ドー■■の穴   作:GGenbuu

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ようこそ、ミレニアムへ

「あの、ウタハさん」

「ん?」

 

そんなことになってるとは露知らず、アイリはウタハと共にミレニアムサイエンススクールへと向かっていた。

 

「ウタハさんの言う人って、どんな人なんでしょうか?」

「そうだね…一言でいうとすれば──"全知"かな」

「全知?」

 

「彼女はミレニアムの中でもトップクラスの頭脳の持ち主でね。

天才的なハッカーでありながら、その才能と努力の結晶が力を発揮する分野は多岐にわたる。

"全知"というのは、彼女が持つ学位の名なんだが…これは、彼女を含めて三人のみが与えられた称号だ」

 

「そ、そんな凄い人なんですか…!?ほ、本当に協力してくれるのかな…」

「そこは気にしなくても大丈夫だ。私は彼女とは同期だし、技術提供を兼ねて連携していることも多いからね。

それに今回の事態は、もしかしたら彼女にとっても興が乗る話かもしれない」

「…?」

 

そこまでウタハが、件の生徒について説明していた時だった。

 

「いた、ちょっとそこのアンタ!」

 

「…おや?」

 

彼女たちの後ろから突然声がかかり、二人して振り返る。そこにいた人物は、アイリにとってなじみ深い存在だった。

 

「カ、カズサちゃん…!?どうしてここに!?」

「アイリが病院からいなくなったって聞いて、思わず探しまくってたの。で、そこにいる紫髪の奴!」

「…私かい?」

「そう!アンタ──

 

 

アイリとどういう関係な訳?」

 

 

ウタハを鋭くにらみつけるカズサのその言葉に、アイリとウタハは一瞬フリーズしたように固まった。

 

「「え?」」

 

「答えようによっては──今ここでぶっ飛ばす」

 

しばらく沈黙していたアイリとウタハだったが、やがてウタハがアイリに質問し始めた。

 

「アイリさん…彼女は君のご友人なのかい?」

「は、はい…いつも一緒にいてくれる大事な友人です。その…怒ってるわけには、正直心当たりがあって…」

「病院を抜け出してきたという、さっき彼女が言っていたことかな」

「…多分それで、心配になって追いかけてきてくれたんだと思います」

 

「…成程。それは甘んじて叱られるべきだ。事情を聞かなかった私にも非はあるが…自身の身勝手で身近にいる人を心配させるのは良くないことだよ」

「そ、そうですね…すみません」

 

「…そこ、いつまでごちゃごちゃ話してんの?いいからさっさと返事を──」

 

目の前でこちらを無視して会話を続けているように判断したカズサが、そうして詰め寄ろうとした瞬間──

 

「この馬鹿!!!何一人で暴走してんのよ!?」

 

後ろから追いついてきたヨシミに手痛い制裁をくらい、カズサはキレ気味に反応した。

 

「いった!?何すんのヨシミ!?」

「こっちのセリフよ!!!あんた、アイリのことになるといっつもこうなんだから!!!

一先ず相手の言い分を聞いてからってのが筋ってもんでしょ!?」

「そういうヨシミだって、本当は心配で堪らなかったくせに!分かってるんだからね!?」

「なっ!?そりゃそうだけど!?」

 

今度はなぜか、こっちの二人がアイリとウタハを無視していがみ合い始めた。なんというか、仲間思いなのはいいとしてどうにも暴走しがちになってしまうのは何故だろうか。これが分からない。

 

「ふ、二人とも、そこまでにして…!元はといえば、私が何も言わないで抜け出しちゃったのが原因だから!」

「「それはそうだからアイリはちゃんと反省して!」」

「は、はい…ごめんなさい!」

 

止めに入ったアイリが急に意気投合した二人に叱られて慌てるのを見て、ウタハも思わず苦笑してしまった。

 

「ふふっ…これはまた、随分と元気な友人方だね。それに、仲睦まじい光景じゃないか」

 

すると、カズサとヨシミが来た方向から、更に三人の人物が走ってやってきた。

 

「追いつきましたよ!とと…アイリさんと、あちらの方は?」

「あれが、先生が仰っていた例のミレニアムの生徒さんでしょうか?」

 

そのうちの二人、レイサとスズミは混沌に包まれた状況の中で、アイリと彼女と一緒にいるらしい生徒を目視する。

そして最後にやってきた一人にとってその生徒は、既知の対象だった。

 

"やっぱり、レイサから聞いた情報通りだったか。やぁ、ウタハ"

「おや、先生じゃないか。ここで会えるとは」

「え、先生この人のこと知ってるの!?」

 

"あぁ、彼女は白石ウタハ。ミレニアムサイエンススクールのエンジニア部部長だ"

 

「「エンジニア部の部長ォ!?」」

 

予め聞いた情報から立てた、先生の推測を聞かずに駆け出してしまった二人は、その情報に仰天してしまう。さっきまで頭に上っていた熱が、一気に引いていくのが顔色から伺える。

 

「あぁ、初めまして。白石ウタハだ、以後お見知りおきを。

とりあえず、疑いを晴らすためにも改めて私とアイリさんの関係について説明させてもらっていいかな」

「「あ、はい…」」

 

 

 

 

 

 

ウタハとアイリから、広場で出会ってから現在に至るまでの過程を聞いたカズサとヨシミは、あっという間に青ざめた顔となっていった。

 

「あの…本当に、すみませんでした…勘違いして…」

「いや、気にしないでほしい。寧ろ、君たちがアイリさんを大事に思っていることがよく伝わってきたよ」

「危ない所だったわ…あ、そうだ。

私は伊原木ヨシミ。で、こっちが杏山カズサ。

アイリと一緒に放課後スイーツ部をやっているの」

「放課後スイーツ部…なんとも可愛らしい名前の部活だね。こちらこそよろしく」

 

