シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない   作:嘉神すくすく

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流石ですヒー坊、やはり私がにらんだ通り貴女はポテンシャルの高いヒロインだ




19 虎と鉛筆に哀しい過去……!

「待てっ、待ってくれッ! 少しで良いから話を聞いてくれ!」

「何度も聞いたわっ! このクソボケ、ホンマしつこ……着いてこんで!」

 

 とてつもなく耳馴染みの深い声の主から逃走している今回の標的(カモ)となる虎マスクが、普段の行動経路(ルーティン)を変えずにやってきた。

 

 事前のリサーチで彼はフィールドでの活動を終えた後は街の北東にある『黒曜の鏡』商会へ最短経路で向かい、アイテムの換金や預け入れを行っているということは情報屋を使うまでもなくプロファイリングできた。あの目立つアバターもさることながら、肩で風切って歩く堂々たる姿を見るに『人目を避ける』という発想自体が出ないタイプだと思うね。

 

 ──見かけたPKやレッドネームを相手の数やレベル・ビルドや状況を問わず、その上単身(ソロ)で皆殺しにして回っているという【最大功名(スコアホルダー)】……功罪のなんたる考えさせる存在な彼の直近での活動範囲を特定した私は、とりあえずコロコロしてみようと思い立った。昨日ね。

 

 別に恨みつらみとかは全く無いよ? ただ単にそんなイキの良い子いるって知ったら試しにヤってみたいでしょ。

 

 ……まぁ、それはそれとして興味だけって訳でもない。彼が築いた屍山血河の中には当然ウチの阿修羅会(クラン)の連中も含まれてるんだけど、その内の一人が所持してたユニークアクセサリーが元々私も欲しかったやつなんだよねえ。幸いにも彼がそれを普段使いしてるってことも分かったしモチベも上々だった。

 

 仇? なにそれ甘いの? 

 

 なんならそれ以外の装備も殺してきた数に正比例する代物ぞろいだし、リスクがあっても十分狙う価値があるよ。

 

「────しゃあっ」

「なッ!? グエッ……」

 

 えっ……なに、今の動き。

 

 全力疾走中に身体を捻って180度回転しつつ地面に仰向けに伏せ、その後ほぼノータイムで追っ手たるプレイヤーに向かって地面スレスレの超低空タックルで足をすくって派手に転ばせた。

 

『スッ』とか『バッ』とかじゃなくて、『ヌルッ』て……方向転換に減速を感じさせないゴキブリのようなモーションで肩を相手の脛にぶつけ、すごい髪型した女性アバターの子は不意をつかれて受け身も取れていなかった。

 

 ……というか…………えぇ〜? 

 

 …………もしかしなくても、(モモ)ちゃん……? 

 

 いや、そ、そのPN……本名ってさぁ……

 

「クッ、どこへ……──ッ! 向こうか!」

(ブフッー! マ、マジでやってんの……??)

 

 その滑稽さに思わず吹き出しかけた。

 

 モモちゃん……サイガー100ちゃんは、追跡している虎人くんの痕跡を追って────実際に立っている場所とは正反対の方向の路地に駆け込んで行った。

 

(傍から見てると笑えるけど、モモちゃん視点だとホントに見えてないっぽいね)

 

 結論だけ言うと、虎人くんはモモちゃんの死角に潜り込んで屈んでいた。

 

 彼は自身のトレードマークたるマスクを自身の予定ルートと反対方向の路地へと投げつけ、それを壁に縫い付けるように消費アイテムも投げナイフを投擲……ちょうど彼の頭の位置で、あたかも『慌てて逃げたら引っかかっちゃった』感を演出していた。明るいオレンジ色がよく目を引いている。

 

「……えーかげん相手する気も失せるわ。穴あけちゃったよお……」

 

 様子のおかしいモモちゃんの背を見送った虎人くんは、落ち着いた足取りでマスクを回収し涙目でインベントリに収納した。あのモモちゃんがゲームとはいえ他人から……それも男から塩対応されてるというレアなシチュエーションがだいぶ笑える。

 

 彼はモモちゃんを転倒させた後、ドタバタと騒がしくどこかへ駆けていくという真似をせず、むしろその場に留まって死角にポジショニングし続けていた。その絵面もまたお笑いコントの伝統じみていて、正直お腹がよじれそうなのを必死で堪えていた私だよ。

 

 ……真面目に考えると、とんでもないメンタルしてるね彼。それが最適だと分かっていたとて、あんなクールに息を殺していられるものかなフツー。

 

