シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

16 / 50
だいぶ雑な回です。許しは乞わぬ


16 前哨戦第三幕了 VS聖盾騎士団長

 

 リョーザン・パークには『無礼(ナメ)られたら殺す』という共通認識があるのは有名な話である。

 

 そもそもあのクランはPvM(対モンスター)がメインコンテンツであるこのゲームにおいて屈指の大手集団でありながら、PvP(対人)メインの物好きが構成比七割を占めている対人狂いである。それ故に一般的なプレイヤーと比較して『上回りたい』という意識が強く野蛮でむさくるしい男どもが多数派(マジョリティ)であるのだから、そういった風土が出来るのはごく自然の成り行きだろう。

 

 規律の鬼として有名なたわわの曲線美……”神槍”さんの存在から組織としての秩序は保っているものの、元ネタたる水滸伝の梁山泊と同様に義賊的(低カルマ)であろうと賊の集まりであることに変わりはない。世界(シャンフロ)を自分たちの遊び場(パーク)だと認識していそうな辺りは下手な犯罪者(レッドネーム)クランよりも質が悪い。

 

 さらに言えばクランの規律もあくまで組織の威信を損ねないためのものでメンバーの道徳心(モラル)を育む目的はなく……『やるな』ではなく『スジを通して()()()()やれ』とするものなのだとか。

 

一対一(タイイチ)や、シバき上げたらぁ」

「まて、待ちなさい……あなたの勝ちよ、もう勝負はついて「立たんと()()ぶっ殺す言うたが?」

 

 そんな薫陶を受けた単純バカ────クランサブリーダーであり実質的オーナーのこの男の脅しとは、実行に移されるものである。

 

 その手段もおよそ間違いなくある。私が今死に体を晒している発端でもあるあの大流星、あるいはひと月前の流星群……それらと同等か準ずる程度の、聖女ちゃんを周りのNPC達諸とも瓦礫の山の一部にする攻撃方法を()()()()一つは保持している。

 

「……私が今、こ、こうなってるのはユニーク魔法(スペル)……【熱血門(テルモピュライ)】の、反動で動けないの……もう一度やれと言われても、無理よ」

「誰が言い訳せぇ言うたクソボケ。立てや」

「あなたの魔法に対抗する代償に、体温と……50レベル分のステータスを消耗してるの」

「そろそろ殺すぞ」

「待って……! 私は、放っておいても死ぬから……だから、もう……!」

 

 つまらなそうな貌を浮かべ左手の装備を隕鉄の杖に切り替えた男に、聞かれてもいない切り札の情報を開示し懇願する。それを恥だとは微塵も思わない……今の私ではこの戦闘狂の望みと要求にどう足掻いても応えられない以上、何を差し出してでも聖女イリステラの助命を果たさなければならない。

 

「望みを垂れんな、()()、闘え」

 

 しかし、この世界において最も強く、誰よりも闘争に狂うこの男に理屈は通用しない。そもそも則っている理屈そのものがその他大勢と異なるのだから通じるわけがない。

 

 私は聖女イリステラの横に侍るようになって以来何度も見て、知っている。この男が拝謁の度に彼女に向けている眼を……サイガー100やガル之瀬、王認勇士アルブレヒトや賞金狩人ティーアスへ向けているものと同じ……より強き糧を見据える、飢えた(ケダモノ)のごとき眼光を。

 

「────覇者は戦士を愛し、傷付き倒れなお立ち上がる強き者を抱擁し、そして英傑たるを示した者の望みに応え全てを与える」

 

 芝居がかった……というより、実際に芝居なのだろう。この男のひととなりを多少知っている者なら誰もが不似合いと断ずるであろう知性を感じさせる台本と反復練習の歴を思わせる台詞は、観客へと向けた演出である。

 

「…………しゃあけど、自分で戦わん奴、諦めの良いやつ、つまらん闘いさせる奴って許せんのよワイちゃん。好き勝手やった結果とはいえ付いてきた立場もあってなぁ、くだらん連中相手する暇は無くなったもんやから、どうしたらええのかクランのみんなと相談して決めたんよ────()()せぇって」