誤解も解けたところで、ウタハは先ほど駆けつけてきた三人の方に目を配る。

 

「ところで先生…こちらの二人は?」

"トリニティ自警団の宇沢レイサと守月スズミ。放課後スイーツ部のみんなとは、顔なじみの関係だよ"

「へぇ…自警団の方々もいるんだね。どうぞよろしく」

「こちらこそ。アイリさんの件は重ねて感謝を」

「あ、どうも…よ、よろしくお願いします…!」

 

いつも通り丁寧な対応のスズミと、人見知りが発動したのかややぎこちないレイサ。彼女たちもまた、ウタハと好意的に握手を重ねた。

 

「さて…放課後スイーツ部のお二人は、アイリさんの事情はどこまで把握しているのかい?」

「えっと、それが…実ははっきりとは」

「昨日アイリが病室で気を失って以来、ちゃんと話を聞く機会がなかったのよね…本当は、今日二人で改めて会いに行く予定だったんだけど、その前にアイリがいなくなったって訳」

「…二人とも本当にごめん。私、どうしてもあの場所に行かなくちゃって思っちゃって…」

 

申し訳なさそうに頭を下げたアイリに、カズサとヨシミは笑って返す。

 

「大丈夫だよ、アイリ。こうして無事に見つけられたわけだし。あとはその…私も暴走しかけちゃったから」

「まぁでも、次からはちゃんと私たちにも話してよね。何も知らせずにいなくなるのはさすがに怖いから。アイリがいてこその放課後スイーツ部ってことを忘れないで」

「うん…ありがとう。それじゃ…改めて長くなるけど、私にあったことを話すよ」

 

ウタハと先生を除いた者たちにとっては初めて聞くこととなる、彼女のみが体験し、覚えている話。その内容を彼女達は疑うことなく、真剣に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

「そっか…だから私とヨシミがその子を覚えていないって言った時、アイリはあんなに驚いてたんだ」

「っていっても、まさか私たち全員の方が覚えていないなんてことがあるとは思わなかったわね」

 

アイリからすれば、この反応も初見ではないのかも知れない。似たような会話を、かつてのあの子がいた時にもしていたのかもと思い出してみる。

 

「あうぅ…もうすでに頭の中がこんがらがって…」

「聞いた限りだと現実味が薄いとも言えますが…アイリさんの行動から見るに、冗談というわけでもないのでしょう」

「同感だね。本来外部の人間である私がこの話に乗ったのも、主に彼女がこの件から負っている精神的ダメージがはっきりと形に現れてたからだ。全部が全部、同情ってわけではないけどね」

 

案の定目を回したレイサを何とか保たせながら、スズミとウタハもこの件が妄想による産物とは限らないことを理解していた。

 

「先生は、このことを知っていたのかい?」

"アイリが落ち着いてた時に聞いていてね。実は、あの後その子の行方を追っていたけど、未だによく分からないことが多い"

 

「…分かった。そういう訳で、私は彼女の言う子を探しだすために、今からミレニアムに向かおうと思っているのだが、ついてくる人は?」

「私はついてく。カズサは?」

「そりゃ行くわよ、アイリの悩みの種を解決できるのならね」

 

「自警団の方々はどうする?」

「私は行きたいですが…スズミさんはどうしますか?」

「乗り掛かった舟ですし、最後まで同席しましょう。何か動こうにも、話がかなり複雑化していますからね」

 

「分かった。私から先方には連絡しておこう。先生もできたら来てくれると助かる」

"勿論。何かしらの形で力にならせてもらうよ"

「ありがとう。それじゃ…」

 

ウタハは了承を得た面子の顔を確認すると、スマートフォンで"ある生徒"へと連絡を取った。

 

「うん、向こうも問題なさそうだ。では、早速向かうとしよう」

 

────────────────────────────────────────────

 

「久しぶりですね、ミレニアム!」

「前回来たのは晄輪大祭の時でしたからね」

「…あっ!どっかで見た覚えがある気がしてたけど……もしかしてウタハさんってあの時の応援団長!?」

「おや、覚えていてくれたのなら嬉しい限りだ」

 

トリニティの生徒達にとっては、あまり来る機会がないミレニアム学区内。最新鋭の設備や技術に目を奪われたり、それをきっかけに話が膨らんだりするが、本題を忘れてはいけない。

 

ウタハの先導の元、彼女達はミレニアムサイエンススクールの待合室のドアの前へと着く。

 

「さてと…ヒマリ、いるかい?」

「はい、すでに到着しております」

 

ウタハが中にいるらしき生徒と応答を済ませると、ドアを開けて内部へと通してくれた。

そこにいたのは白を基調とした服装に身を包んだ、清楚かつ可憐な印象の生徒だった。特徴的なのは──彼女が電動の車椅子に腰をかけていることだろうか。

 

「これはまた……ウタハから聞いた通り、随分な大人数ですね。繋がる人が増えるのはこちらとしても願ったり叶ったりです」

「ウタハさん…こちらの方がその?」

「あぁ。折角だ、紹介は彼女自身がする方が好ましいだろう」

 

すると、車椅子の生徒は一行に対して慎ましげにお辞儀をしながら、自己紹介をしてくれた。

 

「初めまして、放課後スイーツ部とトリニティ自警団の皆様。

 

ミレニアムサイエンススクール3年生、特異現象捜査部部長──明星ヒマリです」

 

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