シャンフロプレイヤーワイ、フレが奥手すぎて夜しか眠れない 作:嘉神すくすく
あとゴリラは優しい。
唯一不安だったのは彼の【瞬間転移】に対するアクションが遅れる、あるいは立ち位置を変えないことだった。今回のプランで敷かれ隊との打ち合わせ通りに立ち位置を取られていたらデュナを虎人くんに庇わせることまでは成功しても、その後の自爆を彼以外の変態に抑え込まれる可能性が残されていた。
彼が私の想定を本当に下回ることがあればその時点で殺し切ることが出来なくなり、人混みに紛れて一時撤退しなければならなかったわけ。
彼の義理堅さは筋金入りだ。身代わりになってデス
他者からの恩に対し最大限報いる彼の手にかかればシャンフロにおいて実現可能な大体の願い事が叶うんだから誰だってそうする。それが当然と受け入れられている信頼性こそが彼の恐ろしいところであるけど、同時に彼以外のプレイヤーの行動……不確定な『かもしれない』が無くなる要因でもある。楽にできない難しいプランニングも一か八かの賭けのような行動も、それ以外の選択肢が無くなってしまえばむしろ思い切れてしまう。
彼に勝利する唯一の方法、それは彼を信じることだ。彼は私を勝たせてくれる。
「…………」
「え、えへ、えへはへ、えへ」
本人の死亡と引き換えに爆風を最小限に抑え込み、ギャラリーに被害を一切出さず周囲の変態共を吹き飛ばす程度の威力に留めたのはまさに英雄的だったね。
アバターのほとんどがポリゴンに置きかわった虎人くんにしかかり、死亡が確定するまでの10秒が経過するまで胸板辺りのポリゴンに左耳を当て心音を堪能する。彼好みの言い方をすれば“テンカウント”かな?
これでようやくやり直せる、この勝利で私たちのリアルでの不運な邂逅*1は無かったことにして貰える。
虎人くんは私のことが嫌いだ。
嘘をついちゃう所、自分で頑張らず直ぐに他人から盗ることを考える所、キルした相手を不必要に罵るところが嫌いだと面と向かって言われた。その上出会った当初やリアルで会った時の巡り合わせが悪すぎて挽回の機会を貰えないせいで、印象は悪いままだった。
……だけど、彼は嫌いな相手だからって理不尽に悪意をぶつけたりしなければ約束を破ったりもしない。
邪険に扱うフリはしても、見捨てたりはしない。
「好き……好き……好き」
私は彼が好きだ。
遊んでくれるし、話しを聞いてくれるし、褒めてくれるし、優しいし。
私のことを有象無象の百人が否定しても、千人が目を背けても、一万人が憎んでも……全世界のプレイヤーが相手でもはばかることなく私を認めてくれる。
だって私は強いから。彼にとってトツベツだから。
どれだけ周りに私の悪口を吹き込まれても、そいつらより私が優れてることをわかってくれる。
一緒にいると安心する、話してると嬉しい、声を聞くだけでドキドキする。彼が私を好きになってくれるなら三千万人だってPK出来る。
私は彼が好きだ。
「ウソじゃないから、ね?」
トクン、トクン……トクン…………トクン
心音の間隔が長く、弱くなっていく。
今からでは周りが蘇生アイテムを投擲しても間に合わない。勇者剣聖のオトコ女でもバ美肉神槍おじいちゃんでも、賞金狩人ですら成し遂げられなかったシャンフロ史上初の快挙……私の大願が今まさに
ドクンッ
「悪魔は死なないんだぜ」
「いッ!?!?!?」
首に手がかかっていると気付いた瞬間には右手が動いていた。まだ生きている、殺す、殺し切る、武器を取って突き立てる。
死んでなかった……!
死ね、死ね、お願いだからそのまま死んで、思いが遅れて追いついた一撃が彼に届く────前に止められる。
ガシッ、と。
(掴、なん、無、はず)
首と右手首がギリギリと絞まる圧迫感に対し、わけも分からないままジタバタと暴れて抵抗する。
(
ないはずのものがあった。
きょーごくちゃんによって切り飛ばされ今日ここに至るまで彼を苦しめ続けた欠損が、私が今回の大博打に挑む決心を付けた最大の要素が、無くなったはずの彼の右腕が私の首を掴んでいる……!