「レベル上げして……ついて来れんくらい先進む…………よし、それで行く」

 

 モモちゃんを振り切り気の抜けた彼はルーティン通りに路地に入ってきた。

 

 あの子と何があったのか知らないけど最大巧名(スコアホルダー)も大変だね……まあ、レベリングはまたの機会にしてよ。

 

 

 チクッとね。

 

 

 レスラー体型アバターの広い背中に、初撃補正効果のある槍の一突きをお見舞いする。

 

 アーサー・ペンシルゴンのPK三ヶ条その2……『ソロプレイヤー』を狙う。

 

 二人以上の相手に不意打ちを仕掛けると余程のおマヌケさん以外からは手痛い反撃を貰っちゃうからね。

 

 虎人くんはまあチョー強いんだろうけど……強い私が不意を突けばこんなも(ガシッ)えっ

 

「……どこのどいつか知らんが、ワイは今機嫌が悪いんや」

 

 槍は背中ではなく右上腕を貫いていた。

 

(ひ、攻撃箇所(ヒットポイント)がズラされた……!? な、ん、バレっ!?)

 

 い、いやそれより……ノールックで私の右手、槍の振り手を掴み返してるっ! 筋力(STR)差がありすぎるのか振りほどこうとしてもビクともしない……! 

 

「シッ」

「うえっ!?」

 

 振りほどきのタイミングに合わせて体制を崩され……私自身の右肩を槍の石突でぐるりと巻き込んで仰向けに押さえつけられた。

 

 逮捕術か何かかな……? あっさりと重心を押さえつけられて身動き取れなくされてしまった。

 

()()天音永遠アバター……流行りすぎちゃう?」

「に、人気者だからねぇ……粗悪乱造が過ぎると切実に思うよ」

「おー、トレスばっかでつまらんのよね、写真しか見たことないからよー知らんケド。しかし不思議やな……自分のアバターはソイツらよりちょい似とらん、なのによっぽど()()()思える……なんかな、見せるセンスってやつを感じるわ」

「あ〜、理解(わか)っちゃう〜? 君も私ほどじゃないけど神エディットしてるよっ☆ てか、それなのになんで普段はマスクしてるの?」

「しつこく設定値聞いてくるクソボケ共の相手に疲れたんよ。……なー、そんだけのファンやのに、どーしてご本人のイメ損に繋がる真似すんの」

 

 そのご本人なんだよね、とは流石に言えない。言って信じられるとも思わないけど。

 

 …………うーんダメ、かなぁ……抜け出す隙がない。会話してるのに全く気が逸れてないし、モーションもまるでブレそうにない。

 

 会話する人格と、こっちを殺そうとする人格がそれぞれ独立している感覚が空恐ろしかった。

 

「……ちょっと落ち着いて話し合わない? 君はクラン:阿修羅会の幹部に選ばれし者……! 5000万マーニを掴むチャンスを与えられた強き者っ」

「────他人様の顔でカスな真似するクソ女のボケ話しを誰が聞くか……ッ!! 天音永遠さんにごめんなさいして死ねっ」

「うぎゃぁぁぁぁああああ!?!?」

(いや本人────ッ!!)

 

 ……そうして私は顔を入念に殴られた挙句、地面で『大根おろし』にされて絶命した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

『────以上が、私と虎人くんの不運な出会いでした。ご清聴ありがとうございました』

『何が不運だよ関係各所に謝罪しろォ!!』

「第一印象最悪じゃねぇかよえーっ」

『いや、そんなでもモモちゃ……彼を追い回してた友達と比べると早期に関係改善したんだよ?』

(……今にして思えばPK未遂だけじゃ『取るに足りない』ってことだったんだろうケド。むしろモモちゃんは何を……?)

 

 透き通るようなビジュアルの“聖女ちゃん”とやらを相手に『んほっ』てた女騎士の死を見届けた後……西門から街に入った虎人は、自らの姿を見せびらか(パレード)しながら目抜き通りを練り歩いている。見物客向けの規制が張られ、その上ボディーガードに周囲を固められている姿はハリウッドスターじみている。

 

 随分なプレイヤー人気だと当初は思ったが、実際のところその大半がNPCだと聞かされて一層驚かされた。

 

 そういう風に設定された役割(にぎやかし)なのだとしても……見ているだけでこちらまで乗せられてしまいそうな熱気を帯びたリアリティだ。アニメ映画のワンシーンと言われたら信じかねないクオリティもあって、神ゲーの名を欲しいままにするだけのことはあった。