 

 杖の先が貴賓席へ向けられる。

 

「戦争始まると思うけどゴメンねみんな、【加算詠唱(アッドスペル)】【過剰詠唱(オーバードスペル)】……でも()()()()は大事やから」

「まっ……ッ!!」

 

 それでも立ち上がれない。這って、もがいて、足首を掴むのが限界だった。

 

 

「────アレはそれに相応しいッ!! 【母なる星(まほろば)の」

 

 

 青黒い瞳の先に滅びがもたらされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………かに思われた。

 

「……乱入は困りますね、お客様?」

「ごめんなさい、サインが欲しくって」

 

 鈴を転がすようなその声が世界に、私の精神に静寂をもたらした。心をざわめかせ、全身を掻きむしりたくなる緊張が雲散している。

 

 ピリつき身体を刺激していた大気が彼女を前に畏れ入るように、春の晴れた日のように柔らかなものへと変わっている。銀糸を束ねたようなその透き通った髪を揺らすことこそが本来の役目であるかのように。

 

 

「ジョゼット、よく頑張りましたね」

「聖女ち、様……!?」

 

 

 明けの明星がその姿を力強く主張する頃合い……夜明け直後の地平線のように光を帯びた瞳が、私の心を自由にしていた。

 

「……『秘匿状態』。知っとるぞ……武装も、スキルや魔法の使用も、素手での攻撃に至るまで戦闘行為の一切を封じる……システムレベルで非戦を強制する“聖女”の力の一端やと」

「……ああ、やはりご存知なのですね」

(秘匿状態……?)

 

 聖女ちゃんに視線が釘付けになっていた自分にハッとなり、聖女ちゃんの前に立つ男と自分自身の状態を確認した。

 

 装備していたはずの武器が強制解除されている。

 

 …………“聖女”の力と言ったが、聖女ちゃんの傍でお仕えする私が知らないような事を、情報に無関心なアレが何故知っている? 

 

「まー、それはどうでもええんやけど……こうしてワイちゃんの前にノコノコ現れたんは、()()と話したこと全部知った上でのことでよろしい?」

「はい、もちろん。他の方々を巻き添いにする訳にはいきませんから」

「よー言うた。ご希望通り自分一人だけで済ましたるわ」

()()()()()?」

()()()()()。……『頂きを見るは我一人』」

 

 

 ()()()、と。

 

 

 リアルで言うところの鳥肌が立つのに近い、身体全体を小さな虫が覆い尽くすように不快な、微弱な電流が走った。

 

 交戦が確認されている最強種……『夜襲のリュカオーン』『天覇のジークヴルム』に遭遇した経験のあるプレイヤーは共通して威圧感、あるいはそれに寄せられた圧迫感を感じたと口を揃えている。

 

 特にリュカオーンにお熱である黒狼のサイガー100曰く、毎回出会う度に初遭遇かのような緊張が身を固くするのだとか。全プレイヤーでもトップクラスの腕で、かつ胆力も十分であることは疑いようのない彼女でさえそう口にしている点もあり……信じ難いことだけど、それはプレイヤー個人の感覚ではなく、正しく設定されたゲームの仕様なのだろう。

 

「“守、無頼”」

 

 

 つまり()()は……覇者というジョブはそういうものなのだ。

 

 

「覇者の力は秘匿を破る、とかなんとか言うとったが……えっと……………………まー、これで殺せるってことや」

「はい、確かに。────ではどうぞ」

「……はぁ? ちったぁジタバタせぇよ」

「いえ、これで良い……これが良いんです」

 

 左手に黒曜石製の使い捨てナイフを装備した男を前に聖女ちゃんが跪き……祈りのポーズと共に首を差し出している。

 

 

 …………殺される。

 

 

「待て……」

「…………」

 

 

 真黒い石の刃が、彼女の白い肌へ近づいていく。

 

 

「待て……!」

「…………」

 

 

 感慨も無さそうに、ただ事を済ませるというように。

 

 

「待て……ッ!!」

 

 

 許せない。

 

 許せるわけがない。

 

 たかがゲームのNPCだから? 

