一片か…いずれにしても、完全に飲み込まれなかった部分があったのではないかと見ています」

 

「えっと…番号順にちょっとまとめてみるわね」

 

────────────────────────────────────────────

 

①アイリの記憶障害の原因と一旦の解決に至った理由

→不明

 

②アイリが夢の中で見ていたA本人の記憶

→アイリの体内のホワイトホールから放出された記憶?

 

③Aの存在が消えたタイミング

→三カ月前に一回目、昨日に二回目?

 

④”体が重くなる”という噂の元凶の関与の可能性

→不明

 

⑤A自身の記憶障害について

→存在と同時に呑み込まれた時に本人から引き離された?

 

⑥Aに関する記憶や存在があらゆる人から消え、アイリのみがAを覚え続けられた理由

→ワームホールによる記憶への介入、アイリだけは記憶をホワイトホールから提供されている?

 

⑦Aの本名を誰も覚えておらず、同時に仮名が出力できない原因

→不明

 

⑧黒い穴の怪物、及びアイリの腕の断面にあった白い穴の正体

→ワームホールのような生命体?(吸い込むのは記憶や存在?)

 

⑨アイリの腕が元に戻った理由

→アイリの体内のホワイトホールから放出されて戻ってきた?

 

────────────────────────────────────────────

 

「こんな感じかしら…残りはいまだ分からずじまいね」

 

「ちょっと待って。多分④だけどさ…"体が重くなる"って、言うなれば重力みたいなものっぽいけど、ブラックホールとして見るならその怪物のせいじゃない?」

「あ、確かに…ありえそうね。あとは…もしかして、A以外にも狙われて飲み込まれた人も結構いたりする…?」

 

「どうでしょう。噂として残っている以上、遭遇した人の中に逃れた人がいると考えれば向こうの力は思った以上に強くはないのかもしれません。

それに、あまりに多人数の存在が無くなれば、幾ら何でも機能不全になる機関や不自然になる場所が出てきます。"最初からなかったことにする"という干渉は、想定よりも世界に与える影響は大きいものになりかねないでしょうから。”バタフライエフェクト”という言葉もありますしね」

 

「バタフライエフェクト?」

 

「一見関係ない小さな出来事が、予想外の大規模な事柄に発展するという効果のことです。世界規模で見ればたった一人といえど、それがいなくなることによる影響力は凄まじいものです。例え、このような特異現象であれどもその効果は働いてくると私は見ています」

 

「なる、ほど…?」

 

「無論、その"ブラックホール"が重力を持っているのか、重力を持つ対象を選んでいたのかはまだはっきりとはしませんが。さて──そうなれば残る疑問は①と⑦辺りですね」

 

「アイリの記憶障害の原因と一旦の解決に至った理由と、Aの本名を誰も覚えていないかつ仮名も出力できない原因、か…」

「駄目だ、何一つ思いつかない…」

「うーん…キツいわねこれ」

 

圧倒的な情報量と思考の連鎖で、ついにヨシミが机の上に突っ伏した。カズサやアイリも、とっくに目を回している所を見るに、彼女たちにはここらが限界値だろう。

 

「…一旦休憩が必要かもしれませんね。このまま続けるには、脳に割いたリソースの消耗が激しい内容だと思いますし」

「現状でも随分頑張っているからね。正直、私も手詰まりだったし、ここらで暫し休めよう」

 

「か、甘味を…誰かスイーツを…」

「グルコースが足りないわ…」

 

「──ふむ。自警団のスズミさん、もしよければちょっと買い物に付き合ってくれるかい?」

「成る程、そういうことならば」

 

見かねたスズミとウタハが、ミレニアム内のスイーツショップに二人で差し入れを買いに行ってくれることになり、一先ずそこで彼女たちの会議は中断された。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、皆さん。こちらで如何でしょうか?」

「おぉ…プリンにチョコ、グミにラムネ…色々ある!」

「甘味が欲しいということで、甘いものをメインに買ってきたよ。一旦はスイーツタイムというところにしようか」

 

「ありがとうございます、お二人とも!では早速頂く…前に手を洗ってきます!」

「そうね、ちょっと行ってきますか」

「ヒマリさん、少しトイレをお借りします。アイリも、ほら」

「うん、ちょっと待ってて。すぐに行くね」

 

買ってもらったものを確認した後、レイサと放課後スイーツ部の面々が手を洗いに席を立った。その間に、部屋に残ったスズミ、ウタハ、ヒマリ、先生が買ってきた菓子をテーブルに並べていく。

 

"これはまた、バリュエーションが豊かだね"

「ふふっ、こういったことを他校の方と一緒にできるのは貴重な機会です」

 

「そういえば…今更ではありますが、確かにこういったことは普段はあまりしませんね。基本私も、トリニティの自治区内で活動してますし」

"スズミは自警団だからね。日頃からみんなのために動き続けているのは、尊敬に値する美点だと私は思ってるよ"

「そうでしょうか…?私にとっては、日常のようなものなので…」

 

「いえいえ、本人にとっては大したことが無くても、多くの人にとっては非常に眩しく見える個性や良い所というのは割と存在するものです。

外から見ることによって初めて分かる客観的視点というのは、自己を正しく見つめる上で非常に参考になるのですよ」

「なるほど…」

「まぁ、私の持ち得る天賦の才と実力に関しては自認しているので、何も問題はありませんが」

「…そういうところじゃないのかい、ヒマリ」

 