 

「しっかし急にそんな話し聞かせてきてどうした。懺悔か?」

『ようやくこれまでの悪業の数々を悔い改める気になったんだね』

「今からなら無間地獄回避ワンチャンあるかもなぁ……」

『お口の悪い坊や達だね……そんな調子じゃ蜘蛛の糸垂らしてあげらんないよ??』

「一回目でピキる狭量で仏様気取りとかウケる」

『まずはお前だあっ! ごきげんようヒヅトメルミちゃんッ!! 天音永遠ですッ!! 貴女の天音永遠がお兄さんと通話してますよーッ!!』

 

 やべやべやべやべッ!? 諸刃の剣で躊躇なくチェストしに来やがった……ッ! 

 

 急いでミュートしてタブレットPCにヘッドセットを接続した。あっぶねぇ……だが流石に一階で肉を貪ってるであろう愚妹の耳には「お兄ちゃーんッ!? 今トワ様のラジオとか「視聴して無いが!?!?」

 

 地獄耳が過ぎる……! 

 

『そんなことより実際どのようなことを話しあそばしたいの?』

「大事なことなんだろ、どうぞ聞かせて御覧(ごろう)じろ」

『うんうん、聞く姿勢って大事だよ。……そもそも私は初めて彼と会った時、キルする前後で目立ったミスはしてなかったんだけど、にも関わらず攻撃の瞬間には彼に看破されて狙いを外されたんだよ。……でね、会った時の対応が多少マシになった頃に本人に聞いてみたら、『待ち伏せの状況が整ってるから警戒はしてた』って言ったの』

『あー、FPS*1なんかだと基本だね。芋砂*2対策とかでよく言われるよ』

『そ。待ちキルの好条件は主に「人目が無いこと」、「死角があること」、そして「静かすぎないこと」……なまじ状況が良すぎたのが逆に悪かったんだってさ』

「あー……アイツその手の警戒はしっかりしてるわ」

 

 実際には本人と家族のストーカー被害経験もあるんだろうが、そこは話すことでもない。

 

 というか似たような話を警察関係者……現役警察官なアイツのお母さんの口から小・中学を通して全校集会で何度か聞いてたな。

 見通しが悪く人気の無い場所を避けるのは大前提。一人で出歩かない、明るくて人通りの多い道を選ぶ、遮蔽は多い方が撃たれにくいし撃ちにくい……途中から完全にFPSゲーム講座になってた、などということはまるでないとゲーマーの生徒が口を揃えるくらい非常に有意義で楽しい時間だった。

 

『事前に言っといた京極ちゃん()()()()()の子……“ヒイラギ”ちゃんって暗殺特化なの。かなりのチキンだから相手を確実にキル出来てなおかつ安全な退路を確保して、その上でキルしてから精神的に死体撃ち出来る余裕がないと姿を見せないんだよねえ』

『三つ目必須(マスト)……?』

「京ティメと比べてえらく香ばしいじゃねぇか……」

『ついたあだ名が「嘘泣き地雷女」「ゲロカスを超えたゲロカス」「開拓者の天敵」「史上最もあらゆる罵倒を固有名詞にした個人」「アレ」……これはほんの一例だけど、気になるなら非公式wikiに個別ページがあるから調べてごらん。不定期に荒らし編集されてるけど』

『「アレ」で通じるんだ……』

『初心者の街以外なら「アレが出た」って情報が出回るだけで結構なプレイヤーが他に移動するし、他から追っ手が来るレベル』

「災害かな?」

『【最大罪業】っていうプレイヤー最悪の重罪人称号持ちで、NPC視点だと誇張抜きに災害認定されてるね。……正直今回の件でもコンタクト取るか悩んだ、というか他の宛がダメだったから仕方なく頼った程度にアレな子だよ』

『ま、まあアンタほどの腐れ外道が言うなら……』

『天音永遠ですッ!!!! プロゲーマーKこと魚臣慧がッ!! 天音永遠とプライベートで『やめろォ! (本音) やめろォ! (本音)』

 

 こいつマジで迷いがねぇ……! 