部位欠損を瞬時に快復する方法はいくつかある。大司教クラスの聖魔法、スクロール、あるいは────
(死んでから
スキル、アイテム……違う、出来ない。
魔法……違う、彼の聖職者系統の適性はそこまで高くない。
なら、装備、勇者武器の『
「プッ……!」
「“含み針”か!」
わからない、気にしてる暇がない。
盗賊系統の対人スキル“含み針”……スタミナ・MP消費が無い代わりに射程が短い、極小のダメージとわずかな「痺れ状態」を発生させるスキル版【
彼の右手が離れ、右半身を後ろに引く体捌きで針を回避され────
「フンッ!」
「ぎぁ……!」
アバターがまるでバスタオルを振り回すように左腕1本で地面に叩きつけられ、顔を打ち付けたせいか視界の左片隅が赤くて粗いポリゴンによってわずかに見えにくくなった。
「ひ、ひっ……や、や、あ」
呆けてた間にもう一度、容赦なく顔を打ち付けられ視界に赤色がさらに広がった。
(死ぬ、死ぬ、死ぬ……!)
左手に短剣を、ほぼ手癖で取り出した。
破壊属性付きのサブ武器、振れば届く、当たる
…………ほんとうに? 五体満足な彼を相手に……?
当たらなければ、死ぬ、確実に。彼は都合よくミスをしてくれたりはしない。
…………………………し、死んだら、も、もう、もう二度と……!
「や、やだあああああああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
狙いは私を掴んでいる彼の左腕────ではなく、私自身の右腕。切り離しやすい肘の関節部分へ狙いを定め全力で切り抜いた。
「なにっ」
幸運にも僅かながら彼の意表を突くことが出来たらしい。
け、けど、勝てない……勝てない、も、もう勝てないぃぃぃ……!
「ひ、ヒィ……!」
なるべく安全な方に逃げる……少しでも、生き延びられるほうに……!
「逃がすかァ!」
背後から虎人くんの重い足音が、わずかながら普段よりも速く近付いてくる────デバフが無くなってる、あるいはそれを僅かに上回る程度の速度バフがかかってる!?
「や、や! 来ないで!!」
「あm──うえっ!? なんやこの軌道……! シンカー!?」
デタラメに放った左手の短剣が投擲マスタリースキルと、おそらく器用・幸運ステータスの補正を受けていい感じに彼の足を止めてくれたらしい。視界外で見えないから分からないけどそういうことにして目もくれず走り続ける。
「ぐええ……とんでもねえ爆発だったな」
「ゴールドタイガーさんのお陰で死なな────はぁ!? あのクソ女生きてる……!」
「虎人くんも!? あとなんか腕が生え……てか向かって来るぞ!? よ、よく分かんねえけどビッグチャンスだ……!」
『ホ、ホ、ホ、ホギャアアアアアアアアアア!!!!』
「心なしかキモゴリラ共もやる気だ……! 嘘泣き女を普通にKOしろ! 乗り遅れるな!」
な、なんとかあの変態共とゴリラゾンビを錯乱させて足の引っ張り合いをさせ
「迎撃用意、構えろォ!!」
「「「応ッ!!!!」」」
『『『『『ホギャアッ!!!!』』』』』
む、無理そう!! 連携に穴がない!! というか知能があるとは思えない見た目のゴリラ五体までスクラム組んでる……!! 無理そうとかじゃなくて無理ッ、色んな意味で……!
「“スケートフット”……!」
とにかく虎人くんに追いつかれないように加速する。
抜け、無理、殺、駄、横、不可、上────
「お、お願い! 【本気☆ボンバー】印!!」
「また爆弾!? 伏せ『『『『『 ホ ギ ャ ア ア ア ア ア 』』』』』
「ゴリラ共ォ!?!?」
「俺たちの身代わりに!? 見た目に反してヒロイックすぎるぜ……」
自傷を覚悟の上で私がデスしない程度の威力の爆弾を使用し連中を怯ませる……が、それはついで、本命はその
「【
両翼を広げた鷹のような見た目と大きさのグライダーを展開し、ダメージを負いつつも爆風を捕まえ空中に舞い上がる……!
