ケイオス   作:御代川辰

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第五話 光明の路を示されば

 大規模な異世界を召喚を実行した結果、【ケイラ(Kayla)】と名乗る女性を長とする小規模な戦闘部隊の一団と遭遇したハロゥ、パネパネ、ゼイビィら五名は、自分達と彼女らが生活している世界や文明の差以前に、“全く同じ目的”で“全く同じ手段”を取ろうとしたという事実を前に激しく動揺していた。

 方や人間よりも身体能力や生命力に優れる魔族の侵略で人類が征服されかけていて、方や高度に発達した人工知能が独自に外装となるロボットを開発し、人間を含めた動植物を根絶やしにしようしているという絶望的な状況。

 人間始め知恵ある生き物は窮すれば通ずというがその大多数は貧すれば鈍ずと評するべき愚策ばかりであり、今回ももう後がない自分達の危機を脱するために相手側の迷惑を省みずなんとか助けを得ようとした結果、奇跡的に出会う事ができた相手側もどん詰まりの危機的状況に追い込まれていたために発生した事態だと言える。

 だが今のところは脅威性の高い敵は認められず負傷兵の手当てや体力の快復を優先しなければならないため、ケイラたちが属する反機械戦線の兵員とハロゥらは情報交換と現状把握のために世界と世界の境目で簡易キャンプを張り、周囲を警戒しつつ情報の共有を進めている。

「さしづめ全身が金属と樹脂成分で出来たゴーレムか……対策が必要だな」

 ゼイビィはケイラたちから提供された情報を冷静に分析し、どのような攻撃が有効打になり得るかを導き出すためしばし思考の海に浸り、対するハロゥは先刻戦った第11魔王【ジャチ(Dziacthi)】との戦いを思い出し、少しばかり表情が暗くなっている。

 圧倒的という言葉さえ生ぬるい絶望的な力の差をこれでもかと見せ付けられ、そして今も体力の消耗と片腕の欠損が原因で他者の助けがなければ迂闊に動けないので、精神的にも肉体的にも芳しい状態は言えない。

(俺に…………俺にもっと、力があれば……!)

 残された左手で拳を強く握る。なぜ魔王との戦いで仲間は死に至り自分だけが生き残ったのか、なぜ自分たち勇者の身体の頑強さは常人のそれを上回ってしまっているのか、そのような些細な違いで人の一生の長短は決まってしまうという事実に、ハロゥは強い悔恨を覚えざるを得ない。

 ケイラと情報交換をしているゼイビィもハロゥの複雑な心情を察し、彼女たちとの話を遮らない程度の頻度で心配そうに彼を見遣る様子を見せており、ケイラもまたゼイビィとハロゥの目をしっかりと直視してぎこちなくも気遣いを見せている。

 もちろんパネパネも同様、時おり気つけの代わりにハロゥの肩を揺らして反応を確かめていて、力なく項垂(うなだ)れたままの彼の目にも少しだけ光が戻って来る。その様子に安堵したゼイビィは緊張がほぐれたのか短くあくびをする。

「そう言えばさっきからずっと聞いてるろぼっと?の数って今のところどのくらいあるんだ?」

「破壊されるより製造される数の方が多い。だから今も正確な数は分からない」

 尤もな疑問だが問いあぐねていたゼイビィの問いに、ケイラは力なく顔を横に振りながら答える。ロボットによって人類が滅ぼされる寸前まで追い込まれている手前、根元を叩こうにも肝心の製造工場は当然ロボットたちが支配する領域にあり、それをあらゆる手段で巧妙に隠しているためにどこにあるのかすら調査しようがないので、未だに総数は増え続ける一方なのだと。

 対する大魔王率いる魔族は世界各地に点在する拠点を中心に勢力を広げており、異世界が融合する前まではその拠点のある座標がほぼ正確に把握できていたのだが、このように二つの世界が一つに繋がってしまった影響で恐らく周囲に未知の地形ができていたり、あるいは拠点のある場所そのものが丸ごと変わっていたりなどしている可能性がある。

 このような混沌とした状態になったのは恐らく敵側にとっても不都合であるとは言え、まさか脅威を払拭を早めようとした行動でかえって脅威を増やしてしまった挙げ句、その脅威が両方とも人類に向けられている事は本末転倒そのものと断言してよい。

「いくら学習能力が高いロボットが相手と言っても、俺たちは実物をまだ見てないからなんとも言えないな」

 まずここまでケイラからもたらされたロボットの情報を頭の中で整理し直してみたが、ハロゥは“理解外の脅威”以上の印象を持てずに首をかしげてうなり、ゼイビィは実物がどれ程の強さなのか全く見当がつかず頭をかいてため息を吐く。

「それはお互い様だ。武装しているとは言え下級兵数十人を一方的に蹴散らしただけだし、魔族が本当に脅威になりうるかいまいち確信がないからな」

 対するケイラもゼイビィたちから教わった魔族と魔王軍の情報を脳内で分析してみたが、魚類や獣と言った生物の姿に似る確かにインパクト全開の奇抜な容姿には驚いた。とは言え剣や槍や鎧等と言った明らかに前時代的どころではない原始的な武装、光学銃のビームがあっさりと貫通する程に脆弱な皮膚と技術水準の低い冶金術を見るに、ハロゥの言う魔王と呼ばれる個体と自分達が実際に戦った群れとでは力の差がありすぎて全く理解できない。