 

『つ、つまりこんなに人が集まってる中でボディーガード付きのタイガーは狙いようがないってことだね……!』

『そう言うこと。てか、ボディーガードとは言うけど、アレはぶっちゃけNPC向けに警備の体裁をアピールしてるだけかなー。虎人くんのお付やって足手まといにならないプレイヤーなんて……うん、彼と同じクランでランキング一位の神槍おじいちゃんと、ランキング四位の“大神(おおがみ)マシロ”ちゃんくらいだと思う』

『へー……流石は“Shiro”さん、プロゲーマーの面目躍如だね』

『……待って、それ知らない。彼女プロなの……!?』

『試合のリプレイを何度か見たのと、仕事で一緒になった時に普通に本人から聞いたから間違いないね。というか彼女に限らずタイガーのクランには現役プロが結構居るし』

「そのマシロさんってのは強いのか?」

『日本女子でトップクラスの人だよ。顔出しNGでメディア露出が少ないから知らないのも無理はないけど』

『てかそれで四位とか何なのあの狂気集団(イカレクラン)!?』

『さらに言えば今は六位だったはず』

『ウワーッ!? ホントだ……!』

 

 カッツォといい、プロゲーマーってのは結構暇なんだな。

 

 なにやらブツブツ言い始めた鉛筆を尻目に、未プレイゲームの知らないランキングに興味の無い俺は件のヒイラギとかいうプレイヤーについて調べてみた。

 

 ……おお、出るわ出るわヘイトの数々。公式掲示板よりもローカルになりがちな非公式wikiのコメント欄で3000件超えてるって相当じゃねえか……? 

 

 あだ名にカッコつけた罵倒の数々は多すぎて格納されてるわ、一部の項目は荒らし対策で編集が制限されてるし……

 

(ん? 実績一覧ってなんだ)

 

 例に漏れず格納されている項目を開いたところ、お出しされたのは実績とは名ばかりの罪状一覧というか、被害者リストだった。

 

 どこそこの街のキルされた要人の名称が、その人物に代わり役割を担うためにポップした新NPCが併記される形で記載されていたり……タイムリーなところで『聖女イリステラ暗殺未遂』なんてのも、個別ページのリンク付きで存在していた。

 

 総じて感じ取れたのは『自分さえ楽しければ良い、タチの悪い愉快犯』という人物像だった。…………ん? 

 

「おい鉛筆、今非公式wiki見てるんだけどよ……『双月会(そうげつえ)』ってなんだ? ヒイラギって地雷女が優勝したっていうやつ」

『え、しばらく前に行われたデュオ(二対二)PvPの大型トーナメントだけど…………──!』

『あ、それ俺も決勝だけ見たよー。タイガーからリプレイ残さないって聞いてたからわざわざリアタイで。確か鯛とか鮫とかの槍使いと強化役(バッファー)の組み合わせに対して……あっ! 思い出した! タイガーの相方やってた暗殺者(アサシン)がその“ヒイラギ”だった!!』

「はぁ!? アイツがこんなクソ女の中のクソ女みたいな……クソオブクソ女とデュオなんてやるわけ無いだろ……!」

『わざわざ言い換えたねサンラクくん。……いや、大マジのマジ話だよ。彼、強くて仲が良い身内なんて他にいくらでもいるだろうに、かなり早い段階でメンバー確定させてたの。……あぁ、本当に悪夢みたいな状況だった』

「……てことは、よーいドンの真剣勝負(ガチンコ)でも相当つえーんだな」

『いやそうじゃなくて、彼からバディに選ばれなかった友達の機嫌がクッッッッッッソ悪くなって生きた心地がしなかったの』

『サンラク便Pやらない?』

「ドラゴンフライも呼ぼうぜ」

『助けてーッ!!!! 天音永遠が襲われてまーす!!!!』

 

 被害妄想やめてくださーい。

 

*1
一人称視点のシューティングゲームのこと

*2
主にFPSで、同じ場所から狙撃し続けるプレイヤーのことを指す





虎:リアルでもゲームでもストーカー被害を受けがちだが、家や学校では周りの人達が陰で守護っているため本人はほとんど認知していない。
認知されるまで行く剛の者は滅多にいないけどいるにはいる。

虎ママ:現役警察官、FPSがバカ強い。ストーカー禁止命令の手続きが手馴れている。

PNが本名の人:「見失ってしまったか……そう言えば本人が置いて行ったあの頭装備、次会った時に渡せるよう回収しておくか」→「なにっ、嫌に聞き覚えのあるゲスの断末魔!」→黒狼DAYS GONEへ続く

日頃の行いは大事

モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?

  • あ、いっすよ(快諾)
  • 頭湧いてるんですか?
  • そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも
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