若干呆れ気味にヒマリをウタハが見つめる中、手を洗ってきた放課後スイーツ部一行とレイサが戻って来た。

 

「ただいま戻りました!」

「お帰りなさい。では、私たちも」

「そうだね。君たちの方で、先に選んで食べてもらって構わないよ」

「それでは、また戻ってきますね」

「はーい。さてと…」

 

そうしてミレニアムの二人とスズミと先生が退出し、ドアが閉じた部屋の中で四人は並べられたスイーツを片っ端から眺めた。

 

「うーん、どれも迷うねぇ…カズサちゃんはどれがいい?」

「私はラムネかな。ちょっと今は、なるべく早く脳にエネルギーを回したい気分」

「なんか吸収率が早いとは聞くわね。勉強の合間に食べるとか」

「そっ。効率厨ってわけじゃないけどね。

ま、とはいっても今は一気には入らないし、少しずつの方がありがたいからこれで」

 

カズサがラムネの小袋を手に取りつつ、ペットボトルの水を飲み干そうと口をつけた時だった。

 

「…"エネルギー"…"少しずつ"…"生命体"…」

 

ヨシミがぶつぶつと何かを呟いたかと思えば──

 

 

「……あーーーーーーーっ!?!?」

「ブッフォッ!?」

 

 

突然大声で叫んだものだから、驚いてカズサは水を吹いてしまった。

 

「ゲホッ、ゲホッ…ちょっとヨシミ、突然何なの!?」

「えっと、何となくだけど閃いたのよ!その黒い穴とアイリが繋がってるっていう感覚が、どーにも納得できなかったから!それで今思いついたんだけど──

 

 

もしかしてだけど、"ワームホール"っていう繋がった全体の生き物じゃなくて、"ブラックホール"と"ホワイトホール"っていう別々の生き物なんじゃ?」

 

 

「別、々…?」

「つまり、私たちはワームホールに関して、トンネルってイメージから"管"のような生き物のイメージを持ってたけど…どっちかと言えば、ワームホールそのものは別々の生き物が同時に使っている"巣"に近いものなんじゃないかしらって」

「それって、"ブラックホール"はそこに吸い込んだものをいれて、"ホワイトホール"はそれを出してるって感じ?別々の意思で?」

「そんな感じ!で、今私たちがこうして食べてる中でふと思ったの。

 

私たちだって、考えたり動いたり、生きる為にエネルギーが必要で、何かを食べてそれを得てるでしょ?

アイリの中にある"ホワイトホール"も記憶を外に出すだけっていうのはおかしくない?」

 

「…どういうこと?」

 

「それが生き物ってんなら、そいつも出すためのエネルギーを得ようとして、何かしら食べる必要があって然るべきじゃない!ただ何かをし続けるだけなら、どっかで体力が尽きるはず!

でも、アイリの身体は前に話した以外は何ともなかったのは、昨日の病院で分かったことだし。

ってことは──

 

アイリが三カ月前になってた記憶障害の原因は、そいつがアイリの記憶を毎日食べていたってことじゃない!?」

 

頭の中に次々と湧いてくる何かをまくしたてるように早口で展開していくヨシミに、若干三人は気圧されていく。

 

「記憶を、食べてた…?」

「私たちで言うところのスイーツみたいな食べ物が、その生き物にとっては記憶や存在とかになるってこと?」

「正確にはあれは現象じゃないから、そういうことがあってもおかしくないってこと!それにそいつにとっては、取り込むのも出すのもそういった形のないものが主だっていう可能性がある!」

 

「…じゃあ、どうして途中で食べるのをやめたのかな…?私の記憶障害も、最近は全く見られないし…」

 

「ええと…それは…そいつ、もうお腹いっぱいだったりするとか」

 

「はぁ!?」

「ありゃ?」

 

急にテンポとIQがガクッと下がったかのような結論が出てきて、思わずカズサとレイサがズッコケた。

 

「なんでそうなるの!?急に話のレベルが下がった気がするんだけど!」

「いや、お腹いっぱいになるほどに記憶を食べたから…食べすぎて余分な記憶を吐き出しちゃったとか…それで通じてたワームホールからそのAの記憶が出てきたとか!」

「んな都合よくAの記憶だけが出てくるわけあるか!というか、その流れだと溜め込んだところから少しずつ食べてもいいから、アイリからわざわざ奪わなくてもいいんじゃない!」

「あ、確かに」

 

「あぁもう!もっとマシな結論は無かったの!?割といい線言ってたように聞こえてた私がバカだったわ!」

「しょうがないじゃない、とっさの思い付きなんだから!そんな理論展開をずっとできるほど私の脳はよく出来てないってあだだだだだ!!!」

 

「ふ、二人とも!ストップストップ!」

「と、止まってください杏山カズサ!?ここ他校の校内なんですよ!?」

 

あっという間に室内がギャーギャーと騒がしくなった所に、手を洗いに行っていたメンツが部屋に戻って来た。

 

"え、ちょっとみんな!?"

「これは…どういう状況かな?」

「…どうやら、世紀の大発見でもあったのかもしれませんね」

「…何か、すみません」

 

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