 

 どうせ居なくなっても同じ役割を担うNPCがポップするから? 

 

 死んでも支障はないから? 

 

 ふざけるな。

 

 

 

「待てやァァァァァァァアアアッッッ!!!!」

 

 

 

 

 なぜ一度でも諦めた!?!? 

 

 

 そんな取って付けたような理由で────彼女を諦めることを正当化するな……っ!! 

 

「……よー立った」

 

 跪く聖女ちゃんに完全に背を向け、右腕を欠いた男が私を見下ろしている。

 

「戦士として、相応しく殺してやる」

 

 辛うじて立っているだけの状態で、私は────

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 土壇場で新スキルに目覚めると言ったこともなく、ジョゼットは当然死んだ。立ったと言えどそれだけの相手からラッキーパンチを貰えてたらそもそもチャンプになれてないんだ、悔しいだろうが仕方ないんだ。

 

「なぜジョゼットを追い込むような真似をしたのですか?」

 

 塵になって消えつつあるジョゼットの身体を胸に抱きながら聖女ちゃんが聞いてくる。……うーわなんやその顔キモっ! ボコボコにしとけばよかった。

 

「死なれる前に殺すためやね。殴る相手はファイティングポーズを取って闘う意思を示すやつだけと決めとるんや。……あと、聖女ちゃんとワンチャン闘えたらええなーって」

「……それであの脅しはやりすぎです、観客席に杖を向けるなんてファンを減らしたいんですか?」

「ファンというかなぁ、そもそもタイガーマスクはヒールレス……あーいやなんでもない。というかさ、ファンクラブといい親衛隊といい自分らが善玉の自覚無いんか!? 少しくらい正義は我にありって振る舞いせぇよ……! おかげでこっちが残虐ファイトする羽目になっとるやん……」

「……本当に何も知らされていないんですね。今回のイベントは私たち三神教に加えてエインヴルス王国騎士団までしっかりと根回しされているんですよ?」

「はぁ〜〜〜〜〜っ!?」

 

 マジでなんも知らんのワイちゃんだけ!? いや、確かにここ1ヶ月色々あってイン率少なかったけど……日用品の買い物とか色んな用事にカッコ付けて百さん連れ回して事実上のデートを満喫してたけども!! というか、聖女ちゃんのこの顔と声はどうにも調子が狂う……。

 

 ……ああ、そうだ、今いいタイミングだから忘れる前に話しておこう。

 

「ジョゼット、まだ消えとらんな? 頑張ったご褒美に一つおもろい話を「話しかけるなァ!! 取り込み中なの見ればわかるでしょうがッ!!!!!」

「えっ、“彼方の逸脱者”の話なんやけど……」

「この温もりと香りはあらゆる全てに優先されるのよ……」

 

 え、あの……本当に? 本当に興味無いのん……? 本邦初公開の激レア情報だと思うんだけど…………マジか、最後の最後まで聞く姿勢を……マジかぁ…………

 

「ところで私から一言よろしいですか?」

「どうぞ」

「私に刃物を向けている間ずっとジョゼットのことを考えていたでしょう? 良くないですよ、そういうの」

「……お見通しとは恐れ入ったわ。しゃあけどなんで?」

「当て推量です」

 

 カマかけられた……! 