刃隠心得・【
それはさておき本来この忍術自体には空中に飛び上がる能力は無いけど、何らかの上昇気流を捕まえることが出来ればこの通り……ビルの三〜四階ほどの高さまで一気に舞い上がることが出来た。
元々は“スーサイドクラブ”っていう自殺マニアのキチガイ
どのくらい罪深いのかと言うと一時期ではあるけどゲーム内各地の景観がニンジャによって損なわれた挙句、運営が『グライダー展開中の各種行動に伴うスタミナ消費量増加(極大)』と推測されるサイレント修正を行ったことでゲーム外での炎上とゲーム内でニンジャの一斉蜂起が勃発……言い訳パッチノートの発布と詫びアイテム配布に至ったほどだ。
私がこれを土壇場で使える理由は他ならぬ虎人くんから『ゲームがめちゃくちゃ快適になるよ』とオススメされ、上昇気流を生じさせる手段を複数有する魔法職としての彼の手をかりてコツを掴んでいたからだ。練習中の『ミスって死んでくれたら嬉しい』と言う彼の目は本気だったから文字通り死ぬ気になって覚えたので、あの程度のピンチでミスすることもない。
……とはいえ、このまま滑空していてはそのうち地面に到達して間違いなくキルされる。ギャラリーがひしめく地上を見下ろしつつ、ミスなく退散できるよう脳内シミュレーションを行う。
(ま、まずグライダーを手放して……落ちながらインベントリを操作し、して、
「『────ああ、彼方の愛し君、我が
通りの良い低い声。
私の大好きな声による
(お、思い込みじゃない、こ、これはゲームシステムの
何が来る……? 彼は私が【座標移動】、あるいはこの場を脱出するための手段を使うことを読んでる、とりあえず
魔法では速度が、投擲では飛距離が足りない……! 速度と飛距離を兼ね備えているナニカ
「『此方より
(か、考え、ボウガン、届か……ま、魔法弓……! き、距離減衰っ、あと片手が────────あ)
すっかり抜け落ちていた想定に気付き、ようやく頭の中で繋がった。
速度と飛距離があって距離減衰が少ない、そして
「【
背中を中心に全身へ走った衝撃が、そうだと、正しいと、彼自身の言葉のように語っていた。
◇ ◇ ◇
……それはクラン:ライブラリに名前と以下の事実だけが提供され、非公式wikiに記載されているユニーク魔法だ。
『かつて彼は1度だけ、物理ダメージの
魔法名の『羿射九日』とは、中国神話に登場する太陽と災厄の魔獣を撃墜した弓の名人にして最大の英雄の一人とされる“
効果の詳細は開示されていないものの、以上のことから『弓矢による物理ダメージを伴う攻撃魔法』と推測される。
余談だが地球の英雄的人物の名前が入ったスキルは複数報告されているものの、魔法に関して報告されているのは現状これのみである。*2』
……そしてその日、“最悪”の手によって“最強”の切り札が暴かれた。朱塗りの剛弓から放たれたその一矢の特徴は二つ。
一つが『異常なまでの弾速』
はじめて観測されて以降、幾度となく映像が検証されたものの、矢が放たれるとほぼ同じ瞬間に着弾していると認めざるを得なかった。
そしてもう一つ、おそらくはこのユニーク魔法の“本命”となる効果、それは着弾した直後に観測された。
それが観測されている間、周囲から風や物体、色彩に至るまでがそれに向かって引き寄せられるようだったと現地にいたプレイヤー・NPCは一様に証言している。
『超小規模のブラックホール』
現状では仮説にすぎないものの、事実であれば太陽殺しの逸話に遜色ない絶滅の威力であることは想像に難くないだろう。
「ぷ、プレイヤー一人に向けていい威力じゃない……! こ……こんなもの使ってまで私のことキルしたかったの……? ねぇ……ッ!?」
「ここまでやったのになー」
真奈さんのコメント)
女はイケメンになら殴り殺されても良しと笑う生き物なんだ、狂気が深まるんだ。……だからね、君はもっと他人に冷たくするくらいで丁度いいのよ。お姉さんを信じて、ね?
そんな訳ないっス! 現代日本人がそんなイカれてる訳無いっス! そもそも弱者に手を挙げる男は男じゃないと考えられる(虎書き文字)
優しいイケメンは麻薬ですね(真奈書き文字)
Q:虎斗、リアルであの女にナニをされたんだ……?
「あのオルスロットがワイちゃんに土下座するレベルの“事件”をやらかしたよ。詳細は省くけど他人のこと一方的に特定してアポ無しリア凸かますようなクソ女とか関わりたくないでしょフツー? そんな真似されたらたとえサイガー100だろうと縁をk…………あの、例え話やから、ね? この話しやめよっか」
Q:……リアルの虎人さんに何をしたんですか?
「わ、私はただ、ゲームでの会話とか配信の雑談とかテレビのインタビューとかで彼のことを見たり聞いたりして、そ、その内容がいつも遊びに行ってる繁華街での出来事にピンと来ることが偶然あって、そ、そしたらたまたま彼を何度か見かけちゃうことがあってェ……パズルのピースみたいに情報が重なってェ……それで好奇心から繋ぎ合わせて完成させてみたくなって。で、でね? 天文学的確率で私と彼が街中の雑踏でぶつかったことがあってねっ、耳に付けていた私のイヤホンが奇跡的にも彼の上着のポケットに入ってたみたいで、ね? 連動アプリのGPS機能で無くしたイヤホンの行方を追っていたらホントのほんとに偶然彼のおうちまでたどり着いただけなのっ……! た、たまたまなのに、ストーカー扱いとか(ry
Q:せっかくの怪文書をなんで後書きで消費したの?
ヒイラギ凸話を書いても書かなくてもいい状況を作りたくてぇ……精神的な余裕を作りたくってぇ……
モモちゃんがヒロトくんとスーパー銭湯に行く話を投稿していいすか?
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あ、いっすよ(快諾)
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頭湧いてるんですか?
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そんな姉さんの話より私と陽務君の絡みをも