 思考実験を繰り返すだけでは埒が明かない事ははっきりしているので、ともかく今は再びこちらを襲いに来るであろう“敵”への備えを整えなければならないと、ケイラたちが優先順位を変更した矢先にパネパネが呟く。

「また嗅ぎ慣れない匂いがするッパネ…………」

 鼻の利くパネパネの言葉にいち早く反応したのはハロゥだったが、何かに気付いたが確証が持てないようでパネパネにどの方角から匂いがするかを問い質すと、パネパネはケイラたちが現れた崩壊した都市の方向を指差す。

 次に反応したのはケイラたちであり、ケイラはすぐにその場にいる全員に瓦礫の影に隠れるように指示を出し、一同は素早く建物の残骸の背後に身を隠して都市の方を覗き込むと、見るからに異様な姿をした()()が群れをなし間の抜けた音楽を奏でながら現れる。

 自然界には存在しないであろう逆関節の四本足の先端には肉球の印刷、丸い頭には親しみやすいシンプルなデザインの顔を写し出す液晶画面、白い塗装で覆われた金属質の外装と、それはまさしく四足獣型の偵察用ロボット。

 生まれて初めてロボットを目の当たりにしたゼイビィやハロゥたちは身震いし、ケイラたちは固唾を飲んで冷や汗を一筋流し指まで震えさせており、この場が完全に危険地帯となった事を本能全てで理解してしまっている。

 だが生存者を探しているロボットたちは彼ら彼女らの様子などお構いなしに瓦礫を闊歩し、不安定な足場を難なく乗り越えた先でいかにも優しげな合成音声で投降の呼び掛けを始め、一同の警戒心を更に刺激する。

『人類ノ皆さン▼速ヤかに投降シ▼我々の保護下ニお入り下サイ▼』

 今ケイラたちが隠れている場所はロボットたちが捜索している瓦礫からは遠く、やや声が聞き取りづらいものの投降を呼び掛けているなど重要な内容ははっきりと聞こえ、ケイラたちは己の歯を噛み砕かんばかりに強く食い縛り今にも引き金を引きそうな、明らかに殺意を込めた様子でロボットたちに視線を向けている。

 魔族と比較して余りにも無機質なその出で立ちには妙な威圧感があり、ゼイビィはそれまでのロボットに対する認識を魔力ではない燃料で動くゴーレムから、明確な目的とそれを達成するための手段を備えた殺戮兵器であると改め、ハロゥも人間の手で作られた魔族に匹敵する化け物を間近に見て緊張感が増していくのを自覚し、身体の震えがより強くなっている。

「メシと寝床…………どういう事パネ?」

 ロボットがこちらに近付くにつれて投降勧告に追加されていく語彙にパネパネが疑問を呈すると、ケイラははっきりと「嘘」であると即答し釣られた人間を確実に殺すための罠だと続けた。人間は極限状態におかれるとどんな物にでも(すが)り、誰にでも頼ろうとする。

 だがそこにつけこんで誘導するのは古今東西あらゆる戦争で実践されてきた普遍の事実であり、人間の心理を上手く利用した巧妙な罠という意味でも人間の脅威として事足りる特性と言えよう。そのような危険なロボットになんとか見つからないように息を殺し、小さな声で静かに言葉を交わしていた両者だったが一台のロボットがこちらを振り向き、結果存在に気付かれた事で状況が一変する。

 部隊指揮官を務める一台が「排除」の号令を放つ直前ケイラたちはすぐさま迎撃し、ビーム兵器による面制圧斉射に出たがロボットたちを被う装甲はビーム弾が効果を成さないもので、何発命中させようがあっさり(はじ)かれてしまう。

 ハロゥは魔族を簡単に殺して見せたビーム兵器が何の意味も示さない“敵”に改めて脅威を覚え、パネパネも恐ろしく危険な敵を目の前にしてパニックになっている。しかしケイラの部下の一人であるスタン(Stun)はロボットの性能を前に怖じ気づく四人を他所に、ならばと特大の対物狙撃銃らしきものを構えて一切のためらいなく撃ち放つ。

 打ち出された弾丸の衝撃は凄まじく耳を塞ぎながら身体を震えさせるゼイビィが「攻城兵器のようだ」と例えた通り、万一至近距離で食らえば超弩級戦艦の装甲も砕け散りそうな程に超高威力の特殊徹甲弾なのだが、ロボットの装甲はそんな化け物弾頭すら容易に弾いて見せた。

 攻撃側の威力は申し分ないのに受ける側の防御が硬すぎる典型であり、ここまでして一台も破壊できないとなれば最早打つ手はない。

『さア▼幸せニなリましョウ▼』

 ケイラは内心既に心が折れそうになっていたが、ロボットの攻撃が届く直前ロボットたちが立っていた地面が突然地割れを起こし、接地面からひっくり返りながらロボットたちが吸い込まれるように転がっていく。

「〔最上氷結魔法(ブリザード)〕!」

 続いて地割れに落ちたロボットを覆い隠すように分厚い氷が形成され、急激に冷やされたロボットたちはバッテリーの温存のため一時的だが機能を停止した。このとき彼女たちは、本当の意味で初めて本物の魔法を目の当たりにしたのである。

 彼らが自分達を呼び出すために召喚魔法を発動した事が決して無意味ではなかったように、自分達が彼らに助力を求めるために異次元ゲート発生装置を作動させたのもまた、決して徒労ではなかったと確信させてくれる未知の現象をこの目で確かめたのだ。

 相互の協力をもってすれば互いの敵を撃滅できる可能性が見えた両者は、気付けば同盟の宣言と共に握手を交わしていた。

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