 

「めっ! ですからね?」

「すいません……」

 

 つくづく格好つかんなぁ……

 

「え、じゃあ一つ教えて欲しいんやけど……ワイちゃんが殺さんって確証なしに、どうして抵抗する素振りも見せんかったの?」

「先程貴方自身が言ったではないですか、『闘う意思を見せない相手は殴らない』と。……心根が言動に顕れているんですよ、悪役仕草もまるでなっていません」

「え、えー……ワイちゃん割とあちこちでバチボコやってるはずなんやけど、何故にそこまでよく言われるのん……?」

「偽計を用いた者全てを大陸の果てまで追って報いを与えているご自分とフォルティアンの皆様のことを暴力に酔っているとでもお考えですか? 『弱きを助け強きをくじく』、覇者たる貴方とその信奉者がそれを体現している事実は世界の誰もが知るところであり、それは正しく尊いことなのです。……奇行の数々も広く知れ渡っていますが、ご愛嬌でしょう」

 

 あの聖女ちゃん直々に奇行が目立つって言われた……! 

 

 というかワイちゃんとリョーザン・パークってばそんなにNPCの評判ええんか……どこまで行ってもゲームでしかないプレイヤーと、ゲームの世界こそが現実なNPCとでは認識に結構な開きがあるのかもしれない。

 

 なんならここ1ヶ月くらいの出来事を思い返しても、正直ろくな事をしてない自信がある。サイガー100に拉致されたり、サイガー0のお話しに付き合ったり、着せ替え隊と遊んだり、サイガー0の素材収集に付き合ったり、幼女ちゃんにメシたかられたり、サイガー0のお話しに付き合ったり、百さんとお温泉行ったことくらいしかもう覚えとらんわ。*1

 

 …………不思議やな、サイガー0となんかやっとる思い出(メモリー)が一番多い気がする。トータルの時間で見れば別にそんなことはないはずだけど。

 

 そのうち気が向いた時にでもゲーム開始から約一年間自分が何をやってきたのか振り返る時間を作ろう。……割と結構なこと忘れとる気がするし。

 

「もし、もし」

「あ、なんかボーッとしとった。……そろそろ行くけど、なんかある?」

「……差し支えなければジョゼットに聞かせようとしていた“逸脱者”の話しを聞かせて貰えませんか?」

「うーん……ジョゼットに話しといてくれるなら」

「はい、約束します」

 

 本当はジョゼットにハッパをかけて将来の楽しみにするつもりだったのに、まさかユニークの情報よりも聖女ちゃんの抱っこを優先するとは思いもよらなかった。…………よくよく考えればそっちの方が価値がある気もするから不思議。

 

「『“逸脱者”は聖女イリステラと同じ姿をしている“聖女”、あるいはそれに類する存在である』、『必要があれば三神教の秘匿とやらを暴いてやる』、そして……『そん時は待ったなしで殺す』と、伝えておいてね」

「────はい、喜んで」

「あれ? ワイちゃん言い回し間違えたかな……ワイちゃん今、『時が来れば聖女イリステラを殺す』って言うたつもりなんやけど。だからジョゼットに死ぬ気で強くなれって」

「ええ、その時が来たら貴方が私を()()()()()()と、そういう意味で確かに受け取りました」

 

 ……?? なんでこんなに嬉しそうなの……? あれぇ? 

 

「…………ぶっちゃけワイちゃんってば『その時』ってのが皆目見当付かんのだけど、何ヶ月後とかわかってたり? あ、未来予知出来ることは知っとるよ、ワイちゃんだってたまにはwikiくらい見るし」

「“うぃき”というものはわかりませんが、そうですね…………まあっ! ふ、フフ……」

「え、ナニ……?」

「い、いえ、お気になさらず。……貴方の言う『その時』では無さそうですがそう遠くない将来、貴方と賞金狩人、そしてもう一人……たった三人に対し複数の勇者を含む多士済々の15人が挑むようですね」

「…………なんそれ? なんそれ!? 今すぐやりたいんやけどそれ……! 将来なんて言わずに今!!」

「……三人ともすごくモチモチしています」

 

 ◇三人のモチモチ……!? 

 

*1
虎は楽しかったこと以外は割とすぐ忘れるタイプだよ♨




今話はいい加減本編進めなきゃという義務感で出力された感が否めないです。……『あの女』を早く書きたくて仕方ないのと、春休みのお話を早くやりたくて仕方ないのです。

いつかリメイクしたい

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。